15話「終焉の行方」
覚悟を決めた者の最期は眠ることはない。
~十四日目~
11:00 レヴァリィ世界
アロガンティア大国・王都跡地
「クックッ…思ったよりこの世界も広いな…」
グリーンが放った隕石の衝突で巨大なクレーター跡を残した王都。
すでに王都の原形が残らない中でグリーンはゆっくりと歩きながら空を見つめる。
「創り直しだな。」
そう言うと上空が徐々に歪み始める。
15話「終焉の行方」
~十四日目~
13:00 レヴァリィ世界
インビディア大国・都市内部
インビディア大国の都市で休息をとってから数時間が経過した。
アドルフは都市のとある民家でリアムと共に身体を休めていた。
部屋を出て、洗面所にある鏡で自身を見つめる。
そこでアドルフは以前ハイドが深層世界に向かう前に自身に向かって約束したことを思い出していた。
ハイドくん、必ず戻ってくると約束しますか?
もちろんです!俺も帰らなきゃいけない理由があります!!
ハイドは必ず戻ると約束した。
それはこちらの様子を伺ったゆえのものではなく確固とした自らの強い意志で答えた。
アドルフは再び自身の前髪をセットし装備を整える。
すると民家の扉が開く。
「流浪人、アセティア大国の兵が到着した。」
ロイフがアドルフたちに伝える。
「わかりました。」
アドルフは洗面所から出て部屋で休むリアムに声をかける。
「いけますか、リアム。」
「う、うん…!」
「……。」
リアムの様子に気が付くアドルフ。
「ハイドくんがこの世界に戻ってきた後…現実世界へと戻らせるにはリアム、君の力が必要です。
君は一度、現実世界に戻ってハイドくんが戻ってきたら…」
「アドルフさん…!
言ったでしょ?みんなアドルフさんと同じ覚悟だって…!」
今のリアムはレヴァリィ世界で行動しながらも、意識の半分を現実世界に向けた状態にすることで現実世界とレヴァリィ世界の仲介役とレヴァリィ世界での行動を可能としていた。
それはつまり、脳の半分を起こした状態で夢を見ているといったかなり高度な行為だ。
当然、リアムの脳に掛かる負担は計り知れない。
本来であれば、レヴァリィ世界に入る者と現実世界で仲介を行う者は別々で振り分けていた。
それを両立しながらすでに数時間が経過した。
リアムの顔色も徐々にだが悪くなっている。
そんな中で今リアムを失えばハイドが現実世界に戻る道が途絶えてしまう。
アドルフはその危険性とリアムの状態を気に掛けるも、同時にリアムの覚悟を理解していた。
リアムと目線を合わせるアドルフ。
「自分の命を投げ打つことが必ずしも正解とは限らない、大事なのは自分のできることを全うすることです。」
「じゃ…!アドルフさんは?さっき命を懸ける覚悟はできてるって…」
リアムの問いにアドルフは少し口角を緩めながら答える。
「命は賭けても死ぬ気はありませんよ。」
二人は部屋を出る。
都市の入り口でアセティア大国の兵を率いたアランと出会うロイフ。
馬車の積み荷から降りるのはアローラやルークたちだ。
ロイフはアローラの無事を見て内心安堵する。
「無事か?アローラ。」
「どうだかな、とりあえず…今は無事…とでも言っておこうかな?」
アローラの掴みどころのない発言に対しロイフがアローラの肩をたたく。
アローラがアロガンティア大国の王都で起きたことをロイフやスードに説明する中でレタが奥にいるアドルフとリアムに気が付く。
「リアム!」
「レタくん!よかった無事で!」
「そっちこそ勝てたんだね、アロガンティア特務機関に。」
「え、えーっと…それは僕じゃなくて…」
「彼を倒したのはクヴィディタス大国の将軍です。」
アドルフがレタに答える。
それを聞いたクリスティーナ大佐が反応する。
「将軍は無事ですか!?」
「それが…わからないんだ…
あれっきりどっか行っちゃって…」
リアムはヴァレンティーンがミカエルとの戦闘を終えた後に聞かれたことを思い出す。
「ガキ、教えろ。」
そう言ってリアムの胸倉を掴むヴァレンティーン。
「う、うわっ!…な、何を…!?」
「お前らの…」
「大変です!!」
突如、スードが皆のもとに駆け付ける。
都市を囲む壁上で監視を続けていたスードたち第四部隊がはるか先の空を指さす。
