1話「変遷」
移り変わる時代の流れ。
その舵を取るのは…
時代のうねりを見定めた者なり。
~八日目~
22:40 クヴィディタス大国・東部街
7大国決戦から3日が経過。
300年もの間、眠りについていた龍型の特級テロスの攻撃で7大国は全域に渡り大打撃を受けた。
それは7大国最大の領地を有するクヴィディタス大国も例外ではない。
「おい、聞いたか?」
「あ?何がだ?」
「アロガンティア大国、俺らの国にも領地を伸ばしてるってよ。」
ここはとある酒場。
クヴィディタス大国の東部に位置する街の市民が最も馴染み深い酒場のひとつだ。
「ハッ、らしいな!けどアロガンティア大国は西側だろ?ここまではこれねぇさ!」
それを聞いた酔っ払いのひとりが周囲を確認した後、大らかに酒を飲む男に囁く。
「なぁ、そろそろこの国出ねぇか?…」
「ん?なんでだよ?」
「だってよぉ、ジャック王は死に、総督は行方不明、将軍も一人は戦死、残ってんのはあの危なかっしい将軍と…」
「おい、俺もその話に混ぜてくれよ。」
そこにフードを被った男が囁く男の肩を組みながら話しかける。
「んだよ…てめぇには関係ねぇ、失せな。」
「関係ねぇ…となぜ思うんだ?」
男がフードを脱ぐ。
「なっ!?」
「将軍がなんとか…って話だったな、聞かせろよ。」
フードを脱いだ男を見た酔っ払いは驚きのあまり席を立ち、酒瓶を落とす。
それもそのはず…
目の前には…
「ヴァ、ヴァレンティーン将軍!!」
ヴァレンティーンは酔っ払いの頭を掴みテーブルに打ち付ける。
「お前がどこの国に行こうと勝手だが、その前に俺と一杯飲んでけよ。」
突如、クヴィディタス帝国軍の将軍が現れたことで酒場は騒然とする。
するとヴァレンティーンの腕を掴む人物が現れる。
「すまない、今日のこいつは少々気が立っててな。
マスター、騒がしくしてすまなかった。」
店の店主にも謝罪を入れるその人物を見たヴァレンティーンは酔っ払いから手を離す。
「何の用だ、ヴィルヘルム。」
「ここでは目立つ…外に出て話すぞ。」
ヴァレンティーンとヴィルヘルムは酒場を出て街を歩く。
「ヴァレンティーン、本当に流浪人の話を信じるのか?
…あれからもう3日は経っている。」
「俺は奴との決着をつけたいだけだ、信じるもクソもねぇよ。」
二人はしばらく歩きながら別の店に入る。
「風の噂だが…3日前、消えた流浪人の一人を目撃したって話を聞いた。
まずはそいつの居場所を見つける。」
カウンターの席に座り、店主に酒を持ってくるように合図するヴァレンティーン。
「風の噂か…また電波盗聴したのか。」
ヴァレンティーンは自身の能力で身体から電撃を放てる。
その能力を応用し、彼は電波を周囲に放つことで自身の耳に届かないような距離にいる音まで聞き取ることが可能だった。
「んだよ、別にいいだろ?」
「俺は好かん…盗聴など。」
店主から振る舞われた酒を飲みながらヴァレンティーンが答える。
「別にお前の意見なんか聞いてねぇし~」
ヴァレンティーンの口答えに半ば呆れながら酒を飲むヴィルヘルム。
「ところでお前、クリスティーナ大佐にも流浪人捜索を命じているそうだな。
…彼女まで巻き込むつもりか?」
「大佐から協力を願い出たんだよ、それにクヴィディタス大国は事実上、統率を失ってんだ。
アロガンティア大国が何もしなくてもいずれこの国は亡ぶぞ。」
それを聞いたヴィルヘルムは少し間を空けてから口を開いた。
「…俺は王に仕えた身だ。それは王がいなくなろうと変わることはない。」
「んまぁ、お前は前から俺やヴォルフガングと違って自分でも大国でもなくジャック王個人に仕えてたもんな~」
ヴァレンティーンが追加の酒を飲み始める。
「お前がこの先、クヴィディタス帝国軍としての責務を放棄しても俺は何も咎めない…だが…」
ヴィルヘルムが酒に映る自分を見つめながら言い放つ。
「次会ったときは…対立しているかもしれない。
だからこそ、お前にはここで言っておきたい。」
「ん?」
「お前とは揉めることもあったが…それなりにお前という存在がいて心強かった。」
それを聞いたヴァレンティーンは目を丸くして唖然としていた。
「ヘヘッ、なんだ急に…お前らしくねぇな!酒弱くなったか?」
酒を一気に飲み干すヴィルヘルム。
「人が素直になってる時くらい、おちょくる癖を止めろ。」
そう言ってヴァレンティーンの肩を軽く叩いてヴィルヘルムは席を立つ。
「ヴィルヘルム。
そういや、お前タバコはどうした?」
「随分と前に止めてるだろ…バカが。」
ヴィルヘルムは店を出る。
