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ハイド  作者: じょじょ
ハイド 第1章 ~第一次リヴィディン大国侵攻~
9/98

9話「災いの子」

自由に手を伸ばした彼女は、


空を舞う…


自由を手した彼女は、


何処か遠くの地へと向かう…

アローラはレタと呼ばれる少年を見つめ、あの日のことを思い出す。


そう、あの日から始まった…。



あの、15年前のときに…。







「隊長、大丈夫ですか?」



俺に声をかける聖騎士団の部下。

考え事をしていた俺は部下たちに目を向け答える。



「あぁ、問題ないさ。ちょっとボサっとしてただけ。」


「集中してください、今回の任務はかなり命がけなんですよ。」



俺の任務。

それは2級テロスの群れをクヴィディタス帝国軍に加えようとする敵国、クヴィディタス大国の計画を阻止すること。

そのために俺はクヴィディタス大国に侵入していた。


これまでの日常と異なり、今回は敵国の領地で2級テロスの群れを撃破する必要がある。


2級テロスといえば、訓練された兵士でも複数人でようやく討伐できるとされるほどの戦闘力を持つ。

いくら聖騎士団とはいえども、2体以上の2級テロスを相手取るには仲間との連携や戦略的な戦闘が必須となる。


かなり命がけの任務となるが志願したのは他でもない俺だ。

大国のために命をかける者として聖騎士団に入った。

ここで死んでも悔いはない。


だが、心残りがあるとすれば仲間たちだ。


あいつらには守るべき家族や恋人がいる。


彼らを死なすわけにはいかない。



「隊長、行きましょう!」



部下に急かされ、俺はクヴィディタス大国に向かう。

クヴィディタス大国に無事侵入した俺らは目的の基地へと進んでいく。

幸い、基地内部には敵兵はほとんどいなかった。


基地の最深部に到達するとそこには大きな扉があった。


恐らくここが最奥部なのだろう。


扉を開けるとそこにいたのは、これまでに見たこともない巨大な2級テロスの大群だった。


どれも体長は5~10mはあるだろうか?

今まで戦ってきたどのテロスよりも大きな部類のテロスの大群だった。


だが、ここで怖じ気づいてしまってはリヴィディン大国の存亡に関わる。


それだけじゃない、他の大国にも甚大な被害を及ぼす可能性もある。



「こちらに気が付いていない…いくぞ…!」



俺は仲間とともにテロスたちに気が付かれないように周囲に罠を張り、戦闘を開始する。



戦闘が開始され、俺たちは少しずつテロスの数を減らしていく。


しかし戦い始めて数分経過し、戦闘開始時と比べ2級テロスの数を減らすことができずにいた。

むしろ、徐々に追い詰められているような感覚さえあった。


2級テロスたちの攻撃により、仲間の何人かが負傷し、次々と息絶えていく。


このままではマズい、この場でまともに闘えるのは自分を含めてたったの2人しかいない。



その時だった……。



騒ぎを聞きつけたクヴィディタス帝国軍の兵が俺らと2級テロスのもとに続々と集まる。


万事休す。


諦めるしかないと思った。


しかし…



「隊長…!…俺らと敵兵を囮に…テロスどもの不意をついて…ください…!」



負傷した仲間たちはそう俺に提案する。


これまで共に苦楽を共にした仲間達、彼らにも家族や愛人がいる。



「おい!バカか!?…そんなことするわけ…」



幼い頃に両親は戦争で犠牲に、愛する者もいなかった俺はここで犠牲になるべき者は仲間ではないと訴えた。


だが、仲間は俺を信頼していた。



それは部隊の隊長だから?


戦闘能力がこの部隊で最も優れているから?



……否!!……



仲間かれらは知っている…。


アローラの|本当の強さ(人間性)を…!!



