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ハイド  作者: じょじょ
ハイド 最終章 ~天地神焉記~

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9話「雷鳴の先導者」

雷鳴轟くとこに、


俺は降りる。


己の信念を武器に、


神も天も、


全てを撃ち落とす。

~十四日目~


9:10 レヴァリィ世界

アロガンティア大国・王都隣町



アローラたちをジョージ王のいる王都に向かわせるべくミカエルとの戦いを引き受けたアドルフとリアム。


だが、ミカエルによってアドルフと引き離されたことで一気に窮地に立たされたリアム。



「うっ…」


「さて、そろそろ王のもとに向かうべきか…」



引き離されてから数十分は経過した。


すでに傷だらけで勝負はついたも同然だった。



だが、ミカエルは流浪人の脅威を甘くは見ていない。


いくら動けない状態であるリアムであってもこのまま放っておけば、後々面倒なことになると考えたミカエルは剣を抜き、リアムの肩に突き刺す。



「うぐっ…!」


「申し訳ないですが、あなたにはここで死んでもらいます。」



ミカエルがリアムにトドメをさそうとしたその時だった。




はるか上空から鳴り響く轟音。


空気を裂き、凄まじい速さでミカエルの背後に降り立つのは…


”雷帝”の名を授かりしクヴィディタスの荒武者。




「そこのガキには用がある、邪魔だ…!天使!」


「今日はよく邪魔が入る…次はあなたですか…雷帝…!」






9話「雷鳴の先導者」






ヴァレンティーンは自身に纏う稲妻の出力を上げ、ミカエルに接近する。


ミカエルは剣でヴァレンティーンの攻撃を防ごうとするが、ヴァレンティーンの方が僅かに速く、ミカエルは殴り飛ばされる。


その衝撃でミカエルの仮面が破壊され、素顔が露わとなる。



「仮面なんかつけて陰気くせぇなぁ!?おい!」


「ッ!(速い…!それにこの威力…!想定以上だ…!)」



殴り飛ばしたミカエルは町の建造物に激突する。


ヴァレンティーンの姿を見たリアムが口に溢す。



「クヴィディタス帝国軍の…将軍…」


「黙れ。」



ヴァレンティーンは依然と殴り飛ばしたミカエルの方向から目を離さないでいた。


自身が先制をとったもののヴァレンティーンはミカエルの反応に気が付いていた。



「(俺の最高速度の一撃だ…それに反応しかけていたな…しっかり受け身をとっていやがった)」



破壊された建造物から僅かに人影が現れる。


それを見たヴァレンティーンがリアムに声をかける。



「おい、ガキ。ちょっと下がってろ。」


「で、でも…」



口を挟もうとするリアムを睨めつけるヴァレンティーン。



「闘いの邪魔だって言ってんだよ。」



リアムはヴァレンティーンの高揚に満ちたの表情を見て、今この男は自分とミカエルとの一騎打ちを愉しみたいのだと理解した。


静かにその場から離れようとするリアムだったが…



「よそ見。」


「!!」



僅かに目を離した隙に自身の能力でヴァレンティーンの背後をとるミカエル。


ヴァレンティーンが気が付いたと同時にミカエルはすさまじい蹴りをヴァレンティーンの顔面に食らわせる。



「悪くねぇ!」



血を吐き捨てながらヴァレンティーンはミカエルの脚を掴みそのまま投げ飛ばす。


ミカエルは投げ飛ばされた瞬間にヴァレンティーンの背後に移動し攻撃を行う。


ヴァレンティーンはすぐに反応し、ミカエルの腕を押さえ自身の攻撃をミカエルに与える。



「(あのリアムせいねんに匹敵する速度、そしてウォルターに届きうる戦闘センス、さらには攻撃力はリヴィディンの暴竜と同等か。)」



ミカエルはヴァレンティーンの攻撃を防御しながら分析する。


自身の雷撃を全身に纏うことで、リアムの高速移動に匹敵する速度、そしてフォートと同等クラスの攻撃力を維持しつつ、磨き上げた能力の精度はすでに奇才であるウォルターにも肩を並べるほどであった。



