21話「英雄の物語」
原初を目撃するは悪魔の眼
初は無限の救済、
終は虚無の崩壊、
戦火の残穢に宿いし己が使命、
猛火の煤に残りし我が血肉、
英霊を纏いし悪魔は、
他に寄与し己に回帰する。
16:27 現実世界
アウトエリア・地区Ⅲ
「結界が…消失していく…」
「ヴァレンティーン…」
ヘーロスとヴァレンティーン、二人による闘いの結末を目撃したダニーとレオンハルト。
レオンハルトは消失する結界と共に消えゆくヴァレンティーンを見てつぶやく。
仲間でも友でもなかった。
だが共に拳を交え、共に共闘した身、
レオンハルトは自身には感じることのなかった闘いの味を得て満足げに闘いを終えた英雄と雷帝を見て、複雑な表情を浮かべる。
ダニーとレオンハルトが闘いを終えたヘーロスのもとへ向かう。
「ヘーロスさん!」
「ダニー…か…」
「!!」
レオンハルトがヘーロスの様子を見て何かに気が付く。
「ソフィアのもとに行きましょう、手当てしないとその身体は…」
ダニーがソフィアたちのいる方へと向かうおうとするが…
「ヘーロス…さん…?」
ダニーがヘーロスの異変にようやく気が付く。
ヘーロスはダニーに背を向けたまま佇んでいた。
「悪い…な…ダニー……」
「!!」
ダニーがヘーロスの正面に立つ。
そこで初めてダニーはヘーロスの状態を理解した。
「もしかして…ヘーロスさん…」
ヴァレンティーンとの闘いで片腕を失う重傷を負ったヘーロス。
しかし、ヘーロスの肉体の損傷はそれだけに留まらなかった。
ヴァレンティーンが最期に放った雷臨、
それによりヘーロスの肉体は首から下の神経回路すべてを破壊されていたのだ。
すでに歩くことはおろか指を動かすことすら不可能。
ヘーロスの肉体はすでに先の闘いで死んでいたのだ。
「そんな…」
ヘーロスの状態に落胆するダニー。
だがレオンハルトはヘーロスを抱え、ダニーに声をかける。
「いくぞ、まだ俺達にはやるべきことがあるだろ。」
ソフィアたちのもとへ到着するダニー達。
「勝ったんだね!ヘーロ…」
レオンハルトに抱えられているヘーロスの様子を見てすぐに状況を察したソフィア。
「ヘーロス…?」
レオンハルトはヘーロスを床に寝かす。
ヘーロスの周りにソフィアやリアムが集まる。
「噓でしょ…全身の神経回路のほとんどが…」
「これじゃ…夜まで持つかどうか…」
ヘーロスの診断をして絶望するソフィアとリアム。
そんな二人にヘーロスが声をかける。
「ソフィア…レヴァリィ世界へ…向かう…準備を…」
「!!」
それを聞いたソフィアが涙を浮かべながら声を荒げる。
「バカ!!そんな状態で行かせられるわけないでしょ!!自分の状態をわかって言いなよ!!」
「ソフィアさん…」
「自己犠牲も大概にして!!一人で全て抱え込むなんて…」
「ソフィアさん…!」
リアムがソフィアを制止する。
もうヘーロスは長くはない。
どんな処置をしようと明日まで持ちこたえるのは不可能だろう。
だからリアムは決心した。
自分の瞳から溢れ出る涙を堪えてヘーロスが望むよう彼をレヴァリィ世界に向かわせるべきなのだと。
リアムはかつてレヴァリィ世界でイデリスに言われたことを思い出す。
リアム・リシャール…あなたはいずれ選択を迫られる時が来るでしょう。
その時に自分の大切な者は守れる準備を整えなさい……かつての私ができなかったように…
「(こんなにも辛いんだね、イデリスさん…)」
リアムは世界を救うため、今いる自分の仲間をこれ以上失わせないためにもヘーロスの決意を後押しすることを選択した。
ソフィアはリアムの制止を聞いて泣き崩れる。
「なんで…なんでよ…みんな…逝っちゃうの…」
ヴァイオレットとリアムがヘーロスをレヴァリィ世界に向かわせるための準備に取り掛かる。
