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ハイド  作者: じょじょ
ハイド 最終章 ~天地神焉記~

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10話「貴女へ」

地獄を生き、


地獄に生きる。


それが冥府の帝王に定められし運命。

「あの…すみません…!」


「?」






これまでも…


そしてこれからも…


俺の人生に”君”のいない世界などあり得ない。



…あり得なかった。






10話「貴女あなたへ」






~十四日目~


8:50 レヴァリィ世界

アロガンティア大国・平原地帯



「総督、こいつらは一体何ですか…」



そう言うヴィルヘルムが握っているのは破壊された機械兵だった。


ヴィルヘルムはこれまでに見たこともない自立する金属体に疑問を抱きヴィクトールに尋ねた。



「あなたは今回の状況について何か隠している…」



それを聞いたヴィクトールの表情に僅かだが変化があったのをヴィルヘルムは見逃さなかった。


ヴィルヘルムの覚悟を感じたヴィクトールは口を開く。



「将軍…今この世界は…」



ヴィクトールはレヴァリィ世界や現実世界の存在、そして今起きている状況をヴィルヘルムに説明した。


衝撃的な事実を聞いて驚愕するヴィルヘルム。



「(そうか、だからあの時、アロガンティア特務機関のやつらは…)」



ヴィルヘルムは以前、第一次リヴィディン大国侵攻にてヘーロスを封印した際にアロガンティア特務機関の者たちが言い放った”世界の真相”の意味をようやく知ったのだ。



「まぁ、だからと言ってお前ではどうすることもできん。」



ヴィクトールは王都側の方を向きながらヴィルヘルムに言う。



「世界はじきに滅亡する、そこにこれまでの事実や理想など無意味。

あるのは生者が語る物語だけだ。」


「……。」


「俺は先に王都へ向かう。お前は引き続き聖騎士団や流浪人に注意しろ。」



そう言うとヴィクトールは全身にエネルギーを帯びた状態で凄まじい速度でジョージ王のいる王都へ向かう。


ヴィクトールが走り去る様子を見つめながらヴィルヘルムは小さな声で答える。



「承知…しました。」






~十四日目~


9:00 レヴァリィ世界

アロガンティア大国・平原地帯



「一体どうなっている…(あの空の亀裂が生じてから各地に放った俺の動物たちが死んでいる…)」



ヴィルヘルムは平原地帯を歩きながら呟く。


自身の能力で使役していた動物があらゆる箇所で死んでいることを知るヴィルヘルム。



人気のないここ平原地帯にも本来であれば動物が生息していてもおかしくはないが、まるでもぬけの殻だった。


その様子から大陸全体での異変を理解するヴィルヘルム。



そんなヴィルヘルムの前にある人物が突如、姿を現す。


その人物を見たヴィルヘルムの足が止まる。



「流浪人…?」



ヴィルヘルムの目の前に現れたのはアドルフだったのだ。



なぜ?



そんな疑問がヴィルヘルムの脳裏に浮かぶ。


しかし、自身がやるべきことは変わらない。


ここで自身の障害となる流浪人を倒すのみ。



ヴィルヘルムは周囲にテロスの群れをアドルフに向けて解き放つ。


それを見たアドルフが驚愕する。



「!!」


「(どうやって現れた…)」



ヴィルヘルムが考える中、アドルフはテロスを鋼線で斬り刻み、ヴィルヘルムに向かう。



「(だが、それを考えるのは後だ…)」



ヴィルヘルムはアドルフの前に再びテロスを放つ。


アドルフは造作もなくテロスを斬り刻んでいき、ヴィルヘルムに向かって蹴りを繰り出そうとするが…



「(まずは[[rb:流浪人 > このおとこ]]を排除する…!)」


「!!」



ヴィルヘルムは至近距離で蛇型の1級テロスを放つ。




ヴィルヘルムの能力は”生物使役”