痺れた自身の腕を動かしながら距離をとるミカエル。



「雷帝、あなたはクヴィディタス大国の将軍、流浪人とは敵対関係にあるはずですが…?」


「敵対関係…それはテメェらアロガンティア大国にもだろ?」


「私は王に仕える者、あなたを殺す許可は—」


「王とか知るかよ、お前はどうなんだ?戦うか、死ぬか…それだけだろ。」



それを聞いたミカエルは静かに剣を構える。


ミカエルの臨戦態勢を見てヴァレンティーンを笑みを浮かべる。



「決まりだな。」


「戦闘狂め。」


「!!」



ミカエルがヴァレンティーンの目の前に瞬間移動する。


すぐにヴァレンティーンはミカエルに攻撃を試みるが、攻撃はミカエルの身体をすり抜ける。



「!?」



すぐにミカエルはヴァレンティーンの顔面に肘打ちを行う。


攻撃を受けるヴァレンティーンだが、



「浅いな。」


「なに…!?」



ヴァレンティーンからのカウンターをもらうミカエル。




なるほどな、能力の解釈を広げて瞬間的な移動だけでなく、存在自体の瞬間移動…!


それで攻撃をすり抜けやがったわけだ…




先ほどのミカエルのすり抜ける動作を自身の戦闘経験値から的中させるヴァレンティーン。




不意をついたつもりだが、急所を回避された…


おそらく周囲の電波を知覚し、攻撃のタイミングを予測したのか…




同様にミカエルもヴァレンティーンの能力による応用力の幅を理解したのだった。




ヴァレンティーンは全身に纏った稲妻をさらに広げる。


すると周囲に雷撃が放たれ、ミカエルを襲う。


だが、ミカエルは自身の能力でその攻撃を容易に回避しながら再びヴァレンティーンに接近してくる。



「雷撃は強力なようですが、短い距離でないと維持が難しいようですね。」



ミカエルの蹴りがヴァレンティーンを襲うが、その攻撃を回避したヴァレンティーンはミカエルの持つ剣を弾く。


剣を落としたミカエルに向かってヴァレンティーンが至近距離で雷撃を放とうとする。


ミカエルはすぐに移動するべく、少し離れた地点に目を移そうとするが、それをヴァレンティーンは手で遮る。



「ッ!」


「見なきゃ移動できねぇんだろ?」



雷撃を放つヴァレンティーン。


だが、その攻撃はまたもやミカエルの能力で身体からすり抜ける。



「私にはあなたの攻撃は届かない。」


「そう焦んなって。」


「!?」



放たれた雷撃はミカエルの背後で球状に固定され、破裂した。


それによりミカエルの背中に雷撃が炸裂する。



「クッ!」


「届かなかったか?」



そう言いながらヴァレンティーンが両足でミカエルの両腕を押さえながら圧し掛かるような態勢をとり、ミカエルの首元に手を当てる。


先ほどの炸裂した雷撃を受けたことで思うように動けないミカエルに緊張が走る。



「(これは…!)」



ヴァレンティーンは掌から高出力の雷撃をミカエルに放とうとしていた。


しかし、



「ッ!?」



突如、ヴァレンティーンに激しい痛みが走り、雷撃が掌から消える。


ヴァレンティーンの腹部に先ほどミカエルが所持していた剣が突き刺さっていたのだ。



「クソッ…!(物質を瞬間移動させたのか!?)」


「危ないところでしたよ。」



ミカエルは自身が触れた無生物にも能力を適応できる。


適応すれば再び触れなければ能力の対象にならないが、それでも今のヴァレンティーンの不意をつくには充分だった。



ミカエルは腹部の負傷で怯んだヴァレンティーンに強烈な蹴りを繰り出す。


蹴り飛ばされるヴァレンティーンに追撃をするべくミカエルは腹部に突き刺さった剣を持ちヴァレンティーンの腹部から引き抜こうとする。



「!!(熱い…!)」



だが、ヴァレンティーンもミカエルの追撃をそう簡単には許すつもりはなかった。


ヴァレンティーンは腹部に突き刺さった剣を自身の能力で電気を流し、熱伝導性を高めミカエルが触れられないほどの高温に保った。


加えて熱による腹部の傷の消毒をすませ、傷口を最小限の出血に留めたのだ。



「(土壇場での能力使用…!)」


「クソッ…痛ぇな…」



出血は抑えたもののそれでも腹部に剣が突き刺さったのは大きい。


ヴァレンティーンは痛みに耐えながら笑みを浮かべる。




これほどの命の危機、


ヘーロスあいつと闘った以来だ…


そして俺の命に届きうるミカエルやつの刃…!


