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ハイド  作者: じょじょ
ハイド 最終章 ~天地神焉記~

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81/98

8話「欠陥品」

完全を求めて、


歯車を回す。


完璧を求めて、


理を制す。

~十四日目~


9:00 現実世界

セントラルエリア



「世界の崩壊に伴いテロスまで…」



周囲の人々がテロスに襲われる様子を見ながら口にするのはウィルフォードだ。


彼は先ほどの空に亀裂が生じ穴が開いたことで、世界の崩壊…そして自身の計画の成就が目の前に迫っていることを確信する。



アポカリプス計画の犠牲となった人類の6割は今もなお、ストレンジャーやその仲間たちを探し続け破壊行為を行っている。


そして突如空から降り注ぐテロスの群れ。


今では世界に安全な場所など存在しない。


強者、つまり古代人の血を強く引く者のみが生存を許される世界となったのだ。



「…お待ちしていましたよ。」



背後の何かに気が付いたウィルフォードが口を開く。



「あなたが…我が一族の祖先、グリーン・ウィザースプーンですね。」



ウィルフォードの背後に立っていたのは魂の状態として存在しているグリーンだ。


深層世界と混合した現実世界によって魂という知覚することが不可能な存在にすら今では存在を確認できる。



「これが俺様の子孫か。」



グリーンはウィルフォードを見た後、周囲のテロスの群れを見ながら問う。



「この状態では貴様らの世界に干渉することができない、まずは肉体が欲しい。」


「はい、あなたの記憶の断片を見ました。すでに準備は整っています。」






~十四日目~


9:00 現実世界

ストレンジャー拠点内部



脚を負傷しその場に倒れてもなお、前に進み続けようとするソフィア。


それを見たローレンはまるでソフィアを玩具のように痛めつける。



「あぁっ!」


「ヒッヒッ!やはり生身の部位は痛むかな?」



ローレンは自身の体外へと放出されたナノテックを触手のように伸ばしソフィアの脚を何度も刺突する。



それでもソフィアは進むことを止めなかった。



「何やら目的があるようだね…」



すでに自分の勝利を確信したような状況でローレンが笑い出す。



「ヒッ!ヒッヒッ!!ヒヒッ!!いいだろう、もう少し君の余興に付き合おうじゃないか!」


「うぐっ!」



ローレンは再びソフィアの脚を刺突し続け、あたりに血が噴き出す。


それを見ながら笑い続けるローレン。


すると地下の方で何やら爆発したような振動が起きる。


拠点が揺れる。



「これは…(アンドリュー…!)」



ソフィアは振動の正体がアンドリューのものであると確信した。


そして自分のいる地点から振動の大きさから拠点の地下でアンドリューとダニーが命を燃やしたのだと理解し涙するソフィア。



ローレンもまた拠点に響く振動を感じソフィアへの攻撃を止める。



「ふむ…これは爆発か?…そういえばヴィヴィアン君とも先ほどから連絡が途絶えてしまったな…」


「うっ…!」



だが、ローレンはすでに血塗れとなったソフィアの脚を踏みつけながら話を続ける。



「だが、彼のことだ。万一にあの二人がヴィヴィアン君に勝つことなど…」


「あるさ。」



ソフィアはローレンに強く言い返す。



「ん?まだそんな言い返す余力があったとはね…ヒッヒッ…」


「お前には…わからないさ…あの二人の覚悟を…!…そして私の覚悟もね!」


「!?」



ソフィアはローレンの方を振り向き自身のサイバーインプラントを構える。


