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旅の途中、嵐に出くわす日だってある

 人には、否、生物である以上苦手なものというのは存在して然りだ。

 『にゃあ』と鳴く動物に対しての柑橘類、木造住宅に対しての白蟻、コヅツミに対しての台所等に出没する黒いアレ(通称ジョバンニ)といった具合に。

 無論、それはヴァンとて例外ではなく、苦手なものは存在する。しかも、今現在それが発生中なのだ。その苦手なものはというと……。


「ヴァン、そんな部屋の中歩き回らないで、リシャみたいに眠るなりして暇潰したら? どうせこの嵐じゃ外も出られないし」


 そう、ヴァンの苦手なものの一つとは、窓に貼り付けた雨戸をガタガタと揺らしている原因であるそれ。大嵐。台風。自然の試練。荒海の声。どの国の言い方をしてもいい。とにかく、ヴァンはこの大雨と暴風が同時に襲ってくる天候が大嫌いで、苦手であったのだ。


「いや、だけど、いつその雨戸と窓が壊れて風と雨が入ってくるかわからんし……」


 ちらちらと窓に目をやりながら返すヴァン。ただの嵐に怯える蒼髪の少女にアリアは苦笑した。魔獣にも、初めて出会ったときの自分にも、竜種と対峙したときにも、想像を絶する怪物とやりあった時も、果敢に向かっていった少女と同一人物に見えず、それがなんだかおかしかった。

 となれば、苦手な理由が知りたくなるのも道理。


「宿屋の造りがそんな柔なものだとも思わないけど……でも、なんでそんな気になってるの? ただの嵐じゃない」


 言いながらベッドの上で熟睡しているリシャを見る。普段は小動物を思わせるリシャですら睡眠は取れる程度に平気だというのに。

 もう一度ヴァンに視線を戻すが、なんともいえない微妙な表情で黙っているだけだった。もしかすると嫌な記憶でもあるのだろうか。思い、慌てて前言を撤回する。


「言いたくないなら、無理には聞かないわ。誰にだって一つや二つ話したくないこともあるだろうし」


 しかし、意外なことに今度はヴァンが慌てだす。


「あ、いや、違う。そんな重いことじゃないんだ。ただ……なんというか、俺の思い込みというか……まぁ、理由は一つじゃないんだが……」


 ガタンッ。窓の雨戸が音を響かせ、ヴァンが肩を震わせて反応する。それは不覚だったのか、窓を見つめたまま頬を赤くさせた。

 普段のアリアならば顔全体が緩むのを止められないが、このときばかりは少しだけ眉をひそめる。妖精を連想させる少女は一つ咳をし、目を戻さず口を開いた。


「アリア、魔術によって発生した火は自然の水で消えるか?」


 理由を話してくれるかと思っていたアリアは急な質問に数回瞬き、しかし、すぐに答える。


「いいえ、魔術で発生する様々なことは厳密には自然現象ではないから、魔術でつくった水じゃなければ消えないわ」


 魔術から自然現象に干渉することは出来るけど。と付け足す。

 魔術で作られたものに強制的に干渉するのは魔術で作られたものだけだ。これは元が魔力であることが理由となる。

 逆を言えば、術者自身が対象に干渉、つまり影響を与えたいと思うことで、魔術で作られたもの以外にも干渉させることが出来るのだ。ヴァンのサラマンダーイグニッションで衣服が燃えないのは、ヴァンがその衣服に対して『燃やしたい』と思っていないからである。もっとも、この『思うこと』というのがかなり難しく、大きく分けて『他者』か『自分』の両極端でしか形象(イメージ)出来ない。衣服の場合、無意識にそれら全て含めて『自分』と認識しているからである。

 過去、セレーネという姉が魔術を行使したヴァンの手をつかんだとき慌てたのが、その姉『だけ』を燃やしたくない、と『思う』ことは不可能だったからだ。

 とはいえ、基本的に魔術は『相手』と『自分』の二者しか居ない世界での行使となるので、どちらかと言えば、ヴァンが口にした思い込みが近い。

 例を挙げるとすれば、『自分が放ったのは魔術の炎であるので、相手は燃えるはずだ』や『これは魔術の炎であるので、自然現象の炎とは違う。つまり湖や海の中でも使える』といったものだ。実際のところ、実物の炎や水にも、その属性のマナが豊富に含まれているのでそれによる影響は無視できないのだが。


