10話「果てに生まれ堕ちる」
時を超えて交じり合う血肉、
それは真理を網羅した覇者として、
それは悪魔を体現せし申し子として、
世に降誕する。
~??日目~
深層世界 無意識領域
「!!」
「あはっ!ちょっと理解力なさすぎじゃね?」
ハイドが反応するよりも速く動いたリベルはハイドの首を掴む。
ハイドはリベルの顔に目掛けて岩の弾丸を放つが、その攻撃をリベルは強靭な牙で破壊する。
「言っただろ、俺は…」
「うっ!?」
ハイドの首を掴んだまま、飛び上がるリベル。
「さらなる段階]]に進化したんだって!!!」
「ぐはぁっ!!」
地面に思いっきり叩きつけた衝撃で激しく吐血するハイド。
だが、リベルの攻撃は止まらない。
「お~い~寝んなって!」
叩きつけたハイドを持ち上げ宙に飛ばすリベル。
空中で態勢を整えようと試みるハイドだが、そんな暇もなくリベルの猛攻を食らい続ける。
態勢を戻そうとしてもその頃には殴り飛ばされ、飛ばされた先にはすでに次の攻撃を仕掛けようとするリベルの姿。
ハイドは手も足も出せず翻弄される。
だが…
「(順応してきてんな…)」
猛攻を受ける中、ハイドはリベルの攻撃速度に僅かだが順応していた。
反撃とまではいかないものの、着実に目では追えてきている。
「(遊んでる場合じゃないか)」
リベルは依然とハイドに猛攻を仕掛けたまま、次の一手の準備を行う。
「ここだ!」
「!?」
僅かに緩んだその力。
それをハイドは見逃さなかった。
自身の攻撃に順応してきていると判断すれば当然相手はギアを上げていく。
だが、大きな一撃には溜めがある。
それはどんなに精錬された者でも、化け物であろうとも同様だ。
人の姿を捨て、悪魔と成ったリベルも例外ではない。
その隙を作るためにハイドは全神経を視覚のみに集中し、順応されていると思わせリベルの次の一手を誘ったのだ…!!
ハイドはリベルの攻撃を躱し、背中を触れる。
「!!」
異変に気が付いたリベルはすぐにハイドを捉えようとするが、ハイドは真理の神秘を使用して脚に水流を纏い、まるで地面を滑るように攻撃を回避する。
「あはっ、悪あがきか?」
「それで済むならな!」
ハイドは真理の神秘に力を込める。
するとリベルの翼に仕込まれた小石が発火する。
先ほど隙が生じたリベルの背中に触れた際に仕込んだものだ。
ハイドの攻撃によりリベルの翼の片側は破壊され、リベルは驚愕する。
「小細工が好きだなぁ!お前は!!」
「うくっ!!」
リベルは自身の腕を肥大化させハイドに強烈な一撃を与える。
吐血しながらも威力を軽減するために自身の後方に空気の壁を作り、脚に纏った水流で勢いを押さえるハイド。
「(一撃の重みが段違いだ…!あと数発も食らえば立てなくなる…!)」
「(チッ…さっきの攻撃をもろに受けたのは失敗だったな…進化の意慾が身体の修正に欲を反映しようとしてやがる…)」
進化したことで驚異的な身体能力を獲得したリベルは肉体を今の状態に保つには身体の修正に意識を向けるべきではないと判断した。
「(だが、依然こっちが有利!この場を制してるのは俺だ!!)」
リベルは両手に異なるテロスを出現させる。
「(またテロスか…!)」
「進化に必要なのは…危機的な状況と…」
リベルは両手のテロスを徐々に自身の中心に寄せていく。
互いのテロスは悲鳴をあげながら融合していく。
「己の欲だ!!」
「(テロスを融合した!?)」
リベルの左右の掌から出現したテロスは肉体を融合され、禍々しい姿に変貌する。
「あはっ!お前がさっきやっていたことを思い出してな!」
ハイドはリベルに強力な一撃を繰り出すべく、これまで真理の神秘に取得していた情報を複合させ、さらなる成長を見せた。
だが、それは悪魔の申し子に新たな進化の可能性を与えるきっかけにもなった…!
「終わらせようぜ!ハイド!!
