ハルカの要求とアフターサービス
ハルカの要求を聞いていこう。できれば簡単なものだとありがたい。
「私の研究に協力して欲しいんです。ブーストフェザーはまだ開発中です。ほぼ完成状態なのですが、あらゆる局面で同じ操作と性能を発揮というのは難しいのです。完成まで私のラボをお貸しします。一緒に同盟軍の拠点で研究を手伝ってください。その間のお給料と寝室はこちらで負担します」
なるほどねえ。ハルカはこちらの技術力がわからないし、俺という未知の存在に敵対されるかもしれない。危険因子は手元で管理しつつ、自分の技術でコロニーをよくしようということか。長話ができるほど、コロニー同盟がネクサスに滞在するとは思えないし、暗に即断即決を要求してくるか。なかなか考えるじゃないのさ。
「つまりブーストフェザーを完成させることがDNAサンプルを渡す条件、ということですね?」
「はい、コロニー同盟軍に明確に利益があれば、私も嬉しいです」
「どうぞ」
タブレットを渡す。もちろん既製品の新品にデータだけ入れた。追跡は不可能。
「これは?」
「ブーストフェザーの改良案です。完成させたうえで10%の縮小と燃料効率向上が可能です。これがどれだけの偉業か理解できるはず」
「そんな!? 今日発表したものですよ!」
「なので今日のデータから改良案を作りました。これで約束は果たされますね」
想定していた中で一番簡単な要求だった。ノイジーとエゴ・サンクチュアリの技術なら楽勝で改善案など出せる。10%は技術の進歩としては驚異的な数値だが、もっと効率いいものも出せる。そこまでするとつまらんから却下だ。
「こんなことが……技術流出が……?」
「いいえ、間違いなく今日知りました。これで解決ですね」
「そんな、どうして……」
2人とも驚愕している。ほぼ不可能な案を出したつもりだろうが、そこが限界である。同時に俺たちの存在を知らないというのは強みであると再確認した。
「個人で生きていくには、技術力も必要ということです」
「これだけの技術があれば、もっと他者に、弱者に歩み寄ることもできるはずです」
「実にくだらない発想ですね。人間の欲望に限りはない。弱者というのは救う価値がないとみなされた存在だ。俺も同じだった。だから誰も救わないで生きていく。それが私の生き方です」
こいつらにも二度と会うことはない。迷惑をかける気はないが、協力もしない。俺は俺のやりたいようにやる。他人とのつながりは情報漏洩につながる。
「楽園を一度見てみたい、というのは条件にできますか?」
「不可能です。人類は私の楽園に相応しくない。絶対に入れるわけにはいきません。あくまでもクローンのみ同居を認めます」
「いったいどこに違いを見出しているのですか?」
「2人は女にしては珍しい超優秀な個体です。ですが足りない。人として生まれ育った。無意識に女としての特権を使い生きてきた。男を自分たちより野蛮で汚れた存在であると認識し、喚き散らせば相手が悪いことになる。性的なものをちらつかせれば言うことを聞く。そう世界が幼少期に教育してしまった」
「偏見がすぎるのでは?」
「いいえ事実です。今この場に第三者が現れれば、理由など関係なく私が悪とみなされる。女という強権は私の世界では邪魔だ。私とお気に入りのみという構図を動かしてはいけないのです」
どうせ理解などできないだろう。女に理解できる話ではない。こんな問答はまったくの無意味だ。
「ルールを厳格化しても無理ですか?」
「不可能ですよ。人間ごときに、まして集団に倫理道徳を守って生きる性能などありません。完全に謎であるべきです。この交渉は強制ではありません。DNAサンプルは希望しますが、武力による脅しはしません。約束を果たしていただきたい」
「……わかりました。髪の毛はどのくらいあればいいですか?」
「一房あれば完璧ですが、高望みはしません。こちらの安全なハサミをどうぞ。先端を少し切るだけでも問題ありません。ケースは用意してあります。3分ほどそのままでいてください」
警備ドローンが数機やってきて、ハルカの周囲を飛んでデータを集める。
「これはこちらのドローン? まさかハッキングを!?」
「すぐ返します。これが最短最速最適解ですよ」
ドローンは持ち場に戻っていった。ハサミで髪の先端を切ってもらい、ケースに収める。これで目標達成だ。自分でもありえないくらいの幸運だと自覚している。コロニーとパラドクスを手に入れてから、俺の人生に運が向いてきたかな。
「誰か来ます。ステルスモードオン」
「それではごきげんよう」
一礼して、透明になり風景に溶け込む。ノイジーが自動でやってくれて助かるよ。
「消えた!?」
「いったいどこでこれほど高度な技術を……!?」
やってきたのは、ネクサスの兵士とコロニー同盟の軍人だ。なにやら焦っている。
「ハルカ様! 地球連合の残党が入り込み、お命を狙っているとの情報が入りました! 我々が艦まで護衛いたします!」
「ノイジー、あれ本物か?」
「データベース照合確認。全員本物の軍人ですね。地球連合の残党をカメラで確認。情報も本物です」
