敵艦の水と空気全部抜いてみた
目的を決めてから2日が経過した。お目当ての惑星からほど近い場所で、エゴサンクチュアリをステルスモードにして食事中。今日の昼飯はエビとホタテのハンバーガーとポテトだ。無論シェイクもある。
「うまい。マジでうまい」
「とてもおいしいです。ジャンクフードと言うのですよね?」
「そうだな。素材的には高級料理なんだろうけど」
「すべて一流レストランで出せる食材ですが、味付けはジャンクフードにしてあります。人間というのはA5ランクの牛肉で牛丼を食べても、あまり美味しいとは感じないそうです。贅沢な存在ですね」
なんて気配りのできるAIだ。全素材が新鮮で味が濃い目なのにうめえ。ハンバーガーから逸脱していない。完璧だ。食い終わってシェイクをちびちび飲んでいると、ノイジーが報告を始めた。
「これから行く惑星の情報を追加しました」
「海賊はろくな情報なかったはずだろ?」
あれからまた1回潰したが、具体的なお宝の話はなかった。海賊ってやっぱ無能だなという結論に達した。
「惑星の防衛システムに侵入しました。その結果、地下深くに眠る宝を掘り当てたらしいです。今回の騒動の目的でしょう」
「地下深く? それは鉱石や天然の何かではないの?」
「普通に考えればそうですが、今回は新型機動兵器です。この惑星がコロニー同盟の領地になってから発掘されたものですね」
「機動兵器を発掘? どういう意味だ?」
「元は地球連合が開発中だった機体です。戦争で起動が間に合わず、地中深く隠したまま放置されていました。目玉商品はウイルス散布装備。宇宙を飛び回ることもできるようですから、コロニー同盟の領地に送り込んで潰していく算段だったのでしょう。コロニーは密閉空間ですから、とても効果的かと」
前回がコロニー破壊する大砲で、今回がウイルス機動兵器ねえ。割とガチで殲滅戦やってんのね。
「地球連合も特殊機体を作っていたのね。採掘された資源をその場で使う。合理的で納得できるものだわ」
「採掘された資源の量をごまかし、せっせと作った極秘機体ですね。装備はレーザーとミサイルにバルカン。腕と足のついた全状況で走り回れる戦車です。超大型の、と付け加えておきます」
敵の試運転映像が流れる。場所は地下深くの実験場らしい。慎重にゆっくり動かしているのがわかる。でっかいロボットが足を折りたたむと、キャタピラで走り始めた。腕を翼に変えて飛ぶこともできるようだ。背中部分の大砲がウイルス散布装置だろうか。どのみち厄介な代物だ。
「こんなもん捕まえて売ることもできんな」
「無駄足無駄骨ですね。AIには足も骨もありませんが、おすすめはしません」
金にならん。人助けなんざするつもりがない。クローンのサンプルにした姫もいない。なーんもない。完全に無駄な時間になる。俺にメリットがないのだ。
「ほっといて別の場所行くか」
「そうですね。必要のない戦いでハヤテ様が傷つくのは見たくありません」
「なら周辺の海賊で金持ってそうなのだけ殺して、あとは別のコロニーで遊ぼう」
「了解。大きめの海賊船をピックアップします」
「頼んだ」
こうしてガン無視決め込むことにした。秘密兵器も戦争も俺達には無関係だからな。好きにやっておくれ。
「ノイジー、次の小銭入れはどこかな?」
「もうすぐ見えてきます。敵艦は旧型。武装はミサイルのみ。戦闘機が6機と、旧式のコスモクラフトノーマルが2機。母艦よりロボットにお金を使うタイプでしょう」
「使い込んでなきゃいいんだがね」
そしてパラドクスで好き放題暴れてみた。ビーム乱射したり、敵艦をキックで貫いたりと思いつき限りに遊んだ。
