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ハイド  作者: じょじょ
ハイド 最終章 ~天地神焉記~

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1話「星々の序章」

平穏と混沌の狭間で何を語る。

~五日目~


23:00 現実世界

セントラルエリア・路地裏



「はぁ…あっ…はぁ…」



路地裏で血を流しながら自身の身体を引きずりながら歩いているのはベロニカ・Jジーン・アルハンブラだ。



彼女はシュレディンガーエンタープライズ研究施設でアイザックとストレンジャーのエヴァたちと対峙した。


だが、アイザックの実力には歯が立たず片腕を失う状態に置かれたベロニカ。


そしてイヴリンの率いた|H.U.N.T.E.Rハンターの隊員による施設内部の主電源の破壊、そしてソフィアによる反撃によって施設は混乱状態に陥った。


その隙を見計らいベロニカは何とか研究施設の脱出に成功したのだ。



「ちっ…アイザックのクソがっ…!」



ベロニカの悪態は自身の失った片腕が原因ではない。


片腕だけであれば、またサイバーインプラントを装備すればいい。


問題は、そこじゃない。



「体内の…代謝回路と運動補助装置が…破損してやがる…!」



アイザックとの戦闘でベロニカは体内でいくつかのサイバーインプラントが破損していた。


O.Sオーバーショックの一歩手前まで自身を改造しているベロニカの見た目は華麗な美女であっても、その体内に内蔵された機械によって、もはや女性一人の筋肉量では行動が不可能なほど全身にサイバーインプラントを施していた。


それを補う装置が破損した今、ベロニカは路地裏で壁にもたれかかることしかできなかった。






「苦しそうだね、ベロニカ君。」


「あなたは…」



ベロニカに声をかけたのはウィルフォードだった。


今回、ベロニカとその妹であるララにストレンジャーと研究施設内にいるマッドネスジョーカーを抹殺するよう命じた張本人だ。


ウィルフォードの後ろには護衛人のヴィクトールもいた。



「君は妹を見捨てたのかな?」



ウィルフォードが問う。


それを聞いたベロニカはウィルフォードに怒りの眼差しを向けた。



「好きで…そうしたとでも…思ってんのかよ…!」



普段は妹のララとは対照的に女性に似合わぬ粗暴な態度と発言をしているベロニカでも妹を愛してはいた。


イヴリンによって頭部を潰されたララを運べずに自分だけその場から逃げたことに何の抵抗もないわけではない。



ベロニカはいくら組織のトップとはいえ、自身の想いを知っておきながら先のような問いをしたウィルフォードに怒る。



「フッ、残念だ。君の死に場所は妹と一緒がよかっただろうに。」



そう言うとウィルフォードがヴィクトールに合図をする。


ヴィクトールは速やかにベロニカの身体を地面に押し付ける。



「なっ!?…てめぇ…!!…最初から…!!」


「あぁ、その通りだとも。わざわざ有能な者をリスキーな場所に向かわせるわけがないだろう?

おっと、ヴィヴィアン君は例外だがね。

彼は君ら姉妹や私の息子と違い組織の戦力として大いに役立ってくれているからね。」


「あぁっ!!!」



ヴィクトールが無慈悲にベロニカの両脚を破壊する。



「じゃあね、アルハンブラ家。

儚い数世紀を歩んだ卑しい古代人の雑草。」



ウィルフォードの指示によってヴィクトールがベロニカの頭を踏みつけ徐々に力を込めていく。



「クソがぁ!!」






路地裏に聞こえた何かが潰れる音。


その音を街で聞いたものはいなかった。






~五日目~


23:00 現実世界

セントラルエリア・高層ビル付近



「これは…(ソフィアとリアムか)」



ダニーが見たのは、ドローンが市民に化けたマッドネスジョーカーを無力化している光景だった。


アドルフがウィリアムやフランシスコと対峙していた場所、機械工場で起動していたドローンをハッキングし、ここ高層ビル付近にまで向かわせていたのだ。



こんな芸当ができるのはソフィアとリアムくらいだと確信したダニーは負傷した仲間や市民を避難させていく。


ダニーは途中、研究施設に向かったイヴリン達に増援を向かわせるべく仲間を集う。



「誰か!動けるやつは研究施設の方へ」


「必要ない。」


「隊長…!?」



だが、そこに現れたのはH.U.N.T.E.Rの隊長ヴィヴィアンだった。



「ダニー、お前に少し話がある。」


「…わかりました。」



ダニーはヴィヴィアンと二人で車に乗る。











フランシスコ、アイザックが率いるマッドネスジョーカーが引き起こした大規模計画テロは僅か数日で幕を閉じた。



それはストレンジャーやH.U.N.T.E.Rの活躍だけでなく、影で暗躍する者たちの恩恵によるものだとは誰も知る由もない。






~六日目~


10:40 現実世界

ノースエリア・とある墓場



翌日、マッドネスジョーカーの騒動が収束した朝方。


とある墓の前に立ち止まり酒を飲む男の姿があった。


その3つの墓に声をかける男。



他の墓や左右に並ぶ墓よりも中心の墓はいびつな形をしているも、そこにはナイフのようなもので刻まれていた。




“エリック・ベルモンテここに眠る”