「あれは…」
ロイフが空を見つめる。
その空はまるで蜃気楼のように空間全体が歪んでいた。
そしてその空間は少しづつ大きくなっていくのが見えた。
天気や暑さなどの影響ではない、明らかに空間自体に何かしらの影響が及んでいたのだ。
アドルフは空間の異常な歪みを見て一目散に行動に出た。
「まずい…!」
「アドルフ、何が起きているんだ!?」
アローラが尋ねる。
普段冷静のアドルフでも隠し切れない焦りを見てアローラは異常事態なのだと察した。
「おそらくこのままでは数時間後にこの世界は…滅ぶ…!」
「!!!」
驚愕する一同。
「大国1つどころじゃない…この世界全てに今!危機が迫っている…!」
他の大国にもこの状況を伝える必要がある。
そう察した二人の人物が動き出す。
「わかった、ならリヴィディン大国には俺が伝える!」
「私はクヴィディタス大国に。」
それはアローラとクリスティーナ大佐だった。
しかし、ロイフがアローラたちを止める。
「ま、待て!こんなことができる奴はおそらくアロガンティア大国の王都を滅ぼした奴だろ?」
ロイフがアドルフを見て言う。
アドルフは静かにうなずく。
「なら、この場にも戦力を残しておくべきだ!」
「それは他の大国でも同じだ。」
「はい、今もなお各大国では流浪人がおしゃっていた機械兵が住民を襲っていると思います。」
アローラはロイフの肩に手を置き口にする。
「これが最善だ、大国に向かうのは数人で足りる。」
「アローラ…」
「そうだな、アセティア大国には俺たちの兵を数名行かせる。」
アランがアローラに続いて答える。
現状で最も被害が少ないインビディア大国とアセティア大国。
だが、それも少しでも兵力を傾かせれば一気に崩れるのは明白。
それを理解したロイフはアローラたちを止めるのをやめた。
「アローラさん!」
馬に乗るアローラのもとにレタが駆け寄る。
「言わなくてもわかるはずだ、お前は行かせられない。」
アローラはレタが自身とともに同行したいと尋ねるのだとすでに理解していた。
レタはアローラの発言を聞いてアローラの覚悟を理解する。
「…行っちゃうんですね。」
「あぁ、俺が向かう先で待つのは死地だ。
そこはレタ、君の居場所じゃない。」
レタの頭を撫でるアローラ。
下を俯いたまま黙るレタ。
アローラは優しい声でレタに話す。
「俺はリヴィディン大国で生まれた、最期まであの地を守り抜く責任がある。
レタ、君らが命を奮うのは今じゃない、この先を生きる君らには今日という日を後世に伝える責任があるんだ。」
レタは俯いたまま涙する。
アローラはアイヨといるルークの方を向く。
「ルーク、二人を頼んだ。」
ルークはアローラに強い眼差しで答える。
「あぁ、任せろ。」
それを聞いたアローラは安心した表情を見せ、馬を走らせる。
「アローラさん!!」
馬を走らせるアローラの背を見ながら走り出すレタ。
それをルークが優しく止める。
アローラは背をレタに見せながら手を上げ合図する。
「では、私も行きます。」
クリスティーナ大佐も馬に乗りクヴィディタス大国へと向かう。
すぐにアランの数名の部下も馬に乗り、アセティア大国へと馬を走らせる。
「スード隊長。」
彼らを見届けたロイフはスードのもとへ向かう。
「ロイフさん…僕たちはこれから…」
「お前はお前のやり方で仲間を、聖騎士団を率いるんだ。」
「な、何を!?今はロイフさんがまだ…」
「俺はただのベテラン兵士だ、隊長じゃない。自分の信じた決断を貫け。いいな?」
ロイフは聖騎士団の指揮を若隊長であるスードに任せたのだ。
それを聞いてスードはロイフに敬礼をする。
スードの敬礼姿を見て、かつて自身の目の前で同じく敬礼をしていた人物、若かりし頃のアローラの姿を重ねる。
「ったくアローラのやつ…随分と…先を見据えるようになったな。」
ロイフは一人でに呟く。
次の時代を生きる者たちを後押ししたアローラの姿を見たロイフもまたスードに聖騎士団として、次の世代を担う人物として背中を押したのだ。
各々が戦いの準備を整えていく中、アドルフはリアムを介して現実世界のヘーロスたちと連絡を取る。
「そっちの状況は…?