「ふはははは! 戦力差があるって最高だな! 俺達は一滴の血も流さずに殲滅できる。無傷で敵が死ぬ。素晴らしいぞ!」
とまあ暴れてすっきりして次の日の昼。また海賊船を発見したが。
「普通に殺すの飽きた。エンタメ要素入れようぜ」
飽きたのだ。敵がワンパターンな言動でつまらん。ゴミクズは知能も言動も同レベルなんだねえ。
「味変というものですね? ハヤテ様の作戦、気になりますわ!」
「敵艦の水と空気全部抜いてみた、とかどうよ」
「まあ、どんなものか知りたいです」
「ノイジー、一番でかい敵艦をサーチ。そいつをハッキングして、水と空気を全部外に出すぞ。パラドクスのステルスモードで近づいて、タンクに穴を開けてもいい」
「了解。では早速敵艦のマップを出します。こちらが全長200mの敵艦です。水と空気の貯蔵庫はこちら。接近してナノドローンを忍び込ませれば、あらゆる扉を一斉に開放できます。あとは抜けきるまで待てばいいはずです」
作戦開始だ。パラドクスで敵艦に近づく。ステルスモードで気づかれないように忍び寄り、指先からビームの針を通す。瞬時にナノドローンを発進させて内部へ。これであとは少し離れてアドリブでいけるはず。
「艦内のシステム掌握完了。いつでもいけます」
「よし、ぶちまけろ!」
「全タンクのバルブを同時開放。空気と水の排出開始」
ノイジーの冷静な声が響く。モニターに映る敵艦の内部構造図では、赤い点が貯蔵庫に向かって一斉に動き出す。同時にシャッターがすべて開き、外部との通路も全開放される。
「ノイジー、敵の通信傍受しろ。どんなバカな会話してるか聞かせてくれ」
「了解。敵艦の内部通信をキャッチ。再生します」
『おい、なんだこの警告音!? 貯蔵庫の圧力が急に下がってるぞ!』
『水タンクのバルブが勝手に開いてる! 誰だ、こんなミスしたやつ!』
『ミスじゃねえ! システムがハックされてるんだ! 早く閉めろ!』
モニターに映る敵艦の映像が、ちょっとしたパニック映画みたいだ。貯蔵庫から噴き出す水が宇宙空間で凍りつき、キラキラと漂う。空気は無音で漏れ出し、艦内の警報ランプが赤く点滅してるのが見える。
「ハハッ、バタバタしてやがる。ノイジー、全部のバルブ全開でいいぞ。空気も水も一滴残らず宇宙にぶちまけろ!」
「かしこまりました。敵艦内部の酸素濃度は10分以内に生存限界を下回ります。オーナー、敵艦背後の右タンクに穴を開けてください。それで水が抜けていくスピードが上がります」
「はいよ了解。こうかい?」
ビームニードルで攻撃して穴を開ける。水の玉が宇宙に飛び出しては凍っていく。なんか未知の光景で楽しいな。シャボン玉とも水流とも違う。なんとも不思議だ。
『水が!? 攻撃を受けている! どこだ!』
『何かに掴まれ! 外に吸い出されて……うわああぁぁ!!』
戦闘機が出るはずの場所から海賊が放り出されている。ジタバタして虫みたいでキモい。水はあんなにきれいなのに、海賊は汚いなあ。
「ちゃんと外に出たやつも後で始末するぞ。目撃者はゼロでいこう」
「ご安心を。生命反応を個別に追っています」
『酸素が……息が苦しい! 宇宙服はどこだ!?』
『ざけんな! そいつはオレのだ!』
『いってえな! 早いもの勝ちなんだよオラア!』
殴り合いの喧嘩に発展している。とても醜い。所詮は海賊、ピンチになれば統率など取れるはずもないか。
「なんて醜い……人は極限状態で本質が出ると聞きます。私もこうならないように戒めなくては」
『格納庫に急げ! 戦闘機で脱出するぞ!』
「ハヤテ様、敵が格納庫に移動を開始しました。戦闘機4機の起動準備を確認。どうしますか?」