あぁ…


これこそが…




「闘いってもんだ…!!」



ヴァレンティーンは先ほどよりもさらに稲妻の出力を上げ始める。


その凄まじい出力に周囲の空気は裂け、弾けるかのように稲妻が空間に走る。



その大きなに大きな衝撃にミカエルは驚愕する。


そしてミカエルの目つきが変わり出す。




これほどの出力、


先ほどとは比べ物にならないほどの強烈な稲妻、


なるほど…


雷帝このおとこが命を燃やすのはこれからということか。




ミカエルは剣を握り、片手にダガーを構えて笑みを浮かべる。



「すまない、私はあなたを測り違えていた。

あなたが命を燃やしておきながらこちらが命を懸けないというのは軽率に値する。」


「へぇ、あんたそんなこと言うタチかよ…?」


「闘いとは互いのすべきことをするための1つの手段にすぎない。」


「違うね、闘いってのはテメェお前テメェのぶつかり合いだろうがよ!」




果たしてそれが…



死んでもそう言えるかな…!




ミカエルはヴァレンティーンの懐にまで接近していた。



「!!」



ヴァレンティーンは迎え撃とうとするも先ほどよりもさらに速く強烈な一撃をミカエルはヴァレンティーンに放つ。



「グフッ!(さっきよりも重てぇ!)」



ミカエルの本気による一撃で激しく吐血するヴァレンティーン。


だが、ヴァレンティーンもまた本気の状態で対抗する…!



「これは…!」



ヴァレンティーンの拳を避けたミカエルだったが、回避してもなお、頬に火傷を伴う。



ヴァレンティーンは自身の拳に雷撃による痺れだけでなく、電波振動による高熱を帯びていた。


さらに高出力の稲妻を纏ったことでヴァレンティーンの攻撃範囲は拡張され、直接拳を回避しても周囲に影響を及ぼすほどだった。



「(攻撃範囲の拡張、痺れだけでなく高熱の拳か…!)」



ミカエルはヴァレンティーンの周囲にダガーを投げる。


本来であれば、ヴァレンティーンが纏った電磁波の膜により防ぎきることが可能だが、ミカエルの攻撃は全て能力の対象となっていることを考えたヴァレンティーンは油断せず、全てのダガーを雷撃によって破壊する。



その隙にミカエルがヴァレンティーンに瞬間移動を繰り返し、場所を悟られにくくしながら接近する。



「チッ!」



ヴァレンティーンは地面に向かって円形状に雷撃を放ち強制的にミカエルを引き離そうと試みる。


しかし、ミカエルはヴァレンティーンの頭上に移動しそのままヴァレンティーンに攻撃を行う。



攻撃を喰らいつつもミカエルに反撃を試みるヴァレンティーンだが、ミカエルはタイミングよく自身の能力により身体をすり抜けさせ再びヴァレンティーンに攻撃を行っていく。



「クッ…ソ…!(強制的に不意を作られる!)」



攻撃を受けた後に反撃の態勢に入ってもその頃には距離を取られているか、能力によって攻撃がすり抜けてしまう。



どうあがいてもミカエルより攻撃の先手を打つことができないヴァレンティーンは周囲に雷撃を放ちながらミカエルに攻撃を当てようとするが、徐々にヴァレンティーンの体力が減少していく一方だった。



「息が…しづれぇ…」



ヴァレンティーンは攻撃による負傷とは異なり、自身の息が上がっていることに気が付いた。


そんなヴァレンティーンをよそにミカエルは攻撃と回避をうまく織り交ぜ完全に自身のペースでヴァレンティーンの体力を削り取っていた。






わかりますか?雷帝。


あなたの周囲に酸素が消失していっていることに。


私の能力は無生物にも適応できる。


私は空気中に存在する酸素にこの能力を適応した。


あなたの周囲の酸素は一時的にだが、その場から姿を消す。


普段であれば、その僅かの変化など大した影響はない、


ですが闘いにおける状況では話は別でしょう。




あなたは何が起きたかわかることなくこの戦いを終える…!






