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前編

お越しいただきありがとうございます。

氷雨そら先生主催の「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。


お楽しみいただければ幸いです。

「ねぇ? 約束だよ? 大人になったら僕をメイのポケットに入れてね?」


 そう言って野の花で作ったブーケをくれた朱い髪の男の子は……。


 今では立派な『当て馬騎士』と呼ばれていた。





「うん。今思い返しても意味わかんない」


 古い記憶を夢に見た朝は寝覚めが悪い。

 別に子供の頃、特別不幸だったわけでは無い。

 商会を営む両親がいて、ちょっとその両親が忙しすぎて放置気味だっただけだ。


 うん。

 別にそれだってそこまで不幸じゃなかった。

 誕生日はちゃんと全力でお祝いしてくれたし、忙しくてお家に帰れない時はお隣のお家にちゃんとお願いしてくれた。


 お隣のお家の人達も、子供を押し付けられても嫌な顔一つせず、自分の子供と同じように面倒見てくれたし。


 ただ、そこのお隣の子が問題だった。

 いや、当時は問題なんて全然なかった。

 なんだか妙に自分の家にいる、血の繋がらない赤の他人の存在は、子供ながらに奇妙だったことだろう。

 それでも優しく面倒見てくれた彼は、なかなかできた存在だったと思う。


 朱い髪に黒い瞳。

 いつもぴょんぴょん跳ねて元気の良かった男の子。

 何故か家にいる異質な存在であるわたしの手を引いて遊んでくれた優しい男の子。

 

 そんなの……もう恋しちゃうじゃない?


 両親に放置され気味だったこともあって、ちょっとだけ大人びた子供だったわたしは、コイってなんだかステキでドキドキするものだって本で読んでたから。

 ぴょーんと跳ねる度に黒い瞳がキラキラ光を反射して、一緒に高いところからぴょんて飛び降りる時はぎゅって抱き締められることにドキドキして。

 もうこれって恋ね? って思うじゃない?


 でさ。

 大人びたって言っても思春期もまだだったわたしは後先考えずに伝えたわけよ。


 好きです。一生一緒にいてください……て。


 たぶん、前日にこっそりお母様の本棚から借りて読んだ本がいけなかったのよ。

 それは、人族の男の子と猫の獣族の女の子が、種族の違いとかを乗り越えて結婚して結ばれるお話だったの。

 プロポーズのシーンに入れてあった挿絵が本当にきれいで。

 カッコいい騎士服を着た大人になった男の子がふんわりとした綺麗なワンピースを着たネコミミの女の子の前に跪いて愛を誓うの。ふわふわな可愛い尻尾を相手の男の子に絡ませてね。

 幸せそうに顔を見合わせる二人が本当に幸せそうで。


 わたしもそうなりたいなって思ったのよ。


 だからね。男の子の台詞をまねて、『一生一緒にいてください』って言ったのよ。

 そしたら、相手なんて答えたと思う?

 いいよって返事の後にこう言ったの。


 『ねぇ? 約束だよ? 大人になったら僕をメイのポケットに入れてね?』


 意味わかる?

 わかんないよね?

 大人になるって大きくなるってことじゃない?

 なのにポケットに入れるわけないじゃない?


 だからね。

 ちょっと大人ぶりたいお年頃だったわたしは気づいちゃったの。

 あぁ、これ遠回しにフラれてるなって。


 だからね……そっと諦めた。

 幼い恋にフタをした。

 

 それからも当たり障りない関係を続けて。

 なるべく早く一人で生活できるよう、掃除も洗濯も料理も覚えた。


 一人で留守番できるよって両親に伝えて。

 あまりお隣さんにご迷惑かけるのはどうかと思うって正論パンチして。


 いつしかお隣にあまり行かなくなってた。


 時折朱い髪がぴょんぴょん跳ねながら遊びに行こうって誘いに来てくれたけど、お家のことやらなきゃって断ってたら、いつしか顔を合わせるのはお出かけの時だけになってた。

 変なとこ気が合うのかなんなのか。

 わたしが玄関の扉を開けるタイミングでお隣の扉も開いて彼が顔を出す。

 だから、しょうがなく顔を合わせて挨拶した。

 行き先が近かったら送ってもらったりもしたけど、ただそれだけ。


 そして気づいたら。

 隣人の男の子。

 ルーク・ワイアットは……『当て馬騎士』と呼ばれる男になっていた。



 ◇◇◇


 