…なるほど…いえ、こちらは問題ないです。」
ヘーロスたちとの短い通信を終えるとアドルフは皆を集めて作戦を伝える。
~十四日目~
14:30 レヴァリィ世界
インビディア大国・都市内部
都市全体に流れる静寂。
武器を構えながら精神統一すべく息を整える兵士たち。
「報告!約400m地点に目標がこちらに向かってきています!」
アセティア大国の兵士が報告する。
報告は都市全体に響き渡り、都市にいる兵士たちに緊張が走る。
「来たか。」
都市の正門前で各々待ち構えるアドルフたち。
はるか先の前方でこちらに向かってくる人物グリーン。
「ここがこの世界最後の砦というわけか。」
グリーンは都市で待ち構える兵士たちを見てそう口にする。
グリーンが都市の正門前に到着する。
アドルフが先頭に立ちグリーンを見る。
「その様子、どうやらアロガンティア大国での被害を知っているようだな。」
「あそこまでの被害、どの大国にいても目視することくらい可能です。」
「クックッ…嘘だな、少なくともお前はあの場の周辺にいた。
だからこそ、ここで他の国々の者たちと力を合わせ準備をしていたのだろう?」
グリーンはアドルフがアロガンティア大国にいたことを見抜く。
だが、アドルフは表情を変えずにグリーンに返す。
「…えぇ、そのとおり。」
「!!」
突如、グリーンの周囲のものが先ほどまでのものと変わる。
アドルフが空間ごと都市の中心とグリーンのいる位置を入れ替えたのだ。
グリーンの周囲には多くの兵が囲んでおり、グリーンに一斉に攻撃を仕掛ける。
「(空間の位置替え…いや、事象の位置替えか…!!)」
上空に避難することで周囲の兵士の攻撃を回避するグリーン。
だが、グリーンよりさらに上空で待ち構える人物。
その者は剣を抜きグリーンに攻撃を仕掛ける。
「たしか貴様もいたな…あの大国に。」
「チッ!」
上空からグリーンを攻撃したのは背中にレタを乗せたルークだ。
レタの放つ音波により一時的に上空を飛びグリーンを攻撃したのだ。
しかし、ルークの攻撃はグリーンに難なく受け止められる。
グリーンはルークに反撃をしようとするが、
グリーンの死角から放たれる短剣。
短剣の攻撃を防ぐグリーン。
その隙にレタが音波を放ちグリーンから距離をとる。
「数が多いな。」
先ほどグリーンに向かって短剣を投げたのはロイフだった。
グリーンは自身の能力を使用してロイフや周囲の兵士すらも反応しきれないほどの速さでロイフに接近する。
だがグリーンの攻撃はロイフに当たる直前でロイフと入れ替わったアドルフがなんとか防ぎきる。
アドルフは鋼線を使用してグリーンを攻撃するが、その攻撃を回避するグリーン。
「そうか、貴様はあの城にいた…」
「!?…まさか…」
グリーンは自身がアズラエルの肉体に憑依していた際にアドルフと戦闘を繰り広げていた。
アドルフが鋼線を使用したことでその時を思い出すグリーン。
そしてアドルフもそれを察したことで今目の前にいる男がアズラエルの肉体に憑依していた”何か”と同一人物であることを理解する。
アドルフの手が僅かに緩む。
その隙をグリーンは見逃さなかった。
「ッ!!」
グリーンの強烈な蹴りがアドルフに炸裂する。
周囲の兵士を巻き込みながらアドルフは吹き飛ばされる。
だが、グリーンのもとに高速で接近するリアム。
リアムの攻撃を受け、グリーンが少し後方に飛ばされる。
するとグリーンを囲むように全方位からルーク、スード、アランが攻撃を仕掛ける。
グリーンはスードとルークの攻撃を避け、アランに攻撃を仕掛ける。
アセティア大国の出身であるアランは聖騎士団の隊長と同レベルの戦闘能力を有する。
アランはグリーンの攻撃を寸前で回避し、得意のカウンターを繰り出す。
さらにリアムが自身の高速移動によりグリーンに追撃を行う。
スードやルークを迎え撃とうとするグリーンだが、うまく連携をとり、アランのカウンターとリアムの高速移動でグリーンの攻撃を崩していく。
「烏合共が。」
グリーンが自身から強力な衝撃波を放つ。
「ウグッ…!!」
リアムやルーク、アラン、周囲の兵士までもが吹き飛ばされる。
都市の中心から広がるその衝撃波は瞬く間に都市の大半にまで広がり都市の建造物を破壊していく。
瓦礫に埋もれる兵士たち。