ヘーロスはエリックの墓に銃を置く。



「ここなら父さんや母さんと一緒だ。」



左右に並ぶ墓は父や母の墓だった。


ヘーロスは父の墓に自身の持つ酒瓶を置き、母の墓には花を置いた。



「まだ仕事があるんだ。

お前が散らかした分を片付けないといけないからな。」



ヘーロスはエリックの墓を見つめる。



「…もっと早くに伝えればよかった…って今では思うよ。」



ヘーロスは先日のエリックとの戦いを思い返す。


エリックが息絶える直前にヘーロスはエリックを抱きしめ、自身の想いを打ち明けた。


それはヘーロスがずっと心に秘めていた本心だ。



弟が最期に流した涙を忘れることはないだろう。



「ごめんな、不甲斐ない兄さんで。」



ヘーロスはエリックの墓を見つめながら静かに表情を歪める。



その表情は己の選択で弟は殺戮への道へと進み、父や母の約束すら果たすことのできなかった自分への怒りと悔しさ、


そして最愛の家族を失った悲しみからくるものだった。



そこに一本の連絡がヘーロスに入る。



「俺だ。」


「ヘーロス、私は今からアウトエリアに向かいます。」



ヘーロスに連絡をよこしたのはアドルフだった。


アドルフは逃亡したフランシスコに密かにつけた発信器を頼りにとある場所に向かっていた。



アウトエリア、そこは現実世界で6人の機械生命体が居住を許された地区だ。


そこでは、機械生命体が独自に発展させた技術や文明が広がっているとされている。



「なぜ、アウトエリアに…そこは…」


「えぇ、承知しています。

ですが、フランシスコを追う以上やむを得ない。」


「フランシスコが…?アウトエリアに…?」


「奴を始末した後、私はリアムと協力してレヴァリィ世界に戻るつもりです。

エヴァの状況も不安ですから。」


「わかった、俺は一度ソフィアのもとに戻って手当てをしに行くつもりだ。」



それを聞いたアドルフが少し表情を変える。



「…君が怪我を?」


「…あぁ。」



ヘーロスはエリックの戦いで負傷した腹部の傷と肩の傷を触りながら答えた。


勘のいいアドルフはヘーロスに傷をつけた人物がエリックだとすぐに理解した。



そして、その勝負の結末も。



「…ヘーロス、」


「問題ない、お前のことだ、状況は理解してるだろ…?」



ヘーロスの言葉を聞き、アドルフは納得した表情を浮かべた。



「えぇ、そうですね。君を誇りに思うよ。」


「通信終了。」



ヘーロスはその場を立ち去る。






~六日目~


10:50 現実世界

アウトエリア・境界付近



ヘーロスとの連絡を終えたアドルフはそびえたつ大きな壁を見つめる。



「アウトエリア…か。」



アドルフはフランシスコの発信器が現在もなお、アウトエリア内部で動き続けているのを確信する。



「よし…」



アドルフはアウトエリアに向かって歩き出す。






~六日目~


13:40 現実世界

ストレンジャー拠点内部



「今回はかなり怪我を負ったね~」


「数日休めば問題ない。」



拠点に到着したヘーロスはソフィアに怪我の治療を施してもらっていた。



「ヘーロスさん、俺も…」


「気持ちはわかるが、アンドリューお前はここにいてくれ。」


「私たちもアンドリューは戦線に向かわせるべきだと思うんだよねー」


「うん…僕もそー思う。その方がヘーロスさんやアドルフさんの負担も軽くなるし…」



ソフィアとリアムの二人もアンドリューの想いには賛成だった。



昨日、オルガを失ったことでストレンジャーに重苦しい空気が漂う。


ヘーロスを含めたメンバーの全員が自分の行動を悔やんだ。



自分がとった行動は本当に最良の選択だったのか…と。



特に拠点内部で待機していたアンドリューはなおさらだ。


ソフィアやリアムと違って機械への知識は人並み程度、自分ができることとすれば仲間を守ること、敵と対峙することくらいだ。


アンドリューの気持ちを汲んだヘーロスは立ち上がり、アンドリューの肩に手を乗せる。



「別に何もするなとは言わない。

だが、お前の力は俺やアドルフよりも守ることに長けている。

だから…頼んだんだ。」


「わかりました…」


「それにレヴァリィ世界での傷も癒えてないだろ、数日たったら俺を探して戻ってこい。」


「!!」



アンドリューの表情が明るくなる。


