6話「秘宝の副産物」
産声上げぬ奇跡の産物、
それは破滅を叫ぶ望まぬ産物。
「君の質問には答えたぞ?さぁ、こちらの質問にも答えてもらおうか。君の名前はなんだい?」
「ハ、ハイドだ!」
ハイドはジリアン王に警戒しながら聞かれたことに返事をした。
だが、ハイドにはこの危険な男が次にどんな行動をしでかすか予測がつかない。
リアムとともにハイドは身構えた。
「ハイドくんか…。よろしくね。そこの美しき青年は噂に聞く流浪人かな?」
「だったらどうするつもり?」
ジリアン王はリアムの発言を聞いて微笑んだ。
「流浪人はみんなパラフィシカーだそうじゃないか。ぜひ、君を私の秘宝の苗床にしたいのだが。」
「(秘宝?)」
「大国の民を植物にしたのはお前の持つ秘宝の影響か!」
ハイドはリアムとジリアン王の会話に割って入った。
「いかにも。この貪欲の華の力さ。」
ジリアン王は自身の胸元から白い花を取り出した。
それは先ほどハイドたちが地下室で最初に見た大樹となった民にも生えていたもの同じものだ。
”貪欲の華”、10の秘宝のひとつで、アセティア大国で代々所持されている秘宝。
白く美しい花だが、茎部分の先端が非常に鋭利な形状をしており、突き刺された者を苗床にして殖えていく。
苗床にされた者は徐々に意識を秘宝に侵食され、最終的には巨大な大樹のようなものに成り、そこから新たな貪欲の華が咲く。
「へぇ~……あれが…」
ウォルターが小さく嘆く。
その声は3人の耳には届いていない。
「この秘宝があれば、私は多くの知識や経験までも得ることができる!!」
貪欲の華の所有者に選ばれた者は苗床となった者の知恵や経験を得ることができるのだ。
そのジリアン王の発言を聞いたハイドは激怒する。
「そんな自分の探究心のために民をあんな姿にさせ、民の命を粗末にしたのか!!」
「命を粗末だと?ハイドくん、君はまるでわかっていないようだね…。彼らは王であるこの私に!命を捧げたのだ!」
「あの人たちが自ら望んだことじゃない!!!!これはお前の欲が!!命とその者がこれまでに培った人生を奪ったんだ!」
「カニカニ!!」
激しく怒るハイドを応じるかのようにカニスもジリアン王に向けて怒りをぶつける。
しかしジリアン王はカニスを見ると不気味な笑顔を見せこう言った。
「私の欲で……か…そんな”欲の化身”を肌身離さず持ち歩いている君がよく言うな…。」
「なんだと…?」
「テロスがどうやってこの世に誕生したか知っているかい?それはね……」
「!!…ジリアン王!!」
ジリアン王がこれから発する発言を察したリアムは止めようと声を張るが、ジリアン王は止まらなかった。
「かつては…」
テロスも人間あるいは動物だったのさ…!
