19話「制御不能」
魂を喰らう己が肉体、
肉体を我が物とせし己が魂、
それは双方灰燼と化しても我が身を突き動かす。
欲、それは生命が生まれながらに所持する性質
生きるために必要な行為は全て欲から成り立っていると言っても過言ではない。
動物も植物も、
全ての生命は生きて己の子孫を殖やさなければならない。
そのためにいかなる時代においても生命は己に刻まれた欲をもとに生物という役割を全うしてきた。
だが、生命が所持する欲には致命的な欠点がある。
己の子孫を殖やすため、己が生きるためには他の生物を取り込む必要がある。
他の生物を喰らい生命を維持する。
それが生命が持つ宿命。
これは避けようのない事実だ。
だが奪われる生命もまた生物として殖えなければならない。
だから生命はある選択をした。
より生き残るため、
より強くなるため、
より生物としてふさわしい状態となるため、
生物は進化を繰り返した。
そして長きにわたる進化の中で生物はあるものを獲得する。
それが”理性”である。
理性を獲得した生物は己の欲を制御することが可能となった。
生き残るために、
時には他者と力を合わせ、
時には他者と対立した。
理性を獲得した生物は己の欲を使い分けるようになった。
だが同時に他者との協力を覚えた生物は知識と呼ばれる特異な欲を所持するようになった。
知識を蓄えた生物は生き残るため、さらに最善の選択を取るようになり、やがて世界は知識で満ちるようになった。
そして…
知識に満ちたこの世界では生物の役割から外れた多くの欲が誕生した。
16:00 現実世界
アウトエリア・地区Ⅲ
ヘーロスの肩に触れるラグナロク。
ラグナロクが寄生している肉体はリベルのもの。
リベルはレヴァリィ世界で進化の意慾の所有者となっている。
つまり、ヘーロスがラグナロクに触れられた今…
「お前の負けだ。」
ラグナロクの言葉と共にヘーロスは膝をつく。
徐々にグリーンの神威を包んでいた虚殲が消えていく。
「クソ………」
自身の現状を理解したヘーロスは目を閉じる。
「ヘーロス~!!」
「なんだ、ソフィア。」
「聞いてよ~!モーリスのやつ、私がまだ年下だって勘違いしてたこと根に持ってんの!!」
「そりゃそうだろ、お前よりモーリスの方が10歳以上も違う。」
「いや、サイバーインプラント使ってるのはズル過ぎ!!初見でわかるわけないじゃん!?」
「勘違いだけじゃないはずだ、どうせお前がモーリスに余計なことを言ったんだろ。」
「そ、そんなわけ…!」
「その通りだ、ヘーロス。」
「ちょ!?モーリス!!この前のは悪かったって~!!」
「ヘーロス、このうるさいのを向こうにやってくれないか?」
「だそうだ、ソフィア。」
「ヘーロスさーん!」
「リアムか、どうした。」
「見てこれ!!ダニーさんが作ってくれたんだ~!」
「ソフィアのよりは良さそうだが…これ…魚か…?」
「そうみたい!」
「絶対違うだろ、魚はそんな弾力はない。」
「けどモチモチしてて美味しいよ~?」
「……。」
「どぉ~?」
「…リアム、腹下してないか?」
「え??全然へーき!!」
「そうか、ならいいが…これからはアドルフに作ってもらえ。」
「ヘーロスさん!」
「どうした二人とも。」
「はい!これどうぞ!」
「ん?香水か?エヴァ。」
「ヘーロスさん、いつも付けてますよね?これは俺とエヴァからです!」
「…あぁ、ありがとな。」
「なんか反応薄くないですか~?」
「もしかして…俺たちの気に入らなかったですか!?」
「いや…親以外じゃ…初めてだったからな…」
「じゃこれからは毎年アンドリューと私であげちゃいます!!」
「次はヘーロスさんが好きなものにしますよ!何がいいですか?」
「好きなもの…か…」