人間以外の生物を己に取り込むことができ、取り込んだ生物はヴィルヘルムが自在に操作できる。


使役した生物の召喚条件は無く、取り込む上限も存在しないパラフィシカーの能力として欠点が極めて少ない能力だ。



その能力の恐るべき性能と希少性、そしてクヴィディタス大国にこれまで多くの戦績を残してきたことで人は彼を”冥帝”と呼んだ。




蛇型テロスは大きな口を開け、アドルフを飲み込もうとする。


至近距離でのテロスの攻撃によりアドルフは鋼線による攻撃が遅れ、蛇型テロスに突進される。



「クッ…!」



なんとか蛇型テロスの閉じる口を自力で押さえながら突進に耐えるアドルフ。



「!?(いつの間に…)」



アドルフが蛇型テロスの口元から先ほどアドルフが現れた地点に移動していることに気が付くヴィルヘルム。



「(やつの能力か…)」


「(クヴィディタス帝国軍の将軍、最悪のタイミングで遭遇してしまった…

リアムが心配ですがここを逃してくれるわけにもいかなそうだな…)」



アドルフは数日前にアセティア大国でリアムとウォルターの会話を思い出す。






「あ~…そうそう、クヴィディタス大国に残された最後の将軍…冥帝といづれ戦うことになるかもね~…」


「あー…あの人すごく強かった…」



リアムはそう言うと以前、ヴィルヘルムの相まみえた際に折られた鼻をさする。



「死神、彼と戦ったことは?」


「今のところ…ないんだよね~…」


「あなたのことです、それでも何かしら冥帝の情報は持っているんじゃないんですか?」


「残念~…何もなし。」


「隠してるでしょ!」



リアムがウォルターにツッコむ。


だが、ウォルターはリアムをあしらいながらアドルフに続けた。



「彼の情報がないのはね…」






”これまで彼と戦ってきた者は君たち以外、生きていないからさ”






「(やるしかないか…)」



アドルフは鋼線を周囲に張り、戦闘態勢に入る。


それを見たヴィルヘルムもまた構える。



「流浪人、お前たちの正体は知っている。

この世界の人間でもないお前たちがなぜ、ここまでして奮闘する…?」



それを聞いたアドルフがヘーロスやソフィアなどのストレンジャーの仲間、そしてこれまでに命を落としていった仲間たちのことを思い出しながら答える。



「私たちは他者を尊び守るために結成された。

私は仲間や家族を守るためならこの命をも投げ打つ覚悟だ。」


「…!!」



ヴィルヘルムは言葉を失った。


こちらに向かってくる[[rb:アドルフ > おとこ]]にかつての自分を重ねるヴィルヘルム。






”俺はティアナや家族を守るためならこの命も投げ打つ覚悟だ。”