「…!!!」
ハイドは以前にミニーシヤからテロスのことを聞いていた。
しかし、テロスの出生までは教えられてはいなかったし、そのことに興味も持つこともなかった。
それは3級テロスとは共存が認められていたクヴィディタス大国出身のハイドにはテロスは普段の生活に存在していることに何の疑問も抱かなかったからだ。
だが、ハイドはここでテロスの誕生の真実を知り、新たなる疑問を持つ。
「どうやって………テロスに…なるんだ……。」
「もちろん、秘宝の力さ…!……クヴィディタス大国の王、ジャック王が所持する秘宝。進化の意慾の力さ…!」
「!!!」
ハイドは自分の大国の王がこの世界に無数に存在するテロスを生み出した人物であることを初めて知る。
「あーあ~…言っちゃった…」
「触れた生物をその生き物の欲のままに変異させる…!”世界の法則を壊す力”を持つ3つの秘宝のうち1つだ!!!すばらしいよ……!…だからこそ、私の持つこの秘宝も世界を壊しうる力を持つのか調べたくなってね……」
ハイドは興奮気味に語るジリアン王の前で崩れ落ちる。
そしてカニスを見ながらこう言った。
「カニス……お前……」
「カニ………」
「心配しなくていい。3級テロスはみな、動物が変異したものだ。そこにいるテロスは人間ではない。」
「そんなことを気にしてんじゃねぇ!!!」
ハイドは世界に広がるテロスの実態、それが元は自分達と同じ人間や動物であったこと、そしてそれをどの大国でも討伐対象としている。
この状況に複雑な心境になったのだ。
「これを…他の大国にいる民は知らないのか……?」
「テロスの正体は国民には伏せられているんだ、こんなことが……広まればみんな混乱になりかねないから…」
「リアムも知ってたのか!?」
ハイドの強い声に少しビクッとしながらリアムは答える。
「……うん……。アドルフさんやへーロスさんから聞いた…。ハイドには言うなってアドルフさんが…。」
リアムはアドルフに言われたことを思い返していた。
「いいですか、リアム。テロスの正体は絶対にハイドくんに言わないでください。」
「え、どーして??」
「彼は正義感と責任感が強い。正体を知れば必ず自分の大国を恨み、テロスまでも救おうとするでしょう。たとえ…それがもう助からない者だとしても…。だから、彼の親友であるカニスのためにもこのことは伏せておいてください。」
リアムはアドルフの言ったことが今ようやく理解できた。
ハイドは苦しんでいる。
大国の王の愚行に、テロスの命に。
「ハイド…。」
「……。」
そんなハイドを横目にジリアン王はこう続けた。
「テロスのような秘宝で生み出された代物は他にもあるさ。それを我々は”秘宝の副産物”と言ってね…。」
”秘宝の副産物”
それは10の秘宝により、作られた生命体や物質の総称。
該当するものには特級~3級の全てのテロス、聖騎士団が身につけている装備、聖装備もそのうちのひとつだとジリアン王は語った。そして……
「そして…!!これが私の秘宝が生み出した代物だ…!」
ジリアン王がハイドたちに見せたものは……
ごく普通の種だった。
しかしそれをジリアン王は奇跡と破滅の種と呼んだ。
”奇跡と破滅の種”
貪欲の華で苗床にされた者によってできた大樹によって得た種子。
取り込むと適合者には苗床となった人間分の養分を与え、欠損した身体の部位を再生させたり、食事をしなくとも生命を保つことが可能になる。
適合しない場合は内側から破裂し、適合率は数万人に1人と言われる。
「な、なんだ…これは……。」
「カニィ?」
「……。」
「これはね……特定危険物質に認定されていてね…。意図的には生み出せないのさ…。それ故に苗床がたくさん必要でね。だからこそ、君が欲しいのだよ。美しき流浪人。」
「え…僕が……?」
「パラフィシカーを苗床にすると…その者1人で高確率でこの種を生み出すことができるのだよ…!!」
ハイドとリアムはジリアン王の目的を察した。
自分たちをここで苗床にするつもりなのだと…!!
二人は臨戦状態に移行する。
危険なジリアン王がこの後どのような方法で自分達を捕らえるかわからない。
そして先ほどからただ佇んでいるウォルター。
あいつも何をしてくるかわからない。
そもそもなぜ自分達をここに案内したのか、なぜ王がここにいることを知っているのかなど、考えれば考えるほど怪しい。
リアムは自分だけでハイドの身を守れるか不安を抱くも、ジリアン王、ウォルター二人を警戒する。