それを見たローレンはサイバーインプラントに内蔵された武器をこちらに向ける気なのだと理解した。



「ヒッヒッ!無駄だよ、義手型のインプラントに内蔵できる武器の威力は把握している!その威力じゃ私を…」



ソフィアは自身のサイバーインプラントから衝撃波のようなものを放つ。


それを受けたローレンは予想通りと言わんばかりに攻撃を防ぐ。


ソフィアから少し離されるもローレンは自身の目の前にナノテックによる液体金属の壁を作り無傷で攻撃を防いだ。



「言っただろう?その威力じゃ…」


「その数歩離れた距離が欲しかったんだ!」


「!?」



すると突如、拠点の壁が壊れ車がローレンに激突する。


完全に油断していたローレンはもろに車に激突し、そのまま部屋の隅にまで引きずられる。



そしてソフィアが車のエンジン部分に銃で発砲を行うと車は大爆破する。



「計画通り…!」



ソフィアがそう叫ぶと部屋に入ってくるのはイヴリンとヴァイオレットだった。



「ソフィアさん…!」


「無事!?」



イヴリンが銃を構えながらソフィアを部屋の入口まで抱える。



「ありがとう…!二人とも…!」


「ほんとにギリギリじゃないですか…」



ソフィアは拠点にローレンが入り込み、逃げる最中にヴァイオレットと連絡を密かに交わしていたのだ。


ヴァイオレットたちもまた拠点に急行中だったことから運よくソフィアの救助に成功することができたのだ。


イヴリンは自身のナノテックインプラントを用いてソフィアの脚の傷を塞いだ。



「え!?イヴリン、もしかして…」


「ナノテックインプラントよ…ローレンあいつのよりは性能は劣るけど。」


「ちょ!?ちょっと待って…それ初耳!」


「いいから…!ソフィアさんはじっとしてて…!」



多少とはいえ関わりのあった人物に未知の技術を持った者がいたことで興奮を隠しきれないソフィアだが、ヴァイオレットに抑え込まれる。


すると爆炎の中からローレンが姿を現す。


しかし、その姿は先ほどとは異なり、全身液体金属のようなもので構成されており、とても人間とは思えない容姿となっていた。



「ヒッヒッ…やってくれたな…」



徐々に液体金属がローレンの皮膚を構築していき先ほどの通常の姿に戻っていく。



「これが…ナノテックインプラント…?」


「そう、体内に細胞サイズの自動プログラム化された機械を無数に使役している。

肉体の強化も修復も思い通り…」


「お前のはそこまでの精度じゃないだろう?イヴリン。」



ローレンは完全に修復した自身の肉体を満足げに見つめながらイヴリンに問う。


イヴリンは銃をローレンに向けながらこう言い返す。



「それでも私のおかげでその技術がお前に施せてるわけでしょ?」


「相変わらず反抗的な部分はなおっていないようだね…

それが実の父親に言うセリフかな?」



それを聞いたイヴリンは自身の片腕をナノテックで覆い、周囲に液体金属を放出した。



「母さんや私を実験台にしたお前が親を語るな!!」



イヴリンが解き放った液体金属がローレンを襲うが、ローレンはその攻撃を素早い身のこなしで回避する。


回避した箇所にイヴリンが銃で発砲を行うが、その銃弾を容易く弾かれる。



「ヒッヒッ…ナノテックの体外放出では細かな形状変化は不可、さらに肉体の修復はあくまで応急処置レベルの微々たるもの…

やはり試作段階と今の完成品を比べると天地の差だ。」



ローレンは天井を這いながら人間とは思えない動きでイヴリンの攻撃を回避しながら自身の分析を口に出す。


イヴリンはヴァイオレットに目で合図し後方に下がるように促す。


それに気が付いたヴァイオレットはソフィアに肩を貸してその場を離れる。



