9話「道化の戯れ」
彼らは動く、自分を信じて。
彼らは抗う、信念を糧に。
その最期まで、
道化として、
狂い踊れ。
~五日目~
21:00 セントラルエリア
道路を走る車も少なくなりつつある時刻、一際速度を上げた車がセントラルエリアの街を駆ける。
「なんで私まで…しくじったのはお姉様の方なのに。」
「…いいから黙って走らせろ!」
車内にいるララとヴェロニカの二人はいがみ合っていた。
遡ること1時間前…
「君たちは研究施設に向かいたまえ。」
「ウィルフォード様、お言葉ですが失態を犯したのは私ではなく、お姉さまの方よ。」
「君たち姉妹は二人そろってアルハンブラ家の看板を背負っているのだろう?
にも拘らずアルハンブラ家の失態とも言える先の件を姉上だけに任せるつもりなのかな…?」
「それは…」
ウィルフォードはララに研究施設に入る際の認証キーを渡される。
「中に入ったら全員始末しろ、いいね?」
ウィルフォードの発言を思い出すララとヴェロニカ。
「ったく…こんな時にやってくれんな…マッドネスジョーカー…」
~五日目~
21:30 セントラルエリア 機械工場付近
「ソフィア、こっちは到着しました。エヴァやヘーロスの様子は?」
同時刻、セントラルエリアの郊外付近に位置する機械工場に到着したアドルフ。
ここでは工場内部におかれているロボやドローンが無差別に付近の住民を襲い始めていた。
状況の把握、そして別地点で起きた騒動に向かった仲間の情報をソフィアに尋ねるアドルフ。
「ヘーロスはじきに到着、エヴァはすでに研究施設に入ったみたいだね、連絡が途絶えちゃったから。」
「わかりました。ドローンのハッキング解除の方は?」
「アドルフさん、それはまだ時間かかりそう…」
ソフィアからリアムの声に代わる。
「すでにここに来るまでに5機のドローンから攻撃を受けました。
相手は軍事ドローン、全てを無力化するのは私では不可能です。リアム、君だけが頼りです。」
「うん…!頑張るよ!
アドルフさんも気を付けてね!」
「そちらもね。」
アドルフはソフィアたちとの連絡を切り、機械工場へと向かう。
道中、幾度も武装したドローンに襲われるも、アドルフは狭い道にドローンを誘い込み、的確にドローンの制御核を破壊し無力化していく。
「(内部に侵入しようとしてもこれじゃキリがないな…)」
アドルフは走り続けながら、ドローンに襲われる一般市民を助ける。
しばらくドローンを撒きながらアドルフは市民が数人固まっているのを目撃する。
「(人がこんなに…?…ドローンからすれば恰好の的…)」
アドルフは見上げながら硬直した人々のもとに走る。
だが、突如アドルフの足が止まる。
「どうして…」
アドルフは硬直した人々と同じ方向を見ていた。
鼓動が速くなる…
自身の眼に映るものが信じられない…
アドルフはその場で手に握っていた短刀を思わず落とす。
彼の見上げた先には…
オルガの首がぶら下がっていた。
頭上に杭を埋め込まれ、その間に通したロープに吊るされた形でオルガの首はぶら下がっていた。
目を閉じているその表情はどこか穏やかであるが、悲しんでいるようにも見える。
「……。」
アドルフは無言で短刀を投げロープを切断する。
「うわー!人の首が落ちたぞー!」
「誰だよ!こんな不気味なもん切ったやつは!」
「きっとこれもあのドローンの仕業よ!誰かー!!」
人々が慌て始める。
しかしアドルフは彼らのことに気にもかけず、落ちるオルガの首を両手でキャッチする。
「きゃー!!人の首を持ってるわ!」
「お、お前か!ロープを切ったやつは!」
「気持ち悪いことすんなよ!そのままにしておいたほうが…」
「黙れ。」
アドルフが市民の発言を遮りながら睨みつける。
その殺意の籠った視線に市民たちはたじろぐ。
「まぁまぁ、そんな怖い顔されると僕もたじろいでしまうよ。」
「!!」
アドルフは声のする方へ振り向く。
そこにはなんとフランシスコがいたのだ。
周囲の市民たちが二人を見て、すぐに逃げ始める。
アドルフはフランシスコの登場で各地に広がった騒動の首謀者が彼であると認識した。
「あなたがまだ意識を保っているとは不思議ですね…サイバーインプラントを施している身で。」
その発言を聞いたフランシスコは少し驚いた表情を見せつつも笑みを浮かべる。
「くははっ…君はいいところに気が付くね。」
フランシスコはそう言うと懐から小さなガラス瓶を出す。
中には液体が詰まっている。
「君らだろ?“このウイルス”を見つけたの。」
「それは…!?」
フランシスコが取り出したものはアポカリプスウイルスだった。
以前、マッドネスジョーカーのアジトで囚われたハイドとヴァイオレットが脱出の際に落としたアポカリプスウイルスの複製品。
フランシスコはそれを解析し、サイバーインプラント全てに含まれていることを発見していたのだ。
そして密かにアポカリプスウイルスの影響を受け付けないワクチンを作製することでアポカリプス計画の被害を受けずに済んでいたのだ。
「君たちの作製したワクチンより性能は劣るけど、動く分には問題なかったよ。」
「なるほど、そのワクチンをサイバーインプラントを施した者や機械に入れることでこの状況を生み出した…ということですか。」
「御名答。」
「(それならなぜ都市部を襲っているのはボーンクラッシャーズなんだ…彼らの共謀しているのか…?)」
アドルフの疑問にフランシスコはまるで見透かしているかのような笑みを浮かべた。
「…まぁ見てなって。」
~五日目~
21:30 セントラルエリア 高層ビル付近
「こちらチームA。ボーンクラッシャーズは無力化した。チームB、市民の保護はどうだ?」
高層ビル近辺で起きたボーンクラッシャーズの暴動を鎮静化することに成功したダニー率いるH.U.N.T.E.Rの者たち。
「こちらチームB。市民の保護は完了しました。」
「了解だ。20分前にイヴリンと数名を研究施設の方へ向かわせた。
お前らもそっちに向かえ。俺も残党の後始末が終えたら…」
「ダニー!」
突如ダニーを呼ぶH.U.N.T.E.Rの者。
ダニーは声のする方を向く。
「これは…!?」
ダニーが見たもの。
それは先ほど無力化したボーンクラッシャーズの人間が市民の姿をしていたのだ。
ダニーを呼びかけた隊員の手にはバイオウェアらしきものが握られている。
それを見たダニーは何かを察する。
「チームB!応答しろ!保護した市民を確認しろ!」
「ぐあぁ!!!」
通信機から発せられる悲鳴。
それを聞いたダニーはすぐに理解した。
「まずい…!」
自分たちが[[rb:フランシスコ > 首謀者]]の罠にはめられていたことを。
「(逆だった…!)」
~五日目~
21:30 セントラルエリア 機械工場付近
「アドルフ!聞こえる?