すると、突如大きな音ともに地下空間にあった扉が壊される。
そこに姿を表したのは王宮で見つけた隠し部屋からこちらに向かっていたアローラたちだった。
「アローラさん!どうしてここへ!?」
「ハイドくん!」
「こ、ここは……一体……」
キリアンが地下空間を見て唖然とする。
「ここがあなたの兄、ジリアン王の実験場ということでしょうね…。」
キリアンは状況が飲み込めず、兄であるジリアン王に説明を求めた。
しかし、ジリアン王は邪魔が入ったことで少々不機嫌だった。
そしてウォルターはまるでここまでが計画通りかのように静かに微笑んだ。
「聖騎士団か……。いいところで…邪魔が入ったな……。だが、もう一人パラフィシカーを連れてきてくれたとはね…。」
そう言ってジリアン王はアドルフを見た。
アローラとアドルフもこれまでの状況を察し、警戒態勢をとる。
しかし、アドルフはジリアン王よりさらに警戒をしていた人物がいた。
それはウォルターだ。
それに気が付いたアローラはアドルフに尋ねる。
「アドルフ。あいつを知っているのか?」
「はい。”死神”と呼ばれる非常に危険な男です。(なぜ、彼がこの大国にいる…?彼がその気ならここにいる全員を……)」
するとウォルターがアドルフの心の内を見透かしたかのように答えた。
「安心しなよ~流浪人…。この場にいる全員はすぐには殺せないよ~…。君と……この青年を除いては……!」
そう言ってウォルターは目にもとまらぬ速さでハイドに接近し、リアムを蹴り飛ばした。
不意を突かれたリアムはそのまま吹き飛ばされ、ハイドは驚く間もなく拘束される。
「ハイドくん!」
「クッ…!(嘘だろ…!この人…見かけによらずなんて力だ……!)」
小村にいた頃からマルコのために肉体的な仕事をしてきたハイドには力強さだけは自信があった。
だが、ウォルターの前ではそれも無意味だった。
ハイドを捕らえられた状態でアローラ達はうかつに近づけなかった。
それをものともせず、ジリアン王はウォルターに近づいてきたのだった。
「なるほど……。君がなぜ…この場を知っていたのか分かったぞ。君は"やつら"と同じ…」
ジリアン王が言い終える前にウォルターはジリアン王の首を片手でへし折った。
その行動に一同が驚愕する。
「兄さん!!!!!」
「なんてことを……!!」
キリアンとアランがその光景を目の当たりにして声を張る。
「お前…自分が何をしたのかわかっているのか……!?……アセティア大国と戦争でもする気か!?」
「余計なことを言うからさ~…。それに…戦争…ね…。それは君たちの大国が気にすべきじゃない〜?」
「なに!?」
アローラはウォルターが言った発言に対して疑問を抱いた。
だが、その場にいる者がこの状況に驚いている中、さらなる驚愕の自体が起こる。
「…いきなり、首を折るとは…一応…この国の王なのだがね…。」
「!!!」
全員が驚愕した。
それは先ほど首の骨を完全に折られたジリアン王が何事もなかったかのように立ち上がったのだ。
ジリアン王は自身の秘宝から生み出した秘宝の副産物のひとつ、”奇跡と破滅の種”を用いたのだ。
それに適合したジリアン王は驚異的な回復力を身につけ、九死に一生を得たのだった。
「その種は不死身にでもなれるのかい〜…。」
「この種は不死身になるためのものではない…。さすがに頭を飛ばされていたら死んでいただろうね。」
「なるほど…ね…。」
ウォルターはそれを聞き、不気味な笑みを見せる。
ジリアン王は先ほどまでの余裕の表情から一変して大きく声を荒げた。
「だが…もう君たちを生かすわけにはいかないな。……我が下部よ…!!!!…こいつらを全員抹殺しろ…!!!!」
すると地下空間に存在していたいくつかの大樹が動き始めた。
それは秘宝の苗床となった者達ではない、もっと強大な何かだ。
「これは……!」
「1級テロスか!!」
ジリアン王が解き放ったのは3体の大樹型の1級テロスだったのだ。
秘宝の苗床となった植物化した人間に紛れて眠っていたのだ。
それをジリアン王が呼び起こし、アローラや弟であるキリアン含めたここにいる全員を殺害する命令を与えた。
1級テロスはアローラたちにツタのようなものを伸ばし襲いかかる。
「くっ…!こんなにも1級テロスが…!」
「アローラさん!!」
アローラの窮地に先ほどウォルターに蹴り飛ばされたリアムが助ける。
