11話「深淵で待つ者」
想いの届かぬ深き深淵、
そこに眠るは終焉を導く者なり。
~??日目~
深層世界 無意識領域
「ここの…はず…」
イヴはとある場所で立ち止まる。
ハイドがリベルと戦闘を開始した同時刻、イヴは混沌とした無意識領域の中で、ある人物を探していた。
「私が現実世界で目覚めたとき、感じたの。」
イヴの目の前に一人の人物が徐々に姿を現す。
「君は死を恐れている…そして私は目覚める自分が怖かった。
私という存在がこの世界をさらに混沌に向かわせてしまうのではないかって。」
イヴは目の前の人物に向かって歩み始める。
「でも、目覚めてわかった。自分たちは生きていいんだって。
だから死を恐れるきみを安心させたいって思ったの…アダム。」
イヴは目の前の人物の名を呼ぶ。
アダムはイヴの声に反応し振り向く。
「俺は生まれてきてよかったのか…?」
「当然だよ、きみを創造した人物がどんな想いできみを生み出したにせよ、この世に生まれてきた以上、生まれきてダメな人なんていないんだよ。」
イヴがアダムに手を差し伸べる。
その手をアダムが取ろうとする。
その時だった。
「感動的な場面で悪いが、貴様らを近寄らすわけにはいかないな。」
「!?」
「なぜお前が!!」
アダムの手を止めた人物は意識領域・第4層でウォルターに息の根を止められたはずのグリーンだった。
しかし、彼の姿はハイド達に見せたクリストファーに憑依した姿ではなく、霊体のような姿だった。
「貴様らがわざわざここまで来てくれて助かった。
おかげで…俺様の目的は達成される…!」
深層世界で息絶えた者はその階層より浅い階層で目を覚ます。
意識領域・第4層で死亡したグリーンは意識領域・第3層で目覚めることになる。
しかし、グリーンが憑依していたクリストファーの肉体はすでに意識領域・第3層では息絶えており、グリーンは目覚めることなく死亡する運命だったのだ。
「だが、俺様の能力は己の魂が願ったものを具現化させる。
魂に干渉が可能な俺様はここ無意識領域では自由に行動が可能というわけだ。」
「そ…れで…俺の肉体に憑依するつもりか…?」
魂の状態であるグリーンに首を絞められるアダム。
イヴはグリーンを止めようと行動に出るがすぐにグリーンにあしらわれてしまう。
「バカ言うな、お前らの肉体なんぞクリストファーよりも脆弱だ。
そんなものを手に入れたところで、意味はない。」
「じゃ…!何が…したいんだ…!」
それを聞いたグリーンが笑みをこぼす。
「死にゆく貴様に言ってもな。」
「がぁっ!?」
グリーンはアダムの肉体を貫く。
アダムの身体からあるものを引き抜いたグリーンはそれを見つめる。
「貴様の肉体は量子で生まれた特殊な肉体、俺様がかつて生み出した創られし者のようにな…!」
グリーンの手にはアダムのあばら骨があった。
グリーンはアダムを投げ捨て、あばら骨を握り力を込めだす。
すると徐々にそのあばら骨から人の形が形成されはじめる。
「これは…!?」
イヴはその光景を見て驚愕する。
「俺様の願いは具現化するがすぐに朽ち果てる。
だが、それはあくまで原子で構成されたものが対象。」
「ま…さか…!」
「貴様の肉体は量子で構成されている。
つまりお前の肉体をベースにすれば俺様の能力のリスクは消えるというわけだ…!」
アダムのあばら骨から生まれたのはもう一人の完全なる肉体を持ったグリーン・ウィザースプーンだった…!