「ありがとな…みんな…」
16:30 レヴァリィ世界
リヴィディン大国・王都周辺
「ハァ…ハァ…」
破壊された機械兵に剣を挿す一人の人物。
リヴィディン大国の王都前で百を超える機械兵を相手に戦い続けていたのはアローラだ。
アローラは数時間前にリヴィディン大国を襲う機械兵を発見し一人で機械兵と戦い続けていたのだ。
「ようやくか…」
王都周辺にいた機械兵すべてを倒し、王都の中へと入るアローラ。
王都の内部は7大国決戦で破壊された民家などが当時の状態のままにされていた。
そこでアローラはひとつの墓を見つける。
”主であり友、ここに眠る”
その墓に置かれていた酒瓶を見てアローラはこの墓がジャクソン王のものであると知る。
「王…お久しぶりですね。」
アローラは墓に置かれた酒瓶を手に持つ。
そしてアローラはかつてジャクソン王に言われたことを思い出す。
「アローラよ、少しは休息をとるのはどうだ?」
「休息ですか?」
「あぁ、そうだ。
普段仕事を面倒くさがる君だが、私の目は誤魔化せんよ。」
「…申し訳ありません王、どうも俺は動いていないと落ち着かない性分で…」
「だがアローラ、君はこれまで大国に多くの忠誠を示してきた。
時にはその重荷を降ろすことも大事だ。」
酒瓶の中の酒を飲むとアローラは再び墓に酒瓶を戻す。
「そうですね、そろそろ重荷を降ろしていい頃かもしれないですね…」
そう言ってアローラは王都を出る。
すると自身の目の前に突如、姿を現すヘーロス。
「ヘーロス!?」
「アローラか。」
16:40 レヴァリィ世界
インビディア大国・都市内部
「まさか…貴様ごときにここまで時間を要すとはな。」
グリーンが言い放った目の前にはすでに息をしているのも不思議なくらい傷を負ったアドルフが立っていた。
ハイドとリアムが現実世界へ帰還してすでに1時間以上が経過した。
その間、アドルフはたった一人でグリーンに抗い続けていた。
だがその抵抗も限界に近づいていた。
「その傷で動けるとはな。へーロスほどではないにせよ、まさか貴様も古代人側の人間だとはな。」
重い足取りでグリーンに向かうアドルフ。
「クックッ…無駄だ、人間。貴様ではもう俺様を…」
するとグリーンの目の前から姿を消すアドルフ。
「!?」
「その慢心がお前に破滅をもたらす。」
自身の能力でグリーンの背後をとるアドルフ。
アドルフはグリーンに触れ、二人同時にその場から姿を消す。
「ここは…」
グリーンが気が付くとそこはインビディア大国ではなくリヴィディン大国の荒野だった。
「(また位置替えか…周囲の人間を巻き込むまいと誰もいない地に俺様を移動させたわけか。)」
グリーンはアドルフが仲間に被害が及ばぬように自分自身ごと能力を使用して場所を変えたのだと理解した。
「だが、どうやら力を使い果たしたようだな。」
宙に無数の槍を出現させるグリーン。
アドルフは今の能力使用で全ての力を使い果たしたのだった。
すでに全身に力が入らない中でなんとか鋼線により地面に自身を固定させ立ち続けるアドルフ。
「この俺様をここまで手間取らせた者もそうはいない、その命尽きる前に何か言い残すことはあるか?」
グリーンの発言を前にアドルフは消えかける意識を保ちながら笑顔でこう言い放つ。
”地獄で会おう、古代神”
アドルフの発言を聞いて即座に槍を放つグリーン。
だが、その攻撃は突如グリーンの背後から放たれた攻撃によって無効化される。
「!?」
グリーンは背後を振り向く。
そこにいた人物を見るとグリーンの表情が変わる。
「クックッ…」
アドルフの攻撃を防いだのは…
「やはり来たか、英雄。」
「なぜ、お前が…」
「俺の…最後の役目を果たすためだ。」
数刻前、アローラの前に現れたヘーロス。
ヘーロスはアローラを見ると背を向けながらそう口にした。