同じセリフ…



そうか、この男も…




アドルフに大量のテロスの群れを再び差し向けるヴィルヘルム。






「仕事帰りですか?」


「?…いえ…これから病院に。」



ベンチに座る二人の人物。


一人の少年は若かりし頃のヴィルヘルムだ。


ヴィルヘルムは隣に座る中年の女性に声をかけられていた。



「そうかい、ごめんねぇ変なこと聞いて。

君、すごく疲れているように見えたから。

病院にはどうして…?」


「…母の…付き添いです。」


「あら、母親想いなんだねぇ~

お母さんもきっと感謝していると思うよ。」


「…ありがとう…ございます。」



すると馬車が二人の前に到着する。


それを見たヴィルヘルムは立ち上がり、荷物を背負うと女性に声をかける。



「ほら、行くよ、母さん。」


「…え…?」



ヴィルヘルムに声をかけられた女性は理解ができていない様子だった。


そんな女性にヴィルヘルムは優しく手を取り馬車へと向かった。






病院に到着するとヴィルヘルムは診察室に入る。



「先生、状態は?」


「やはり昨年より酷くなっている…最近のお母さんの状況はどんな感じかな?」


「ここに来る道中…俺のことがわからなくなったみたいで…今は大丈夫ですが…酷く困惑しています。」


「そうか…じゃ薬をもう少し多めに出すとしよう。」


「いえ…その…実は…もうお金が…」


「大丈夫だ、お金はこっちで負担する、はやくお母さんの元へ行って安心させてきなさい。」


「…ありがとうございます…!」



医者はヴィルヘルムを安心させるかのような笑みで診察室から出るヴィルヘルムを見届けた。


部屋を出た後、診察室の中で医者とその助手が会話を交えていた。



「先生いいんですか?」


「あぁ、あの家族の負担を減らすためには…私には…こんなことしかできない…」



医者は自身の悔しさを噛み締める。


その頃、ヴィルヘルムは母親のもとへ向かい、共に帰宅していた。



「母さん、そろそろ父さんが帰ってくる頃だ。

今日は三人で食事ができるね。」



帰路につく二人。






迫りくる大量のテロスをアドルフは鋼線術を用いて上手く立ち回る。


依然、ヴィルヘルムはアドルフと距離を取りながら使役したテロスによる数に物を言わせた物量でアドルフを迎え撃つ。



「(かなりの数だが、どれも2級以下のテロス…やはり1級クラスはそこまで多く保持していないのか…)」



アドルフはこれまでの暗殺技術による気配の操作で上手くテロスたちを翻弄し確実に追い詰めていく。


だが、それに対応するかのようにヴィルヘルムは巨大なミミズ型のテロスを解き放つ。


その大きさはあの竜型の特級テロスに匹敵するほど巨大でミミズ型テロスは周囲のテロスの群れもろともアドルフに突進する。



「ッ!」



だが、アドルフはあらかじめ他のテロスに触れていたことで自身とそのテロスの位置を入れ替え、ミミズ型テロスの突進を回避する。


ミミズ型テロスは平原地帯をまるで暴走した列車の如く進み続ける。



そのミミズ型テロスの上に立つアドルフとヴィルヘルム。



「やるな。(この男の能力は触れた対象と自身の位置の入れ替え…と言ったところか。)」


「テロスの攻撃で私の消耗を狙っているなら無駄ですよ。」



アドルフは片手に短刀を抜きヴィルヘルムに向ける。


ヴィルヘルムは先ほど放った蛇型テロスを自身のもとに引き寄せる。



「本当にそうかな…?」



そう言うとヴィルヘルムはアドルフの背後に10体は超える量の1級テロスを解き放った。


どれも戦闘に適した屈強な容姿をしており、それぞれが肉体に特徴を持ったテロス。


さらにアドルフの前方にはヴィルヘルムを隠すほどの大量のテロスの群れを解き放った。



その数は軽く数えても100近くはいるであろう数だった。



「!?」


「…流浪人、お前の覚悟を見せてみろ…」



テロス達がアドルフに再度襲い掛かる。






俺はごく一般の家庭に生まれた。


家族は俺と母さんと父さんを含めた三人。


母さんは俺が12の時に重い病を患った。


