12話「創生記」
古き時代に残る終焉、
新たな時代に芽吹く創生、
双方の時代に座すは汝が目撃する。
~??日目~
深層世界 無意識領域
1万年前、ラグナロクが己の力をリベルに授けた際の条件、
それは…
「再びこの空間に来ること、私の名を呼ぶこと、…そして以上の条件を記憶に残さないこと。」
「なっ…」
ラグナロクが徐々にリベルの身体に入り込んでいく。
まるで金属のような触手がリベルの皮膚を突き破り体内に進んでいく。
「私はお前らのように肉体や魂とやらの概念はない。
つまり、死というものも存在しないわけだ。」
ただ、眠る。
ラグナロクが活動する以外で唯一行う行動だ。
1万年前、ハイドとブラック・ベルモンテによってリベルの肉体は死亡した。
それにより体内に宿っていたラグナロクもまた、活動を停止したのだ。
だが、それは死したわけではない。
再び自身が存在すべき空間で眠り続けたのだ。
だが、
名とは特別な存在。
それは人間や古代人、超常の存在であるラグナロクでも例外ではない。
名とは己を示す唯一無二のものだ。
これまで名を呼ばれることも名乗ることも必要なかったラグナロクですら己の名は誕生したその日から知っているのだ。
「名を呼ばれればその者は呼応する。リベル、お前のおかげで私は眠りからまた覚めることができた…感謝する。」
「リベル…!」
ラグナロクが完全にリベルの体内に入り込む。
それを止めようとハイドが攻撃をしかけようとするが、リベルの体外から放出されたラグナロクの触手によって振り払われてしまう。
「お前はあの頃から…本当に醜いな。
かつては兄を救うために己の命を振るい、今度は何を求めてその命を振るう…?」
「リベルを…返せっ…!」
「こいつはもうお前の兄ではない、兄の容姿と記憶の断片を持った別人だ。
お前は過去の記憶に縛られすぎだ。」
そう言うとラグナロクはハイドに急接近して重たい一撃を腹部に与える。
激しく血を吐くハイド。
「お前に興味はない。あるのは…あの男だ。」
ラグナロクはかつてハイドと共に自身と相まみえた黒髪に赤眼の男を思い浮かべる。
その場を去るラグナロク。
「ダメ…だ…。」
ハイドは消えゆく意識の中でラグナロクに手を伸ばそうとし、意識を失う。
一方で己の能力で新たに肉体を保持したグリーンを生み出した魂のグリーンは何かに気が付く。
「どうした。」
もう一人のグリーンが尋ねる。
「リベルの魂が…呑まれた。」
魂の願いを具現化する能力を持ち、己自身も魂の状態であること、そしてそれが魂の混在する深層世界・無意識領域であることからグリーンはリベルがラグナロクに魂を取り込まれたことを察した。
「もしかして…あの存在にか…?」
肉体を持つグリーンが魂のグリーンに問う。
「おそらくな。(だが、どうやって“あれ”が目覚めた…?)」
「貴様らは何者だ。」
「!!」
「!?(いつの間に!?)」
二人のグリーンの間に姿を現すラグナロク。
それは瞬間移動の類ではなく、ただ素早い身のこなしで近づいてきたものだと理解したグリーンたち。
「…?…お前たち…同じ魂を保持しているな…どういう原理だ?