 といった説明をすると、ヴァンはまた神妙な顔つきになった。


「……師匠と同じことを言っている。やっぱりそれが正しいんだろうな」

「ヴァン?」


 雨戸の向こう側から聞こえる風のうなり声や雨のはじける音を背景に、ヴァンはゆっくりとアリアを見る。

 そして再度口を開いた。


「でもな、駄目なんだ。少しの雨ならいい。そんな少ない雨には負けないほど燃やしてやるって思えばな。だけど、嵐のときは駄目なんだ……消えるんだよ、魔術が。俺の炎が」


 はじめはヴァンが何を言っているのか分からなかった。衝撃的だったからではない。なんでそんなことをいきなり告白したかが分からなかったのだ。

 その綺麗な空色の瞳が今の天候を表しているかのように曇り、大きなため息をついたことで、アリアはやっと理解する。


 それが嵐が苦手な理由なんだと言っていることに。


「…………ぷっ」

「おい!? 今笑ったか!?」


 笑われるとは思わなかっただろうが、アリアは我慢できないとばかりに声を上げて笑った。


「だってっ……深刻そうな顔していうからどんなことかと思えば……っ。ぷはっ、あははっ! なにその変な理由っ。それじゃあ海も湖も駄目じゃないのっ」

「くそっ、だから言うかどうか迷ったんだ。師匠にも笑われたし……」


 ぶつぶつと文句を言いつつ、ヴァンは窓がガタンとなる度に肩を震わせる。どう見ても他に理由がありそうなものだが、恐らく、そっちのほうは話してくれないかもしれない。嵐が苦手なことの、もっとも大きいであろう理由。

 ヴァンの師匠であるラルウァとヴァン自身の幼い頃の話を聞き、先ほどからのヴァンの音への過剰な反応を見て、アリアは自分の予想した『苦手な理由』が的中しているはずだと確信した。

 しかし、ヴァンはそれを認めることを拒んでいる。無自覚に、無意識に、自身の過去、嵐の日があったことを思い出さないようにしている。きっと、それは、親代わりのラルウァを気遣って。

 だから、アリアは笑った。その理由を信じた振りをして。


「あー、おかしい。ふふっ、でも、ヴァン?」

「……なんだ?」


 それなら、その理由を使って、もう一つの理由も解消させてあげたい。


「だったら、もう平気じゃないの。嵐。知ってると思うけど、私、攻撃の魔術に関しては超一流よ? それにリシャだってヴァンより『魔術師』としては上になったし、こんな大嵐の中でも十分戦えるはずよ。そんな二人と『一緒』にいるんだから、この上なく安心でしょ?」


 言って、笑いかける。

 ヴァンは完全に窓から目を離し、少し驚いた表情でアリアを見つめた。そして、呆れたように微笑む。


「そう、そうだな。確かに、安心だ……けど、普通自分で言うか?」


 ガタン。音がなっても、ヴァンはアリアに目を向けたままだった。まるでそれに気づかなかったように。

 胸に温かな、こそばゆいものが溢れてアリアはまた笑みを深め――――新緑より深い相ぼうをギラリと光らせた。



 リシャは寝ているし、外は大嵐で音が漏れることもない。多少ヴァン『が』悲鳴を上げても誰にも気づかれないだろう。

 しかもヴァンは安心したのかこちらに背を向けてベッドに向かっている。あまりにも好機。これを逃すことなど、例え雨戸が破壊されて窓から暴風が入り込もうとも出来ようはずがない。

 と、アリアが向かい合ったベッドから腰を上げて両足に力を入れたところで。


 凄まじい轟音が響いた。それが雷によるものだと気づいたのは、後を引くようにゴロゴロという音が聞こえたからだ。


 そして。


「きゃあああああああっ!?」


 悲鳴も響き渡った。アリアはまだヴァンに飛び掛っていない。

 驚いてもう一つのベッドに目を向けると、熟睡していたはずのリシャが飛び起きて毛布に包まり、まるで『にゃあ』と鳴く動物のように丸くなっていた。

 小刻みに震える毛布。ヴァンと目を見合わせるアリア。


「やああああああああっ!」


 響く雷鳴。リシャの悲鳴との協奏曲(コンチェルト)

 視線を混じり合わせていたヴァンとアリアは、お互いゆっくり頷き、リシャの毛布にもぐりこんで優しく抱きしめてあげた。

はい、そうっっっっっっっっっっっっとうお待たせしまして、申し訳ー……ございませんっ!!

やっとの思いで書き上げました。いやぁ、もう、本当にあれでございますね。

久々に書いたとおもったらこれかっ。みたいな、ね?

特に技術もあがっておらずグッダグダなないようですが、えー、読んでくださるとうれし……あ、もうこれみてるということは読んでいただいたということですね。


ありがとうございます!


えー、次回更新がいつになるのか全くわかりませんが…ついでにエン学!のほうも書きたいのでそっちも頑張りたいなぁとおもいつつ…。


今後とも、遠い、それはもう遠い目でコヅツミを見守ってくださるとうれしいです。

ではまた!

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