多くの任務をアローラとともにしてきた仲間かれらアローラが自分達が犠牲になっても必ず”約束”を守る人物だと確信していた。


聖騎士団とはリヴィディン大国およびインビディア大国の平和のために、その他の大国のために、自分の命を賭してでも任務を遂行する。


仲間たちはアローラに全てを託し、囮となる。



「お前…ら…!」



俺も仲間かれらの覚悟に答えるべく、2級テロスに挑む。



死闘の末、すべての2級テロスの討伐に成功し、騒ぎに駆けつけたクヴィディタス帝国軍の兵も2級テロスに襲われることでその場で生き残ったのは俺のみとなった。


この件は後に7大国全域で知れ渡り、クヴィディタス大国は大打撃を受け、アローラは”リヴィディンの守護者”と呼ばれるようになる。


しかし、俺もタダでは済まなかった。

軍の基地から出て、街の路地裏で意識が遠のくなか、俺はとある女性が駆けつけるのを最後に意識を失う。




気がつくと、そこは見知らぬ天井だった。

俺はベッドの上で寝ていたようだ。



「ここは…」


「目が覚めたのね、もう大丈夫よ!」



起き上がると、そこには美しい黒髪の女性がいた。

彼女によると、俺は3日間も眠り続けていたらしい。



「悪い、迷惑かけたな。」



俺は彼女に礼を言い、すぐに出ようとするが、彼女はそれを止める。

まだ、完治できていない俺を彼女は完治するまで看病すると言った。



自分の身は自分が一番よく理解できていた。

渋々承諾した俺は彼女の好物であるスパゲッティをすすりながら互いの話をする。


彼女の名はエリーナ。


この街のごく普通の民間人だった。

話をしていくうちに俺はこのエリーナという女性が気になり始めていた。


それは命の恩人だからではない、もっと別の何かだった。


だが、それが何なのか気が付くのに俺は遅すぎたのだ…。



傷が癒えるまで、大国の兵に気が付かれないように俺らはクヴィディタス大国を巡った。

もちろん俺も自身の素性はエリーナに教えている。

聖騎士団であることも、自身に身内がいないということも。


それでもエリーナは俺に変わらず接し続けた。


エリーナはいつも”鳥のように自由に生きていきたい”と言っていた。


俺からするとその夢は馬鹿馬鹿しくもどこか魅かれるものだった。

そしてその夢の話をする彼女の笑みは俺の傷を癒してくれた。


このままでもいい…と思うこともあった。


だが、それは俺の兵士としての覚悟が邪魔をした。


自分の使命はリヴィディン大国およびインビディア大国の平和のために、その他の大国のために、自分の命を賭してでも任務を遂行すること。


俺はそのことが常に脳裏にちらついていたのだ。




そしてある日のこと。

クヴィディタス大国の王であるジャック王に自身の大国内に自分アローラが潜んでいることを知られ、ただちに自分アローラとエリーナが住む街にクヴィディタス帝国軍の兵が大勢派遣される。