ミカエルはさらに移動するタイミングを加速させる。


先ほどからの攻撃による負傷、そして空気中の酸素消失による酸欠状態からヴァレンティーンはミカエルを追うほどの体力が残されていなかった。



「(クソッ…!マジでヤベェ…)」



意識が朦朧とするヴァレンティーンの目の前に現れたミカエルはヴァレンティーンの両耳を攻撃する。



「ガハッ!」



耳から血が噴き出るヴァレンティーン。


両耳を負傷したことで鼓膜が破壊され聴覚が遮断される。



「闘争しかないあなたが信念を持った私に勝つことはできない。」



そうミカエルは言うとヴァレンティーンの胸を貫く。



「!?」


「と言っても今のあなたには聞こえないでしょうが。」






”瞬間移動”


ミカエルのパラフィシカーの能力。


本来は目視した箇所に予備動作なく移動することが可能な能力だが、ミカエルは自身の解釈によりその能力を大きく発展させてきた。


自身と触れた者との同時移動、無生物の一時的な能力適応、存在による能力重複使用、細胞単位での能力適応…


そしてミカエルの能力はさらなる段階へと昇華していた…!



それは”他者に細胞単位での能力を行使する”ことであった。



ミカエルはヴァレンティーンの胸を貫いたのではない。


一時的に皮膚や筋繊維、骨格を構成する細胞を移動させ、自身の拳をヴァレンティーンの体内に入り込ませたのだ。



そして…


今、ミカエルの拳には…



「!!(こいつ…!)」



ヴァレンティーンの心臓が握られていた。



自身におかれた状況を理解したヴァレンティーンは最後の力を振り絞ってミカエルに雷撃を放とうとする。



だが、ミカエルの行動の方が僅かに速かった。



雷撃はミカエルの直撃を避け、ヴァレンティーンの上空に打ち上げられる。


口から大量の血を吐きながらその場に倒れるヴァレンティーン。



「酸欠による意識の混濁、鼓膜の破壊によって平衡感覚すら危うい中でよくここまで反応できたものですね…雷帝。」



そう息の止まったヴァレンティーンを見下ろすミカエルの右目と右耳は雷撃によって焼け焦げていた。


剣を鞘にしまいその場を去るミカエル。











すると先ほど上空に打ちあがった雷撃がミカエルの背後で落下する。



「!!」



天使ミカエルは見た。


雲を裂き、


天を裂き、


地を轟かせながら落下した雷撃、


その落下地点に倒れる雷帝が…


こちらを見下ろす姿を…!!



「よぉ…天使…!!」






~十四日目~


9:50 レヴァリィ世界

アロガンティア大国・王都隣町



「…どういうことだ…(私は確実に心臓を握りつぶしたはずだ…)」




あの時、確実に雷帝このおとこの心臓は止まっていたはずだ!!




「俺もまさか成功するなんて思っちゃいねぇよ…」


「…まさか!…心肺蘇生…!」



ヴァレンティーンは自身の心臓をミカエルに握られた際、死を確信した。


しかし、死を確信してもなお、闘争に生きるヴァレンティーンは自身の最大出力の雷撃を圧縮させ、上空に撃ち放ったのだ。



あくまでミカエルはその雷撃の軌道上にいたに過ぎない。



計算づくでも知略を貼らせたわけでもない。



天が雷帝このおとこに味方したが故の結果が今に至るのだ…!