それに…あの二人も…私が以前に知っている生命とは組成が違うようだな。」
ラグナロクがそう呟く中で、魂のグリーンが答える。
「素晴らしい、リベルの記憶と知識を汲み取り、現状をここまで理解できているとは…」
「(こいつはヤバイ…!!)」
アダムが直感でラグナロクの危険性を感じ取り、イヴに目を合わせる。
「(うん…!)」
イヴもすぐにアダムの表情を読み取り、目で返事をする。
二人はラグナロクにグリーンたちが気を取られているうちにその場から離れようと試みる。
「お前こそ、どうやって目覚めた。」
「俺様がかつてこの空間で見たときお前は…」
「(今だ!)」
イヴは自身の腕を伸ばしアダムを抱え、その場を離れようとする。
だが、それに気が付いたグリーンはイヴの走る地面を自身の能力で棘上にしてイヴの片腕を串刺しにする。
「うっ…!!」
苦しむイヴだが、唇を噛み締め自身の腕を引き千切りその場を逃げ切る。
「チッ…」
逃がしたことで悪態をつく肉体のグリーン。
「あの二人を逃がしたところで意味はないだろう。それより…」
そうラグナロクは静かに分析する。
そしてラグナロクは殺気の籠った目つきでグリーンたちにこう続ける。
「お前らを逃がした方が危険だと…この肉体は言っているぞ。」
「!!」
肉体のグリーンが殺気に気が付き、臨戦態勢を取ろうとするが、それを制止する魂のグリーン。
「そう焦るな、超常体。」
「ラグナロクだ、名がある。」
「それは失礼したな、俺様はグリーン・ウィザースプーン。
そっちにいるのは訳あって先ほどの小僧の一部から俺様自身を生み出したものだ。」
魂のグリーンがラグナロクに説明する。
「ほう、お前らの力か。」
「あぁ、貴様の目的は知らないが、俺様の能力が役に立つのは間違いないと思うが。」
それを聞いたラグナロクがしばらくグリーンを見つめる。
その沈黙の間は、長くも短くも感じた。
「いいだろう、だが…お前らの指図も目的にも興じるつもりはない。
私が利用するときにお前らを使うだけだ。」
「ククッ…いいだろう。」
ラグナロクは殺気を解くと無意識領域の空間に手を当てる。
「何をするつもりだ。」
肉体のグリーンがラグナロクに問う。
「この空間と現実の境界を崩す。」
「そんなことが?」
「以前はハイドが世界の綻びを生ませていたおかげで簡単にできたが、今回は賭けだな。」
そういうとラグナロクは力を込めだす。
肉体のグリーンは反対方向を向き、ラグナロクにこう言う。
「俺様はやっと肉体を持てたんだ。
これからレヴァリィ世界に向かう。」
「…なるほど。
お前らがわざわざ二人になったのはそう言った理由か。」
「察しがよくて助かるな。」
魂のグリーンがラグナロクの横に並び、同じく空間に手を当てる。
すると空間の壁が徐々にだが、ひび割れていく。
次第に空間が割れはじめ、大きな空間の歪みが発生する。
「お前、何をした。」
「貴様の力に俺様の願いを少し込めただけだ。」
「まぁ、いい。」
二人が見つめた先には現実世界の光景が広がっていた。
「以前は…少々、己の力に酔いしれ過ぎたが…今回は慎重にいこう。」
そうラグナロクがいうと周囲の空間に手を当てる。
すると周囲に次々とテロスがあふれ出す。
ハイドとリベルが戦った際にも見せた進化の意慾の力だ。
ラグナロクは深層世界の無意識領域に混在するこれまで命を落とし来た者たちの魂から肉体の情報を探り、進化の意慾によってテロスを生み出していく。
「ほう、時間とは面白いものだ。私が以前見た景色と随分と変わっているな。」
「それが、世界というものだ。」
グリーンがラグナロクを見て答える。
~十一日目~
6:00 レヴァリィ世界
アロガンティア大国・西部都市
「これで、」
「最後だな。」
兵の一人の息の根を止めるレオンハルト。
ラグナロクが深層世界の境界を壊す数刻前、レヴァリィ世界ではジョージ王の率いた兵を全て一掃したアローラたちがジェシカ王女と合流していた。
「ラファエル、状況は?」
「見ての通りさ、王女さま~…。」
「貴様、王女の前だぞ。なんだその態度は」
「いいのよ、ルーク。この都市を守ってくれてありがとう。
聖騎士団の方々にも感謝しかないわ。」
ジェシカ王女がウォルターやアローラ、その他大勢の西部都市を守り抜いた者たちに心から感謝を述べた。
ジェシカ王女の前にアローラ、サフィーナ、スードの三人が前に出る。
「王女、我ら聖騎士団は7大国全ての平和のために結成されました。
あなたのお力をどうかお貸しください。」
アローラに続いてサフィーナとスードも膝を着きジェシカ王女に頭を下げる。
もちろんよ、平和を求めるのは私も同じ。
これまでのような閉鎖的な制度は己の世界を狭めるだけ。
今よりアロガンティア大国はグラ大国、アセティア大国に続いてリヴィディン大国とインビディア大国の同盟に賛同します。」
ジェシカ王女の発言の後に聞こえる小さな拍手の音。
その音の方向に皆が振り向くと、そこにはアイヨが笑顔で同盟を祝う姿があった。
それに続いて、ジェシカ王女についてきた都市の民たちも徐々に拍手を行う。
次第に拍手はジェシカ王女たちを包み、都市全体に響き渡るほどとなった。
「すごい…」
民の拍手する様子を見てレタが圧巻とされている。
アローラがレタの頭に触れ、優しく答える。
「これが平和を待ちわびる民の姿だ。
俺たち聖騎士団はその期待に応えないとならない。」
「でもさ~アロガンティア大国はもう1人王がいるんだよ~…?
