「ほら、好きに触って良いんだよ」
「ほら、好きに触って良いんだよ」
柑橘系の甘い香り。
泡みたいにフワッとした柔らかな白い肌。
細長い妖艶な指が絡むように、僕の手首を掴み、その手を自分の胸元に運んでゆく。
「どう? 柔らかい? あ、でも服着てるしブラ付けてるからあんまり分かんないか」
後で生のも触らしてあげるね、と言いながら僕を押し倒した。
ドスン。
僕はベッドの上で仰向けになって、画面のすべてが彼女で覆い尽くされた。
さっきの柑橘系の匂いとは別に、シャンプーと爽やかな汗が入り混じった匂いが僕の鼻腔をくすぐり、その匂いだけで意識が飛びそうだった。
彼女はとんでもなく可愛かった。
お人形さんのような幼稚な可愛さではなく、かといって綺麗で大人っぽい感じの可愛さでもない。
でも、とにかく可愛かった。
言い過ぎかもしれないが、僕が人生で出会ってきたどんな女の子よりも可愛いと感じた。
髪は枝毛の一本もない。いっさいの濁りもない川のように透き通ったロングの黒髪。
前髪はまっすぐ丁寧にカットされていて、目の少し上くらいの長さなのだが、今はこの子に押し倒されているせいで、正確な長さは分からない。
横の髪もまっすぐ切り揃えられていて、その先端はプルっと潤った小さな唇に触れていた。
片側の髪は耳にかけられ、彼女の可愛らしい耳があらわになっていた。
「この格好、すごくエッチだね」
「キミはどんなことをされるのが好きなの?」
と小悪魔のような声で問いかけてくる。
彼女の温かい息に意識を持っていかれて、一瞬何を聞かれているのか分からなかった。
「……今こうされてるのは嫌いじゃないかな」
僕は彼女から目を背けながら答えた。
室内は薄暗いオレンジの照明に包まれていて、部屋のほとんどをベッドが占めていた。
あまりに部屋が狭いので、こう覆い被されては逃げ出すことはできない。
「こうされてるってどうされてるの?」
「どうって…… 見たまんまだよ」
「あたし馬鹿だから、ちゃんと説明してくれなきゃ分かんないなぁ」
とニヤニヤ笑いながら、逃げる僕の視線を追いかけてくる。
「まぁ、良いんだけどね? あたしはそういう反応するキミが好きなんだからさ」
「こいつ……」
「なぁに。照れてんの?」
「これで照れないやつがいるんだったら、そのご尊顔を拝んでみたいよ」
「え、もしかして褒めてくれてるの?」
これはチャンスだ。この隙を見逃さない。
「褒めてるよ。わりと本気で僕が人生で出会った女の子の中で一番可愛いよ」
「え?」
「いや、だから君はすごく可愛い、って言ってるんだよ」
「……」
「何だよ、なんか言ってくれないとこっちが恥ずかしいじゃないか」
「……調子、乗らせないから」
彼女はそう言うと、僕の両手首をがっしりと握ったまま、僕の口を塞ぐように激しいキスをしてきた。
生温かいねっとりとした舌が僕の舌に絡みつき、その全面をくまなく舐め尽くされ、身体の中まで侵されている気分になった。
匂いや息だけでも意識が飛びそうになっていたのだ。こんなに激しいキスをされ、正気を保っていれるはずがない。
僕は女の子とのキスはこれが初めてではないし、激しいキスはもちろんセックスもそれなりの経験がある。
けれども、今までのそれとは比較にならない段違いのものだった。
「んんっ……」
彼女は少し顔を赤めながら、小さな喘ぎ声を漏らす。
「どう……? 興奮する?」
「興奮しないって言ったらどうするの?」
何となく素直になるのは癪だったので、反撃に転じようとした。
「へぇ……。興奮してないの?キミの顔、真っ赤だよ?」
「き、君こそすごく艶っぽい顔をしてるじゃないか」
「そりゃ、好みの男の子と密室で熱いキスをしてるんだもん。そんな顔にもなるよ」
「なんでそんな開き直ってるんだよ……」
「こういう時は開き直った方が強いんだよ、知らなかった?」
こいつ、いちいち僕を煽ってくる。
それもいじらしくニヤニヤしながら。それでいて嬉しそうにしている様子がいっそう可愛さを引き立てていて、この子にはどうやっても敵わないなと心の中で溜め息を吐いた。
「ねぇねぇ」
「何だよ」
「あたしも脱ぐからさ、キミも脱いでよ」
「脱ぐって何を……?」
彼女は呆れたため息を吐きながら、僕の上に覆い被さったまま、耳元にやってきて色っぽい吐息を漏らしながら囁く。
「……あたしの可愛い下着姿、見たいでしょ? だったらキミも同じように脱ぐの」
「キミがいくら誤魔化そうったって、身体は正直なんだからね」
と、付け足したように頬をぷくっと膨らませ怒ったようなを顔しながら、僕の下半身をその細い指先でゆっくりと撫でるように触った。
彼女の言う通り、僕の身体は隠しようもないほどにほてっていた。
あと4話で完結予定です。