「ヒッ!仲間想いだな、その気持ちを私たちT.Z.E.Lツェルには向けてくれないのかい?」



ローレンは余裕の表情を浮かべながらイヴリンの攻撃を回避しながら近づいていく。


イヴリンの目の前に立つと即座に片足の筋力をナノテックによって肥大化させ強烈な蹴りをイヴリンに与える。



イヴリンは間一髪で自身との間にナノテックの液体金属を敷き攻撃の威力を和らげる。


しかし、それでも壁を破壊しながら蹴り飛ばされるイヴリン。



「うっ…!」


「実の娘を痛めつけるのは心が痛むが…”欠陥品”には何の感情も湧かないのでね…!」



ローレンは自身の掌から虫型のナノテックを複数放出しイヴリンを襲わせる。


イヴリンは再び自身の腕からナノテックによる液体金属を放出し、虫型のナノテックの動きを封じる。


だがすでにその頃にはローレンがイヴリンに接近してきており、イヴリンは銃で応戦する。



銃弾がローレンに当たる直前でローレンは全身を液体のように分散し、まるで蛇のようにイヴリンに近づく。



「!!」



イヴリンに十分近づくと分散した液体金属が集合しローレンの肉体を形作りイヴリンの首を絞める。



「うぐっ!」


「一度手元を離れた欠陥品はもういらない。」



ローレンはそう言うとイヴリンの首を掴んでいる腕を液体金属化させ天井に押し付ける。



「っあぁあ!!」



天井に押し付けられたイヴリンは血を吐きながら苦しむ。


吐血した血がローレンの顔に降り注ぎ、ローレンはさらに力を込めていく。


徐々に天井にヒビが入り、イヴリンは口だけでなく鼻や耳からも血を流していく。



「あ"ぁぁあ"あ"あ"!!!」



とてつもない痛みで声をあげるイヴリン。



「ヒッ…ヒヒッ…ヒッヒッヒッ!!!」



さらに笑みを浮かべ、ローレンは力を強めていく。



…がその時だった。



一発の銃弾がローレンの眉間に直撃する。


銃を発砲したのはヴァイオレットだった。



「イヴリンさんを…離せ…!!」



奮える足を必死にこらえながらイヴリンの銃をローレンに向けて放ったのだ。


しかし、眉間に受けた傷はナノテックにより修復していく。



「ヒッ…悪いが、その程度の攻撃じゃ私には何の意味もないぞ。」



ローレンは依然イヴリンを天井に押し付けたままヴァイオレットに狙いを定める。


だが、ローレンがヴァイオレットに狙いを向けた直後、壁や天井が崩れはじめ、拠点が凄まじい振動と共にテロスの群れが現れる。



「これは!?」


「私…たちが…何の策もなしに…お前に…挑むと思ってんのは…間抜けもいいとこだよ…!!」



イヴリンが天井を自身のナノテックで破壊してローレンの腕から解放される。



テロスの群れはローレンやイヴリン、ヴァイオレットに構わず周囲を破壊しながらこちらに襲い掛かる。


それをイヴリンは自身のナノテックでヴァイオレットを囲みテロスの群れから身を守る。



「ヒッ!テロスを相打ち覚悟で差し向けるとはね…!」



ローレンは襲い掛かるテロスの群れに攻撃を仕掛けようとするが…



「っ!?…な…んだと…!?」



突如、動きが鈍くなるローレン。


先ほどの眉間の傷が修復せずに血を流し始める。



「これは…!電磁パルス弾…!」



そう、先ほどヴァイオレットが発砲したのは通常の銃弾ではなく機械類に一時的に電磁波を与え機能停止させる電磁パルス弾だ。


それを眉間に受けたローレンは自身に施したサイバーインプラントに不調が生じ、テロスの迎撃に対応できなくなる。


動きが鈍くなり思うように身体を動かすことのできないローレンに構わずテロスの群れは襲い掛かる。



「ぐっ!」



テロスに全身を貪るように食いつかれるローレン。