傷はすでに癒えている。

しかし、この数を相手に一人で挑むのは無謀だった。


俺はエリーナを巻き込まないようにすべく、軍に自身を差し出した。


これが、俺の生涯最大のミスだとも知らずに……



拷問に耐える日々…。


俺はリヴィディン大国やインビディア大国のため、聖騎士団のため、そしてエリーナのために日々行われる様々な拷問に苦しんだ。




それから数ヶ月後…。


クヴィディタス帝国軍はいつまでも情報を吐かない俺にエリーナと出会った街で死刑を言い渡す。


絞首刑か?斬首か?それとも火炙りか?…


答えは俺の予想するどれでもなかった。


死刑台に跪かされた俺の前にはジャック王がいた。


そしてこう言い放った。



「お前が最も悔しがる方法で命を絶ってもらうぞ。聖騎士団。」



そう言って王は一人の人物を俺の前に寄越した。


それは…



「エリーナ!!」



王は知っていた。


俺のエリーナへの気持ちに。


それを利用したのだ。


ジャック王は「世界の法則を壊す力」と称される3つの秘宝の1つ、進化の意慾エクセレクシの所有者。

その秘宝の力は、触れた者を欲のままに進化を強制させ、異形の物…


そう、この世界のテロスと化す。


ジャック王はエリーナに触れる。


そしてその場から離れた。


エリーナは全てを悟ったように俺を見て、微笑みながらこう放った。



「アローラ…私は…!この数週間、あなたといれて幸せでした……!!」



そう言ってエリーナはテロスと化した。

その姿はまるで自身が今までに望んだ自由の象徴である鳥のようだった。


俺はこの時、知ったのだった。自分がエリーナに抱いていた感情の正体を…。



そう、愛であると…。



周囲の街もろとも破壊し尽くすテロスとなったエリーナ。


次々と街の人やクヴィディタス帝国軍の兵までも殺害されてく。


俺は騒ぎに乗じて手錠の破壊に成功し剣を抜く。


そしてエリーナの攻撃を止めるべく立ち向かう。


テロスと化したエリーナは強烈な音波や羽ばたく翼から繰り出す突風を武器としてアローラや周囲の物を無差別に攻撃している。

その威力は数ヶ月前に戦った2級テロスとは比にならない。


俺はエリーナを1級テロス相当の存在であるとした。


1級テロス、本来兵士では数十人単位で挑むべき対象。

聖騎士団でも隊長含めた部隊全員で戦ってやっと討伐できるほどの驚異的な存在だ。


実力に関係なく、俺にはエリーナに立ち向かう勇気がなかった。

それは自分の命が危機に瀕していても変わらなかった。


だが…


俺はこれまで犠牲になった仲間たちのためにも生きて使命を全うしなければならない。






「すごい強いんだね!アローラの本当の強さはその人間性だよ!」



エリーナと過ごした時の記憶が呼び起こされる。


待つべき者も本当に守るべき者もいなかった俺はエリーナとの出会いで初めて自分にとってかけがえのないものを手にいれた。



俺はエリーナの言葉で覚悟を決める。



彼女が言った自分の|本当の強さ(人間性)を信じて……。




「ありがとう。エリーナ……。」



アローラは涙を拭き、エリーナに立ち向かう。





日が暮れる中、雨が降り始める。


壊された民家、壊された死刑台そして、倒れる1級テロス。


その横でたたずむ男が1人…。


その男は空を見上げたあと1級テロスの方を見つめる。


その瞳から流れ出るのは涙か、あるいは上空から落ちる雨の仕業か……



その場を離れようとするアローラの耳に聞こえる鳴き声。



「これは…」



動物のものではない…


人間の赤子の声…!



アローラは急いでエリーナの亡骸を見るとそこには、生まれたての赤子が泣いていた。



「そんな…!」



そう、エリーナは子供を身ごもっていたのだ。誰の子なのか…。


それを考えている余裕もない。

アローラは急いでその赤子を抱き上げ、急いで街中を駆けた。


雨の中駆けるアローラはエリーナとの会話を思い出していた。






「私、もし子供ができたら”レタ”っていう名前にすること決めてるの!」



当時はまったく気にもしてなかった会話の1つ。

だがアローラはこの赤子がエリーナの形見であり、自分が守りたかった者が最期に残した宝物だと心で深く感じた。



アローラは街にいる医者に声をかける。

その医者はエリーナにアローラが看病してもらっていた際にも面識があった。



「この子を頼む…」



その医者にアローラはエリーナの赤子を預けた。

突然のことに驚く医者だが、街中であったリヴィディン大国の者の処刑の話からアローラの正体を察し、赤子を預かることを決めた。


アローラは赤子を自らが引き取り、育てることも考えていた。


しかし、自分は聖騎士団の兵士だ。


これからも戦場に身を置き、戦い続ける日々が訪れる中、その変えられない自分の人生にエリーナの子を巻き込むことに躊躇したのだ。

自分と関係があると知られれば、この子にも危害が及ぶことも一目瞭然だ。


アローラは医者にエリーナの赤子を託し、リヴィディン大国に帰還するために街を去ることを決めたのだった。



「アローラくん、この子の名は…」



その去り際に医者に赤子の名前を尋ねられた。


俺は…



「…レタだ。」



と言い残しその場を去った。


それから何年もの間、アローラは自分が唯一愛した女性であるエリーナとその子供のレタのことが脳裏にちらついた。


何度もその過去に苦しみ、耐えてきた。


あの時の最善の方法はなんだったのか?


エリーナが助かる方法は?