その症状は徐々に記憶を喪失していき、次第には自分のことも忘れてしまうそうだ。


病院にいけば記憶障害を抑える薬はもらえる。


だが、それはあくまで一時的なもの。


薬なんて使えばなくなる。


俺と父さんは毎朝、母さんの病気を少しでも和らげるように薬を買う資金を集めていた。



けど、



それもそろそろ限界に差し掛かっていた。



「ヴィルヘルム、母さんのことだが…」


「大丈夫、俺まだ頑張れるよ。」


「お前も明日で18になる…父さんたちのことだけじゃなく自分の人生を歩むんだ。」



その日、父さんは俺にそう言った。


普段、温厚で無口な父さんが俺に初めてそんなことを言った。


今でもその記憶は鮮明に覚えている。



「俺は父さんや…母さんと幸せに暮らせれば…それでいいんだ。」


「ヴィルヘルム…」



俺は母さんを寝床に連れていき、部屋の扉を閉める。


わかっていた。


すでに俺の家は薬を手に入れるほどの余裕がない。


父さんは働き続ける俺を見て、このまま生涯を無駄にしてほしくないと思ったんだろう。


けど、それは無駄なんかじゃない。


身を粉にして俺ら家族を養い、自分の大切なものを守る。



それは俺が父さんから学んだことなんだから。






翌日、俺は王都まで馬車を駆けた。


俺の仕事は建築に必要な木材や金属を馬車に積み、必要としてくれる街まで届ける。



この日は俺が王都まで届けることになった。


往復には半日以上は掛かるが、その分今回の給料はかなりいい。


それに王都には父さんもいる。



父さんは王都で日々、街中の人々が安心して暮らせるよう路上の整備をしている。


上手くいけば王都を出る時には父さんの仕事が終わる頃だ、そうしたら馬車に父さんを乗せて俺たちの待つ家に帰れる。




…はずだった。



「父さん…?」



俺は馬車を止めた。


目の前の広場に群がる大衆。


そこの中心にはクヴィディタス帝国軍の兵に囲まれた俺の父さんがいた。



「父さん…」



俺は馬車を降り、大衆の中に入る。



「ど、どいてください…!…あの人は…俺の…」



そんな俺の声は他の者たちには届かず、依然と大衆は父さんと兵の方に目を向ける。


クヴィディタス帝国軍の兵の一人が大きな声で大衆に向けてこう言った。



「彼は大罪を犯した!!それもジャック王の住まうこの王都でだ!!

金欲しさに道路の設備中に通りかかった者の金品を奪おうとしたのだ!!」


「!!」



それを聞いた俺は驚愕した。


父さんはそんなことしないはず、それがたとえどんなに俺らが金に困っていようと。


だが、周囲の大衆は兵の言葉を聞いて父さんに罵倒を浴びせた。



「まさか王都でそんなことをする人間がいるなんてね…」


「金欲しさってどういうこと?この街でお金に困る人なんているの?」


「どうせ別の街から稼ぎに来たネズミだろ?」


「あぁ、違いねぇな、よく見たら服装もかなり…」


「卑しいわー…私たちの王都が穢れるわ。」


「貧乏人の臭いまでこっちに移りそう…」


「衛兵、この男は即刻死刑にして!」


「そのとおりだ、こーゆーネズミは排除しないとどんどん増殖する…!」


「どうせ、自分の子供も王都に連れてきてあわよくばここで生活を…なんて思っているに違いないわ!」


「うっ…想像しただけで吐き気が…」



大衆の者たちがそれぞれ思ったことを口にし、父さんに向けて石を投げ始めた。


当然、衛兵もそれを止める素振りはない。


父さんは石を投げつけられ、衛兵に跪かされても懸命に声を上げていた。



「どうかお許しを…!妻が!息子が!家族がいるのです!

私のことはいい!だが、どうか…妻の病のため、息子のため…」


「それが盗みをしていい動機になんのか…!?」


「貧乏人はすぐに泣きごとを吐いてその場を凌ごうとする!どうせ今言っていることも全て嘘に決まっている!」



大衆の石を投げるのは止まらなかった。


衛兵はついに父さんの持つ所持品を没収した。


そこには少し大きな包みで覆われた箱もあった。



「それだけはお許しください!