シオンの声に少し緊張が混じる。だがここまで想定済みだ。
「問題ない。ホーミングレーザーを準備しろ。狙撃開始だ」
「了解。ホーミングレーザー、戦闘機が敵艦から離脱次第、自動追尾で撃破します」
戦闘機が慌てて飛び出してくる。旧型のボロい機体が、まるで逃げ惑う虫みたいだ。コスモクラフトも遅れて発進。必死に加速してるけど、ステルスモードの俺たちには丸見えだ。
「ロックオン完了。発射」
エゴ・サンクチュアリから無数のレーザー光線が放たれる。赤く鋭い光が、宇宙空間を切り裂き戦闘機を追い詰める。宇宙に数発花火が上がった。
『なんだこの光!? レーザーか!? どこから撃ってやがる!』
『回避しろ! くそっ、追ってくるぞ! ぎゃああぁぁ!』
敵機はすべて撃破。相変わらず射撃精度が尋常じゃないな。
「このようにしっかりと始末できる。安心しろ」
「はい、ハヤテ様。 でも少しかわいそうな気も……」
「こいつらに奪われたり殺されたりした奴らのほうがずっとかわいそうだよ。簡単に死んだらそいつらが浮かばれないだろ。苦しんで地獄に落ちるほうが相応しいのさ」
シオンの教育によろしくないので、それっぽいことを言ってみる。殺していいやつに情など必要ないんだが、優しい子だな。
『酸素が……もうない……助けてくれ……』
『宇宙服が間に合わねえ……くそ! 誰がこんなことを!』
「敵は生存可能な限界を下回っています。残存する生体反応は急速に減少中。2分以内に全滅と予測」
敵艦の内部カメラをハッキングしてモニターに映す。艦内の海賊たちは宇宙服を着ているが動きが鈍い。床に倒れ込むやつ、壁にしがみつくやつ、必死に通信機に叫ぶやつ。みんなもうすぐ死ぬ。敵が必死に通信を飛ばしているが、ビームフィールドのおかげで外部には一切届かない。完璧な隠蔽だ。
『誰か……助けてくれ……こんな死に方は……』
『ちくしょう……オレらが何をしたってんだ……』
「いや自覚ないんかい」
素でツッコミ入れてしまった。お前ら海賊の自覚ないのか。マジでアホだな。
「ノイジー、敵艦の金庫は?」
「探索ドローンを展開済み。現金180万と暗号化されたデータチップを回収。解析には時間がかかりますが、価値はありそうです」
「よし、んじゃ消えちまえ。はああぁぁ!!」
パラドクスの両手から極太のビームが撃ち出され、敵艦を丸ごと飲み込んで消した。今回も誰にも見られていない。俺達は秘密の存在のままだ。
「よし、帰還する。シオンも部屋に戻っていいぞ」
「ふふ、かしこまりました。ハヤテ様の勝利を祝して、特製のケーキを用意しますわ!」
「ケーキとか作れるのか? 凄いじゃないか」
「ノイジーに教わっています。今日はショートケーキをがんばりますね」
「無理はしなくていいからな」
どうしても過保護になってしまうな。シオンがとても楽しそうに喋るので、なんとなく安心しているが、これはどういう気持ちなんだろう。
「よし、帰還完了。俺は部屋で待つよ」
「はい。ハヤテ様、次はもう少し穏やかな遊びがいいです。ハヤテ様が無事なら、私も安心ですから」
「シオンは心配性だな。だがそういうのも悪くないか」
「ハヤテ様、これからも一緒にこの楽園を楽しみましょうね」
「ああ、俺とお前で、宇宙を最高の遊び場にしてやるさ」
こうして俺の野望はまた一歩加速した。次は何してやろうか。楽しみだぜ。
「いい雰囲気のところ失礼します。ウイルス兵器の行き先が判明いたしました」
「行き先?」
「どうやら我々の目指すリゾートコロニーのようですね。バカンスが台無しになりそうです」
「……はあぁ!?」
どうしてめんどくさいことになるんだよ。