今の自分が最も欲しい言葉、それは尊敬する人が自分を必要とする想いだ。



「よしっ!んじゃヘーロスも久しぶりの現実世界なのに、昨日まで忙しかっただろうから、私が腕によりをかけて料理でも…」


「あー!やめろ!ソフィア!今日は俺がやるから…!」


「はぁ~!?何言ってんの!アンドリューができる料理なんて肉を焼くことくらいでしょ!」


「…今日は俺が作るつもりだ。二人は黙って休んでろ。」



ヘーロスが二人をソファに無理矢理座らせる。


料理を作りに向かうヘーロスを二人はしばらく見つめるとお互い沈黙する。


その横で食事ができると聞いて嬉しそうな表情をしているリアムが言う。



「えへへ…僕は誰の料理でも大好きだよー!」


「!!」



よだれを垂らしながら笑顔で発言するリアムを横でアンドリューがソフィアの前でそれを言うなとばかりに睨む。



「ほら~リアムもそー言ってるって~」


「リアム、そこの菓子食べていいから黙っててくれないか…」



四人はしばらくの間、ひと時の休息をとった。






~八日目~


20:00 現実世界

アウトエリア・地区Ⅳ



「ここですか…。」



アドルフがアウトエリアに侵入して二日が経過。


周囲に警戒しながら、自身も休みを取りつつ着実にフランシスコのもとに接近していたアドルフはようやく彼の隠れ家に到着する。



奇襲に備えて常時緊張状態で部屋の窓を慎重に空けて侵入するアドルフ。



「もぬけの殻…(に見せている…)」



部屋の中には人気が一切なかった。


だが、アドルフは長年の暗殺者としての経験によってこれが見せかけのものだと理解する。


自身の発信器を見つけるアドルフ。



「バレていたか…」



フランシスコはアドルフが密かに忍ばせていた発信器に気が付いていたようだった。


発信器を取り外し、この部屋に籠っていると見せかけていたのだ。



だが、何のために…?



「普通に考えれば、罠でしょうが…」



アドルフはこれが罠による目的ではないと考えた。



理由は2つ。


1つ目にフランシスコは片腕を失い重傷を負っていること。



いくら二日経ったとはいえ、癒えているほどの浅い傷ではない。


罠を仕掛けるくらいなら、自身の手当てに専念するだろう。



2つ目はここアウトエリアとフランシスコの関係だ。


アウトエリアは機械生命体が住まう地区、一般の人間は侵入が不可能とされるエリアだ。


現にアドルフもアウトエリア内部に侵入をするだけで数時間は綿密な計画を立て、細心の注意を払ってようやく侵入が可能となる。


以前からアウトエリアに独自に侵入し機械生命体と何らかの交信を行っていたフランシスコのことだ、侵入は容易でも土地勘や罠を仕掛けられるほどの時間や余裕もなかったはず。



「となれば…時間稼ぎ…ですか。」



アドルフは以上の理由からフランシスコはこの部屋に罠を仕掛けたのではなく、自身の協力関係にある機械生命体との連絡時間の確保、および彼らの助けを待っていると考えた。






アウトエリアは広大だ。


フランシスコが機械生命体を呼び、私に反撃を開始するまでに最低でも数日はかかるでしょう。




いいだろう、フランシスコ。


お前の誘いに乗りましょう。




「幸い、こちらもここ数日動き続けたことですからね…」



アドルフは窓から照らされる月を眺めながら床に就く。



「…リアム、私の現在地を常時追えるようにしてください。」



アドルフはリアムの連絡を済ませた後、静かに浅い眠りについた。






~九日目~


12:00 現実世界

アウトエリア・境界付近



「んで、やっぱそっちには来てねぇのか?……わかった、進展あったら伝えろよ、カロライナ。」



翌日、アウトエリアのそびえ立つ壁を遠方から見つめながらレヴァリィ世界のカロライナに連絡をしていたのはクリスだった。



「あと五日か。」



束の間の静寂にて…

読んでいただきありがとうございました。

読者のみなさま、いよいよ最終章の突入です!!


これまで数々のキャラや世界観が登場してきましたが、一体どのような結末を迎えるのか…

読者にみなさまの目で直接この物語を見届けてみてください!


次回2話をお楽しみに!

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