今日は息子の誕生日なのです!それだけは…それだけはお返しください!」


「うっわ!やっぱ子供はホントにいんのか…!」


「また貧乏人が繁殖していく…」


「金もねぇくせにしっかり子供は生んでいくとか、こいつら家畜も同然だな…」


「何の騒ぎだ。」



大衆の声が荒がる中、そこにある人物が現れる。


それはクヴィディタス大国の王、ジャック王だった。



衛兵や大衆は王に気が付くとすぐに跪いた。



「王、この者はここ王都で盗みを犯した罪人です。」


「ほう、この王都でか。随分と欲深い者だな。」



ジャック王はゆっくりと父さんに近づいた。



「たしかにここ王都での盗みは他の街よりも罪は重い。」



そしてジャック王は跪く父さんを見下ろしながら続ける。



「だが…彼をただ処刑するだけでは意味がないのだ。

それではまた同じことが繰り替えされる。」


「父さん!」



俺は王が来たことで落ち着いた大衆をなんとか掻い潜り、ジャック王と父さんを見る。



父さんが一瞬俺の方を見る。



「ヴィルヘルム…」



そんな父さんを異に返さずジャック王は父さんの顔を自身の方に寄せながらこう言った。



「だから二度と王都でこのような真似はしてはいけぬと…他のネズミどもにも伝えなければならない。」



ジャック王がそう言うと父さんは姿を変え始めた。



そう、ジャック王が所有する秘宝、[[rb:進化の意慾 > エクセレクシ]]によるテロス化だ。



テロスと化した父さんのまわりに兵が集まり、大衆はパニックになり逃げ始めた。


俺はただそこで茫然と立ち尽くしたままだった。



「父さん…」


「衛兵、そのテロスを処刑せよ。

1級以上の等級であれば総督を呼ぶがいい。」



ジャック王は王宮の方へと向かった。


テロス化した父さんは周囲の衛兵と交戦を繰り広げる。


槍や矢が父さんを傷つける。


それを見た俺は涙を溢す。




なんでこうなった。




今あるのは怒りでも悔しさでもない、




あるのはただこの現実を突き付けてくる…




悲しみだ。




ただ、




ただ俺は三人で幸せに暮らしたかっただけなのに。






俺の中にある何かが音を立てた。


それと同時に弱った父さんが俺に取り込まれる。


周囲の兵は唖然としている。



こうして俺は18の歳月を迎えた日、パラフィシカーとなった。



先ほどまで兵を襲っていた[[rb:テロス > とうさん]]はもういない、


いるのは兵に囲まれた俺とその横で逃げた大衆によって踏み潰された包箱だけ。



包箱には目の悪い俺にと父さんが必死に集めた金で購入したメガネが飛び出していた。



「お前!一体何をした!」



兵が俺に武器を構えながら問う。


けれど状況を理解できていなかった俺はその兵をただ見つめることしかできなかった。


すると手を叩く音が広場に響く。



「素晴らしいぞ、青年。」



拍手の主はジャック王だった。


俺は何も言わずに王の方を振り向く。



「お前のその能力は世界を統べる可能性を秘めている…今日から我が帝国軍にお前を迎え入れよう。」


「何を言って…」


「聞いていたぞ、お前の父親が言っていたこと。

母親が病なのだろう?お前が我が軍に所属さえすれば、その悩みは明日から無縁となるぞ。」


「…!!」


「明日、母親と共に王宮へ来い。」



こうして俺はクヴィディタス帝国軍へと入団した。



残された母さんを守るために。



父さんからの最期の贈り物…



俺はそれを拾い、自分に身につけた後、王都を出た。






兵となり、俺は自分の能力の可能性を身に染みて感じた。



”生物使役”


人間を除いた生物を思うがままに使役できる。


能力による体力の消耗もなし、自身の周囲400m圏内であれば自由に生物は召喚できる。


取り込む生物に上限はない。


あるのは使役する生物は己の力で倒すことのみ。




ジャック王は言った。


パラフィシカーの持つ能力でここまで弱点が少なく大規模な力を秘めたものは珍しいと。


俺の能力ではテロスさえも使役できた。



元々人間だった彼らもテロスになれば人間という生物の枠組みから外れるのだろうか?