いくら聖騎士団隊長とはいえど、1級テロスを単体で撃破するのは時間を要す。
リアムとアローラは二人で協力して1級テロスに挑む。
また、アランも参戦しアローラにたちと協力する。
一方、ウォルターとアドルフはお互いに1級テロスを1体ずつ相手にしながらも攻防を繰り広げる。
しかし…
ウォルターは自身の懐からとある箱を取り出す。
「それは…!断絶の籠!」
「ここで秘宝を持っているのは王だけじゃないよ〜…。」
”断絶の籠”
ウォルターが所持している秘宝。
形状は籠というより人間の片手に収まる程度の非常に小さな箱で開けるとどんな大きさのものでも収納でき、内部にはこの世界にある通常の箱が全て存在している。
空間から出る方法は空間内に存在する箱を開けると出られ、その箱はこの世界に実際に存在する同じ箱に出る。
ウォルターはこの秘宝の能力を用いてこの騒動に乗じて逃げおおせたのだった。
「(しまった…!)」
「カニカニ!!」
アドルフはカニスを抱え、今はこの場にいる1級テロスを倒すことが先決だと判断しアローラたちと共に討伐に取りかかった。
闘いの影響で地下空間の天井が破壊されていく。
それをチャンスとにらんだアローラはアドルフ達と脱出。
1級テロスは瓦礫の下敷きとなった。
それにより王都内で大きな地響きが起こる。
「なんだ!?この揺れは!?」
酒場で酔っ払い達を喧嘩していたロクアは何かが起きていると察し、アローラたちのもとへ向かう。
「隊長ー!」
「ロクアか!」
アローラ達はなんとか無事であるもそこにジリアン王の姿はなかった。
瓦礫の中かと思われたが、アランが別の出口から逃げたところ目撃していた。
アドルフはリアムにジリアン王の拘束をアランと協力することを伝える。
一方、その頃ウォルターに連れ去られたハイドは見慣れた場所にたどり着く。
「ここは…。」
街には3級テロスが民と共存しており、見覚えのある隊服を着た兵が街を巡回している。
そう、クヴィディタス大国だったのだ。
それもクヴィディタス大国の王都に来ていた。
「気が付いたかい~?」
「(俺は…また…さらわれたのか…)」
ウォルターがハイドを連れ王宮の敷地に入る瞬間を目撃した人物いた。
「あれー?あの人ってクヴィディタス大国の関係者じゃないよねー?」
「そうみたいだな。だが私たちが知る必要はない。行くぞ、リベル軍曹。」
それはクヴィディタス大国でハイド狙った商人エインを殺害したリベル軍曹とその上司であるパウラ少佐だった。
「私は君のその軽薄な態度が気にくわない。それと7日前にこちらと密約した商人はどうした?あれから行方がわからないが…。」
「さぁー、消えたんじゃないですかー?」
リベル軍曹の軽率な反応にパウラ少佐が振り向く。
「……お前に監視させたはずだ。いないなら探せ。」
「承知でーす〜。(ま、もういないんだけどね)」
パウラ少佐はリベル軍曹が嘘をついていることを即座に見抜いたが、あえて言及しなかった。
その行動が後に後悔と繋がることも知らずに…。
そしてハイドはクヴィディタス大国の王宮に連れて行かれ、クヴィディタス大国の王、ジャック王と対面する。
その容姿は威厳のある顔に赤いマントを身につけたいかにも大国の王といった風貌だ。
「さぁ、ご命令の通り連れてきたよ~…。」
「こやつが例の青年か。よくやった。”死神”ウォルター・ヴァレンタイン。」
「あんたの大国の兵じゃこんなこともできないのかい?~」
「我が大国の兵は今、そのようなことに多くの兵を導入できないのだ。お前もすでに知っているのだろう?」
「戦争……だね…。」
「そうだ。分かったなら貴様に用はない。もう貴様と会うこともないだろう。殺されないうちに王都から出ていくがよい。」
「おぉ~…こわっ…。」
ウォルターはジャック王に言われるがまま王宮を出た。
そしてジャック王はハイド身につけた腕輪を見ながらこう放った。
「さぁ、その真理の神秘をこちらに渡すがよい。」
ハイドはジャック王の発言を意に介さず、にらみつけた。
こいつが世界中のテロスを生み出した張本人…!
ハイドはこれまでにないほどの静かなる怒りをジャック王にぶつけた。
クヴィディタスの王、謁見…
読んでいただきありがとうございました。
今回でテロスの正体、そして秘宝の副産物というワード、さらに多くの秘宝が登場しました。
これからも秘宝についての謎は徐々に明らかとなっていきます!
次回もお楽しみに!