その苦しみはアローラにとって忘れることのできない痛みだったのだ。


そして……今、その過去に立ち向かわせるかのように目の前にエリーナと同じ目をした少年が地下牢に入れられいるのだ。






「あんた……俺を…知ってるのか?」



レタが口を開く。

だが、レタの表情はアローラを睨んでいるまま。


アローラは地下牢に入れられていることから、これまでに多くの拷問や劣悪な環境に身を置かれていたことを悟った。



「俺はアローラ。レタ…俺は君のお母さんを知っている………者だ…。」


「化け物となった時のをか?」



レタはさらにこう続けた。

自分の母親は1級テロスで、街をめちゃくちゃにした化け物だと。


そのことはクヴィディタス大国の住民なら誰でも知っていると。

アローラはレタに医者のことを聞いた。


アローラがレタを預けた人物のことだ。



「おじさんは…殺された…。」


「なに!?」



医者はあれから9年間レタを1人で育てた。

だが、レタには1級テロスとなった者であるエリーナから生まれた類い稀なる存在。


レタにも備わっていたのだ。人間にはない|能力(特性)が…。


それはエリーナが1級テロスとなった際に振るった音波だった。


それを偶然発動してしまい、住民を傷つけたレタは周囲から「災いの子」と呼ばれるようにクヴィディタス帝国軍に危険因子として地下牢に入れられてしまったのだ。


育ての親である医者はクヴィディタス帝国軍から9年前に起きた1級テロス発生関与の罪で死罪とされた。


それを聞いたアローラはレタがなぜ、この世を恨んだかのような目つきで睨み、自分を見つめるのかを理解した。



「レタ!ここから出よう!俺らがお前を守る!もうひとりにはしない!」


「…そんなことを信用すると思うのか?…俺は……鳥のように」


「…自由に生きたい。だろ?」


「…!!…なんでそれを!?」




驚いたのはこっちの方だよ…。



アローラはそう心の内でレタに向かってつぶやいた。



これが…親と子の確たる絆なのか、それとも運命か。


アローラは自分が愛した女性が言った言葉をその子供が言ったことに驚いていた。


それはレタも同様の気持ちであった。


目の前にいるこの男が自分の母親の人間の頃を本当に知っているかもしれない…と。



「ほんとうに…知っているん…ですか?…俺の母さんを…。」


「…あぁ…!…よく知っているよ…!」


「…!!」



レタが目にした者は男の涙だった。


それは何に涙を流しているのかはわからない。

だが、レタにもわかることがあった。


それはこの男は自分よりも母のことを愛し、自身を呪い、苦しんでいることに…。


レタは牢の檻の隙間から手を伸ばし、アローラの手を握りこう言う。



「アローラ…さん……。もう大丈夫です…。俺が……母の形見はここにあります…。ですからどうか……泣かないで…。」



それを聞いたアローラはエリーナと最初に出会ったときのことを思い出し、涙を拭きながらレタにこう言う。



「まったく…!どっちが助けられてんだか…!」



アローラは牢の檻を破壊し、レタを牢から出し、監獄塔を出る。

だが、その時、後方からアローラたちに声をかける者がいた。



「おい!!待ちやがれ!!」



その男はクヴィディタス帝国軍の7人の軍曹の1人、ヤン軍曹だった。

部下の兵を数人引き連れ、レタの脱獄を止めに来たのだった。



「…悪いな……!レタは渡さん…!」


「いいや!それはクヴィディタス大国の所有物だ!!」


「所有物…だと…?」



憤りを隠せないでいたアローラの前にレタが立つ。



「大丈夫です…!こいつは俺が倒します…!」



その目はかつてアローラが見ていたエリーナの自由に満ちた瞳そのものだった。


ヤン軍曹はレタの監視役の命を大国から受けていた。

ここで逃がしてしまえば自分の身に危険が迫りかねないことを危惧したヤン軍曹は全力でレタを止めに掛かる。


レタは日々、ヤン軍曹にあらゆる嫌がらせや拷問を受けていた。その不自由な人生に終止符を打つべく、再び自由を取り戻すべく、少年レタは立ち向かう。



「俺はお前を倒して…自由をもう一度手にする……!!」


「くそガキがぁぁ!!!」



レタとヤン軍曹との一騎打ちが始まる。