「アローラ、ここを…この王都を守ってくれないか?」
「おいおい…さっきまでこっちは訳のわからん動く金属と戦ったところなんだぞ?」
ヘーロスが見つめる先には機械兵の軍がこちらに迫っていた。
「俺は…ここに戻らなければならないんだ。」
ヘーロスが静かに拳を強く握る。
それを見たアローラは自身の頭を掻きながらぼやく。
「はぁ…まったく、守るべきものがあるとなかなか荷を降ろせないものだな。」
「アローラ。」
「任せろ、ここは俺が守り抜く。その代わり…」
”終わらせてこい、英雄”
21話「英雄の物語」]
16:45 レヴァリィ世界
リヴィディン大国・荒野
「貴様がこの世界に来たということは現実世界の俺様は敗れた…といったところか。」
グリーンの発言に対し意も返さずヘーロスはアドルフのもとへ歩き出す。
「アドルフ…」
アドルフの肩に手を置くヘーロス。
すでにアドルフは息絶えていた。
だが、そんなアドルフの表情はまるで仲間に見せているかのように穏やかな表情を浮かべていた。
「クックッ…とうとう逝ったか。
手間はかかったが所詮は人間、脆い生命で俺様に敵うはずが…」
グリーンの発言が言い終える前にヘーロスの攻撃がグリーンへと向かう。
空間を破壊した一撃を回避するグリーン。
「クックッ…気に障ったか?」
「よく喋るな…自分の死を前にして。」
「クックッ…強がるな英雄。
俺様には視えているぞ、貴様の魂はすでに風前の灯火。
現実世界での肉体などすでに死しているはずだ。」
「それが…世界を救わない理由になんのか?」
ヘーロスが懐からナイフを取り出し構える。
「いくぞ、グリーン。神と英雄、最後の物語だ。」
「人間風情が…!!」
グリーンは自身の周囲に無数の武器や周囲の大陸を変幻自在に形を変え攻撃をする。
いくら願ったものを具現化させるといえどヘーロスとの肉弾戦で勝算は皆無に等しい。
現実世界のグリーンと異なり、ヘーロスの肉体と同等の強さを持つエリックの肉体を保持していないレヴァリィ世界のグリーンは物量による攻撃でヘーロスと相まみえる。
ヘーロスは迫りくる無数の攻撃を自身の身体能力とナイフ捌きのみでグリーンへと向かう。
「ほう…」
何かを察したグリーンがほくそ笑む。
グリーンの攻撃を防ぎ続けるヘーロスだが、弾いた武器が軌道を変えて再びヘーロスを襲う。
ヘーロスはその予測困難な攻撃を防ぎきれず、背中を斬りつけられる。
「ッ…!!」
「やはりそうか、貴様はすでに己の能力を維持することもできないようだな。」
グリーンがヘーロスの状態を見破る。
現実世界での戦いの影響ですでにヘーロスは本来戦える状態ではなかった。
それが仮に現実世界と異なるレヴァリィ世界であっても。
「クックッ…クックックックッ!!
笑わせてくれる!!そんなみすぼらしい状態で俺様を倒そうなど…余興にもならん!!」
「!!」
グリーンは先ほどヘーロスに向けた攻撃の倍以上の手数で攻撃を放つ。
すさまじい数の攻撃にヘーロスは防戦一方となる。
「(攻撃の規模が…これほどまで…!)」
「クックッ…疑問に思うか?英雄。」
ヘーロスの心を見透かしたように問いかけるグリーン。
俺様の能力は己の想像を具現化する。
だがこの能力には欠点があってな、具現化できてもそれはいづれ朽ち果てる運命にある。
具現化する事象が複雑であればあるほど、己が想像しがたいものであればあるほど、不安定な願いとなり、具現化してもすぐに朽ち果てる。
どうせ、現実世界の俺様は貴様に勝つべく無理な事象を具現化をしようとしたのだろう。
さらにヘーロスを襲う攻撃は増えていく。
それはまさに上空から降り注ぐ流星のごとく豪雨と化していた。
「だが!!朽ち果てようとこの攻撃は貴様に届きさえすればよいのだ!!