俺たちの運命をよ!!!」
右には翼、そして左には無数の腕を生やし、常人の2倍以上の体格と1級テロスに匹敵するほどの身体能力を誇る融合テロス。
ハイドはテロスがこちらに近づく前にいち早くこのテロスの脅威を感じ、真理の神秘の力を出し惜しみなく発揮することを決めた。
「(たとえ、俺の体力がつきようとも!!)」
テロスの猛攻を真理の神秘のあらゆる情報を駆使して応戦するハイド。
岩の情報による盾を絶え間なく生成しテロスの攻撃を防ぎ、
炎の情報によって反撃に乗じる攻撃を行う。
自身の疲労が蓄積した身体を補うべく両足には水の情報によって移動を補助、
そしてリベルからの奇襲をいち早く読み取るべく周囲に空気の情報による薄い膜を生成し、危機探知範囲を拡大した。
「!!」
「あはっ!いいね!!」
空気の膜による危機探知でリベルからの奇襲に対応するハイド。
しかし、
「うっぼおぇぇ!!」
リベルはなんと自身の口から大量のテロスをハイドに仕向けたのだ。
「(テロスを口に隠して!?それにこのテロス、融合しかけている!!)」
大量に放ったテロスは不完全ながらも融合しかけており、ハイドと融合テロスを包み込むように襲い掛かる。
さっきのテロスの融合と違いあえて不完全な融合にすることで、俺の逃げ場を防ぎつつ、テロスを一体として扱えるから操作もしやすい…!!
「(こいつ、進化の意慾の転用レベルが桁違いに上がっている!!)」
ハイドがリベルから距離を取ろうとする中、先ほどハイドと相対していた融合テロスがハイドを拘束する。
「くそっ!」
「さぁーて仕上げだ!!」
リベルはダメ押しの一撃として融合テロスをさらに1体生み出し、ハイドを包んだ不完全に融合したテロスの大群を上空から押しつぶしていく。
ギシギシとテロスの大群が潰れていく中、リベルは異変に気が付く。
「あはっ!あはははっ!!まだ粘るか!ハイド!!」
それは融合テロスに押しつぶされながらも、テロスの大群の中で必死に己の力で抗おうとするハイドの姿だった。
「うあぁぁぁぁああああ!!!!」
ハイドの倍以上の体躯と力を持つ融合テロスに拘束され、おそらくは10体以上のテロスから成る不完全融合のテロスの大群、そして上空からは融合テロスの圧倒的な力で押さえつけられている。
今にも押しつぶされそうな中、ハイドは融合テロスの拘束からなんとか脱した片腕のみで上からの圧力に耐えていた。
「あはっ!いいね!!」
リベルが声を荒げるとテロス達が一気に力を込めだす。
「うっ!ぐぁああ!!!」
テロスの大群の中ではテロスがハイドの首や肩に噛みついてハイドを弱らせようとしている。
激痛が走る中、ハイドはそれでも諦めるそぶりを見せなかった。
ハイドの右腕から血が噴き出る。
圧し掛かる圧力に腕が耐え切れず、血と共に内部で筋繊維が裂け、骨が砕けるのがわかる。
両脚にはなんとか水流による水圧で抗っているものの、右腕と同様な状況になるまで間もないだろう。
今にも意識が薄れゆく中、ハイドは自身の唇を噛み、意識を保ち必死に抗う。
なんのために?
「ここっ…まで…!!…来たんだ!!!!…終わらせるか!!!終わっちゃダメなんだぁあ!!!!!!」
己の後ろで多くの命が散っていった。
それはハイドの知る者だけでなく、互いに知ることもなかったような者たちもだ。
深層世界・無意識領域、ここではあらゆる魂が存在する場所。
ハイドはこの階層に訪れて、感じ取った。
多くの命が自分の選択、自分たちの戦いに巻き込まれ、命を落としたことを。
その責任は誰がとる?
平穏な生活を営んだだけで命を落とした者の責任は誰がとれる?
倒壊した街で愛する者を失い、ただひたすらに泣くことしかできない者の責任は誰がとれるだろうか?
「てめぇの肉体はすでに限界なんだよ!ハイド!!」
さらにテロス達が力を込めだし、ハイドは地面に埋もれていく。
ハイドは泣きながら今の気持ちを内にこぼす。
ごめん…!ごめんなさい!マルコおじさん、アドルフさん、みんな!!
役に立てなかった!
抗えなかった!
こいつをこのままにしちゃいけないのに!!