「ヘーロスくん?」
「こんな夜更けにどうしたんですか、オルガさん。」
「きみと同じ理由かな。ちょっと夜更かしさ。」
「ここじゃ落ち着けませんよ、この街はうるさすぎる。」
「きみにとってはね、けど私にとっては生まれも育ちもセントラルエリアだから。平気だよ。」
「今度ここよりいい所を紹介しますよ。」
「それって前にきみが言ってた故郷のノースエリアのこと?」
「はい、俺の育った街の方が幾分マシですよ。」
「よーし、じゃ明日きみたちがレヴァリィ世界から帰ってきたら連れて行ってもらおうかな?」
「いいですね、帰る楽しみができた。」
「ヘーロス。」
「アドルフか。」
「君があの”事件”を解決してもう3年が経つ…どうですか?英雄と呼ばれる感想は?」
「やめろ、バカにしに来たのか?」
「ハハッ、冗談を言うのはダメかい?」
「悪いが、その役割はソフィアで足りてる。お前まで言うな。」
「だけど事実、君は多くの人を救った。」
「あぁ、だが同時に新たな火種も見つかった。
今の政府を何とかしねぇと根本の解決にはならない。」
「…ヘーロス、私たちは世界を救うために結成した。
だが…仮に…救った後は?世界を救うことになったらその後はどうする…?」
「…さぁな、世界を救ってみないことにはわからねぇよ。」
多くの時間をお前らと共に過ごしてきた。
その記憶も、その時間も、
全て俺にとってはかけがいのない大切なものだ。
辛い日々もあった。
父さんや、母さん、そしてエリックまで俺には救えなかった。
だが、決して俺の歩んだ人生の全てが悲惨なものじゃなかった。
お前らがいたから…
お前らが側にいてくれたから俺はヘーロス・ベルモンテとして生きてこられた。
そんなお前らが…
俺たちの掲げる目的のため、
世界のために懸けてきた命の結果がこれなのか…?
なぁ……
お前らが懸けた命は世界が滅ぶための茶番だったのか…?
いや、そうじゃないはずだ…
俺たちがバカしながら語り合った世界はこんな世界じゃなかった…
あの何でもない日常を捨ててまでしたザマがこれじゃ…
16:05 現実世界
アウトエリア・地区Ⅲ
「お前らの燃やしてきた…命に見合わねぇ…」
「!!!」
背後の声に反応するラグナロク。
振り向く前にヘーロスによって殴り飛ばされるラグナロク。
「(どうなっている…私はたしかにこの男に触れたはず…!!)」
お前らが役目を全うしたんだ…
俺だって最後まで全うしなきゃ…
ストレンジャーを率いてきた意味がねぇ…!!!
「まだ…!!!世界は救えてねぇからなぁ!!!!」
「なんだと…!?」
消えかけていたヘーロスの虚殲が出力を取り戻し始める。
再びグリーンの神威とぶつかり合う。
ラグナロクは殴り飛ばされつつもすぐに態勢を整えヘーロスのもとへと走り出す。
「(あり得ない…!!進化の意慾は肉体に刻まれた欲を反映させる…防ぐことは不可能だ!!)」
いかなる方法を用いてもこれまでに進化の意慾の変異の強制から逃れた者などいない。
今、目の前で起きた現状に理解が追い付かないラグナロク。
同様にグリーンもヘーロスが進化の意慾の影響から逃れた理由がわからず動揺する。
グリーンは自身が先ほど放ったセリフを思い返す。
だが!!貴様のことだ!!肉体の暴走などが起こるはずもない!!!
「まさか…!!」
ヘーロス・ベルモンテは古代人の血を引き継ぐ者。
その肉体は本来の人間はおろか他の古代人と比較しても圧倒的な身体能力を誇る。
故に人間が本来持つ限界を超えた際に生じる肉体の暴走は起こらないとグリーンは考えた。
「(肉体の暴走…それは進化の意慾による変異の強制にも当てはまる…この男は…)」
進化の意慾による肉体の暴走すら制御できるというのか…!?
