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 城郭都市であるヴェナントを覆う城壁を超えた先の、北方の地平まで続く街道沿いにて。

 堅く踏み固められた街道から一歩脇に逸れれば、その先のどこもがおぼろな山脈に青々と生える平原ばかりで、行く手を見失うほどだ。

 そんな平原に唯一目立つ影があった。

 張られた白い天幕に、はためく聖王国旗と、女神エフメローゼの紋章。太陽を銀に照り返すのは、甲冑を装備した戦闘馬だ。その周りで、騎士や叙任前の《《盾持ち》》たちが、慌ただしそうに駆けずり回っている。

 この軍勢の指揮所と思しき、一番豪奢な刺繍の設えられた天幕――その帳が開くと、中からトロネ・フラウプリット代行大神官が姿を見せた。


「――もし? あちらさまの状況を小官に報告してくださいまし」


 すぐさま駆け寄ってきた白騎士――おそらく彼女の従者と思われる若い男が、トロネにこう耳打ちする。


「新魔王の軍勢、〈未踏領地〉よりようやく姿を現したそうです。先ほど、ヴェナント南城壁側に送った密偵から、そのように報告を受けました」


「それは、敵影が見張り台からもちゃんと目視できた、と受け取ってよいと?」


「あ、いえ……やつらもそこまで近付いてきたわけでは。あちら側にも斥候がいないわけではありません。我々がヴェナントの後ろ盾にいることに感付いたのでしょう。進軍を一旦止めて様子見を決め込んだようですが……」


「あらあら、それはそれで困りますねえ。だって、ヴェナントの民衆が新魔王軍にちゃあんと脅威を感じてくれませんと、この戦が歴史的な転換点になり損じてしまいますので」


 さも困り果てた口振りをして。なのに、あくまで穏やかに恐るべき策を講じる。


「――そうですね、あちらさまをもう少し煽りましょうか。なあに、魔界のものどもの本性を炙り出すまでですよ? おとなしく牙を潜めていれば原罪が赦されるなど、獣にすら劣る悪知恵でありましょうに」


 トロネが錫杖を掲げると、行け――と町の城壁側を指し示す。その先に向けて、早馬が蹄鉄を高鳴らせ駆けていく。


「ああ、我が女神はいまだお姿を見せられず、代わりに暗黒神の《《できそこない》》が、我が物顔をして調停者気取り。本当にどうしようもなく救いのない、最悪の時代になったものですね」


 トロネは錫杖を下ろすと白騎士に預け、それから白装束の頭巾を下ろす。短く切り揃えた藍染めの髪を風になびかせ、自ら向かわせた早馬の背を見すえる。街道沿い――ヴェナントの方角だ。


「どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。今もわたくしのそばに、彼が――勇者さえ、いてくれれば――」


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