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終曲 ――フィナーレ

†終曲 ――フィナーレ


 六芒星を象った浮遊ステージでフィニッシュを飾ったのは、暗転した天幕に瞬くアイドリア・エフェクトの連発花火と、その残照のごとく散らばっていく星空だった。


「――さあさあ、色とりどり、種族とりどりの〈闘技歌姫アイドル〉たちが舞い踊る本オーディションも、いよいよ佳境に突入してまいりましたあ――!」


 曲の終わりに合わせてステージ中央まで駆け寄ってきた、司会者らしき樹海妖精(エルフ)族の娘が、魔法の拡声器へとがなり立てる。

 ここヴェナント中央歌劇場ホール内では、他国との間にいつ勃発するかもわからないアイドリア・クラウンに向け、ヴェナントの代表アイドル選抜戦――いわゆるオーディションが開催されていた。


「それでは、あらためて紹介するよっ! 本オーディションはね、ただ地元のアイドルたちの祭典ってだけじゃないんだ。いつか彼女たちの誰かがね、ヴェナントを背負って百戦錬磨の強豪たちと火花を散らす時代が来るよッ! これこそがアイドリア・クラウン! あつい、めちゃ熱い展開だよね~ッ!」


 魔工石の力で浮遊するステージからそう力説する司会者は、あのハイエルフ嬢――キーメロウだ。ステージを取り囲む無数のゴンドラ型観客席に向け、満面の愛想を振りまきながら本人もアイドルに負けじと大はしゃぎする。胸元や太ももを大胆に露出させた衣装に照明が当てられれば、どちらが主役なのかわかったものではない。

 そして歌い手のための魔杖が設置されたステージ中央にて睨み合っていたのは、次の出番で直接対決するアイドルたちだ。

 向かって右手側に照明が当てられる。そこに浮かび上がったのは、浅黒い肌をした赤毛の少女たち――三人編成のアイドルレギオン。


「――さて、彼女たちは、なあんと本オーディションがいきなりのデビュー戦になるっていう、西区魔術学院の現役学生アイドル! そのレギオン名は〈風切りフルーリオ〉――!!」


 観客席側の、特に一部エリアから黄色い大声援が送られる。現役学生などと紹介されたからには、学校の仲間たちが応援に駆けつけたに違いなかった。


「さあて、ここで審査員席のシャルルマキナお嬢様にコメントを頂戴したいと思いま~す」


 ラパロたち一族の特別観覧席に話題を振る。と、慌てて座席に飛び乗った小さなシャルが、


「――ちょ、こら~またまたエルフは! うちは審査員じゃないっていってんしょ!」


 キーメロウの悪ふざけに必死に抗議して返すと、


「……本日もお可愛らしいシャルお嬢様ですが、どうやらちがうそうでえす! 大変失礼しちゃいました、てへっ☆」


 自分の頭をこつんとしてみせて、観客席の笑いを誘った。


「ふ・ふ・ふ☆ それでシャルお嬢様に話を振ったのは、ちょっとした冗談じゃなくて、実は司会進行上の意味があるのですよ」


 いやらしい含み笑いを、観客席へと轟かせるキーメロウ。手慣れたもので、観客の盛り上がりを拡声器ひとつで意のままに操っているかのようだ。


「なんと今回のオーディション! みんなのチケット代やグッズなんかで得られた収益金をね、今はまだ大変なままのヴェナント復興を支援するために寄付することが急遽決定したので~す! なんと本オーディション主宰者である、辺境伯様のご意向なのですよ~」


 シャルに寄り添って席を立ち、手を掲げ民衆たちの拍手喝采に応えるのは芸術王ラパロだ。あの戦争によって暗い影を落としたかに見えたヴェナントも、少しずつだがこうして笑顔を取り戻しつつあった。


「さあさあ、そんなわけで、大切なヴェナントを盛り上げていくために学生さんたちで結成したのが、彼女たち〈風切りフルーリオ〉なんです。そして、そんな彼女たちの挑戦を受けて立つのは――」


 左手側に、新たにもう一つの照明が落とされる。

 まばゆい照明を浴びて観客らの前に姿を見せたのは、同じく三人編成のアイドルレギオン。

 途端、静まり返るホール内。一歩前に立つセンターの少女が、純金のアクセサリーを思わせる髪を照明光に泳がせると、


「――現在のヴェナント代表アイドル、〈銀妖精のアリア〉――――ッ!!」


 そんなキーメロウの紹介を待って、観客席の沈黙は瞬時に沸き立った。





 ステージ裏方――次の出番を待つ控室まで、あの歓声が聞こえてきてた。

 それに畳みかけて〈旅するアリア〉の伴奏が重なったのを耳にしながら、ナラクは彼女らを振り返る。


「――相変わらず、ソシエルたちの知名度は末恐ろしいものがある。やはり、ただ強ければ勝てるという相手じゃない。たとえお前たち〝英雄〟の実績をもってしても、民衆に愛されるアリアを倒すには実力だけでは駄目だ」


 彼女らのステージ開幕を前に、何か助言となるべき言葉をかけてやりたくて、そんな言葉を贈るナラクであったが。


「みんなに愛されてることも含めて、それがアイドルの〝実力〟ってことだよ。それに、ぼくたちは自分を〝英雄〟だなんて思ってない。まだ新人のままのつもりだから、今後ともプロデューサーが指導してくれないと、ぼくたち路頭に迷っちゃうよ?」