「潰れてろ!!!」
テロスの大群が押し潰される。
テロスの死骸から血が滲み出てきたのを確認するとリベルは笑みをこぼす。
「あはっ…ついに…」
リベルは安堵した表情を浮かべた。
「ハイド、お前を殺して俺はあのいずれ来るであろう未来の記憶…Codeを実現できるわけだ。」
そう言い残しリベルはその場から立ち去る。
「…それは違うぞ、リベル。」
「!!」
するはずのない声に驚くリベル。
振り向くと、テロスの死骸から姿を現したのは…
「ハイド!てめぇ…!」
ハイドの姿だった。
依然と瀕死の重傷を負い、すでに立っているのもやっとの状態…
なのに、なぜだ?
リベルはハイドから感じる覇気が死にかけの者が放つものとはほど遠いと感じた。
「死にかけのはずだろ…お前は。」
「あぁ。…だがそれはお前もなんだろ?」
「なんだと!?」
ハイドはリベルを指さしながら続ける。
「お前の肉体はたしかに人とは別次元の進化を果たした。
だが、お前本来の肉体がその進化についていけてないんだろ?」
するとリベルの肉体がひび割れはじめる。
進化の意慾によって己の欲を反映させ進化を果たしたリベルだったが、肉体が進化についていけなくなるほどの進化を果たしたリベルの身体は少しづつリベルを蝕んでいた。
「俺もお前もハイになってた。気が付くのが遅れたな。」
「…俺の肉体が目に見えるほどの限界を迎えたのは今が初めてだ。
なのになぜ、お前は先に俺の肉体の限界を知ってんだよ…!」
リベルがハイドに激しく怒鳴る。
ハイドは静かに口を開く。
「…の…おかげ…です。…ありがとうございます。」
「あ”?誰に言ってんだ!……なっ!?」
リベルは目の前の光景に驚く。
そこにはハイドの頭を優しくなでる人物の姿があったからだ。
「よかったよ、間に合って!」
そこにはエヴァがいたのだ。
「どうして…流浪人がここに…」
リベルが言葉を失う中、ハイドは涙を流しながらエヴァに触れる。
だが、ハイドの手はエヴァをすり抜けていく。
「ごめんね、ハイド君。助けに行こうと思ったんだけど…」
「大丈夫です…!それより他のみんなは…」
「ちゃんと待ってるよ。特にヴァイオレットちゃんはね。」
「…うっ…ううっ…!…ごめんなさい…!俺が…!俺が…!」
ハイドは涙を溢しながらエヴァに謝罪する。
先ほどの出来事、そしてエヴァに触れられないことでハイドは理解できていたのだ。
すでにエヴァはこの世にいないのだと。
ハイドは先ほどのテロスの攻撃で潰される直前にエヴァの魂と遭遇した。
エヴァはレヴァリィ世界で死ぬ間際、内在せし指輪を身に着けた。
それにより、死した者の魂が存在するこの無意識領域で明確な意識を保持したまま存在することが奇跡的にできていたのだ。
「まさか、あんなタイミングでハイド君に会えるなんてね、ナイスタイミング!って感じだったね!」
「えぇ…そうですね…!」
ハイドは涙を拭きエヴァに答える。
「そろそろ私の意識も消えちゃうけど…アンドリューにも言いたいことは言ったから…もう思い残すことはないかな。」
エヴァの身体が徐々に薄れていく。
「エヴァさん、ありがとうございます。」
「ほら泣かないで、ヴァイオレットちゃんに馬鹿にされちゃうぞ?」
「見ていてください、俺たちを。」
その発言にエヴァはウインクだけして姿を消した。
「意味が…わからねぇ…なんでこの階層に…」
「魂を軽んじ、肉体に固執したお前にはわからないさ、リベル。」
「…!あはっお前もしかして勝つつもりか?