ローレンは無理にナノテックを体外に槍状のようにして放ち自身を囲むテロスを串刺しにするが、次々と現れるテロスの群れに抵抗することができなくなる。



「くそっ…!」


「ソフィアさん…!」



ヴァイオレットがソフィアにあるものを渡す。


それを受け取ったソフィアはパソコンにそれを接続し何かを操作しはじめる。



イヴリンは自身の首元をナノテックで修正しながらヴァイオレットたちのもとに避難する。


テロスがヴァイオレットの方にも襲い掛かるが、イヴリンが自身のナノテックで守る。



「はやく!」



イヴリンがテロスの攻撃を防ぎながらソフィアを催促する。



「ちょっと待ってって…!」



負傷しながらもソフィアはパソコンを操作し続ける。


するとイヴリンが放っていたナノテックの壁が壊れる。



壊れた先には血を出しながらもこちらに近づいてくるローレンがいた。


ローレンの後ろにはテロスの死体が散らばっていた。



「ヒッヒッ、これくらいの策で私を倒せると思っていたのかね…」



ローレンの全身至るところから見えるのはサイバーインプラントによる機械の肉体部分だった。



「やはりね…」



イヴリンは小さく呟く。


ローレンの体内から露出したサイバーインプラントを隠すようにナノテックが皮膚を作り出し修復していく。



「ヒッ…サイバーインプラントが施してあることなど見ればわかることだろう?そこまで鈍く育てたつもりはないのだがね…」



ナノテックインプラントだけでなくサイバーインプラントも自身に施していたローレン。


だが、それはすでに片腕が義手となっているローレンを見れば誰もが気が付く。



イヴリン達の狙いは…



「さて…そろそろ…この余興にも飽きてきたところだしね……ん?(身体が…)」



自身の異変に気が付くローレン。


脚が思うように動かすことができない。


ローレンは自身の脳内インプラントから自身の肉体の状況を診断した。



「っ!…まさか…!…これを狙って…!」


「ふぅ~…ギリギリセーフってとこかな」


「や、やった…!」



ソフィアやヴァイオレットの安堵する様子を見てローレンはソフィアが先ほどから操作していたパソコンの画面を見つめる。



「くっ…そ…!(やられた…!)」



ソフィアはローレンと対峙していた時点で、彼のサイバーインプラントに狙いを絞っていた。


サイバーインプラントには政府側、すなわちT.Z.E.Lが支配下におけるようアポカリプスウイルスが仕込まれている。



そしてそのアポカリプスウイルスの抗体を開発したソフィアはその抗体をローレンの体内に入れることを考えた。


仮にローレンのサイバーインプラントにもアポカリプスウイルスが存在しているのであれば、自身の抗体からウイルスを制御し僅かの間だけでもローレンの動きに制限をかけることができるのではないかと。



そしてソフィアの予想は…



「見事的中…!」


「イヴリンさん…!」



イヴリンがローレンに向けて銃を構える。


それを見たローレンは咄嗟に自身のナノテックを操作しようと試みる。


だが、



「くそっ…!」



自身の体外に放ったナノテックはドロドロと崩れていく。



「お前がサイバーインプラントを施しているなんて最初から知ってる…私たちの狙いは…」



徐々にローレンの目や鼻からナノテックによる液体金属が漏れ出す。


明らかにローレンの体内で異常が起きているのだ。



「ヴァイオレットの電磁パルス弾を受けたお前は一時的にだけどサイバーインプラントが使用できなくなった。

その途端、さっきまで使用していたナノテックを器用に扱えなくなっていた。」



イヴリンの言葉に続いてソフィアが話を続ける。



「それで私の作った抗体の出番ってわけ!