いくら矮小な武具であろうと絶え間なく願い続ければそれは軍勢をも殲滅せし鋼の雨と化すものよ!!」
襲い掛かる攻撃によりヘーロスの身体が切り刻まれていく。
「どうした!英雄!貴様の物語はこれで終いか!?」
「ッ!!」
ヘーロスは空に拳を振るう。
すると空間が砕け、襲い掛かる武器や変幻自在に動く大陸をすべて粉砕する。
その空間の衝撃はそのままグリーンを襲う。
「ようやく能力を使用したな!!」
グリーンは上空へと飛び上がる。
すると空を覆うほどの隕石が出現する。
それは以前、アロガンティア大国の王都でグリーンが放った隕石と同等の大きさをもつものが無数に点在していた。
「チッ…!!(この数…7大国全てを滅ぼす気か!?)」
「クックックックッ…!!!!!
さぁ、英雄!!神の裁きをその身に受けて逝け!!
貴様を殺し、俺様の神話に終幕を飾るとしよう!!」
グリーンが手を振り下ろすと同時に上空にある無数の隕石がヘーロスへと向かっていく。
ヘーロスは上空の空間を歪ませ隕石の動きを遅らせる。
「(ほう…この質量を止めるか…)」
グリーンは周囲の隕石を同時にへーロスに向かって落下させる。
「だが無駄だ!貴様の今の力ではこの数を止めることはできん!貴様の命が尽きるか、この世界が終わるかだ!」
へーロスは周囲の隕石に自身の能力を適応し続けながらグリーンに向かって走り出す。
グリーンは降り注ぐ隕石と同時に武器の雨をヘーロスに向ける。
だが…
「なに…」
迫り来る武器、そして降り注がんとする隕石を破壊しながらグリーンのもとへ向かうヘーロス。
今のヘーロスの体力では空間操作による能力に制限がかかっている。
そのため、これまでヘーロスの絶対的な防御を誇る周囲の空間湾曲は使用できなかった。
しかし、攻撃時に用いる空間への打撃、空間の破壊などは能力使用を瞬発的に行うことで自身への負荷を軽減させ発動できた。
ヘーロスは降り注ぐ隕石の対抗手段として空間支配能力による空間の破壊と空間を歪ませることで対処し、そしてグリーンが放つ武器の雨を己の身体能力とナイフ一本で対処していた。
徐々にグリーンに迫るヘーロス。
その光景はまさしく世界が終わる瞬間でもなお、神に抗おうとする英雄の姿そのものだった。
「(接近戦に持ち込む気か…!)」
グリーンは自身の背後から無数の炎や水、風といった事象までもヘーロスへと向ける。
だが、ヘーロスの空間ごと破壊する攻撃によりそんな攻撃は無効化されグリーンとヘーロスとの距離は縮んでいく一方だ。
「ッ!」
ヘーロスは自身が愛用している壊れかけたナイフをグリーンへと向ける。
ついにヘーロスの攻撃がグリーンのもとへ届く。
グリーンは咄嗟に上空からヘーロスへ放ち続けていた武器を手に持ち攻撃を防ぐ。
「あり得ん…!!なぜこの俺様が…魂も肉体もすでに限界の…貴様に…!!」
「どうした、俺を殺すんじゃないのか?
俺の刃はお前のすぐ目の前だぞ。」
「ッ!思い上がるな…!!たかが人間ごときがぁ!!」
グリーンは激情に駆られヘーロスに攻撃を仕掛ける。
ヘーロスはグリーンの攻撃をすべて捌き切る。
「さっきまでの余裕はどうした…!神なんだろ!?なら…止めてみろよ…」
英雄を…!!