アローラはヤン軍曹の部下の兵をまとめて相手する。


ヤン軍曹はレタを常に拷問していた際に用いていた鞭を使用してレタに襲いかかる。

レタをその攻撃を躱し、音波で反撃をする。


その音波は強力でヤン軍曹を数メートル吹き飛ばした。



「ぐはぁ……!!!!」



吹き飛ばされたヤン軍曹は意識を失う。

アローラも全ての兵を瞬く間に戦闘不能にしていた。


レタの攻撃を見たアローラはエリーナがテロスとなった際に攻撃した音波攻撃とレタの音波が同質だということがわかった。

戦闘が無事に終わったタイミングでアローラの懐からカニスが姿を現わす。



「カニ!!カニ!!」


「え…?…カニス……?」


「カニ!」


「カニスを知っているのか?」



驚いたことにレタはカニスを知っていたのだった。

話によると地下牢に送られる前にレタはカニスをペットとして飼っていたのだった。

だが、自身が捕まり育ての親の医者も死刑になったことでカニスの身も危険だとしてレタはカニスを街から逃がしたのだった。


そして後にカニスと出会ったのがハイドとなったのだ。

アローラはカニスがこの街に来てから監獄塔周辺でまるでアローラを案内するかのようにカニスが歩いていたことを納得したのだった。


この運命的な出会いをアローラは微笑んだ。



「アローラさん…!…俺の母さんのこと…!…教えてください…!」


「もちろん!だが俺とエリーナの話は長くなるぞ~。」



2人は監獄塔を出ながらエリーナの話、ハイドや仲間の話をしながらリアムたちとの集合地点に向かう。






~クヴィディタス大国国境付近~



場面変わり、リヴィディン大国とクヴィディタス大国の国境周辺で野営地を設営したクヴィディタス帝国軍の軍隊が集結していた。

本作戦の最高司令官の将軍、その部下の大佐と中佐のみが作戦室に集まる。


そこに将軍が入ってくる。


伸びた青髪を後ろに結んだ髪型にオッドアイ、八重歯が見え隠れするこの男の名はこの”第一次リヴィディン大国侵攻”の最高司令官のヴァレンティーン将軍だ。



「はぁ~…めんどくせぇ…」


「将軍、しっかりしてください…。」



ヴァレンティーンの発言に清楚で可愛いらしい見た目をした女性、クリスティーナ大佐が呆れた様子で注意する。



「将軍、作戦内容を。」



ラインハルト大佐の部下であるアレクサンダー中佐が質問する。



「んまぁ、俺らはリヴィディン大国を侵攻するんだとよ~。」


「将軍、適当すぎます。ここは私が。」



クリスティーナ大佐が将軍の前に出て作戦の詳細を伝える。



「宣戦布告の翌日、各街にて侵攻を開始します。まずは装備の確認と…」


「あぁ~もういいって~大佐、そんなつまらねぇこと説明しなくてもとりあえず戦ってくれさえすりゃあの強欲王は満足するだろうよ。」


「…!!…将軍…!!」



ヴァレンティーンの発言に目を見開いて注意するクリスティーナ大佐。

それを聞いて苦笑いを浮かべるラインハルトの横で手話のような独自のコミュニケーションを取る者、アルフォンス中佐が何かを訴える。



「そうだね、アルフォンス中佐の言う通り敵国とはいえども、民間の命を奪う形になるんだ。こちらもそれなりの覚悟を持って取りかからないと。」


「弱ぇやつを踏みにじって何が楽しんだかな~…」



ヴァレンティーンは野営地から見えるリヴィディン大国を見つめながら呟く。



~リヴィディン大国・王都内部~



将軍たちが作戦会議を行っているなか、ヘルマン少佐率いる分隊が王都に到着する。


ヘルマン少佐、ヴィディタス帝国軍の7人の少佐の1人でディートヘルム大佐をクヴィディタス帝国軍にスカウトしたり、他の軍所属の現中佐を今の地位にまでした人物など、クヴィディタス帝国軍に所属している多くの人物と関わりがある男だ。


そして、その男が従える2人の軍曹。そのうち1人は見覚えのある人物だった。


そう、ハインリヒ軍曹だ。


彼はこのヴァレンティーン将軍が率いる軍の所属ではないが、クヴィディタス大国とリヴィディン大国の国境付近が管轄であったこと、そしてこの”第一次リヴィディン大国侵攻”の要因ともなったリヴィディン大国の王都に2級テロスをおびき出した張本人でもあることから特別に派遣された。