その男にも許可を得てからじゃないと同盟なんて…」
「黙れ。」
ウォルターがアローラやジェシカ王女に口を挟もうとするが、横でレオンハルトが暴虐の縄をウォルターの首に向ける。
「新たな平和の時代への門出だ。茶々いれるなら消えろ。」
「きみ、そんなこと言うタイプだったの~…ちょっと残念かも~…」
「…平和を…憂いて悪いかよ…」
ウォルターの煽りに少し声を小さくしてつぶやくレオンハルト。
「だが、たしかに死神の言う通りだ。まだジョージ王がいる。
戦いは終わってはいない。」
ロイフがアローラたちに言う。
それを聞いたアローラは面倒くさそうに頭を掻きながら、こう答えた。
「わーかってるって、なんのために俺たちがいると思ってるロイフ。」
ロイフを見つめながら、間を置きながらアローラが続ける。
「平和を守るためだろ。」
「!!」
それはかつて、ロイフ自身が聖騎士団としての責任を理解できていなかった入団して間もない頃のアローラに向けて放った言葉だった。
それを聞いたロイフは笑みを浮かべながら、第二部隊のメンバーを集める。
「お前にそれを言われる日が来るとはな。」
「今じゃ俺の方が立場上だからな、ちゃんと従えよロイフ。」
「フン…。」
聖騎士団の皆は馬に乗り、西部都市の正門前に集う。
「聖騎士団。」
アローラたちに声をかけたのはルークとレオンハルトだ。
「アロガンティア特務機関、それにレオンハルト…」
「お前たちにはここ西部都市で戦ってくれた貸しがある。
それに…俺にはまだ、やらねばならないことがあるしな。」
キャシィを脳裏に浮かべながら、ルークは自身のアロガンティア特務機関の人間として、
一人の女性を愛した男として、アローラに協力することを願い出た。
ルークの次にレオンハルトがアローラに向かって口を開く。
「アローラ、俺との約束を覚えているよな?」
アローラとレオンハルトの約束それは…
頼む、これに賭けて俺の仲間に危害が及ばないように守ってくれないか?
それは二人が初めて出会い、アローラが自身の剣をレオンハルトに授けて頼んだ約束。
「先に報酬をいただいている以上、最後までやり遂げてやるさ。」
「レオンハルト…」
レオンハルトはそう言っているがアローラは理解できていた。
彼は自身に任されたはずのハイドや第一部隊の仲間を守り切れなかったことを悔いていることに。
同じくかつて守り抜きたかった存在を守り切れなかったアローラはレオンハルトの気持ちが痛いほど理解できた。
アローラはレオンハルトの気持ちを理解し、思わず言葉に漏らす。
「君は本当に優しいな…」
「!!…別に…そういう良心とかで動いているわけじゃねぇ。」
レオンハルトはアローラから目をそらすと他の聖騎士団たちと並ぶ。
それを見たアローラは笑みを浮かべる。
一呼吸ついてからアローラは馬に乗る者たちに向かって声を上げる。
「これより我々は平和を守るべくアロガンティア大国の王都に向かう!!
世界を救いに行くぞ!」
アローラの合図とともに一斉に馬が走り出す。
それを見届けるジェシカ王女を含めた西部都市の民たち。
~十四日目~
現実世界・セントラルエリア上空
20XX年 11月24日 午前8:00
セントラルエリア上空にて、突如大きな亀裂音と共に半径約8メートル程の空間に謎の大穴が開く。
「さぁ、世界の物語を見届けようじゃないか。」
最終章へと続く…!
読んでいただきありがとうございました。
ハイドとリベルの決着の先に現れる最悪の展開。
天地を砕く厄災は世界を混沌へとかき乱していく…
5章はこれで完結になります!
次回はいよいよ最終章へと突入です!
ここまで長い話数であるにも関わらず立ち寄っていただいた読者の皆さまありがとうございます!
励みになります!
最終章ではこれまでに以上に佳境で濃い物語となっていいきます…!
最終章、お楽しみに!