ヘーロスは自身の能力を最大限に開放する。
グリーンも迫りくるヘーロスを前にさらなる数の隕石を生み出しヘーロスに向ける。
「ゴフッ…」
「ヘーロスさん!!」
「ッ!あのバカ…!!」
その頃、現実世界では自身の能力を完全に開放したヘーロスが血を吐く。
それを見たリアムやソフィアがヘーロスの負担を軽くするべくさまざな処置を行う。
「どうしよ~!ヘーロスさんの血液量が…」
「それなら…うちが…」
ヴァイオレットが自身の腕をまくる。
だが、それを制止するソフィア。
「ヴァイオレットの血液タイプじゃヘーロスには適合しない…
もっと古代人の血が強い血統じゃないと…」
「…俺ならどうだ?」
ソフィアの声をかけたのはレオンハルトだ。
レオンハルトは自身の腕をソフィアに見せる。
確証はないが、レオンハルトはかつて古代人のパラフィシカーである10の秘宝を所有していたことから自身にも古代人の血が受け継がれているのではないかと考えたのだ。
そしてそれを察したソフィアもレオンハルトと共に準備に取り掛かるのだった。
「まだ死なせない…!!」
ヘーロスの輸血を行いつつソフィアがヘーロスの腕に薬を投与し、手を握る。
「頑張れ!英雄!!みんな見てるよ!!」
グリーンのさらなる猛攻を己の能力で相殺していくヘーロス。
「ッグ…!!(とうとう能力を出し惜しみせず使い始めたな…)」
「(もう少しだ…もう少し…!)」
ヘーロスは自身の鼻から流れ出る血をふきながらグリーンへと向かう。
「(近づけさえすれば…神に勝てる…!!)」
ヘーロスはすでに身も心も限界の状態。
夜まで持たない己の命、それを捨てずして神を打ち砕くことは不可能。
英雄は決めたのだ。
この夕暮れまでに決着を、己の物語の幕を降ろすことを…!!
「クソ…!!こんなことが…!!」
グリーンの攻撃を相殺しヘーロスが距離をさらにつめていく。
へーロスのナイフが砕ける。
だが、へーロスは足を止めない…!!
徐々にグリーンの脳裏にかつて忘れかけていた記憶が呼び覚まされる。
それは…
同じく古代人であり、驚異的な身体能力を有し自身に立ち向かった男…
ブラック・ベルモンテという男の存在を。
「(そうであったな…この英雄は空間を支配する力だけが脅威なのではない…)」
その身体能力、その存在自体が…
まるで悪魔のごとく恐怖の対象で…
神殺しの名を冠するに相応しい存在だったのだと…!!
グリーンが放つ隕石が徐々に消失していく。
「!?」
「お前は俺を前に恐怖を抱いた…」
「(しまった…!!)」
「それが敗因だ、古代神。」
ヘーロスに恐怖を感じてしまったことでその感情が自身の願いに反映され、グリーンが放った事象が崩壊していく。
それによりヘーロスの接近を再び許してしまうグリーン。
ヘーロスの拳がグリーンに向かう。
「ッ!!俺様はぁ!!!神だぁ!!!!!」
するとグリーンに迫るヘーロスの拳、
いや、周囲のすべての動きが止まりだす。
風に舞う木の葉も、遠くで空を飛んでいる鳥も、
何もかもすべて、レヴァリィ世界の事象が停止した。
「クックッ…クックックックッ…!!」
グリーンが願った事象が具現化されたのだ。
時間の停止、それこそが死の恐怖を感じ追い詰められたグリーンが願ったものだったのだ。
「時間を止めるなど…想像もしがたい事象だが…貴様のおかげでなんとか完成したぞ。
死への恐怖、それがこの俺様に見せてくれたのだ。」
時が止まった世界でグリーンはヘーロスを見つめる。
「神に挑んだ最後の人間よ、なかなかに愉しめたぞ。」
そしてヘーロスの胸に剣を突き立てるグリーン。
「どうした、お前の願いはこんなものなのか?」
「なに!?」
突如、グリーンとヘーロスの周囲の空間が砕ける。
「グハァッ!!」
空間の破壊の余波を受け、グリーンの腕が引き千切れる。
「まさか…貴様…!!!(俺様の願いが具現化される前に周囲の空間を破壊していたのか…!!)」
空間が破壊された影響でヘーロスは時間の概念を空間ごと無効化することに成功する。
それと同時にグリーンの意識がヘーロスに集中しすぎたことでレヴァリィ世界の時間停止も解除される。
へーロスは自身の懐からあるものを取り出す。
「それは…!!」
そう、それは…
かつて王であり、自身の友であった者が世界の平和を願い英雄に託したリヴィディンの秘宝、果ての鉄だった…!!
