VSウィルダネス
地球連合の秘密部隊であるブラックブラッド隊と、コロニー同盟のコスモクラフト隊の戦闘を見ていこう。小惑星が散りばめられた空間で、そろそろ本命の巨大ロボットウィルダネスが出てくるはずだ。
「いいぞいいぞ、どっちもがんばれ」
「ここからどうなるのか楽しみです」
別の索敵特化型がガトリング弾をばらまきながら、敵機体に接近する。牽制して味方が戦いやすくしているのだろう。だがそこに輸送船から巨大な手が伸び、3号機を殴りつけた。
『なんだとっ!?』
『出やがったか』
輸送船の中央ハッチが開き、巨体が姿を現す。全長50mを超える超大型機動兵器ウィルダネスだ。真っ白な装甲が不気味に光り、両腕と指先のレーザー砲が赤い光で宇宙を染める。つま先のバルカンも地味にうざそうだ。
『いいぞ! 地球連合のハエどもを叩き潰してしまえ!』
『了解。殲滅する!』
露骨に声色がいいコロニー連合のみなさま。ウィルダネスがいれば勝てると思っているのだろう。さてどうなることやら。
「ノイジーあれのデータ出せるか?」
「ウィルダネス、装甲厚はコスモクラフトの5倍、レーザー砲の出力は既製品のビームガンの3倍。ウイルス散布装置は核ミサイルに換装可能ですが、今は大型ミサイルに変わっていますね。用意できなかったのでしょう。宇宙空間ではキャタピラも意味がありません。ロボット形態が妥当ですね」
巨体が信じられない速度でブラックブラッド隊に突進する。二刀流高機動型が回避するが、ウィルダネスのレーザー砲がつきまとう。パンチで小惑星にクレーターを作っているし、捕まったらアウトだな。
『ちっ、馬鹿力め! 回避に専念しろ!』
『オレが狙撃する。やつを足止めしろ』
『できりゃやってるさ!』
『こちらブラッド2。足止めくらいしてやる。一斉射撃だ!』
黒い中距離爆撃型がミサイルもロケットランチャーもすべて撃ちまくる。だがウィルダネスが両腕でガードして直進していく。
『避けろブラッド1!』
『今だ! ミサイル発射!!』
ウィルダネスの背中の大型ミサイルが発射される。ブラッド2は隙を晒さず右に避けるが、ミサイルは背後の小惑星に直撃した。その爆風はブラッド2の機体を完全に飲み込んでいく。
『しまっ……ぐあああああ!!』
『ブラッド2! くそっ、ブラッド1、なんとかデカブツを斬れ! ザコはオレとブラッド4でやる!』
ガトリングとミサイルポッドで撹乱しながら、スナイパーがコスモクラフトを撃墜していく。だがブラッド1のビームセイバーが、ウィルダネスの腕半分までしか斬り裂けず止まる。カウンターで片腕を破壊させられてしまい、機動力も落ちているようだ。ブラックブラッド隊が不利だな。
『ちくしょう……出力低下。これ以上は危険だ!』
『沈め! 地球連合の兵器で沈んでいけ! 薄汚い連合の犬よ!』
『コスモクラフト処理完了。そっちを援護する!』
ブラッド3が牽制に回り始めるが、ウィルダネスは突如として飛行形態に変形して突進する。ブラッド3はとっさのことに反応できず、そのままぶつかってしまう。
『なんだって!? うわああああ!?』
飛行形態の先端が突き刺さったまま、ブラッド3の機体は小惑星に衝突して爆発した。ウィルダネスは無傷のまま再びロボット形態へと変わる。
「面白い。なかなか大胆な戦法じゃないか。俺は好きだぜ」
「実際に戦うとなると、ああいう思い切った相手は危険ですね。ハヤテ様もお気をつけて」
『ならば敵の輸送船だけでも破壊する!』
スナイパーが輸送船に攻撃を浴びせる。だが焦りすぎだ。撃沈できていないし、スナイパーは場所を特定されれば意味がない。
『ブラッド4、焦るな。焦れば終わるぞ』
『そこかあああ!』
飛行形態でスナイパーにすっ飛んでいく。今日一番のスピードだ。おそらくスナイパー側は瞬時に移動などできない。カメラを切り替えると、やはり止まったまま撃ち続けている。輸送船はおおまかに当たりをつけてビーム砲を連射している。
『ちっ、やらせんよ!』
ブラッド1が残った片腕で輸送船を切り裂いていくが、船は気にせずスナイパーに射撃しながら突き進んでいく。
『振り返りはしません。地獄でお会いしましょう』
『それでいい。たとえこの船が落ちても、ウィルダネスは目的の惑星まで単独航行が可能なはずだ』
玉砕覚悟かよ。自分の命がなくなったら全部終わりだろうに。俺には理解できん発想だねえ。
『捉えたぞ!』
『ここまでか……逃げろブラッド1。ブラッド5が回収に来ている。さらばだ』
レーザーの雨によりスナイパー機は消し飛んだ。同時に輸送船が爆発し始める。入れ替わるようにブラックブラッド隊の宇宙船がやってきた。
『ブラッド1、今換装パーツを届けます』
『オレはいい。逃げてこの状況を伝えろ』
『できません。どのみち追いつかれます。我々はここで勝つしかありません。受け取って!』
『させんぞ! ここで諸共消してくれるわ!!』
右腕の換装を外し、大型ビームソードへと付け替える。だが同時にウィルダネスの集中攻撃を受けて宇宙船が沈む。
『すまないみんな。せめて仇は取る!!』
こうしてすぐ取り付けられるのが、バトルフレームのいいところだろう。骨が一緒で装甲や武器だけ変えるシステムだから、地球産であればすぐに付け替えできる。
