まさかの推しと相席してから、現場に行くたびに目が合う…気のせいですか?
当方豆腐メンタル&初心者のためお手柔らかに。
しがない舞台オタクの戯言ですので、それでもよろしければ続きをどうぞ!
「お待たせしました、お水です」
店員さんがテーブルにグラスを置く。私は小さく会釈しながら、それを手に取った。手のひらにじんわりと汗が滲んでいるのを感じる。
気を紛らわそうと、水をひと口飲んだその瞬間だった。
「すみません、ここ、相席でもいいですか?」
――え?
私の思考が停止する。
店内を見渡すと、確かに混んでいる。空いている席がほとんどない。けれど、まさか、よりによって、このタイミングで相席をお願いされるなんて。
ゆっくりと顔を上げる。そこに立っていたのは――
推し、だった。
目の前にいる、まぎれもなく私の推し。舞台の上で輝いていたあの人。SNSの更新を心待ちにしていたあの人。板の上でしか見たことのないあの人。
「……あ、あの」
声がうわずるのを必死に抑えながら、何か言おうとするも、言葉が出てこない。いや、むしろ何か言うべきなのか? それとも静かに頷くべきなのか? そんなことを考えているうちに、推しは微笑んだ。
「ありがとうございます」
勝手に了承したことになってる――!!
混乱している間に、推しは私の正面に座った。
ヤバい。これ、どうする? いや、どうしたらいい??
手元のスマホが震える。慌てて画面を見ると、友人からのLINEだった。
《今どこ?》
……そんなこと言ってる場合じゃない!!
私は今、推しと、相席しているんだ……!!!
夢のような現実
心臓の音がうるさい。こんなに近くに推しがいるなんて、現実とは思えない。
でも、目の前の彼は本物で、静かにメニューを眺めている。私はできるだけ自然に振る舞おうと、水をひと口飲んだ。――つもりだったが、手が震えて、グラスが小さく音を立てた。
「……大丈夫ですか?」
ふと顔を上げると、推しがこちらを見ていた。
「えっ!? あ、はいっ、大丈夫です!」
慌てて返事をする。動揺を悟られたくないのに、声が裏返った。完全に不審者ムーブだ。やばい。
推しは少し微笑んで、「よかった」とだけ言って、再びメニューに視線を戻した。
――何これ、無理すぎる。
普段なら、「今日の公演すごくよかったです!」とか、「ずっと応援してます!」とか、伝えたい言葉はいくらでもあるのに。いざ目の前にすると、何も言えなくなる。ただのファンでしかない私が、彼と同じ空間で食事をするなんて。
……それにしても、どうして推しは私と相席なんか? もっと個室とか、他の席が空くのを待つとか、方法はいくらでもあるはずなのに。
気になって、さりげなく店内を見渡すと、ちらほら他の客がこちらを気にしているのがわかった。もしかして、推しが気づかれ始めてる?
すると、推しがふっと視線を上げた。
「……このお店、よく来るんですか?」
え、えええええええ!!!???
急な話しかけに脳がフリーズする。いや待って、何この状況。推しと、会話してる!? まさか向こうから話しかけてくれるなんて、そんなことが現実に起こるの!?
「えっと、その……あの……!」
焦りすぎて言葉がまとまらない。でも、このまま黙っているわけにもいかず、なんとか振り絞るように答える。
「えっと……たまたま、です。今日が初めてで……」
「そうなんですね。俺も久しぶりに来たんですけど、やっぱり落ち着きますね」
優しく微笑む推し。その姿に心臓が爆発しそうになる。
これは夢? それとも現実?
混乱しながらも、私は必死で平静を装い、推しとの奇跡の時間を噛みしめていた――。
交差する視線
「……そうなんですね」
震えそうになる声を必死に抑えながら、私は相槌を打つ。それ以上、何を言えばいいのか分からない。
推しは、メニューを眺めながらふっと笑った。
「実は、俺も人と相席するのって珍しくて。こういうの、ちょっと緊張しますね」
推しが……緊張?
その言葉に驚いて顔を上げると、彼は少し照れくさそうに笑っていた。いや、そんなことありえる? だって、この人は舞台の上ではあんなに堂々としていて、何千人もの観客を魅了する人なのに。
「でも……助かりました。ちょっと、座る場所に困ってたので」
「え?」
「たぶん、俺のこと気づいてる人、何人かいたみたいで」
その言葉に、私は反射的に店内を見渡す。確かに、さっきよりも彼をちらちら見ている人が増えている気がする。もしかして、私と相席を選んだのって、少しでも目立たないようにするため……?