「だが!!再び触れればいくらお前でも進化の意慾には耐えられんぞ!!」
再び自身の能力を使用するべくラグナロクがヘーロスに接近する。
そんな時、ラグナロクに向かう一人の影。
その存在にまるで気が付いていたかのようにヘーロスはその人物に声をかける。
「いいタイミングだ……ハイド!!」
「ヘーロスさん!!コイツは俺が引き受けます!!」
ハイドの攻撃がラグナロクに炸裂する。
不意を取られたラグナロクは為す術もなくハイドの攻撃を受ける。
その隙にヘーロスがハイドとラグナロクの立つ地上を自身の能力で宙へと浮かす。
二人を乗せた瓦礫はそのままある場所へと向かっていく。
「お前…まさか…!!」
「お前を殺せないのは知っている…だが”あそこ”ならどうだろうな!!!」
ハイドが指さした場所は深層世界へと通じる穴だった。
ハイドはラグナロクを真理の神秘から放出した水の鞭で拘束しながら深層世界へと向かう。
それを地上で見届けるヘーロス。
「続けるぞ…グリーン…!!」
ヘーロスが虚殲に力を込める。
同様にグリーンも力を込める。
「クックックッ!!!進化の意慾から逃れたところで貴様の魂が残り僅かなのは変わらん!!!」
ヘーロスの半身がグリーンの神威に焼かれていく。
「クッ…!!!」
焼かれながらも痛みに耐え虚殲をグリーンに向けるヘーロス。
「託されたんだ…みんなに…」
ヘーロスが口にする。
グリーンはヘーロスの放つ虚殲の異変に気が付く。
「(形状が変化している…!?いや…これは…!!)」
「みんなが役目を果たしていった…それを無碍にはしない…!!!」
虚殲が神威を巻き込み炸裂する。
ヘーロスは自身の残された力では神威を虚殲で無効化することはできないと悟った。
だが、
虚殲は時間差で炸裂する。
最大出力の虚殲による炸裂であれば神威を消し去ることはできなくとも、少なくともこの地上に落とさずに済む。
しかし、虚殲の炸裂はヘーロス自身では制御できない。
だからヘーロスは炸裂するまで耐えたのだ。
己の肉体が犠牲になろうとも、
己の魂が神に届くまで。
「クソッ!!!!」
炸裂した虚殲によってグリーンの放った神威はグリーンを巻き込みはるか上空へと昇っていく。
暗雲立ち込めていた空が青空になるほどの衝撃がはるか上空で生じ、アウトエリアだけでなく世界中の全てのエリアの建造物が粉々になるほどの衝撃が世界を包んだ。
16:10 現実世界
アウトエリア・中枢箇所
ハイドをヘーロスのもとへ届け、機械生命体と対峙するダニーとイヴリン。
その時だった。
アウトエリア全域から光が消失していく。
「嘘ダロ…」
その頃、世界中のサイバーインプラントを施した人々が次々と倒れていく。
それが意味すること…
「中核装置ガ…破壊サレタ…!!」
機械生命体たちが言葉を失う。
それを見たダニーは状況を理解し、R-01に攻撃を行う。
「今だ!!イヴリン!!」
「シマッタ…!!」
イヴリンのナノテックによる攻撃でR-01が崩壊した瓦礫の下敷きとなる。
ナノテックによる副作用で血を吐くイヴリン。
だが、残すは…
「お前だけだ…!!」
16:10 現実世界
アウトエリア・中枢箇所・最深部
「やった…!…これで…!!」
中核装置のプログラムを全て突破したことで装置の破壊に成功するヴァイオレット。
ヴァイオレットは破壊された中核装置の周辺に並ぶREVERIEに繋がれたカプセルに視線を移す。
カプセルは火花を散らすも、依然と稼働しているようだった。
「(中核装置を破壊してもレヴァリィ世界にいる人たちには影響がないんだ…)」
すると大きな衝撃が上から起こる。
「あれは…!?」
天井を破壊して降ってきたのは自分たちがここまで乗ってきたホバークラフトだった。
リアムが決死の覚悟でR-02を巻き込みここ最深部まで落ちてきたのだ。
ホバークラフトは瓦礫に衝突し大きな音を立てる。
それによりヴァイオレットとソフィアを塞いでいた瓦礫が破壊されソフィアがヴァイオレットのもとへ向かう。
「ヴァイオレットー!大丈夫!?」
「は、はい…!ソフィアさんこそ…!!」
ホバークラフトが降ってきた衝撃から身を守ることに成功したヴァイオレットがソフィアと合流する。
二人は自身たちが乗ってきたホバークラフトが降ってきたことで中に誰かがいると考える。
「リアム!?」
「もしかして…ここまで操縦したの…?」
「う…うん…」
「とりあえず!リアムをここから…」
ソフィアが発言しようとした時、突如ソフィアの背後から腕が伸びる。
「うぐっ!?」
ソフィアはその腕に首を掴まれる。
瓦礫から這い出てきたのはホバークラフトに巻き込まれつつも一命を取り留めていたR-02だった。
「クソ…ヤッテクレタナ…!!」
激しく怒るR-02。
R-02は装置が破壊されたのを見て、その原因がヴァイオレットであるとすぐに見抜く。
「ヨクモ装置ヲ!!オカゲデ俺タチノ計画ハ台無シダ!!