「そろそろクライマックスだな」
「緊迫していて息が詰まりますね」
ブラッド1が高機動を活かして飛び回りながら、確実に距離を詰めていく。大きく光るビームソードは、当たれば無傷とはいかない。相手もそれをわかっているのか、射撃武器すべてを使って近寄らせないように立ち回る。
『消えろ! 地球にはびこる害虫どもめ!』
『侵略者が何をぬかす!』
ブラッド1の機体がウィルダネスの左腕を切断した。
『装甲を突破しただと!?』
『いける、ここで殺す』
『ぬかせ! 近接戦ができないと思ったか!』
腕からビームソードを出して鍔迫り合いを始める。パワーではウィルダネスに分があるようだ。だが撹乱しつつ細かくダメージを与えていくブラッド1の技量が光る。
『ここで沈むわけにはいかぬ! こうなれば!』
『これで……終わりだ!!』
ブラッド1のビームソードが胴体に深々と突き刺さるが、コクピットを外れたらしい。ウィルダネスからパイロットが脱出し、ブラッド1は機体に抱きしめられる形となった。
「動きが妙だったな。意図的に攻撃を受けた?」
「正解でしょう。ウィルダネスから異常な熱量を検知。残り1発の大型ミサイルとともに自爆するようです」
『動けない! これは!?』
『ふふふ……続きは地獄でやるがいい』
『しまった……くっそおおぉぉ!!』
大爆発を起こして両方の機体が宇宙の塵となった。小惑星帯に巨大な花火が上がる。ウィルダネスのパイロットだけが脱出したようだが、帰る場所などないだろうに、これからどうする気だ?
「ブラックブラッド隊の生命反応なし。勝負は引き分けでしょうか。いえ、これはコロニー連合の勝ちですね。私としたことが、見逃していたようです。ウィルダネスは2機あります」
「なんですって?」
「最初から二段構えだったようです。少し離れた中域を単独航行中」
「そっちに拾ってもらう計算か。そうはいかないぜ。パラドクスで出る」
格納庫に転移してパラドクスに乗り込む。この行動も慣れたもんだな。
「ハヤテ様、どうかお気をつけて」
「問題ないさ。行ってくる」
シオンの声に見送られて発進。まずウィルダネスのパイロットだったやつを、しっかりビームで焼いておく。
『なんだ貴様!? ぐがは!?』
「これでよし。ノイジー、マップにもう1機を出してくれ」
「了解です。敵は飛行モードで高速移動中。すぐ追いつけるでしょう」
数分後、本当にあっさり追いつけた。ステルスモードは解除してある。敵の前方に回り込み、堂々と立ちはだかってみた。
『何者だ? 地球連合の新型か!』
もちろん通信に応じる気はない。手からビームを出して、翼の片方を撃ち抜いた。だがほんの少し反応されたせいで、中心に直撃はしなかった。ベテランか。
『チッ、回避できなかったか! 誰だか知らんがここで落とす!』
ロボット形態になると、はっきりとウィルダネスであることがわかる。カラーリングも全く一緒だ。だが背中のミサイルがなんとも妙な形だ。こっちがウイルス兵器っぽいな。
『速い……なんて機動力だ』
敵の攻撃は全部回避可能だ。やはりスペックの差は大きいらしい。
「スペックの差だけで負けるがいい。俺という素人にな」
「かっこいいのか悪いのか、AIには判断つきかねますね」
「私にもわかりません」
不評らしい。別にかっこつけたいわけじゃない。なんとなく敵をコケにしたいだけである。まあそれがもうアレと言われればそうだね。
『ぬうん!』
でっかいビームソードが振り下ろされる。なんとなくそいつを掴んで握り潰す。
「パワーもこちらが上だな」
『化け物め……当たればいい。これでどうだ!』
敵は距離を取り、腕からガトリングとショットガンを出し、猛スピードでこちらに来る。腰からミサイルも出ているし、ビームも出っぱなしだ。結構武装が豊富だな。
「それじゃあこういうのはどうだ?」
敵の太いビームに乗り、サーフィンのように滑っていく。そのまま顔面に膝蹴りを入れた。派手に散らばる頭部の部品が、ロボット戦の面白さを引き立ててくれる。
『ぬがあぁ! ありえん! 今何をした!?』
「さあてなんだろうねえ! 俺もなんとなく雰囲気でやってんだよこれが!」
直進してボディブローを入れる。パラドクスのボディは銃弾ごときじゃ傷つかない。そのまま強引に拳の連打で装甲を砕いていく。
『馬鹿な! ウィルダネスの装甲を貫くだと!?』
回し蹴りで小惑星に埋め込み、ビームを練り上げて拳にして飛ばす。
「ビームナックルだ! 今なら10連無料!!」
おまけを入れて11発のビームナックルが直撃していく。光と爆発の中に巨体が隠れて消えゆくのだった。
『こんなところで……こんなところでわけのわからんやつに! うおおおぉ!!』
宇宙に大輪の花が咲く。一際大きい爆発によって、この戦いはフィナーレとなった。やはり特殊機体でもパラドクスの性能には追いつけないらしいな。
「お見事です、ハヤテ様!」
「完全に生命反応なし。これで宿泊予定のリゾートは守られましたね」
「よし、パラドクス帰還する」
多少のトラブルがあっても、パラドクスと楽園があれば乗り越えられると証明された。いいぞ、俺の人生がようやくまともになってきた。この調子で金をためてリゾートへ行こう。そう強く誓った。