店の外には数名のクヴィディタス帝国軍の兵が待機していた。
「将軍、それで…ヴァレンティーン将軍の件は?」
「…あいつは今回の任から降りる。
次にやつと出会った際は状況によっては身柄を拘束する。」
「承知いたしました。」
ヴィルヘルムの指示に答えた人物は以前、ハイドがディートヘルム大佐に拷問室に連行された際に部下として同行していたカロライナ中佐だった。
クヴィディタス帝国軍は三人の将軍で軍を統制している。
しかし、先の7大国決戦でヴォルフガングが死亡し、ヴァレンティーンの軍に所属している階級の高い者たちの大半は戦死した。
今、機能している軍はヴィルヘルムの軍のみ。
ヴァレンティーンの気持ちを汲み取ったヴィルヘルムは他の所属兵もまとめて自身の軍で統制を行うことを決めたのだ。
~九日目~
10:00 アロガンティア大国・王都内部
「…といった様子です。」
「なるほど、でかしたガブリエル。」
アロガンティア大国、王都内部の王宮ではジョージ王の前に膝まづき、報告をする者がいた。
その者は…
なんと先日ヴィルヘルムと会話をしていたカロライナ中佐であった。
カロライナ・レインウォーター、またの名ガブリエル。
彼女はクヴィディタス帝国軍にスパイとして潜入していたアロガンティア特務機関の者だった。
「それでは失礼いたします。」
ヴィルヘルムから得た情報により、クヴィディタス大国内の様子そして軍の指揮系統をジョージ王に伝えたカロライナはその場を後にする。
カロライナが王室を出るとジョージ王が自分以外誰もいない中で口を開く。
「ミカエル、いるか?」
「はい、ジョージ王。」
どこからともなく一瞬にして姿を現わすミカエル。
「“例の計画”を始めろ。」
「よろしいのですか?」
「先の7大国決戦でラファエルとアズラエルを失ったのは想定外だったが…計画に支障はない。
むしろこれで秘宝を2つ手に入れる機会を得た。…ウリエルにも伝えろ。」
「承知いたしました。
では…ジェシカ王女のもとにいるアリエルにも…?」
「あぁ…彼女にも連絡を回せ。」
ミカエルはジョージ王に一礼をすると再び姿を消す。
「もうじき…この世界は俺のもの。」
~九日目~
10:00 インビディア大国・王都内部
同時刻、王の従者であるフィデスは王宮の外に数頭の馬を用意する。
「出発の準備完了しました。」
「ありがとうございます、フィデスさん。
本当はもう少しここにいてあげたいんですが…」
そうフィデスに感謝の言葉を述べたのは現実世界からレヴァリィ世界に単独で潜り込んだエヴァだ。
「申し訳ない、王は姉君の死を受け入れきれず…それに数日前に起きた殲越十二戦士の脱走の件、それによりあなたを数日もの間大国に留めてしまって…」
「いえ、ジョセフ王にはお悔やみを…それに私も…」
エヴァはこの世界に侵入した際のことを思い出す。
~五日目~
23:00 クヴィディタス大国 古城跡付近
「うわっ!」
エヴァは上空に姿を現わし、そのまま真下の瓦礫に落ちる。
「いたた…なんでよりによって高いところから…」
「ごめんなさい、上手く座標が指定できなかったの。」
エヴァの脳内に聞こえる声。
「ま、まぁ初めての転送だもんね…大丈夫だよイヴ。」
エヴァは頭を触りながら脳内に聞こえる声の主、イヴに答える。
「私はすぐにREVARIEのプログラムに侵入する。
しばらくは私とは連絡がとれない…けど、そのかわり研究施設にいた子には繋げておけるようにしたよ。」
「ありがとね、イヴ。
あとは私とヴァイオレットちゃんで何とかするね、協力してくれて感謝しかないよ。」
「それはこっちのセリフよ。
あなたたちが世界を救えるよう祈ってるわ。」
そう言うとイヴから声が聞こえなくなる。
エヴァは7大国決戦で最後に自身がいた地点にいた。
そこで彼女が探すものとは…
「たしか…このへんに…あ、あった…!」
エヴァは床に落ちていた指輪を手に入れる。
それは10の秘宝である内在せし指輪だ。
「あとは…」
そう言ってエヴァは自身の能力で視野と視力が向上したことで瓦礫の間にあるもうひとつの指輪を見つける。
そう、ハイドが身につけていた超越せし指輪だ。
古城跡でハイドがリベルに指を切り落とされた際に紛失したが、エヴァはふたつの秘宝を見つけ、懐にしまう。
「これで…現実世界には自力で戻れる…それにハイド君だって…」
エヴァが内在せし指輪をはめようとする。
「ま、待ってください…!」
エヴァの脳内でヴァイオレット声が上げる。
「ヴァイオレットちゃん!?」
「エヴァちゃん…まだその指輪ははめないでください…!」