 この国には、人族と呼ばれる特に個性のない種族と、動物の個性を持った獣族と呼ばれる種族がいる。

 獣族はその祖となる動物によって多種多様で、例えば犬を祖に持つ獣族だったら、鼻が利いたり耳が良かったりする。

 兎を祖に持つ獣族だったら、音に敏感だったりは……繁殖力が強かったりとかね。


 獣族の中でも人族と見分けがつかないタイプと、明らかに獣族ですねってタイプがいる。

 明らかに獣族な人はお顔自体もしっかり獣というか……例えば犬族の方だったらマズルが長くて……みたいな感じ。

 その中間タイプもいて、人族のお顔に兎の耳が生えてたりとか。

 あと、隠せるタイプもいて、普段は人族と見分けがつかないけど、獣族としての力を発揮する時だけその獣の特徴が出たりとか色々あるらしい。


 わたし?

 わたしは平平凡凡な人族のメイリィ・ブール。今年成人を迎える19歳の女の子だ。

 ……いやもうすぐ成人だっていうのに女の子呼びはどうかと思うんだけどね。

 何せ人族は個性がないせいか、見た目も無個性寄りが多い。

 わたし自身、平凡な蜂蜜色の髪とヘーゼルの瞳だしね。

 これは人族に多い特徴だ。


 獣族はやっぱり祖となる獣の個性が出ることが多い。

 狼族の女の子と友達だけど、彼女はわたしよりゆうに頭一個分は大きいし、綺麗な銀髪と透き通るような蒼い目をしている。

 綺麗な銀髪から覗く大きなお耳もふわふわの毛に覆われてて大変可愛い。

 可愛いんだけど、そこは狼族。彼女の職業はこの街のひいては国を守る騎士だ。

 狼の素早さと腕力、脚力を利用して、カッコよくてかわいい女騎士として有名だ。


 そして、二人の騎士に求愛されてるモテモテの女の子としても……。


 ……気づいた?

 そう、彼女、ララ・イーザンに求愛しているといわれている騎士の片割れが、わたしの幼馴染であるルークなの。


 因みに街の人の下馬評だとルークに勝ち目はないらしい。

 何せもう一人は騎士団長を務めてるオーウェン様だしね。

 オーウェン様はララと同じ狼族の方で、どうやらお貴族様でもあるらしい。

 そんな訳で巷でルークは二人の間に割って入る『当て馬騎士』と呼ばれているそうだ。

 うぅん、残念。


 ここでオーウェン様とララとは身分違い?! ルークにもチャンスが?! ってなるとお話的には盛り上がりそうだけど、ララもああ見えてお貴族様だ。

 というか基本的に獣族はお貴族様が多い。

 やっぱり個性がある方がいろんな面で優位だしね。

 

 ……なんであの子こんな平平凡凡の人族のわたしと仲良くしてくれるんだろ?


 騎士団の屯所に進めていた歩みがぴたりと止まる。

 今日は騎士として働いてる彼女に頼まれて差し入れをしにきたのだ。

 いやでも、貴族の彼女がこんな平凡な人族の作る差し入れなんてそもそもいる?

 うぅん?

 

「メ~イリィ? なんでこんなとこで立ち止まってるの~?」


 ララとの友情に思いを馳せていると、後ろから声を掛けられた。

 振り返ればそこにいたのは、丁度関係性について考えていたララだった。


「……なんでわたしララと友達なんだっけ?」


「は? 何? 突然の絶縁宣言?! 私なんかした?!」


 思わずの呟きにララが驚いてる。

 って、これはわたしの言い方がまずかったわね。


「ちがうちがう。むしろ逆よ逆。なんでララみたいな素敵な女の子が、わたしなんかと友達になってくれたんだろうって考えてたの」


 そう伝えた瞬間、ララの顔が僅かに歪んだ……気がしたのは気のせいかな?