「俺、こういう時どう振る舞うのが正解か、いまだによく分からなくて」
ふっと、少しだけ自嘲するように笑う推し。その表情が、なぜだか胸に刺さった。
「……それなら」
自分でも驚くほど自然に、言葉が口をついて出た。
「今は、普通のご飯を食べる時間ってことで、いいんじゃないですか?」
推しが、少し驚いたように目を見開く。
「ここにいるのは、“俳優” じゃなくて、一人のご飯を食べに来たお客さん……ってことで」
言いながら、心臓が爆発しそうだった。何を偉そうに言ってるんだ、私。でも、そう思った瞬間、推しがふっと目を細めた。
「……そうですね。そういうことにしましょう」
そう言って、彼はメニューを開き直した。
その瞬間、ようやく私は少しだけ、息がしやすくなった気がした。
この時間が、ほんの束の間でも “特別なもの” になればいい。
そんなことを思いながら、私はそっとグラスの水を口に含んだ。
ありふれた会話
「何にしようかな」
推しはメニューをめくりながら、ふっと小さくつぶやいた。
私は、目の前の奇跡の状況にまだ慣れきれずにいたけれど、彼の何気ない仕草や言葉が、少しずつその緊張を和らげていく。
「ここのおすすめって何か分かります?」
思いがけず話を振られて、私は慌ててメニューを見た。いや、私も今日が初めてなんですけど! でも、せっかく推しが話しかけてくれてるのに、「知らないです」とだけ返すのはあまりにも惜しい。
「えっと……このパスタが、人気って書いてありますね」
「へぇ、じゃあそれにしようかな」
推しはメニューを閉じて、店員さんを呼んだ。
「ご注文お決まりですか?」
「はい。このパスタと、あとコーヒーをお願いします」
「かしこまりました」
店員さんが去っていくのを見送って、私はそっと息を吐いた。
少しだけ、落ち着いてきた気がする。
……いや、よく考えたら落ち着くわけがない。
だって、私は今、推しと食事しようとしている。たまたまとはいえ、同じテーブルで、会話までしている。これ、もう一生分の運を使い果たしてない? 大丈夫?
「そういえば、さっきの……」
「えっ?」
不意に推しが口を開いた。
「テーブルの上にあったやつ、もしかして俺?」
――え? もしかして、アクスタのこと!?
「ち、ちがっ、いや、違わなくはないんですけど……!」
思わず変な声が出た。しまった、完全に挙動不審だ。
推しは驚いたように私を見た後、クスッと笑った。
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。ファンの方がグッズを持ってるの、よく見るし」
「すみません、なんか……恥ずかしくて」
「いや、むしろ嬉しいですよ」
さらっとそんなことを言われて、心臓が跳ねた。
「俺のことを応援してくれてる人がいるって、ちゃんと実感できるから」
推しは、そう言って優しく微笑んだ。
――もう、無理。好きが溢れる。
私はただ、こくこくと頷くしかできなかった。
すると、推しがふっと少しだけ表情を緩めて、
「……それで、今日の公演、どうでした?」
と、尋ねてきた。
それは、まさに私がずっと話したかったことだった。
「……すごく、よかったです!」
私がそう言った瞬間、推しは少しだけ目を細めた。
「本当ですか?」
「はい! 今回の役、これまでのどのキャラとも違ってましたけど、それがすごく新鮮で……。特に二幕のあのシーン、表情の変化がすごく繊細で、一瞬で引き込まれました」
言葉が止まらなくなる。私は語りたかった。彼がどれだけ素晴らしかったか、どれだけ心を動かされたか。
すると、推しは静かに私の言葉を聞いたあと、小さく息を吐いた。
「……嬉しいな」
「え?」
「……実は、今回の役、すごく悩んでたんです。自分にできるのか、ずっと不安で」
「そんな……! でも、すごく良かったですよ!」
私が力強く言うと、推しはふっと笑った。
「うん。あなたがそう言ってくれるなら、少しは自信を持ってもいいのかも」
「……?」
私が首を傾げると、彼はふと視線を落とした。そこには、私が慌ててカバンに突っ込んだアクスタ。
「……やっぱり、そうだ」
「え?」
「ずっと気になってたんです」
推しが、静かに私を見る。