「でも、ハイド君はこれをはめて姿を消したんだよ?」
「たしかにそうだけど…その秘宝がどんな効果があるか予測がつかないんです。」
ヴァイオレットは現実世界に帰還したリアムからストレンジャーの拠点内部で内在せし指輪を身に着けた四人の様子について話していた。
「ハイドを含めて三人は姿を消したけど、一人は姿を消していないんですよね…?」
「うん、そいつは今もあそこで目を閉じているよ。」
エヴァは少し離れた場所に倒れているクリストファーを見ている。
彼は突如、グリーン・ウィザースプーンによって肉体を奪われ、内在せし指輪によって昏睡状態となっていた。
それに…
「それにあいつは私が胸に剣を突き刺した。
…さっき確認したけどもう息はなかったよ。」
彼の肉体はすでに死んでいた。
「全員が姿を消さない理由があるはずです。
…もしエヴァちゃんが姿を消せないのだとしたら敵にとっては無防備…それに身に着けたとしてハイドのもとに必ずいけるかどうか…」
「うーん、じゃどうすれば…」
エヴァもヴァイオレットが言い放った秘宝のリスクについて理解すると考え込む。
「うちに考えがあります…」
~九日目~
10:00 インビディア大国・王都内部
「それに私も協力者が必要だったので。」
数日前にここレヴァリィ世界に転送された際のことを思い出し、フィデスに返答するエヴァ。
エヴァの後ろには見慣れた甲冑にそれぞれ異なる色の騎士団章をした人物が二人立っていた。
第三部隊隊長:サフィーナ
第四部隊隊長:スード
エヴァはそう言うと二人のもとに向かい馬に荷物を乗せる。
「二人ともありがとうございます。
流浪人の事情にも関わらず。」
「問題ないさ、君たちがいなかったら僕たちは4日前に滅んでいたんだ。」
「私たちは全力であなた達、流浪人に協力するよ。」
スードとサフィーナがエヴァの気持ちに答える。
7大国決戦で第一部隊と第五部隊は全滅、第二部隊も消息不明…
すでに聖騎士団の半分以上は戦死、第四部隊も二名の部下を失っている。
それでも今日も朝日を見ることができるのは流浪人のおかげだと…
戦地に出向いた者だけではない…
大国にいる皆が知っていたのだ。
二人は僅かな戦力だろうと、今自分たちが持てる力の全てをこの流浪人たちに授ける一心でいた。
「では、行きましょう…アロガンティア大国へ。」
三人は馬に乗り、王都を出発した。
~九日目~
12:00 アロガンティア大国・イデリスの住処
眩い太陽の光…
それを空いた天井から見上げる人型の特級テロス、イデリス。
「……。」
「あ、あの…」
そんなイデリスに声をかけるのはレタだ。
レタとアイヨの二人はパラフィシカー以上にその特異な体質故、イデリスが保護すると流浪人のリアムと約束し、自身の住処においていた。
レタは空を見上げるイデリスに少しおどけながらも声をかけた。
そんなレタを安心させるかのように頭を優しくなでながらイデリスが答える。
「君たちを怖がらせてすまない…私よりも[[rb:流浪人 > かれら]]に委ねた方が君たちにとっては安心するというのに。」
「いえ、大丈夫ですよイデリスさん…俺たちはあなたに敵意がないことはわかっていますから。」
「アイヨももう怖くないよ!」
レタにしがみつきながらアイヨが後ろから出てくる。
「君たちは…優しいですね…
その優しさがこの先の…世界を平和に導てくれると…私は信じています。」
「そんな大層な存在じゃないですよ。」
レタが苦笑いを浮かべる。
「さぁここは冷える…向こうへ。」
「アイヨ、いくぞ。」
「いいよ!レタ!」
二人が住処の奥地へ向かうのを確認するとイデリスは部屋の扉を閉じる。
「何の用ですか…ミカエル。」
「忘れ物をしましてね、彼らを渡してもらえないですか?」
イデリスの背後に現れたのはミカエルだ。
「特級テロス解放の条件…それをお忘れですか?」
イデリスの問いにミカエルは鞘に収まった剣に手を置き答える。
「特級テロス解放の条件…プセマ村の少女の引き渡し…
だが、それに失敗した我々は代わりに“災いの子”を引き渡し、あなたはそれを承諾した。」
ミカエルがイデリスに向かい歩き出す。
「つまり、今その奥にいるプセマ村の少女はまだこちらの所有物だ…」
「…彼らは渡しません。」
返答と同時にイデリスはミカエルに殺気を放つ。
読んでいただきありがとうございました。
新たな章に突入し、再び舞台はレヴァリィ世界へと戻ってきました!
7大国を巻き込んだ戦いの後に蠢くアロガンティア大国の野望にどう立ち向かうのか…
次回2話をお楽しみに!