「まぁ…だが…天が決めたことなんだからしょーがねぇよなぁ!?」



ヴァレンティーンはボロボロになった軍服の上着を脱ぎ棄てると再び稲妻を全身に纏い始める。



「信念が何だほざいていたが…テメェも王の指示だかで動いてんだろ?」


「(聴覚が戻っている…!?)」


「王の駒にそんな信念なんかあるわけねぇだろ…」


「(来る!!)」



ヴァレンティーンはミカエルに向かって一気に飛び出す。



先ほどよりもさらに速く鋭い攻撃を繰り出すヴァレンティーンにミカエルは反応できずに殴り飛ばされる。


殴り飛ばされる中でミカエルは能力で移動し、ヴァレンティーンの死角を捉える。


しかし、ヴァレンティーンはそんな不意打ちを目視せずに防ぐ。



「!?」


「信念だっていうなら!王の側近としてじゃなく、お前テメェの信念で戦ってみろ!!」



死の淵から目を覚ましたヴァレンティーンは死への恐怖を捨て去った。



限界を超え、己の可能性を最大限引き出すに至った雷鳴の先導者は雷帝に恥じぬ闘争の権化と化す。



脳に微弱な雷撃を与えることで脳を刺激し、アドレナリンの分泌による痛覚遮断と一時的な興奮状態による極限化された集中力の獲得、


筋肉への電気信号を活性化させることで、本来脳の処理では追いつかない激しい状況においても肉体の”反射”を強制行使した自動オートによる攻防、


そして空気中の電波の揺れを知覚し、失われた聴覚を補う。



「(こんな動き…いつまでも持つはずがない…)」



ヴァレンティーンの様子を見たミカエルは肉体の限界を超えた能力の使用であると判断した。


互いに負傷の身、ミカエルは改めてこの男、ヴァレンティーンの凄まじい闘争を身に染みて実感する。



だが…



なぜだ、なぜ私はこれほどまでにも…



高揚しているのだ…?




ミカエルは決心した表情を浮かべる。


そこにヴァレンティーンが向かう。



「いいねぇ…!…悪くない目つきだ…!ミカエル!!」


「ヴィンセントです…ヴィンセント・ウィンターズ。」



ミカエルの本名を聞きヴァレンティーンの笑みがより一層強くなる。


そしてヴィンセントもまたヴァレンティーン同様に笑みを浮かべていた。



二人は同時に攻撃を行っていく。



激しい攻防は町全域を巻き込み、町が徐々に更地と化していく。






俺の最大出力での身体活性でもヴィンセントやつには不意をつかれる…!


なら、限界を超えた出力で動けばいいだけだ!!


限界を超えろ…!!


足を止めるな、


今の速さにさらに速度を乗せろ…!!


ヴィンセントやつに届くまで…!!!




ヴァレンティーンはさらに出力を強め、もはやその動きは常人の域を逸脱したものとなっていた。



対するヴィンセントもまた己の限界を超えるべく命を燃やしていた。






速度、威力、ともにヴァレンティーンかれの方が圧倒的に上、


さらに死の淵から目覚めたことによる自身のリスクを無視した出力…!


いつまでも攻撃を避けているだけではいづれ追い付かれる…


なら、こちらは攻め続けるまで…!!


ヴァレンティーンかれに届くまで…!!!