グリーンが放った衝撃波によりすでに大半の兵士たちに負傷者が出ていた。
「こんな…!」
「クソッ…」
「衝撃波で…この威力…!」
都市の隅々まで飛ばされたリアム、ルーク、アラン。
三人ともグリーンの一撃でかなりの傷を負う。
グリーンは破壊された瓦礫によって巻き上がる土煙からある男を見つめる。
「虫ケラは虫ケラらしく潰されていればいいものを。」
「ハァ…ハァ…」
グリーンのもとに立っていたのはスードだ。
あの衝撃波から地面に剣を指すことでなんとか吹き飛ばされずに耐えていたのだ。
しかし、周囲の建造物が破壊されるほど威力を持つ衝撃波、スードの身体もすでにボロボロだ。
それでもスードの目はまだグリーンを見つめ続けていた。
「到底敵わない…そんなことは理解しているはずだ。それでも何故、神に歯向かう。」
「それが…僕らの仕事…なんでね…!!」
グリーンの頭上から攻撃を仕掛ける第四部隊メンバーのフィスとサルカ。
グリーンは避けると同時に攻撃を仕掛けたサルカを蹴り飛ばし、フィスの首を掴む。
だが、その瞬間に第二部隊メンバーのテギィ、ネルコフ、シャルケルがグリーンに攻撃を行う。
「理解できんな。」
フィスを第二部隊たちに投げつけるグリーン。
すぐに三人に接近し次々と攻撃を繰り出すグリーン。
グリーンのもとへ走るスード。
だが、グリーンはスードを瓦礫に押し付ける。
「うがぁっ!」
「脆すぎる…あまりにも。」
聖騎士団の者たちを見て憤りを感じ始めるグリーン。
そこにロイフが現れグリーンの腕を斬りつける。
「離すんだ…!」
ロイフの攻撃を受けてもたちまちすぐに傷口を回復させながらグリーンがロイフを見る。
「人間風情が神に指図するのか?」
「クッ…!!」
ロイフを蹴り飛ばすグリーン。
だが突如現れた水流がロイフを包み込み衝撃を和らげる。
「(水…)」
すかさずグリーンの死角からルークの攻撃が迫り来る。
グリーンはルークの剣を掴み、その剣に装備された神秘の欠片をみて、先ほどの水流を放ったのがルークであると理解する。
「(俺様の攻撃を受けたはず…なぜここまで動ける…?)」
ルークに向かって振り下ろされようとするグリーンの腕が鋼線によって縛られる。
「あの男か。」
アドルフの存在に気が付くグリーン。
そしてアドルフがグリーンの目の前に現れ石を投げる。
するとその石がレタと入れ替わる。
そのタイミングでルークがグリーンの片腕を抑える。
「!?」
両腕をアドルフとルークに防がれたことで無防備となったグリーン。
拳に音波を纏ったレタがグリーンの懐に接近する。
「食らえ!!」
グリーンは脚でレタを攻撃しようと試みる。
だがルークが咄嗟に脚を蹴ることでバランスを崩すグリーン。
「しまった…!」
レタの攻撃がグリーンに炸裂する。
拳に纏った音波は大きな衝撃を生み、グリーンを吹き飛ばす。
「なんとか…一撃入ったな。」
ルークがアドルフに言う。
「ですがたった一撃、彼にとっては微々たるもの。」
アドルフがそう言うとグリーンがこちらに向かってきていた。
「神を瓦礫に押し付けるとはいい度胸だ…」
レタを見つめるグリーン。
標的をレタに絞ったと察したアドルフ。
グリーンはすでにレタの懐にまで接近していた。
「まずは貴様から殺す。」
グリーンの接近に気が付いたルークがレタを庇う。
グリーンの攻撃はルークの横腹を貫く。
「ッぐ…!!」
「ルークさん!!」
レタがルークを叫ぶ。
グリーンがレタに迫る。
しかし、アドルフの能力でグリーンと自身の位置を入れ替える。
それによりグリーンの攻撃は地面に当たる。
「(やはりあの能力は厄介だな…)」
そんなグリーンに奇襲をかけるロイフと第二部隊のメンバー。
グリーンは手に触れている大陸を変形させロイフたちの奇襲を回避する。
「チッ!」
「逃したか!」
ネルコフとシャルケルを殴り飛ばしながらグリーンがテギィに迫る。
すかさずテギィの背後をとりグリーンが凄まじい手刀を繰り出す。
「!!」
ロイフはグリーンが放つ殺気になんとか気がつき、テギィの前に立ち自身の剣でグリーンの攻撃を受け止める。
だが、その攻撃はロイフが持つ剣を容易く折り、ロイフの胸を抉る。
ロイフの後ろにいるテギィも手刀の衝撃を頭部に食らう。