王は自身の生み出したテロスを俺が使役し続ければ、実質無限に兵を増産することができると考えていた。



そう、俺の能力は世界を支配する力なのだと。



俺にテロスを取り込ませるために王は罪人をテロスにすることが多くなった。


そしてテロスを取り込むために俺はさらに自身の力を磨き続けた。


幸いなことに朝から晩まで身体を使うことには慣れている。


俺はすぐに軍の中でも地位を確立していった。



だがこれも全ては母さんを安心させるため。


家族を守るためだ。






「母さん、帰ったよ。」


「ヴィル…ヘ…」


「あぁ、ヴィルヘルムだよ。

待ってて、今夕飯の支度をするよ。」



俺は食事の準備を済ませ皿を二つ置く。



「父さんみたいな味付けにはできなかったけど、なかなかだろ?」



母さんはいつも俺の料理をおいしそうに食べてくれた。


俺が軍で働いてから10年、すでに母さんは俺だけでなく自分のことも忘れてしまった。


食べる、声を出す、身体を動かすといった人として普段当たり前に行う動作ですら今の母さんには難しい。



それでも俺は母さんとこうやって食卓を囲めるだけでよかった。


食事を済ませ、母さんを寝かした後、俺はベランダに出る。



クヴィディタス帝国軍で中佐の地位になった俺には母さんと二人で住まうには広すぎるほどの家と余る富を手に入れていた。



10年前の自分からしたら考えられない生活だ。



だが、そんな得たものとは裏腹に家には静寂が流れる。


その空気を誤魔化すように俺はタバコに火をつける。



別に今の生活が嫌なわけじゃない。



だが、この煙は俺にとって自分だけの時間を取り戻す唯一の時間だった。



「もう寝るか。」



俺はまだ火のついたタバコをベランダから外に落とし、寝室へと向かう。






再び目を開けるとそこには俺が解き放った大量のテロスに奮闘する流浪人おとこがいた。



アドルフは鋼線でテロスを斬り刻むと同時にテロスに触れ、能力による入れ替え対象を増やしテロスを翻弄し続ける。



「(この数を前になおも優勢で居続けられるか。)」



ヴィルヘルムはさらに絶え間なくテロスを解き放っていく。


ヴィルヘルムの合図とともに蛇型テロスがアドルフに攻撃を仕掛ける。


アドルフはその攻撃を避けるが、僅かに腹部に傷を負う。



「!?(これは…!)」



すぐに異常に気が付いたアドルフは腹部を薄く短刀で削り、鋼線で傷口を瞬時に縫い始める。


蛇型テロスの攻撃には毒が付着していたのだ。


アドルフは毒が全身に回る前に傷口を抉り瞬時に鋼線で縫い合わせることで毒を回避する。


だが、そんなアドルフに絶えずテロスが襲い掛かる。



しかし、アドルフは短刀をヴィルヘルムに投げ、襲い掛かるテロスは鋼線で排除する。


短刀はヴィルヘルムに届く前に他のテロスによって防がれる。



アドルフは依然と冷静な表情で的確に自身の目の前にいるテロスの群れを鋼線で縛り上げ、ヴィルヘルムの方に攻撃を再び仕掛ける。


ヴィルヘルムは自身に迫りくる鋼線を防ぐべく目の前に巨漢型のテロスを放ち、鋼線を防ぐ。



「隙は見せん。」



ヴィルヘルムがそう言いながら、アドルフの真横から新たな蛇型テロスを放ち襲わせる。


しかし…



「!?」



先ほどまでいたアドルフの地点には短刀が宙に舞っていた。



「まさか…!」



ヴィルヘルムはすぐに背後を振り向くと、そこには先ほど防いだ短刀と入れ替わったアドルフがいた。



「(能力の対象は無生物にも可能か…!)」


「隙は作るものです。」



アドルフは短刀に鋼線を巻き付けることで手元に引き寄せ、ヴィルヘルムを斬りつけようとする。


だが、ヴィルヘルムは自身の剣を抜きアドルフの攻撃を防ぐ。



「悪いが、近接戦闘は得意分野だ。」


「!!」



ヴィルヘルムがアドルフに回し蹴りを繰り出す。


なんとかアドルフは攻撃を腕で防御するが、ヴィルヘルムの想定以上の威力にアドルフはよろける。



その一瞬の隙をヴィルヘルムは見逃すことなく追撃を仕掛ける。


ヴィルヘルムの剣を鋼線で縛るアドルフもまたヴィルヘルムに向かってこう言う。



「こちらも得意分野です。」



アドルフはヴィルヘルムの拳を受け流し、カウンターを決める。


吐血するヴィルヘルムだが、表情変えることなくヴィルヘルムは攻撃を続ける。



二人の攻防が続いていく。



近接戦闘では両者ともに互角。


互いの拳や蹴りが身体にぶつかり合う。



ヴィルヘルムは周囲のテロスをアドルフに向かわせようとするが、周囲のテロスが近づいた途端に全てのテロスが斬り刻まれる。



「なに…!?」


「あらかじめ周囲には鋼線を張っている…(これで…)」




1対1…!!