「俺のアクスタ、こんなふうにデコってくれる人……一人しかいないなって」
心臓が跳ねる音が聞こえた。
「もしかして、覚えて……?」
「うん」
推しは、迷いのない声で答えた。
「何年も前から、ずっと見てました。あなたが、俺を見てくれていたように」
息が止まる。まさか、そんなことって――。
「舞台、いつも三回は来てくれてるでしょ?」
「……!」
「それに、ファンレターの名前も……覚えてるよ」
頭が真っ白になる。そんな、そんなはずは――。
「SNSも、実はたまに見てました」
推しは、照れくさそうに笑った。
「あなたが『今日も最高だった』って書いてくれるたび、俺、どれだけ救われたか」
その言葉に、涙が出そうになる。
私がずっと見ていた人に、私は見られていた。
そんなこと、想像すらしていなかったのに。
推しは、少しだけ目を伏せて、
「……ありがとう」
そう、静かに言った。
まるで、ずっと伝えたかった言葉みたいに。
ずっと、知っていた
「ありがとう」
推しがそう言った瞬間、時間が止まったように感じた。
今までの応援が、ちゃんと届いていた。私が送った言葉が、推しの支えになっていた。
それが、ただ嬉しくて、だけど信じられなくて。
「……そんな、私なんてただのファンで……」
「違うよ」
推しは静かに首を振る。
「俺、あの頃、本当に辞めようと思ってたんです」
「え……」
「舞台に立っても拍手がまばらで、誰にも求められてないんじゃないかって思って。でも、ある日、手紙をもらって」
喉が詰まる。
「“ずっと応援しています” って。どんな役でも、どんな作品でも、あなたの演技が好きだって書いてあった」
それは、確かに――私が書いた言葉だった。
「それを読んで、俺はもう少し頑張ろうって思えたんです」
推しの目がまっすぐこちらを見つめる。
「だから……あなたのこと、ずっと知ってました」
「……っ」
心臓がうるさいくらいに鳴る。信じられない。でも、推しは本当に、私を覚えていてくれたんだ。
言葉が出てこない。こんなこと、夢でしかありえない。
「今日、あなたがあのアクスタを持ってるのを見て――“あの子だ” って気づいて」
ふっと、彼が笑う。
「どうしても話したくなったんです」
推しが、私に会いたいと思ってくれた――?
そんなこと、あるはずがない。
でも、今、推しは目の前にいて、私に向かって話している。
「だから……本当に、ありがとう」
二度目の「ありがとう」が、心の奥に深く染み込む。
「これからも、俺はずっと舞台に立ち続けるから」
推しが、まっすぐに言う。
「また観に来てくれますか?」
そんなの、答えは決まってる。
「……もちろんです」
そう返すと、推しはふっと微笑んだ。
まるで、昔からの約束を交わすみたいに――。
交わした約束
「……もちろんです」
そう答えた瞬間、推しはふっと優しく笑った。
「よかった」
その表情が、なんだかすごく安心したように見えて、胸がぎゅっと締めつけられる。
ずっと応援してきた人が、今こうして目の前にいて、自分の言葉で笑ってくれている。
そんな光景が信じられなくて、でも、夢じゃないんだって実感したら、なんだか泣きそうになった。
「でも、そんなの当たり前じゃないですか」
震えそうな声をなんとか抑えながら続ける。
「私はあなたの舞台が好きだし、演技が大好きだから」
「……」
推しは少し驚いたように瞬きをして、それからゆっくりと口を開いた。
「俺も、あなたに出会えてよかった」
心臓が跳ねる。
「あなたがいなかったら、たぶん俺は舞台を降りてたかもしれないから」
そんなの――重すぎる。でも、それくらい彼にとってあの頃は苦しかったんだと、改めて思い知る。
私の「好き」が、彼の「続けたい」につながったのなら、それほど嬉しいことはない。
「私なんて、本当にただの一ファンで……」
「でも、俺にとっては特別だった」
「……」
「どんなときも、あなたは俺の舞台を観てくれてたから」
静かに、でも確かに告げられたその言葉に、涙がこぼれそうになる。
「私……これからも、ずっと観に行きます」
そう誓うように言うと、推しはほんの少し、照れくさそうに目を伏せた。
「……うん。待ってる」
コーヒーの湯気が、ふわりと揺れる。