お前のサイバーインプラントを制御下に置いたらお前はその液体金属を制御できないんじゃないかってね!」


「貴っ…!…様ら…!」


「そして、お前の体内にはさっきの戦闘で私のナノテックも忍ばせた。」


「!!」



ローレンはそれを聞いて察したのだ。



自身の結末を。



サイバーインプラントの不調により自身のナノテックインプラントを器用に操作することは不可能となった。


それだけでなく、イヴリンが自身に忍ばせたナノテックによって自身の体内は完全に彼らの思うがままとなっていたことに。



「くっ…そぉ…!!!」



激しく怒るローレン。


しかし、それに比例するかのように自身の肉体からボコボコと液体金属が溢れ出ていく。



「結局はお前もウィリアムと同じでサイバーインプラントを併用しないとナノテックを制御しきれていなかったわけだね。」


「うっ…こっ…のぉ…!!」



すでに人としての原形も崩れていき、体中から液体金属が零れるおぞましい容姿と成れ果てているローレン。



「いつものように笑ってみろよ…この欠陥品が!!」


「うっ…がぁっ!!」



イヴリンの怒りの声と共にローレンが爆散する。


あたりにローレンの血肉とナノテックによる液体金属が飛び散る。



「はぁ…終わったぁー…」



ローレンの最期を見た後、壁にもたれながら安堵する表情を浮かべるソフィア。


イヴリンは重傷の状態でもなお、部屋を出て地下に向かおうとしていた。




そう、ダニーやアンドリューがヴィヴィアンと戦っていた場所へと。



「イヴリンさん…!少しは休まないと…!」


「地下にいかなきゃ…ダニーが…」



イヴリンを止めようとするヴァイオレット。


だが、ここに来る道中イヴリンが声に漏らした人物をヴァイオレットは思い出す。



それはイヴリンがダニーを想う気持ちだった。



その発言からヴァイオレットが想う人物、ハイドが自身の脳裏にも浮ぶ。


そしてヴァイオレットは決心した。



「イヴリンさん、一緒に行くよ…!…ダニーさんに伝えるんでしょ?」



ヴァイオレットはイヴリンの手を握りともに地下へと向かう。



「えぇ〜…二人ともちょっと待ってって〜…」



それ見たソフィアが少し弱音を溢す。






~十四日目~


9:00 現実世界

セントラルエリア



場面はセントラルエリアの都市部。


そこでは多くのビルが倒壊し、人々やテロスの死体が散らばっている。



「シュレディンガー、マダカ!?」


「もう少し彼を引き付けるんだ…!(ウィルフォード殿は一体何を…)」



慌てている様子の二人の影。


それはブラッドフォードとR-01だった。



ウィルフォードの指示によりヘーロスを足止めする役を買って出たブラッドフォード、R-01、R-04、R-05の四人。


しかし、今迫りくるヘーロスの腕にはR-04、R-05の亡骸が掴まれた状態でこちらに迫ってきていた。



すでに足止めをしてから1時間は経過している中でいまだウィルフォードからの連絡が来ないことでブラッドフォードは焦りを見せていた。


ヘーロスに向かって機械兵や周囲の人間が襲い掛かる。


ヘーロスは冷酷な表情をしながら自身の手に持つR-04とR-05の亡骸を周囲に投げ捨てる。


すると、とてつもない速度による投擲によって人々や機械兵がバラバラになる。


それでも襲い掛かる機械兵を前にヘーロスは地面を殴ることで周囲の機械兵を衝撃で浮かし、その隙に次々と機械兵を破壊していく。



「くっ…!」



その場にいる誰もが思った。



生身の人間が行える動きじゃないと。



現実世界ではパラフィシカーによる特殊な能力も、サイバーインプラントなどによる装備も身に着けていない。


あるのは長年使い続けているナイフと殺しの技術、そしてヘーロスが持つ純粋な身体能力。


だが、その身体能力に勝るすべが存在しない。


そう思えるほどに迫りくる男は常軌を逸していた。



ブラッドフォードは周囲の人間で自身の身を隠しながらヘーロスから距離を取る。



「バカだな。」


「!?」



ヘーロスは僅かに開いた人々の隙間にナイフをブラッドフォード目掛けて投げる。


そしてそれと同時にヘーロスもナイフと並行して走りだしていた。



ナイフの攻撃をなんとか腕で防ごうとするブラッドフォードだが、銃弾に匹敵する速さで飛ぶナイフはブラッドフォードを貫通し、さらにその先にいるR-01の腕に突き刺さる。