「(だが、それはジャクソン王でなければ秘宝を加工できないことは知っている…!!)」
グリーンは再びへーロスに向かって自身の能力を使用しようと試みる。
その時だった。
「なっ…!?」
ヘーロスの握るナイフが果ての鉄により新たに形成される。
「これは…俺だけじゃない…この世界に住まう全員の想いそのものだ…!!」
神は侮っていた。
人間の想いの強さを、願いの強さを。
願いを形に現すことのできぬ者たちの想いなど、所詮は夢見事なのだと。
だが、目の前に起きている現実は違う。
神の意思に反し、人々の願いは具現化される。
グリーンの瞳に映るのは…
人の願いが神に打ち勝つ瞬間だった。
そう…
ジャクソン王に託された秘宝、果ての鉄はすでに英雄を所有者と認識していた。
「眠れ、古代神。」
ヘーロスのナイフがグリーンの胸を貫く。
俺様に唯一、恐怖を与えることのできる悪魔、
それこそがこの英雄の正体であり、
この物語の根幹を制する要因だった。
天地を語り、世界を制す、神となった俺様も…
悪魔を人間と思い込んだ故の敗北か。
「クックッ…まさか…神にすら……届くとはな……」
胸から血を流し、地に倒れるグリーン。
それを見下ろすのは…
英雄ヘーロス・ベルモンテ。
「神をも見下ろすか……つくづく不愉快な男だ…」
グリーンは自身の敗北を悟り、目を閉じる。
「だが…俺様の…魂は…何度でも……世界という…概念が…存在…する…かぎり……神で……あり……続ける………だろ…う……。」
そう言い残し息を引き取るグリーン。
ヘーロスはグリーンから背を向け、リヴィディン大国の王都へ向かいながら口にする。
「なら俺も…お前が…現れるたび…挑み続けよう……世界を守り抜く英雄として。」
17:00 レヴァリィ世界
リヴィディン大国・王都
夕日がリヴィディン大国の王都を照らす。
光が照らされる先には無数の機械兵の残骸、そして…
「ったく…いつまで…守らせる…つもりだよ…」
リヴィディン大国に迫る機械兵すべてを破壊することに成功したアローラ。
その姿はすでに剣を床に挿して身体を支えなければ立つこともままならないほどだ。
そんな王都の正門で立つアローラの前にヘーロスが現れる。
「アローラ…」
「ヘー…ロスか…」
ヘーロスはアローラの様子を見て、何も言わずに王都へと向かう。
アローラとすれ違う最中、一言だけ口にするヘーロス。
”ありがとな、リヴィディンの守護者”
それを聞いたアローラが笑顔で答える。
「英雄の…引き立て役には…なったかな…」
アローラは王都に重い足取りで向かうヘーロスを見つめる。
夕日に照らされるリヴィディン大国の王都を見つめるアローラ。
風がアローラを吹き抜ける。
アローラはその風を感じながら王都の上空を飛ぶ鳥を見ながら口する。
「君にも…この景色を見せたかったよ……エリーナ。」
アローラの眼に光が消えていく。
王都に入ったヘーロスはジャクソン王の墓に向かう。
そんなヘーロスの手には酒瓶が握られていた。
ジャクソン王の墓の前に立つヘーロス。
リヴィディンを…この世界を…救ってほしい…
ジャクソン王が最期に自身に果ての鉄を託した際に言ったセリフ。
ヘーロスはジャクソン王の墓の前に果ての鉄を置きながら口にする。
「誓いは果たしました、王…いやジャクソン。」
ヘーロスは力なく墓の横に座り込む。
「約束通り…俺の酒も…持って…きましたよ。」
ヘーロスは酒瓶の酒を飲んだ後、墓に酒瓶を置いた。
「どちらが…美味い酒か…”あっち”で…語り……合い………ましょう………」
ヘーロスはゆっくり安心したような笑みで目を閉じる。
その姿は長きにわたる物語の役目から解放され、ようやく肩の荷を降ろすようにも見えた。
英雄、ここに眠る。
ヘーロスか?
お久しぶりですね、王。
…さて、君の物語を聞かせてくれ。
ある少年の殺し屋から始まったつまらない話ですよ。
なにを言う、酒が美味くなりそうな話ではないか。聞かせてくれ。
フッ…覚悟してくださいよ?