 そう言って眉尻を下げるのは、銀白のドレスに、長い銀の髪を花帽子で飾るアイドル――ユーフレティカ・アールビィだ。腰に釣り下げた小道具のレイピアを抜き、その束を君主に捧げるかのように胸に掲げ、微笑み返してくる。時と場所を選ばねば気障な振る舞いに見えかねないが、女性的に成熟した体と高い身長、そして精悍な佇まいを兼ね備えたユーは、男女問わず、あらゆる客層の支持を集め始めていた。


「そうなのです、そうなのです。人界でも魔界でもなくって、まおーさまのアイドルなのです。誰ひとり欠けても、ミュゼたちわアイドルすることができません、ので」


 最後の方、ちょっと拗ねた言い回しで、ちょっぴり怒りんぼの顔がナラクを見上げてきた。

 そんなミューゼタニア・ブルタラクは、ツーサイドアップに結ったストロベリー・ブロンドの巻き毛をふるふると揺らせて、いつもの眠たそうな無表情顔に戻す。その髪に乗っかる傾いた小さな王冠は、ユーの花帽子と対になるものだ。その黄金色を頭上に頂いて不機嫌な姫君だと振る舞えば、ナラクは思い知るしかない――ガベルの敗れた新魔王軍を見事退かせてみせた、ミュゼの魔界の姫としての風格を。

 ただ、あれは全面戦争を回避するための作戦だったとはいえ、新魔王側に彼女を潜入させたことについては、まだ機嫌を直してくれていないらしい。近ごろのミュゼはシャルに負けじと我が儘を言うようになり、ナラクを困らせる場面も多々あった。


「まおーさま、ミュゼは戻ってきたいから、まおーさまとユーのそばに戻ってきました。ミュゼがそうお願い事をしたの、まだなっとくがいきませんか?」


 こく、と小首をかしげながら、上目づかいをするミュゼ。

 ミュゼは〈使徒〉に願った。もしアイドリア・クラウンで自分がユーに勝てたなら、ナラクとユーと再びいっしょに歌いたい、それだけがひとつだけの願いだ、と。闘技場戦争において敗者の願いは聞き入れられないが、ミュゼの願いくらいミュゼ自身の力でも叶えられるのだと〈使徒〉は答えた。


「だからおれは、ミュゼはもっと欲深くなるべきだと助言しただけだ。〈使徒〉の褒美にそんなことを願わずとも、元よりお前の居場所はこのナラクの傍らだ。まあ、お前の好きにしたんだから、それでいいが……」


「ばか、そういう問題じゃないよ、ナラク。願いがかなって、こうしてぼくたちがまたいっしょになれたからこそ、奇跡みたいで素敵なんだ」


「そうなのです。うちのプロデューサーさまには、もっともっとアイドルの〝ろまんちっく〟を勉強していただかないと、です」


「〈ペンタミュール商会〉も、これからどんどんアイドルしていくことになるんだから、プロデューサーもそこんとこ、しっかりしてくれないとね?」


 とはいえ、こうしてこの二人が再びナラクの前に、笑顔のアイドル姿で立ってくれた今。


 ――このおれですら、嬉しいって感覚が湧き起こってくる。ただお前たちの歌がおれの呪いを癒やしてくれるってだけじゃなくて。世界を変えていく〝力〟ってやつは、いつ見ても恋い焦がれるもんだ。


 そんなこと言葉には出さないが、そういえば魔王たる自分が〝恋〟に焦がれるなどとたとえてしまった自然が、まったく馬鹿馬鹿しくなるくらいで。

 ふと気付けば、カーテン越しに競い合われていた〈旅するアリア〉のステージが、最後の歌声を観客席へと響かせていた。


「――さあ、本ステージの裁定が下されましたあ! ステージを征した勝者は――〈銀妖精のアリア〉! ヴェナント代表アイドルとしての潜在能力を、今回も見せつけたあ! さすがつよい、圧倒的な強さだよ~!」


 キーメロウにより、勝者の名が告げられる。挑戦者も新人ながら大検討したようだが、やはり頭ひとつ以上抜きんでた〈銀妖精のアリア〉は、膨大なカードを獲得したことだろう。

 もう間もなくだろうかと思えば、示し合わせたようにステージ誘導員が控室に現れた。


「失礼しまーす。もうそろそろ出番ですので、準備をお願いします、ユーフレティカさん、ミューゼタニアさん」





 ミュゼとユーは、それに応じて振り返ると、最後に互いに目で合図し合う。


「行くよ、ミュゼ」


 ――見てなよ魔王……ううん、ぼくのプロデューサー。新しい世界はこんなにも素敵だって、ぼくたち二人でもっともっとキミに教えてあげるから。


「うん、ふたりでいっしょにがんばろうね、ユー」


 ――ミュゼたちで戦い抜いてきます、まおーさま。みんなの〝すき〟をいっぱい、集めてきちゃいます。





 そしてミュゼから、ユーの手を引いて先を行く。

 開け放たれた、白いトンネルの向こう――ステージへと至る花道に、二人は繋いだ手で互いを支え合いながら、ヒールをひた鳴らし、並び立って駆け出していく――――――。


「――――さあ、次の挑戦者は、ヴェナントを救った勇者と吸血鬼、あの二人が再び手を取り合って結成したアイドルレギオン――さあ、本オーディション最大のダークホース、〈輝けり戦乙女〉がついに登場だっ――!!」

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