もう一人の軍曹はヘルマン少佐の直属の部下であるジルビア軍曹と呼ばれる女性軍曹だ。



「さて、王宮に向かうとしよう。」



ヘルマン少佐率いる分隊はそのまま王都にある王宮に向かう。

そしてリヴィディン大国の王、ジャクソン王と対面を果たす。



「クヴィディタス帝国軍の者か。何用でそんなに仲間を連れてこの王都に来たのか聞かせてもらおうか。」


「私はヘルマンというものです。

あなた方リヴィディン大国の者は我が大国の所有物である10の秘宝を奪った青年を匿うことにした…。

よって我々、クヴィディタス大国はリヴィディン大国との休戦協定を破棄することに致しました。」


「ほう…。」



ジャクソン王の背後にいるへーロスがヘルマン少佐の後ろにいるハインリヒ軍曹を見ていた。



「(なるほど…。そう来るか。だからあの男を証人代わりとしても率いてきたわけか…。)」


「ヘルマン少佐、単刀直入に言ってもらいたい。休戦協定を破棄して君たちは何を……する気だ?」


「戦争ですよ…王。」



ヘルマン少佐は王宮内で声高々に宣言する。



我々は翌日の明け方…!!


”第一次リヴィディン大国侵攻”を行う!!


場所はもちろんこのリヴィディン大国!!


民の命を危険に晒したくないのであれば、戦わずして領地を譲るでもいい……


だが、我々は止まらない…!!


下す命令はリヴィディン大国の者の鏖殺!!!


お前達、リヴィディン大国の者が勝つ方法はただ1つ!!


全力で我々を止めにこい!!!



ヘルマン少佐の宣戦布告のもと、翌日に”第一次リヴィディン大国侵攻”が開始されることが決定した。

それに対し、ジャクソン王が口を開く。



「全力で我々を止めにこい……か…。」


「!?」



周囲にいるリヴィディン大国の兵が一斉に武器を構え出す。


その光景にヘルマン少佐は動揺する。


なぜなら自分たちが宣戦布告したのは翌日。


今このときからではないからだ。


少なくとも、戦争には莫大な兵力を消費する。

そのための猶予として1日の時間を設けたクヴィディタス大国。


だが……


リヴィディン大国はすでにできていた。



戦争への準備が…!!



「何を驚いているのだ?ヘルマン少佐…。」


「こ、これは…!一体……どうゆうつもりですか王!?」


「(まずい…!!……これは……!!)」


「(我々の命が……!!)」



ヘルマン少佐たちはまだ、覚悟できていなかった。


戦争で自分の命が危険な状態になる覚悟が…。


そう、準備が必要なのはリヴィディン大国ではなかった。今この場にいる自分達なのだと…!!



「まさか、平和ボケしているはずのリヴィディン大国の兵がここまでの強行に出るなんて…っていう顔だな。」



ヘーロスが皮肉を込めてヘルマン少佐に言い放つ。



「そ、そ、そんな……まさか……!!」



へーロスが少しづつヘルマン少佐たちのもとへ歩み寄る。

そしてジャクソン王がヘルマン少佐に向かってこう言い放つ。



「では、我々も単刀直入に言わせてもらう…。」



我々はこれよりクヴィディタス大国との戦争を開始する!!


この大国の民の覚悟を舐めるなクヴィディタス帝国軍!!


我らリヴィディンの命、奪えるものなら奪ってみるがいい!!!!



互いを結んでいた鎖を千切った両国…。


リヴィディン大国に戦争への決意を見せつけたクヴィディタス大国…


クヴィディタス大国に戦争への覚悟を見せつけたリヴィディン大国…


両国の思惑がぶつかり合う、闘いの火蓋が切って落とされる……!!



宣戦布告、開始…!

読んでいただきありがとうございました。


リヴィディンの守護者、アローラの過去、そして現在ではリヴィディン大国とクヴィディタス大国による戦争が始まろうとしています。


争いの先に待ち受ける想像を超えた結末を皆さんもぜひ、その目で…!


次回、10話をお楽しみに!

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