胸を抉られたロイフだが自身の胸を貫通したグリーンの腕を掴む。
すでにロイフには意識がほとんど残されていなかった。
しかし、そんなロイフは満足した笑みでグリーンの身体を押さえつける。
グリーンの背後に接近するスード。
「命をかけて隙を作ったつもりか?」
グリーンが背後のスードの存在に気が付きながらもすでに息を引き取っているロイフに向けて言う。
「安い命だ…」
スードはロイフの死を感じ、怒りの一撃をグリーンに放つ。
グリーンはスードの一撃を防ごうとするが…
「ッ!!」
自身の身に異常が生じたことを感じたグリーンは咄嗟に防御から回避に移行する。
スードの攻撃を回避したグリーンの額には僅かだが汗が流れていた。
「貴様…こいつごと俺様を斬るつもりだったな…」
そう言うグリーンの目に映る[[rb:男 > スード]]は先ほど自身が見下していた人間が放つ殺意とは異なっていた。
「(俺様の願いを遮るほどの想いの強さ…ここまでの殺意は珍しい…)」
だが、スードから感じる殺意が徐々に弱まっていくのを感じるグリーン。
「(とはいえ一時的なものか…)」
体力の消耗に加え、自身の渾身の一撃を回避されたことでスードには体力がほとんど残されていなかった。
グリーンはスードの懐にまで接近しスードを地面に叩きつけ戦闘不能に追い込む。
すぐにグリーンがレタたちの方向へと向かう。
構える三人だが、そんなグリーンを高速で吹き飛ばすリアム。
「(コイツ…傷が…)」
グリーンはリアムの傷が治りかけていることに気がつく。
「(これは…)」
アドルフがグリーンではない別の何者かの気配を察する。
アドルフが僅かに微笑む。
リアムを退け、グリーンがレタに手をかけるその時…
レタが別の者に入れ替わる。
「また会ったな、グリーン。」
「貴様は…!?」
レタと入れ替わった人物、それは…
「ハイドか!!」
ハイドの真理の神秘によって取得した炎と水の情報を纏った拳がグリーンに炸裂する。
「グハッ…!!」
グリーンはハイドの放った一撃をくらう。
炎と水の渦がグリーンを包み込み大きな衝撃と共に瓦礫に激突する。
7大国決戦、アドルフはハイドが深層世界に向かう直前、ハイドの身体に自身の能力の対象となるようマーキングしていた。
しかしアドルフの能力はレヴァリィ世界でしか使用ができない。
そのことから深層世界にいるハイドには能力を適応することができなかったのだ。
だが、レタがグリーンに襲われる直前アドルフは感じ取ったのだ。
深層世界から戻ってきたハイドの存在に。
そしてレタと位置替えが行われたことでハイドはこの世界に、この地に、約束通り…
「戻ってきました、アドルフさん…!」
「…随分と遅かったじゃないですか、ハイドくん。」
「ハイドー!」
駆けつけるリアム。
リアムを見たハイドは久しぶりの再会を噛み締める。
「待たせてごめん…!」
「ハイドが無事でよかったよ〜…!!」
リアムはハイドの帰還を喜ぶ。
アドルフは二人の様子を見て笑みを浮かべ、自身の能力でレタを二人に合流させる。
「ハイド!」
「レタ!そのケガ大丈夫か?」
「問題ないよ、ハイドこそ無事でよかったよ…!」
「アイヨも入れてよー!」
三人の中にアイヨが走り込んでいく。
「アイヨ!隠れてろってあれほど…」
「よかった、レタもアイヨちゃんも無事で…」
久々の再会に安堵するハイドたち四人。
そんな四人にアドルフが気持ちを切り替えるように発言する。
「リアム、早速ハイドくんをソフィアのいる座標に。」
「うん…!」
そのときだった。
「!!」
「リアム!?」
「ウッ…!…!」
突如、口から大量の血を吐くリアム。
それを見たアドルフは状況を理解した。
「限界か…!」
リアムの脳への負荷がとうとう限界に達したのだ。
ハイドの前で倒れるリアム。
「リアム!!」
リアムの様態を見て驚愕するハイド。
しかし、状況はさらなる展開を迎える。
「まさか、戻ってくるとはな…ハイド。」
瓦礫から姿を現すグリーン。
「グリーン。」
リアムが行動不能に陥った直後、ハイドの攻撃を受けたグリーンが復帰する。
グリーンは先ほどハイドから受けた傷に手を当てる。
「(ただの攻撃じゃない…俺様の肉体ではなく魂に直接…)」
自身のダメージが魂に直接受けたことを疑問に思うグリーン。