依然状況はこっちが有利なんだぞ…!」
リベルが構える。
対するハイドも静かに行動に出る。
「…いくぞ、カニス。」
「!?」
勢いよく飛び出したハイド。
その速度はリベルが目視できるものではなかった。
「(速すぎる!いつからこんな力が!?)」
一瞬でリベルの背後に回り込んだハイドは拳に炎を宿らせる。
リベルは自身の翼を尾のように変形させてハイドを薙ぎ払おうと試みる。
「なに!?」
しかし、ハイドにリベルの尾は到達することがなかった。
まるでハイドと自身の尾の間に何かが挟まれていうかのように。
「ちっ…!」
リベルはハイドと距離を取る。
「逃がさない!」
ハイドが手を閉じるとリベルは動きが取れなくなる。
その隙にハイドは先ほどと同じように驚異的な速さでリベルに接近する。
だが、リベルは唯一動かすことのできる口からテロスを生み出し、ハイドの攻撃に対してカウンターを取ろうと試みた。
しかし、ハイドは態勢を瞬時に変え、リベルの首に目掛けて指で刺突を行う。
「うがぁっ!?」
するとリベルが姿が元の姿に戻る。
さらに口から放とうとしたテロスも生み出せなくなる。
「(どうゆうことだ?)」
ハイドの攻撃に対応する間もなくリベルは翻弄される。
そこに畳み掛けるようにハイドは炎の拳をリベルに向けて放つ。
「ぐはぁっ!」
身動きの取れない状態かつ先ほどと異なり通常時の肉体で攻撃を受けたことで、リベルは殴り飛ばされてから立つことができなくなる。
「なっ…ぜ…!」
リベルが見上げるとそこにはハイドが自分を見下ろしていた。
そんな中でリベルはハイドの横にいる影を見る。
「…!!そいつは…!!」
リベルが見た影、それは自身が古城跡で殺したはずの3級テロス。
「カニスだ。お前が無惨に殺した俺の…友達だ。」
ハイドの横に佇むんでいた影の正体はカニスの魂だった。
そしてカニスの魂はハイドの真理の神秘に吸い込まれるように入っていく。
「まさか…!…そいつを…」
「あぁ、俺は真理の神秘にカニスの情報を取得したんだ。」
ハイドはテロスによって押しつぶされる瞬間にエヴァの魂と出会った。
そのエヴァが抱えていたのはカニスの魂だったのだ。
エヴァと異なり無意識領域に存在する魂は明確な意識は存在していない。
そんな中でもカニスの魂を見つけたエヴァはこう言った。
“カニスちゃんの魂はハイド君を探していた”と。
真理の神秘は5つの情報を内蔵することができる。
ハイドはカニスの魂を真理の神秘の最後の取得できる情報として内蔵したのだ。
そしてそのカニスの魂から読み解くことできるものは“テロスの肉体構造”
ハイドはテロスに押しつぶされる中、テロスの肉体構造を理解し、的確に行動不能にしたことで生き延びることに成功した。
真理の神秘にカニスの魂、つまりは自身とは異なる生命の情報を宿したことでハイドは理解したのだ。
これまで自分が背負い込んでいたものを一人ではなく、仲間とともに背負い生きていくことに。
そこから真理の神秘はさらなる成長をした…!
岩の情報を応用することで、狭い範囲の大陸を瞬間的に操作し、リベルのような高速移動を、
水の情報を応用することで、水を極薄の糸状にして操作し、アドルフのような鋼線術を、
空気の情報を応用することで、周囲の空気を硬化させヘーロスのような疑似的な空間湾曲を可能にしたのだ。
そしてカニスの魂から得たテロスの肉体構造、
進化したリベルの肉体は進化の意慾から成ったもの。
つまりリベルの肉体はテロスと似た肉体構造をしていたのだ。
そこを利用してハイドはリベルの肉体に綻びが生じる箇所に刺突を行うことで瞬間的に進化を抑制。
あとはアンドリューから得た炎でトドメの一撃を加える。
ハイドは己の力のみで成長するのではなく仲間を頼り、成長することを選んだのだ。
「こんな…!…バカなことが…!」
「ありえるんだ、リベル。」
リベルは自身の身体を引きずりながら立ち去ろうとする。
だが、今のリベルにハイドを出し抜ける力があるわけもなく、ハイドは憐みの表情を浮かべながらリベルを見つめる。
「俺もお前も血のつながった兄弟の遺伝子から成った者同士。」
「はぁ…!…はぁ…!」
リベルは力を振り絞りハイドから離れ続ける。
「だけど、たとえその人たちの記憶を保持しても、俺らは俺らだ。
俺たちを自分たらしめるのはかつての記憶や肉体じゃない…」
ハイドはリベルのもとに歩き続ける。
俺はハイドでお前はリベル、
俺はマルコおじさんを親に持ち、たくさんの人たちが経験してきた物語を夢見る者だ。
そして、お前は未来に夢を抱き、たくさんの人たちが経験してきた物語を壊す者だ。
生まれ堕ちた者の結末…
読んでいただきありがとうございました。
ハイド、リベル二人の戦いの終着点。
いかがでしたでしょうか?
まだレヴァリィ世界、現実世界での戦いは残っていますが、本作でも重要なこの二人の結末、そしてこれからの物語をぜひご覧ください…!
次回11話をお楽しみに!