たまたま入ったお店で、たまたま交わした言葉。
でもそれは、私にとっても、推しにとっても――特別な約束になった。
その日から、私の推し活は、少しだけ変わり始めた。
変わり始めた日常
あの日から、推しを観るたびに意識してしまうようになった。
舞台の上で、これまでと同じように演じているのに、どこか違って見える。
それはきっと、私が「知ってしまった」からだ。
推しが私を覚えていてくれたこと。
推しが私の言葉で救われたこと。
推しが、私の応援を「特別」だと言ってくれたこと。
それまでの私は、ただの一ファンとして彼を見ていた。
でも今は――私の存在が、少しでも彼の支えになっているんだと思うと、胸が熱くなる。
***
舞台の終演後、ロビーで友達と感想を話していると、不意にスマホが震えた。
通知を見ると、SNSに「推し」が投稿したばかりのメッセージが流れてきた。
《今日の公演もありがとうございました! 毎回、客席からの拍手に本当に支えられています。届いてるよ、いつもありがとう》
「……!」
思わずスマホを握りしめる。
“届いてるよ”
それが、誰に向けられたものかなんて分からない。
でも、私の中で勝手に推しの声で再生されて、どうしようもなく心が揺れた。
「ねえ、どうしたの?」
友達が不思議そうに覗き込んでくる。私は慌ててスマホを隠した。
「な、なんでもない!」
「? まあいいけど……。じゃあ、そろそろ帰ろっか」
「うん」
友達と駅に向かう道すがら、私はそっとスマホを見つめた。
――また観に来てくれますか?
推しの言葉が、耳の奥でこだまする。
「……もちろん」
私は小さく呟いた。
***
それから数週間後、私はまた劇場にいた。
推しの舞台を観るために。
私がずっと応援してきた人。
そして、これからも応援し続けると決めた人。
変わったのは、ほんの少しの関係と、ほんの少しの気持ち。
でも、それだけで世界はまるで違って見える。
そして、カーテンコール。
客席に向かって深々とお辞儀をする推しが、ふと顔を上げ、ほんの一瞬だけ視線が合った。
気のせいかもしれない。
でも――
「ありがとう」
推しが口の動きだけで、そう言った気がした。
確信に変わる瞬間
その「ありがとう」は、客席全体に向けられたもののはずだった。
でも、推しの視線がこちらを捉えた瞬間、まるで自分だけに向けられたように感じた。
気のせい、だよね――?
そう思いたいのに、心臓がさっきからずっと落ち着かない。
カーテンコールが終わり、客席の明かりが戻る。周囲がざわざわと帰り支度を始める中、私はまだ座席に沈み込んだままだった。
「ねえ、今日の推し、いつも以上に良くなかった?」
「分かる! 表情の作り方がすごく丁寧になってたよね!」
友達が興奮気味に話しているのを聞きながら、私はそっとスマホを取り出す。
無意識のうちに、推しのSNSを開いていた。
――そして、更新されたばかりの投稿を見つける。
《今日もありがとう。ちゃんと届いてるよ。》
「……っ」
心臓が跳ねた。
何度も繰り返し読んでしまう。たった一言なのに、どうしてこんなに意味深に感じるんだろう。
「どうしたの?」
友達の声にハッとする。
「え、あ、なんでもない!」
慌ててスマホを閉じる。
友達と劇場を出て、駅に向かう道すがら、私はずっと考えていた。
届いてるよ、って。
その言葉が、まるで私に向けられたもののようで――。
***
それから数日後、私はまた推しの舞台を観に行った。
いつものように客席に座り、幕が上がるのを待つ。
だけど、その日、何かが違った。
舞台が始まり、推しが登場した瞬間、彼の視線が一瞬だけこちらを捉えた気がした。
――いや、気のせい、かもしれない。
そう思っていたのに、あるシーンで、推しが舞台上から客席に視線を向けた瞬間――確かに、私の方を見ていた。
目が合った。
ドキン、と心臓が跳ねる。
舞台の上の彼は、役としてそこにいるはずなのに、その一瞬だけ「推し」が私を見ていたような気がした。
そして、その日の終演後。
推しのSNSには、また短い言葉が投稿されていた。
《ちゃんと見えてるよ》
私の中で、何かが確信に変わった。
――これ、本当に私に向けて言ってるんじゃない?