ダガ…装置ヲ破壊シタカラトイッテイイ気ニナルナヨ!!」
R-02がそう言うと最深部の壁が動き出す。
動き出した物体を見たリアムが驚愕する。
「これは…!?」
それはレヴァリィ世界に現れた機械兵たちだった。
ヴァイオレットも自身が街中で見かけた機械兵がこちらに迫っているのを見て驚愕する。
「まだこんなに…!!」
「レヴァリィ世界ニ送ッタコトデ大半ハ破壊サレタガ…コノ残機デオ前タチヲ!!」
機械兵がヴァイオレットたちに襲い掛かる。
そんな危機的な状況のなか、REVERIEに繋がれたカプセルのある人物が僅かに動き始める。
「ガキ、教えろ。」
「う、うわっ!…な、何を…!?」
「お前らはどうやってこの世界に来た。」
「え、えっとそれは…」
「言う気がないならこの場で殺す。」
「わ、わかったよ…!」
「この世界には僕のプログラムで一時的に侵入してるんだ…
おまえ達は現実世界じゃ装置に繋がれてるから、直接その場所で装置と接続する以外じゃそれしか方法はないよ。」
「そうか、助かったぜガキ。」
「痛っ!…そんなこと知ってどーするつもりー!!」
「……。」
「ねー!!……行っちゃった…。」
レヴァリィ世界に暮らす人々は現実世界の装置であるREVERIEによって繋がれている。
REVERIEに繋がれた者はいわば強制的な昏睡状態にある。
脳内の電気信号のみを装置に送られ装置内の世界で未来永劫、生涯を終える。
仮に現実世界の事実を知っていたとしても自身の脳が放つ電気信号を遮断しない限り、ストレンジャーによる遠隔ハッキング、そして超越せし指輪以外でREVERIEから目覚める方法は存在しない。
「嘘でしょ…」
「こんなことって…」
だが…
今のレヴァリィ世界には…
自力で脳の電気信号を狂わせることのできる人物が一人だけ存在していた。
「おっと…そいつらには…死なれちゃ困るんだ。」
「オ前ハ…!!」
周囲の機械兵を蹴散らし、R-02の腕を掴むのは…
「[[rb:レヴァリィ世界 > あっち]]じゃ…雷帝って言われてる、安心しろ…覚える必要はねぇからよ…!!」
レヴァリィ世界から目覚めたヴァレンティーンがR-02の胸を貫く。
19話「制御不能」
16:15 現実世界
アウトエリア・中枢箇所
残った機械生命体R-03と対峙するダニーとイヴリン。
しかし、ナノテックの酷使によりイヴリンがついに倒れる。
「イヴリン!!!」
「まだ…!!倒れる…わけには…!!」
「いや!限界だ!!」
ダニーがイヴリンを抱きかかえる。
すでに周囲には最深部でR-02が解き放った機械兵によって囲まれていた。
「俺ラヲ殺シテモコイツラハ止マラネェゾ!」
すでに血を流し意識も朧げになっているイヴリンを見てダニーは自分たちの最期を悟った。
だが、自分らが命尽きてもハイドが、ヘーロスがいればまだ世界は救える。
ダニーはイヴリンを抱きしめる。
「ダニー…」
「安心しろ、最期まで一緒だ。」
「うん…」
R-03が合図すると機械兵が一斉にダニーたちのもとに走り出す。
「最後じゃないさ…!!」
突如、機械兵を蹴散らす人物が現れる。
「あんたは…」
ダニーが見たのは隻腕ながらも、まるで…鬼の如く赤き蒸気を纏いながら獰猛に機械兵を破壊する男の姿だった。
そう、ダニーとイヴリンの窮地を救ったのはレオンハルトだったのだ…!!