そのナイフが突き刺さったことでR-01はナイフに引っ張られる形でビルに衝突する。



「R-01!」


「他人を心配してる場合か?」


「なっ…!!」



すでにブラッドフォードの目の前まで接近していたヘーロスによって腕を引き千切られるブラッドフォード。


そんなヘーロスの表情は悪魔そのもの。



「(この男は…一体何なのだ…!!)」



腕を引き千切られるもすぐに自身のバイオインプラントによって腕を再生させていくブラッドフォード。


それを見たヘーロスは心の内でブラッドフォードの肉体を分析する。



「(再生系バイオインプラント、だが欠損した部位が再生しているのを見るに他にもタネがありそうだな)」



ブラッドフォードの腕が再生しきる前にヘーロスは拳でブラッドフォードを殴り続ける。


そのあまりにも早い拳速によって、ブラッドフォードの肉体が徐々に破壊される。



建物の壁に打ち付けられたブラッドフォードの容姿はすでに骨がところどころ見えた屍のような状態であった。


だが、それでもなお再生が行われる様子を見てヘーロスは理解した。



「アドルフが言っていた液体金属の技術か。(それと併用して再生系バイオインプラントの再生力を高めているのか)」


「我らT.Z.E.Lが編み出した最高技術、ナノテックインプラントだ。(ここまで再生に時間がかかるとは…)」



ブラッドフォードは自身の肉体の損傷があまりにも激しくナノテックインプラントとバイオインプラントを併用してもなお、再生に時間がかかることに驚愕していた。


だが、ヘーロスが気になったのはナノテックインプラントのことだけではなかった。



「そこまでバイオインプラントが定着するにはかなりの時間が掛かるはずだ。

それこそ…1世紀以上の年月がな。」


「ほう…。」



ブラッドフォードが自身の肉体の再生を終える。



「お前、一体いつから生きている。」


「いつから…そう聞かれると返答に困るな…長い年月を生きれば時の流れなど些細なものだ。」


「数世紀にもわたる高貴なシュレディンガー家、その当主がまさか1代で[[rb:潰 > つい]]えることになるとはな。」



そう言うとヘーロスはさらに殺意を放ちブラッドフォードに向かう。


自身に向かってくる世界最強の男を前にブラッドフォードは冷や汗を滲ませながら笑みを浮かべていた。




戦闘能力ではこの男に勝てないことは百も承知。


だが、私の持つ140年以上細胞に定着させたこのバイオインプラントとウィルフォード殿が開発したナノテックインプラントさえあれば時間は稼げる。




そうブラッドフォードは考えていた。




だが、




「なっ…」




寿命を克服し、不死に近しい再生能力も手に入れた。


そんな生命の理を逸脱したブラッドフォードおとこが140年間忘れていたある感情が沸き上がる。






ブラッドフォードが再び瞼を開いたときにはヘーロスはすでに自身の目の前にいた。


反応する間もなく自身の胸が貫かれる。



「(そうか…長年生きていたことで忘れてしまっていた…)」






ブラッドフォードおとこは悟った。


長年この世を生き続けたが故に、


長年死に瀕さなかったが故に、


生命が決して忘れてはならない本能、



”死の恐怖”を忘れていたことに。






胸を貫いた後、へーロスはすかさず周囲に落ちていたガラスの破片をブラッドフォードの脳に突き刺す。


ブラッドフォードは力なくヘーロスの腕を掴もうと抵抗をするが…



「終わりだ。」



ヘーロスは目にもとまらぬ速さでブラッドフォードの脳に何度もガラス片で突き刺し続ける。



急所を何度も再生が追い付かないほどの速さで突き刺されたブラッドフォードの腕が力なく垂れ下がる。



ヘーロスの目の前には頭部の原形がなくなったブラッドフォードの亡骸が壁にもたれ掛かっていた。


その様子を片腕を失いつつも倒壊したビルから這い上がってきたR-01が見つめる。



それを背後から感じ取ったヘーロスが横目でR-01を睨みつける。



「次はお前だ。」



”英雄”は止まらない…

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