そんなはずない、と否定する気持ちと、もしかして、と期待する気持ちが入り混じる。
推しは、私をちゃんと見てくれている?
そんなわけない、ただのファンのひとりなのに。
だけど、どうしても気になってしまう。
そして、運命のような出来事が、もう一度訪れる。
***
その翌週、私はいつものように舞台を観るために劇場へ向かった。
開演前、ふと飲み物を買おうと劇場のカフェに立ち寄る。
カウンターで注文を済ませ、出来上がるのを待っていると――
「……やっぱり」
背後から聞こえた低めの声に、思わず体が固まる。
振り返ると、そこには帽子を目深にかぶった推しが立っていた。
「え……」
言葉が出ない。
「もしかして、偶然だと思ってた?」
推しは、ふっと小さく笑う。
彼の言葉が、カフェのざわめきの中で静かに響いた。
「俺、ずっと気づいてましたよ」
その瞬間、私の中で何かが崩れ、そしてまた新たに築かれるような感覚が広がった。心臓が激しく打ち、まるでこの瞬間だけが永遠に続くかのような錯覚に陥った。
「ずっと……私のことを……」
思わず、声を詰まらせながら問いかける。
彼は、優しい眼差しで頷き、少し照れたような笑みを浮かべながら、静かに続けた。
「君が、毎回劇場に来てくれるたびに、その笑顔や、あのアクスタの可愛らしいデコレーションが目に焼き付いていた。君の存在が、俺にとっての大きな励ましになってたんだ」
その言葉に、胸の奥が温かく、そして何よりも驚きと喜びで満たされた。私が密かに抱いていた憧れが、ただの幻想ではなく、彼の心に確かに居場所を作っていたのだと実感する。
「……私、ずっとあなたのことが大好きでした。だから、こんな風に直接お話しできるなんて、夢みたいです」
涙ぐみそうなほどの感情を込めながら、私は震える声で告げた。
彼は、そっと私の手に触れ、その温もりを確かめるように握りしめた。
「君の気持ちが、俺の背中を押してくれた。あの苦しかった日々も、君の『ずっと応援してる』っていう一言で救われたんだ」
カフェの中は、周囲の喧騒が遠ざかり、二人だけの静かな空間に変わっていった。外から差し込む柔らかな光が、窓越しに二人を優しく照らし、まるでこの瞬間を祝福するかのようだった。
「こんな偶然なんて……もう、偶然なんかじゃないよね」
私は、小さな笑みを浮かべながら言った。
彼は、にっこりと笑い返し、
「運命ってやつかもしれないね。これからも、君と一緒に歩んでいきたい」
その言葉に、私の心はさらに高鳴り、未来への不安が希望へと変わるのを感じた。
「今、もしよかったら……もう少し、ここでゆっくりお話ししませんか?」
彼の提案に、まるで夢のような気持ちで頷くしかなかった。
そうして、私たちはカフェの窓際のテーブルに再び腰を下ろし、これまで語ったことのなかった想いを、互いに語り合い始めた。
舞台で輝く姿の裏に隠された、素の自分。
日常の中で見せる、ちょっとした笑い声や真剣な表情。
そして、私自身が抱える小さな希望や、未来への不安。
言葉が交わされるたびに、心と心の距離はゆっくりと縮まり、二人の間に確かな温もりが流れていった。
この出会いは、ただの偶然ではなく、ずっと続いてきた応援と想いが紡ぎだした必然であることを、互いに感じ取っていた。
その時、カフェの窓の外では、夕暮れが静かに訪れていた。
二人で過ごす時間の中で、これから先に待つ数え切れない未来の可能性が、ふわりと光となって広がる。
この瞬間が、ただのファンと俳優という枠を超えて、やがて新たな物語の始まりへと変わっていくのだと、私は心の奥底で確信した。
そして、推しはそっと、
「君がいてくれるから、俺はこれからも頑張れる。君と一緒に、未来を見つめながら歩んでいきたい」
と言い、再び優しく微笑む。
私もまた、目を潤ませながら、
「はい。私も、あなたのそばでずっと応援し続けます」と答えた。
この日、偶然のはずだった出会いが、二人の新たな一歩となった瞬間だった。
静かなカフェの中で交わされた言葉と、重なり合う鼓動が、未来へと続く恋人としての物語を、そっと刻み始めたのだった。