レオンハルトはヘーロスに超越せし指輪を渡した後、意識を失った。
だが、目覚めると遠方で世界を救うべく命を奮うヘーロスと目の前に超越せし指輪が落ちていた。
レオンハルトは超越せし指輪を握りしめ、今の自分ができる最善を考えたのだ。
機械兵を破壊しながらR-03のもとまで接近するレオンハルト。
「オイオイ…嘘ダロ…!?」
R-03は為す術もなくレオンハルトに頭部を破壊され機能停止する。
それでも機械兵は機械生命体に指示された最後の命令を遂行すべくレオンハルトたちに襲い掛かる。
ダニーとイヴリンを守りながらレオンハルトが二人に向かって叫ぶ。
「急げ!アイツのもとへ行くんだ!!」
ダニーはイヴリンを抱え、ヘーロスのもとへ走り出す。
16:15 現実世界
アウトエリア・地区Ⅲ
アウトエリア全域の光が消失していき、ヘーロスはダニー達がやり遂げたことを理解する。
そんなヘーロスは息を切らし半身も焼け焦げ片耳を切断された状態であるにも関わらずその場に立っていた。
ヘーロスが見つめる先には自身の神威の余波を受けてサイバーインプラントの義手が破壊されたグリーンが倒れていた。
「ウッ…クッ…」
「お前は…神なんかじゃねぇ…俺と同じ…人間だ。」
「黙れ…!!」
ヘーロスの言葉を聞いたグリーンが立ち上がる。
「俺様を地に落としたことが…そんなに嬉しいか!?ヘーロス・ベルモンテ…!!」
「そうじゃない…お前は…理解できてねぇだけだ…」
「なんだと…」
「俺らの肉体は…別に肉体の暴走に耐えられるわけじゃない…」
ヘーロスが息を整えグリーンに向かい出す。
グリーンもヘーロスに続いて走り出す。
互いに満身創痍ながらも両者の激しい攻防が行われる。
グリーンの拳がヘーロスに直撃する。
「なッ!?」
グリーンは自身の異変に気が付き、ヘーロスから距離を取る。
ヘーロスは表情を変えずにグリーンと距離を詰める。
「(どういうことだ!?俺様は奴に触れている!!)」
なのに…
何故…
俺様の能力が発動しない…!?
グリーンは攻防の中で自身が願った事象が具現化できないことに気が付いたのだ。
グリーンの拳を避けるヘーロス。
ヘーロスはグリーンの腹部に重たい一撃を繰り出す。
「グフッ!!」
それを受けたグリーンがヘーロスの異変にも気が付く。
俺様が能力で触れたのではない…!
コイツ…
空間支配の能力を解除している!?
ヘーロスの拳には常時空間に打撃が放たれる。
ヘーロスの攻撃は強烈な一撃には変わりはしないものの、空間に影響がまるでなかったのだ。
「(いや…違う!解除しているんじゃない、発動できないんだ…!)」
そう、グリーンの読み通りヘーロスには能力を発動する体力が残されていなかったのだ。
だが二人の攻防はヘーロス優勢のものへと進んでいく。
「何故だ…!!」
アイツの魂はすでに燃えカスも同然、そんな状態で肉体を、生命を維持できるわけがない…!!
肉体の暴走はヘーロスを以てしても起こりえる、
だが、限界を越えようと進化の意慾の能力を発動されようと、
英雄は世界を救うという”欲”を完遂するまで止まることはない…!!
「お前は…限界を超えることを願った…」
「ウガァッ…!」
「だが…魂を越えた力は肉体が暴走を起こす…だろ?」
「!!…まさか…!!」
「もう魂じゃ扱いきれないのさ、肉体をな。」
「あ!…あり得ない…!!俺様の魂が肉体に負けるなど!!」
「お前の能力が発動していないのがその…証拠だ…!」
ヘーロスがグリーンに畳み掛けるように攻撃を繰り出していく。
翻弄されるグリーンは為す術もなくヘーロスの攻撃を受ける。
「肉体の暴走に負けたお前は…神じゃない」
再びヘーロスの拳に能力が宿り出す。
「手にした肉体を間違えたな…!!」
「クッ!ソォォオオオ!!!!」
グリーンにヘーロスの一撃が命中する。
激しく血を流すグリーンの顔をヘーロスが見つめる。
「!!」
すると僅かの間、グリーンの緑色に輝く瞳が赤く染まる。
それを見たヘーロスは表情が緩みだす。
「エリ…ック…!!」
エリックはヘーロスに笑みを浮かべ目を閉じる。
その笑顔は…
殺戮者と生きてきた殺し屋としての笑みではなく…
最愛の弟が見せる笑顔を見せていた…
ヘーロスの一撃を受け、完全に倒れるグリーン。
すでにその魂は潰え、残ったのは英雄の心を救った弟の肉体のみとなった。
「ありがとう…エリック…」
神亡き世界に英雄は微笑む。