アドルフがヴィルヘルムの周囲に位置替えを行いながら翻弄する。



「チッ…(いつの間にマーキングを…)」



テロスの群れとの戦いで地面に触れていたことで多数の箇所に移動できるようにしていたアドルフ。


動きが予測できずヴィルヘルムはアドルフの攻撃を喰らい続ける。


そんな中でヴィルヘルムは再び自身の過去を思い出す。






俺が大佐となったある日、森から街にやってきた1級テロスが甚大な被害を街に与えていると知り、俺はその街に向かった。



「大佐、ご無事で?」


「俺はな、だがまだ周囲に逃げ遅れている民がいるかもしれない、探すんだ。」



テロスは取り込んだ。


だが、街は想定よりも大きな被害が起きていた。



俺はしばらくの間、この街が復興するまで、留まることを決めた。



そこで出会ったのが…ティアナだ。



彼女はよく笑っていた。


クヴィディタス帝国軍に入ってから11年。


軍で多くの事を経験してからいつの間にか笑顔すら忘れてしまっていた俺でも彼女といるとなぜだか思い出させてくれる。


笑っていいのだと。



この日、俺に守るべき大切な人が一人増えた。






「ヴィルヘルム、行くのか?」


「あぁ。」


「今回ばかりはお前でも本当に死ぬかもしれないぞ。」


「問題ない。」


「死に行くようなもんだろ。」


「俺はティアナや家族を守るためならこの命も投げ打つ覚悟だ。」



当時の仲間との会話の記憶…



クヴィディタス大国に特級テロスが街を襲い始めた。


直ちに民の保護と特級テロスの鎮静化を命じられた。



俺は特級テロスを食い止めるべく街へ向かう。



俺はこの任務が終わった後、ティアナに想いを伝えるべく手紙を書く。



「大佐、時間です。」



ちょうど書き終えたタイミングで部下から声がかかる。


俺は手紙を胸に仕舞い、任務地へ向かう。











”親愛なる貴女あなたへ”



初めて出会った時から君の魅力に惹かれた。


いつも笑みを絶やさずにいる君は俺の心にこう囁いてくれる気がしたんだ。


「大丈夫、笑ってもいいんだよ」って。


怖かったんだ、こんな俺が、地獄しか見ていないこの俺が、笑っていいわけがないと。


それでも、君といるときだけは笑みを浮かべることができた。


そして君の笑顔は俺にとってかけがいのない大切なものになった。


君の笑顔を守るために


俺に貴女を守らせてください。



君を愛するヴィルヘルムより






「ッ!!」



歯を食いしばるヴィルヘルム。


ヴィルヘルムの脳裏に優しかった父や母、笑顔を自分に向けてくれたティアナが映る。


ヴィルヘルムは強烈な拳をアドルフに与える。



「ッ!(なんて威力…!)」



さらにヴィルヘルムは周囲に無数のコウモリを放つ。


コウモリはアドルフの周囲を飛び回り、アドルフの視界を遮る。


だが、アドルフは短刀を握り、鋼線によってコウモリを掃いながらヴィルヘルムに向かう。



アドルフの短刀がヴィルヘルムの胸を貫く。


しかし、ヴィルヘルムは自身の胸に突き刺さった短刀を握る。




愛していた…!!!


この世の誰よりも…!!


だが、君は逝ってしまった…!!


君を失ってから俺の悔いが晴れる日はない…


今でも思う、俺がもっと早く気が付けていたらって。


ティアナ、俺の人生で君のいない世界などあり得ない。


君の笑顔がもう一度見れるなら俺は…




「俺は…!なんだってやるさ…!!」


「!!」



ヴィルヘルムの目の前に大きなテロスが放たれる。


それを見たアドルフがその禍々しいテロスの覇気に気が付く。



「これは…!?(特級テロス…!!)」



まるであらゆる獣が混合したような容姿を持つ特級テロスはアドルフを襲う。



「クッ…!!」



ゼロ距離でかつ凶暴な攻撃によって為す術もなくテロスの攻撃を受けるアドルフ。


ヴィルヘルムはテロスに襲われるアドルフを見ながら静かに意識を失う。



冥帝の背負いし役目…

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