「そんなこと言わないでよ~。私、メイリィと友達で嬉しいよ?」


「差し入れのお菓子美味しいし?」


「そうそう! ってそれだけじゃないけど~。でも今日のお菓子なぁに? このバターの香りはクッキーかな~?」


 ぶんぶんと銀色の尻尾を振って、ララがわたしにまとわりついてくる。


「ふふっ。半分正解。今日はスコーンにしたの。どこで食べ……「メイ!」 ……?」

 

 息を切らして駆け寄ってきたのは……。朱い髪の騎士だった。


「……ルークさん……」


 チラチラと今朝見た夢の残滓が胸を刺す。

 そう。お気づきの通り初恋は浄化も消化もついでに昇華もされずまだわたしの中で燻っていた。

 それもこれも、全部ルークのせいだ。


「メイ! 仕事中に会えるなんて嬉しいなっ! 今日はどうしたの? も、もしかして僕に会いに来てくれた?!」


 相変わらずぴょんぴょん跳ねるような動きでにこやかに近づいてくるが、見上げるような大男になった今はちょっと……迫力が凄い。


「……今日は友達に差し入れに……」


「……へぇ」

 

 もごもごと口にすると、何故か辺りの空気が冷えた気がした。

 風邪でも引いたかなと腕をさすってみる。

 

「……ルーク様もご一緒にいかがですか?」


「ララ?!」


 妙にギクシャクした口調でララが申し出るのを思わず驚きの目で見てしまう。

 ちらっとララを見上げると、気まずげに目を逸らされた。


「嬉しいな。じゃあ僕の……」


「君たちそこで何をしている?」


 ギクシャクした空気を切り裂いた声に、天の助け! と振り返ってみれば……。

 うん、昔の夢を見た時点で気づくべきだった。

 今日はツイてない。

 足早にこちらに向かってくるのは、オーウェン様だった。


 わぁお。

 巷で盛り上がってる三人がそろっちゃったよー。


 心なしか周囲の目もこちらを注目してる気がする。

 気のせいかな?


 いや気のせいじゃないな?

 あの木の影にいる女の子達が滅茶苦茶こっちを見てるな?

 

()()大事な幼馴染が、差し入れを持ってきてくれたんですよ」


 そう口火を切ったのはルークだった。

 けど、ルークに持ってきた訳じゃないんだけど?


 否定しようとしても、ルークとオーウェン様が何故かバチバチと視線を交わしている。

 いや、何故もなにもララか。ララがいるからか。


 これかぁ! これが噂の現場かぁ!


 なんてアホなことを考えたのは一瞬で。


「ララっ! これ今日の差し入れねっ! 三人で食べてね! じゃっ!」


 バスケットは次来た時に返してねぇぇぇぇぇ! とララにバスケットを押し付けて猛ダッシュする。


「あ! メイ?!」


 ルークの呼び止める声が聞こえた気がしたけど……きっと気のせいね。

 追いかけてくる気配もないから、用もないだろうし。

 

 思い切り走ってから足を止める。

 後ろを振り返れば、三人はさっきの場所にそのままいて。


 なんだかキラキラしてた。


 銀の髪と獣耳に同じ色の尻尾を揺らすオーウェン様とララと。

 その二人に挟まれても決して見劣りしないルーク。

 朱い髪が日の光に照らされてキラキラ輝いていた。


「……そう言えば……ルークって何の種族なんだろう?」


 見た目は特に獣の個性がないから人族っぽいけど……?

 今更ながら今更なことが気になったけど、まぁ、わたしの気にすることじゃないよねぇと直ぐに忘れることにした。

 

 だって……。


 獣族だったらますますルークが遠い人になっちゃうから。


 三人に背を向けて歩き出す。

 そんなわたしの背中をじっと見つめる視線があることを、人族のわたしは知る由もなかった。

 

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― 新着の感想 ―
いやいや、訳分からんって…ストレートに結婚して下さいって言おうよ(汗)
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