ハイドの拳を見たグリーンが理解する。
「そうか、貴様はその秘宝の力で”魂”の情報を取得しているな。」
「あぁ。」
ハイドがそう言うとハイドの背後にカニスの魂が浮かび上がる。
ハイドは深層世界でリベルと対峙した際、深層世界に混在するカニスの魂を真理の神秘に取得した。
それによりハイドはテロスとなった者の肉体構造を的確に理解しただけでなく、自身とは異なる魂を取得したことによる魂自体への攻撃を可能とした。
そしてグリーンの能力は自身の魂と直結する力。
ハイドの魂自体への攻撃は自身に消えることのないダメージを与えるだけでなく、能力による願いの具現化を妨げた。
「肉体、そして魂にも届きうる貴様の攻撃は厄介だな。」
グリーンがハイドに狙いを定める。
それに気が付いたアドルフがハイドの前に立とうとするが…
アドルフの脳裏にヴィルヘルムがよぎる。
彼は一人で全てを担った。
これ以上大切な者を失わないように、同じ境遇を持つ者が生まれぬようにと。
ハイドの横に立つアドルフ。
「一人では戦わせない、だが私一人でも無理です…共に生きますよハイドくん。」
「アドルフさん…」
リアムをレタとアイヨに任せ、二人は同時にグリーンに向かう。
グリーンは二人に向かって周囲の瓦礫をまるで超能力で操作したかのように襲わせる。
ハイドは真理の神秘から水の情報を糸状に取り出し、アドルフは鋼線を張る。
二人は互いに迫りくる瓦礫を切り刻みながらグリーンに向かう。
「うっ…」
グリーンによって戦闘不能に追い込まれたスードが目を覚ます。
グリーンに向かうハイドとアドルフを見るスードが意を決して声を上げる。
「立て!!聖騎士団!!」
その声に倒れていた聖騎士団の者たちが反応する。
スードは自身の身体を剣で支えながら立ち上がる。
僕らの受けた使命を忘れるな!!
僕たちはこの世界に平和を実現すべく聖なる称号を受けし兵士!!
その身を平和に捧げると誓ったはずだ!!
スードが剣を構える。
そして今!僕たちの前で命を燃やすのは共に平和を願った流浪人だ!!
僕らの命に変えてでも流浪人を死守し、ハイド君を送り届けるんだ!!
彼らに続け!!!
スードに続き聖騎士団たちが走り出す。
グリーンは聖騎士団の兵士がこちらに向かってくるのに気が付く。
聖騎士団たちの動きに気を取られ、ハイドの拳を受けるグリーン。
「ッ…!(やはり、こいつの攻撃を受けるのは危険だ、動きが鈍る…)」
そんなグリーンの背後をとるスード。
「(僕らの攻撃ではダメだ、けどハイド君の攻撃は…)」
スードはグリーンに有効打になるのはハイドによる攻撃であると理解した。
スードはグリーンの脚を斬りつけ、態勢を崩す。
その隙にアドルフが鋼線でグリーンを縛り付ける。
「チッ!」
聖騎士団がグリーンに総攻撃を仕掛ける。
だが、再びグリーンは衝撃波を放つ。
「うぐッ!!」
「クソッ…!!」
吹き飛ばされる聖騎士団の者たち。
「思いあがるなよ、人間如き……ッ!?」
だが、土煙からグリーンに奇襲するアラン。
グリーンはすぐに傷を再生させ、アランの首を絞める。
「なるほどな、何かあるとは思ったが…」
「チッ!」
グリーンは上空に無数の瓦礫を浮かび上がらせる。
瓦礫は炎を纏い都市を覆う。
「さすがに鬱陶しいな…」
グリーンは先ほど自身の衝撃波により吹き飛ばしたはずのルーク、リアム、アランが傷をある程度回復した状態で戦線に戻っていることから、何者かが彼らの傷を回復させていると理解する。
その頃、戦いの被害が少ない都市のとある民家で兵士たちの傷を癒すミミ。
「ミミちゃん!テギィが重症だ!コイツから先に!」
頭から血を流すテギィを抱えるシャルケル。
「わ、わかりました…!すぐにテギィさんが復帰できるよう…」
その時だった。
民家の窓に映る景色。
それを見たミミやシャルケルは血の気が引く。
「ミミちゃん!急ぐんだ…!!」
ミミたちが見た光景、それは都市に次々と降り注ぐ炎を纏った瓦礫の雨だった。
都市全域が火の海と化す。
そんな世界の終焉を見ているかのような状況の中、神に抗う者たちは奮闘を続ける。
「ハイドくん!」
「はい!わかっています…!」
ハイドはアドルフの指示で真理の神秘から炎の情報を無数の槍に変形させてグリーンに攻撃する。