「なるほどね。新装備テストのチャンスだ。アフターケアでもしてやるか」
「親切ですね。ではビームピストルの試運転といきましょう」
地球連合軍の暗殺チームがいる場所まで移動する。10人以上いるな。俺の姿は地球連合軍にだけスパイ仲間とわかる服装に変えてある。無論顔も変えた。軽く話しかけてみよう。
「準備は終わったかい?」
「ああ、いつでもいけるぜ」
「そうか、地獄に行きな」
男の頭を撃ち抜いた。ビームは貫通して頭を破裂させる。
「連射モード」
ビームピストルを連射モードに変更。1秒に100発連射可能で無反動というグレートな代物だ。近くにいた2人を穴だらけの肉塊に変える。
「こいつ敵か!!」
「全員散開!!」
「判断が遅いねえ。がんばれがんばれ、これは訓練ではない。繰り返すこれは訓練ではない」
「言いたいだけ感が漂う発言ですね」
「バレたか」
敵が隠れ始めた。同時にこちらを撃ってくるが、実弾もビームも俺のビームバリアを貫通できない。
「バリアだと!?」
「追尾モード」
1秒に10発連射まで落ちるが、相手をマルチロックして曲がるホーミングレーザーを撃てる。障害物を回避して敵に当たっていく。
「なっ!? 曲がってきた!?」
「うがあぁ!!」
「中立コロニーでテロなんぞやらかすクソゴミはお掃除だ」
逃げるやつから殺す。皆殺しにしないと面倒だからな。
「撤退!」
「くそっ! なんでロックがかかってやがる!」
敵軍が車に乗り込んで逃げようとするが、扉が開かないようだ。しかも無人なのに動き出して壁になった。
「車のハッキング終了。バリケードにしました」
「仕事が早いね。そのへんで死んでる汚いボロクズとは大違いだ」
「貴様何が目的だ! コロニー同盟のスパイかネクサスか!」
「どっちでもないんだなこれが。強いて言うなら愉快犯?」
「ではこのまま愉快に進めましょう。気分の上がるBGMをかけますね」
「いい判断だ」
ノイジーと雑談しながらヘッドショットをかます。愉快なBGMもかかってきて、俺のテンションも上がってきた。
「ほれほれ逃げたら死ぬぞ! 敵前逃亡は銃殺刑だ!」
「ふざけるな! 我々の気高い志をなんだと思っている!」
「気高いやつは中立コロニーで暗殺なんてしないんだよクソボケ」
頭を正確に弾いていく。シューティングは結構得意だ。ここで射撃の実践訓練をする。難しい局面でも戦えるように慣れておこうね。
「撃て! 撃ち続けろ! ぎゃあああ!!」
「続きは地獄でやってくれ。糞虫に天国や地獄があるかは知らんがね」
最後の一匹を撃ち殺した。なかなか楽しかったよ。クズも俺を楽しませて死ぬという大変価値のある死に方ができてよかったな。
「カメラの改ざん完了。そろそろネクサス兵が来ます」
「てっしゅー」
兵士のいない道をナビしてもらい、そそくさとシャトルに帰還。目的は達成したのでエゴ・サンクチュアリへ戻る。豪華なオーナールームでパジャマに着替え、ホログラムモニターを大きく広げる。
「さて、あの軍人のおじさんで動画作るぞ。とりあえずトレンドを知るか」
「お好みに合いそうなサイトと動画を選んでおきました」
「素晴らしい。それじゃあ見ていこう。ネットミームとかゼロから楽しめるのは、異世界転移の醍醐味だな」
数時間ソーダ飲んでお菓子食って動画見る。ノイジーは俺が集中して見ている時は黙ってくれる。とてもありがたいね。
「よし、ある程度把握できた。あのおじさんの言動と男優混ぜて動画作ろうぜ」
ここからは長年ネットミームに触れてきた経験と勘である。まずは軍人のおじさんの発言をしっかり再生してみる。
『こちらにはハイパーバスターキャノンの準備がある』
「なんとかして下ネタ言わせたいな」
「AIにお任せを」
AIって便利だわあ。俺のいた世界もAIでどんどん動画の拡張性が上がっていった。宇宙時代ならさらに進化している。そしてノイジーがすごい。これはやる気出てきたぜ。
「よし、じゃあ動画の転換部分で変なこと言わせよう」
「まずはハイパーバスターキャノンの準備を語録入りさせるのが先決では? いきなり変更してはツッコミどころが薄れるかと」
「お前すごいな。確かにそうだ。新しいミーム作るって難しいもんだな。まずはファミリー入りと語録浸透が先か。落ちで呆然とした顔にするまでの過程が必要だ」
「顔を出した瞬間か、元動画の流れからスムーズに音MADにするというのはいかがでしょう?」
「ありだな。複数作って流行らせるぞ」
こうしてAIと一緒に動画を作る。高画質の素材集動画も一緒に投稿することにした。あとはBB動画でも作っておけばいい。
「ハイパーバスターキャノン発射失敗おじさんBBっと。さて、うまく語録が浸透するかな」
「こればかりは人間の気分と運次第でしょうね」
ハイパーバスターキャノンおじさんとして定着するかどうかは祈ろう。こっそりと追跡できないように動画を投稿しておいた。これで俺のお仕事は終わり。今日はいろいろあって疲れた。めんどうなことは明日やればいいや。
ブクマ・評価・感想・レビューなどお待ちしています