滅理戒装
前話参照、あまりにも喧しい登場を果たしたのはイーライの自称真友、ベリル。
その容姿は素晴らしく、艶やかな紫に染まった長髪、すれ違う女性全員が四度見するであろう整った顔、高身長に良いスタイル。
黒いインナーに白衣を羽織り、凛と(?)立つ様は何ともオツなものである。
しかし、唯一と言っても良い欠点が、知っての通りの喧しさである。
イーライのことを愛するがあまり、他の全てを台無しにするほどの喧しさを手に入れてしまった悲しい機械である。
さらに悲しいことに、このキャラ設定せいで小説にBLタグを付けることを余儀なくされてしまった。
「喧しい。帰れ、というか死ね。
〈滅理戒装〉『叛律斬』─────────!」
果たしてこの作品初の異能シーンがこれで良いのか、いつの間にやら彼の手に握られた黒剣を一振り。
黑いモヤを纏ったそれの軌跡は、空をガラスが割れる様な、軋むような異常な音を立てて隔てる。
「え、我に対する殺意高くない?」
「五月蝿い死ね」
一連の現象は、イーライへと搭載された超常エネルギーを操る機械〈滅理戒装〉によって引き起こされたもの。
その権能は“絶理”、詰まるところの“事象の乖離”であり、理論上は物質や空間だけでなく、世界の連続性までも斬ることが可能である。
尤も、現時点では試作段階であり、空間を斬るくらいが精々。しかしそれでも、あからさまな強能力であることには変わりない。
そして、彼が斬ったのはベリルの周辺の空間そのもの。
周囲世界とのつながりが切れた空間は歪み、通常の方法では観測、干渉共に不可能となる。
その空間にできた空白は、“世界の規律”によって埋められ、まるで何事もなかったかの様に元に戻る。
ああ、もしあの変態の出番がこれで終わったと思った一番読者よ、安心して欲しい。
ベリルにももちろん〈滅理戒装〉は搭載してあり、彼もまた超常現象の使い手だ。
今頃「イーライの冷酷な殺意…良い!」と余裕でピンピンしているだろう。
まぁ、今はそんなことはどうでも良い。
「気を取り直して、つっても変な空気になったな…。
とりあえず、お前の今後の身の振り方だけ聞きたい。
今回会ったことの記憶を消されて、以前の生活に戻るか、それともこのまま“組織”に保護されて少々特異な生を取るか、選べ。」
前触れのない、唐突な二択。
先程の超常現象を目にした後で、後者を取る者は殆どいないだろう。
何せ、アレに関わるということは“日常”を失うことに他ならないと肌で実感したはずだからだ。
そう、一般的な感性を持つ者なら、な─────。
「このまま残る」
「…ん?」
「残って保護される。私には帰る家も場所も無いから…」
なるほどこの少女は孤児らしい。しかしそれでも驚愕だ。先の光景を見て尚残る事を選択するとは。
この少女と出会った日、彼女が悲鳴の響く部屋を覗いていた時から思っていたが、この子は何かが“壊れている”。
ならばこそ、この“組織”へと入るには十分な資質だろう。
「分かった。じゃあお前は部屋に戻って寝ろ。起きたらお前は俺たちの仲間だ。歓迎しよう。」
こうして、波乱ながらも少女は“組織”へと加入した。
ここからどんな事件が、困難が待ち受けているのか、見ものである。
雑に扱っても壊れないキャラっていいよね