グリーンは周囲の地面を変形させ、炎の槍からの攻撃を防ぐ。
すると防がれた炎の槍がアドルフと入れ替わり、グリーンの背後をとる。
だが、グリーンはその行動を予測していたようにアドルフの方を振り向く。
「(勘づかれていたか…!)」
グリーンは自身の拳を金属のような硬質な膜で纏いアドルフに攻撃を仕掛けようとする。
「アドルフさん!!」
そんな二人の間に割って入るようにしてハイドがグリーンの攻撃からアドルフを守る。
「ッ!!」
ハイドは真理の神秘から岩の情報を取り出し盾を形成するも、グリーンの攻撃の重さによりアドルフごと吹き飛ばされる。
だが、息をつく間もなく神には次なる抵抗が降りかかる。
グリーンに向かってくる直線状の水流。
それをグリーンは硬質させた腕により力業で分断する。
しかし、その水流と共に神に挑むのは…
「ッ!…また…貴様か…!」
レタの音波攻撃による奇襲でグリーンの両耳から血が噴き出る。
それによりグリーンの動きが鈍り始める。
その隙にルークがグリーンの背後を取り、自身の手に持つ貪欲の華をグリーンの肩に突き刺す。
「!?」
「この秘宝はお前を苗床にし続ける…!!」
グリーンはすぐに突き刺さった自身の肩の異変に気が付く。
肩からは次々と貪欲の華から生成される根が溢れ出るようにして放出していく。
「クソッ…!!」
グリーンは根を引き千切りながら、かつてないほどに焦りを見せる。
貪欲の華は突き刺した者を苗床にし新たに自身の秘宝を生成する。
グリーンを倒す術としてルークがとった最善の行為は奇しくも秘宝の破壊という目的には相反したものだった。
だが…
「これで…いい…!!」
「やった…!」
根が完全にグリーンを包み込む。
それにより勝利を確信するレタ。
「少しはやるようだが…」
「!?」
「!!」
根が徐々に消失していく。
やがて根はすべて朽ち果て、グリーンの姿が露わとなる。
グリーンは肩に突き刺さった貪欲の華を掴む。
すると…
「秘宝が…!!」
「こんなことが…」
「俺様の願いが秘宝を葬れないとでも思っていたのか?」
貪欲の華を完全に破壊するグリーン。
それを見たレタとルークは言葉を失う。
「貴様ら人間ごときのちんけな頭脳ではそんなことすら想定できんとはな。」
グリーンの殺気を感じたルークが動き出す。
だが、動揺を隠しきれない二人がグリーンの先手を取れるはずもなく、為す術もなくルークとレタは戦闘不能にされる。
しかし、そんな状況の中でも、レタと入れ替わることでグリーンの目の前に現れるスード。
スードの剣がグリーンの肩を貫く。
「(位置替え…!)人間如きが…俺様の身体に触れるな…!!」
スードを吹き飛ばすグリーン。
意識を失うスード。
だがすぐにスードと入れ替わったアドルフが攻撃を繰り出す。
グリーンがアドルフに気を取られている隙に死角から走り出すハイド。
「なっ!?」
「たしかにお前は神だ。」
ハイドの拳に目に見えるほどのエネルギーが籠る。
「だがな、人間が神に勝てない道理なんてないんだ…!」
「くッ!!」
グリーンはすでに回避不可能な距離にまで接近したハイドに防御は間に合わないと判断し、自身の能力を用いて攻撃を防ごうと試みる。
しかし、
「んなっ!?」
グリーンの視界が突如変化する。
それはアドルフから見えた視界だ。
そう、アドルフの能力で意識の入れ替えが生じたのだ。
それによりグリーンの脳内にアドルフの記憶が混じり、願いの具現化に失敗する。
「俺の攻撃とお前の願い、どちらが早く俺たちの命に届くだろうな!!」
「!!」
ハイドの渾身の一撃がグリーンに直撃する。
「がぁあッ!!!!」
グリーンが初めて口から血を吐く。
ハイドの全力の一撃を魂に受けるグリーン。
その威力は都市の大地を抉り、拳を放った先に大きな衝撃が走る。
「はぁ…はぁ…」
「ハイドくん。」
息を切らすハイドのもとへアドルフが声をかける。
「これで…あいつも無事では済まないはず…!」
「…時間です。」
アドルフがそう言うとリアムを抱えたアイヨがやってくる。
すでに意識が朦朧としているが、リアムはまっすぐハイドとアドルフを見る。
アドルフはリアムの様子を察する。
「ハイドくん、リアムと現実世界へ」
「…!!…ぼ、僕まだ大丈夫だよ…!」