かつて、古代人だったグリーン・ウィザースプーンはここ深層世界での可能性を知った。
グリーンの目的は“神”になること。
この世界では己の思い通りの世界を生み出せる。
グリーンは自身の目的のために深層世界の真価を引きだすべく行動した。
だが、それを止めるべく兄弟はグリーンと戦った。
その戦いで敗北したグリーンはなんとか内在せし指輪を使い、ここ無意識領域にまで逃げ延びていた。
「あの時、俺様が解明したことは忘れもしない。
あれから何度も長い年月をかけて階層を上り、レヴァリィ世界で実行した。」
グリーンは脳内でアイヨを生み出したときのことを思い出す。
「そして、俺様はついに見つけた。」
「俺様が神になる方法をな。」
もう一人のグリーンが答える。
俺はハイドでお前はリベル、
俺はマルコおじさんを親に持ち、たくさん人たちが経験してきた物語を夢見る者だ。
そしてお前は未来に夢を抱き、たくさんの人たちが経験してきた歴史を壊す者だ。
ハイドがリベルを見ながら言い放つ。
「まだだ…!…まだ…!」
リベルは手に力を込め進化の意慾を使用しようとするが、それを見逃すハイドではなかった。
「ぐあっ…!!」
水の情報を変化させ、槍状にしてリベルの両腕を串刺しにするハイド。
「…終わりだ、リベル。」
リベルにゆっくりとだが近づくハイド。
ハイドも先ほどの戦いで全力を使い切り、すでに瀕死の状態だ。
すでに身体は己の力で自由に動かすことはできなくなり、真理の神秘の能力でなんとか身体を動かしているにすぎない。
リベルは突き刺された自身の腕を見ながら、ここ深層世界にきた際に見続けたCodeの断片を再び思い出す。
Code-τ
そこではリベルが深層世界・無意識領域をひとり歩いていた。
「グリーンの奴、一体何を…」
リベルは覚醒者を連れ暴動を行っている隙に内在せし指輪を使って無意識領域に訪れていた。
一度はハイドに制止されたが、内在せし指輪の可能性を感じたリベルはハイドから奪ったグリーンの死体から深層世界に入ることに成功した。
「なんだ…?」
リベルは無意識領域の暗い穴のようなものを見つめる。
何があるかわからないが、何かがあそこに眠っている。
そう感じたリベルは足を踏み入れてしまう。
そして、リベルは深い穴の中で緩やかに動く生きた金属のような材質で構成されたものを目にする。
「これは…」
「!!」
すると生きた金属から目が出現し、リベルに襲い掛かる。
「なっ!?」
「お前は誰だ。」
生きた金属は人の形を形成しながらリベルの首を絞める。
「うっ!!おっ…前は…!!」
「私の名はラグナロク。
こんなところに肉体を持った生命体がいるのは不思議だ。」
その存在は自身の名をラグナロクと呼んだ。
“ラグナロク”
それは深層世界の最果てに眠る者の名称。
ラグナロクは肉体も魂すらも持たない、生命や物体の概念を超越した存在。
ラグナロクはリベルの首を絞めた直後、すぐにリベルの記憶を読み取る。
「ほう、これが生命というものか。」
「なっ!?」
「…面白い。お前のその目的に少し興じてやろう。ただ、条件付きだ。」
そうラグナロクは言うとリベルの体内に入り込む。
そしてラグナロクに憑依されたリベルは無意識領域に穴を空ける。
すると空いた穴から見えるのは現実世界の光景だった。
それを見たラグナロクは笑みを浮かべると現実世界に向かう。
Code-φ
そこでは倒壊した建造物が周囲に佇む中でハイドともう一人の黒髪の男がリベルと戦いをくり広げていた。
「強いな、お前。」
リベルに憑依したラグナロクが黒髪の男に興味を持つ。
「ハイド、立てるか?」
黒髪の男がハイドに声をかける。
「すみません、問題ないです。」
「そこのお前、まずはお前からだ。」
そう言うラグナロクに対しハイドと黒髪の男は再びラグナロクに向かう。
場面が暗転する。
ハイドとラグナロク、互いが瀕死の重傷を負い、黒髪の男は少し離れた場所で倒れていた。
「ブラックさん…ありがとうございます…!」
「チッ…最後までしてやられたな。」
ラグナロクは血を出しながらもなんとかハイドを方を見つめる。
同様にハイドも地に手を突いたままラグナロクを見つめる。
「兄さんを返せ!」
「悪いがこいつの意識はすでに……なに!?」
「やっとだ…。」
理性をとり戻したリベルがラグナロクに抗う。
「ハイド…お前が壊した世界だ、それに…俺が加担しちゃ…暴動を起こした意味がねぇ…」
そうリベルは言うと自分の身体に宿るラグナロクの力を空に向ける。
すると空いた空間が徐々に戻り始める。
力尽きたリベルはその場に倒れる。
Code-ψ
そこでは倒れるリベルに向かってハイドがこう言った。
「…兄弟だ。愛している。」
「終わっ…ちゃ…ダメ…なんだ…」
リベルが瀕死の中で呟く。
あの光景を見るべく、
未来で見たあの二人に並ぶべく…
そのためには自分は死ぬわけにはいかないのだと。
「…俺は見たい…あの景色を…!」
強引に水の槍から腕を引き抜こうとするリベル。
「お前、まだ…!」
ハイドが驚愕する。
「”ラグナロク”や世界のことなんか…知るかよ…!!……俺は俺だ!
俺の好きにして…好きに人生を送って…やる…!」
「!!」
「呼んだな、私の名を…!」
突如、リベルの身体を何者かに抑えられる。
「お…前は…!」
リベルは自身のCodeからその存在を知っていた。
生命でも物質でもない、肉体も魂も持たない自分たちの次元を超える超常の存在。
その名は…
「ラグナロク…!」
超常体、解放…!
読んでいただきありがとうございました。
次回12話をお楽しみに!