両者はさらに速度を上げ、その速度はすでに常人の目には映ることはない。



周囲に戦いで破壊された民家や瓦礫の残骸が舞う中、瓦礫が重力によって落下するよりも速く二人の攻防は続いていく。



ヴィンセントはヴァレンティーンの周囲に絶え間なく移動を繰り返し、自身の残像を生み出すことでヴァレンティーンを攪乱する。


ヴァレンティーンは残像も本体も関係なくまとめて攻撃を行う。


ヴィンセントもその攻撃に対抗するようにヴァレンティーンに攻撃を繰り出す。



ヴァレンティーンの自動オートによる攻防、


ヴィンセントの存在を対象とした移動、


互いの驚異的な攻撃回避をものともせず両者一歩も譲らない攻防を繰り広げていく。



ヴァレンティーンの激しくも鋭い拳を受け止め、蹴りを繰り出すヴィンセント。


しかしその攻撃を自身の脚で受け止め、ヴァレンティーンがヴィンセントの腕に目に留まらない速さで連撃を繰り出す。



「クッ…!!」



片腕に激しい痛みと痺れを感じるもヴィンセントは自身の能力の応用でヴァレンティーンの体内に手を入れる。


先ほどヴァレンティーンの心臓を握りつぶした際と同様の手口だ。



「!!」



ヴァレンティーンはすぐにヴィンセントの手を振りほどくが、激しく血を吐く。


ヴィンセントは自身の手の内にダガーの破片を握りしめており、ヴァレンティーンの体内に忍ばせたのだ。


それによりヴァレンティーンの体内の臓器が傷つく。


さらにヴィンセントがダメ押しの追撃に蘇生して間もないヴァレンティーンの心臓に強烈なパンチを繰り出す。



「グフッ…!!」



自身の能力で無理矢理負荷をかけて活動を行っているヴァレンティーンの心臓が悲鳴をあげる。



だが、歯を食いしばりながらヴァレンティーンは自身の胸に向けて電気ショックの要領で心臓を刺激させ意識を保つ。



「効かねぇなぁ!!」


「(心臓にさらに負荷を!?)」



ヴァレンティーンがヴィンセントに向けて自身の指を突きだす。




これほどの攻防、お前の身体にも十分貯まってんだろ…!


俺の電撃がよ…!!




「!!」



するとヴァレンティーンの指先から伸びた細長い雷撃がヴィンセントの腕にピンポイントで直撃する。



先ほどヴァレンティーンが連撃を行ったことでヴィンセントの腕にはヴァレンティーンの電気が帯電していた。



そしてそれはヴァレンティーンの指先から放たれた雷撃の受信先となり、回避不可能な雷撃となる…!!



ヴィンセントの腕が雷撃によって引き千切れる。


だが、ヴィンセントは態勢を崩さずヴァレンティーンに接近し攻撃を止めない。



心臓に負荷をかけたことで先ほどよりも動きが鈍くなるヴァレンティーンにヴィンセントの猛攻が襲う。



「クッ…ソッ…!!」


「(腕をやられた…だが瀕死なのはあなたも同様…ここは…)」




私の命が尽きるまで攻める…!!


拳を止めるな、


痛みや後のことなど捨ておけ、


今は目の前のヴァレンティーンこのおとこに勝つことだけを考えろ…!!!




ヴィンセントの激しい攻撃を受け続けながらもヴァレンティーンはヴィンセントの懐に入る。



「!?」



ヴィンセントの頭部を両手で押さえヴァレンティーンが叫ぶ。



「終わりだ…!!」



雷撃がヴィンセントの頭部に流し込まれる。



ヴァレンティーンは先ほどヴィンセントの腕を雷撃で引き千切った際に彼の体内に自身の電撃を忍び込ませた。


それは激しい闘いをなぞる様に加速する体内の血液と共にヴィンセントの脳内に向かっていく。



ヴァレンティーンはそのタイミングでヴィンセントの頭部の外側から自身の電気を発生させ、ヴィンセントの脳内に直接雷撃を流し込んだ。



ヴィンセントの目や鼻、口から大量の血が噴き出る。


人体が耐えられないほどの雷撃を浴びたことでヴィンセントの脳は完全に破壊された。



「…。」



ヴィンセントの頭部から手を離すヴァレンティーン。


徐々に力なく倒れようとするヴィンセントを見てヴァレンティーンは目を閉じ、闘いの終わりを身体で感じる。










「…すごいな…」


「!!」



再びヴァレンティーンが構える。



ヴァレンティーンの目の前にはすでに尋常ではないほどの血を吐き出しながら立ち続けているヴィンセント姿があった…!!



「オイオイ…マジか…?(脳がミンチになってんだぞ…なんで意識があんだよ…!)」


「…私は…あの方が…王位に就いてから…ずっと…傍にいた…」




「(ここまでとはな…”これ”はあいつにしか使うつもりはなかったが…)」


「この力も…全て…あのお方を…お守りするために…培ってきたものだ…」





「(出し惜しみしてる場合じゃねぇか…)」


「だが…ここで…王ではなく…己として…闘いに…身を投じる……愉しさを知れた……感謝する…」




「らい………ッ!?(…コイツ…!!)」




ヴァレンティーンはヴィンセントを見て攻撃の態勢を解いた。



「あぁ…!…俺もだ、ここまでたぎった闘いは初めてだ…!

ヴィンセント・ウィンターズ、お前の名は忘れねぇよ…!」



ヴァレンティーンはその場を後にする。




そう、ヴィンセントはすでに生き絶えていたのだ。




町全域を巻き込んだ激戦地には…




アロガンティアの天使として生涯を仕えたミカエルではなく、


ただひとりの強者として息を引き取ったヴィンセントの亡骸が天を見上げていた。



羽を下ろす天使…

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