「?」
アドルフの発言聞いて慌ててリアムが声を上げる。
状況が理解できないハイド。
だがアドルフは理解していた。
リアムのレヴァリィ世界での活動限界がきていた。
先ほどの吐血はその限界によるものだと。
そしてこのままではリアムと現実世界へと戻れるのはハイドとアドルフのどちらかであると。
ハイドをリアムのもとに届け、アドルフはその場から離れ歩き出す。
「何してるんですか…アドルフさん…」
「私の役目は君を現実世界へと届けること。
そのために私はここに残る必要がある。」
「!!」
ようやく事態を理解したハイド。
「ダメです…ダメですよ…アドルフさん…!」
「君には君のやるべき役目があるはずです、ここまで多くの仲間が己の役目を全うしてきた。
…背負ったものをここで捨てるわけにはいかない。」
「アドルフさん…」
「ダメだって!アドルフさん!僕に言ったじゃないか!命は賭けても死ぬ気はないって…!」
リアムが涙を流しながら数時間前にアドルフ本人が言ったことを口にする。
それを聞いてアドルフが二人の方を振り向く。
「えぇ…ないですよ。」
アドルフがこちらを振り向いた時の表情、
それはこちらに笑みを見せていた。
普段、笑顔なんてほとんどすることのなかったアドルフが自分たちに見せた笑顔を見たときハイド達はすぐに理解した。
嘘であると。
大地が崩壊する。
アロガンティア大国から広がっていた空の歪みがとうとうここインビディア大国の都市にまで迫ってきたのだ。
それは、依然グリーンの願いの具現化が生じているということ…!
割れた大地はハイド達とアドルフを分断するかのように亀裂が走る。
ハイド達とアドルフが大地ごと切り離されていく。
「アドルフさん…!!」
「ッ!行こう…!リアム…!」
リアムとともに涙を流すハイドはリアムの手を取る。
すでにリアムから鼻血が出ており顔色もよくない。
だが、ここでもたついてはアドルフの覚悟が無意味となる。
そう感じたハイドはリアムの顔をしっかり見てこう言った。
「リアム、戻ろう!現実世界へ!俺に役目を…最後までさせてくれ…!」
「…うん…!!」
徐々に姿が薄くなるハイドとリアム。
それを背中で感じながらアドルフは一息ついた後、ひとりでに口に出す。
「聞こえてますか…?…ヘーロス…」
「…あぁ。」
アドルフが最後に声をかけた相手はヘーロスだった。
現実世界のソフィアを介してヘーロスと二人で話すアドルフ。
「…アドルフ…お前…」
「わかっているよ…けど…止めないでくれ。」
「……。」
「…人にはそれぞれ役目がある…それは君にもだ。」
「…そうだな…」
「”俺”の番が来たんだよ、ヘーロス。
これまで血に染めてきたこの手を…清算する最後の仕事が。」
「…。」
「頼む、行かせてくれ。最期くらいは奪う側ではなく救う側でいたいんだ。」
それを聞いたヘーロスは静かに目を閉じ、心に強い決意を固めた表情でアドルフに返事する。
「見てるぜ、相棒。」
それを聞いたアドルフが安心したような表情を浮かべる。
「あぁ。…通信終了。」
すでにアドルフの目の前にグリーンが立ちはだかっていた。
「逃れたか…」
ハイドたちが消えたことで現実世界に帰還したのだと理解するグリーン。
「クックッ…仲間を守るべく己の命を捨てに来たか。」
「捨てるわけじゃない…」
アドルフはタバコを口に咥えながら鋼線を周囲に張る。
「次の者に託しただけさ。」
グリーンに向かうアドルフ。
~十四日目~
14:50 現実世界
イーストエリア上空
アドルフと通信を終えた後、ヘーロスは外の光景を見つめていた。
「ヘーロス…」
ソフィアが声をかける。
ヘーロスは外を見つめたまま口に出す。
「あいつは自分の役目を果たしに残った。」
ヘーロスがそう言う頃、レヴァリィ世界では血を流し敵わない相手であろうとも奮闘するアドルフの姿があった。
「ホント…最後まで…かっこいい奴だ…」
ヘーロスは立ち上がり、装備を整える。
「ソフィア、アウトエリアに向かってくれ。」
「え、アウトエリア!?どうしてそんなエリアに…」
「自分の役目を果たすためだ。」
決意を固めるヘーロス。
その頃、アウトエリア内で空を見上げ、笑みを浮かべるラグナロク。
始まる超常決戦…!