高層ビルで起きたボーンクラッシャーズの騒動、あれはマッドネスジョーカーの仕業だよ!」
「えぇ、わかっています。」
ソフィアの連絡によって高層ビル側でのボーンクラッシャーズの騒動は見せかけのものであると理解するアドルフ。
アドルフは鋼線を取り出す。
臨戦態勢に入ったのだ。
それを見たフランシスコは呑気にタバコを吹かしながらアドルフを見下ろす。
「悪いが、僕は他にもやることがあるから…彼との相手を頼むよ。」
「…!?」
するとアドルフの死角から小型のミサイル弾が複数飛んでくる。
なんとか周囲の遮蔽に身を隠し、攻撃から身を守るアドルフ。
「チッ…!…外したか…」
アドルフに攻撃を行ったのはウィリアムだ。
ララやヴェロニカと同様にウィリアムは失態の穴を埋めるために機械工場に向かっていたのだ。
ウィリアムの攻撃によって機械工場の壁に大きな穴が開く。
「もう少しだけ舞台を盛り上げようか。」
フランシスコは自身の携帯型ホログラムを操作する。
すると工場内部にいたドローンが起動し始め、アドルフとウィリアムのもとに接近する。
「(まずはフランシスコから…)」
アドルフはウィリアムをいったん無視してフランシスコに狙いを定める。
しかし…
「俺はこの場にいる全員を始末するよう言われているんでな。」
そうウィリアムが言うと再びアドルフに向かって銃を放つ。
放たれたその銃弾は拡散し、周囲のドローンを破壊しながらアドルフに向かっていく。
「くっ…!(拡散追尾弾…!かなりの重装備…)」
アドルフも応戦すべく周囲のドローンに鋼線を巻きつけながらウィリアムに向けてドローンを投げる。
「くだらねぇ!」
ウィリアムは向かってくるドローンに小型ミサイルを放つ。
大きな爆炎が立ち上がる。
その爆炎から姿を現すアドルフ。
「なに!?」
ウィリアムはアドルフを迎撃しようと試みるも、アドルフの攻撃の方が速かった。
「うっ…くっ!」
短刀によって右肩から腹までを切り裂かれるウィリアム。
しかし、ウィリアムは左腕に力を込める。
すると腕の形が液状化した金属のようなものに代わっていく。
アドルフは短刀を床に突き刺し、それを足場として利用し、上手くウィリアムの攻撃を避け距離を取る。
その戦闘の光景を見たフランシスコがつぶやく。
「へぇ…あれがアイザックさんの言っていた技術か。」
距離をとったアドルフはウィリアムの左腕を見る。
「(金属なのに液状のよう…サイバーインプラントではないな…それに完全に使いこなせてはいなさそうだな…)」
アドルフはウィリアムの左腕の形状や様子を見て本人がその技術をあまりうまく制御できていないものだと考える。
「となれば…どこかに制御を補う箇所がある。」
アドルフは鋼線によって先ほど足場に用いた短刀を自身のもとに引き寄せる。
一方でウィリアムは後方でこちらを見ているフランシスコに警戒しつつ、目の前のアドルフに集中する。
「はぁ…はぁ…(これを出した以上時間がねぇ…速くストレンジャーのやつを始末してあのサイコ野郎の方に…)」
二人が戦闘を再開する。
それを見下ろすフランシスコは笑みを浮かべながら静かにつぶやく。
「さぁ、もっと踊れ…」
~五日目~
21:30 シュレディンガーエンタープライズ研究施設内部
「なに…これ…」
「ん?またお客さんかな?」
研究施設に侵入したエヴァは地下のとある部屋に入る。
そこには食事をしているアイザックがいた。
だが、エヴァが絶句したのはそのアイザックの前に並ぶ料理だった。
料理、と呼ぶのがふさわしいのかそれすらも疑わしい。
アイザックが口に運んでいたものは人の腕の形をしていた。
それにかぶりつくアイザック。
彼はエヴァの侵入に気にもせず話しかけた。
だが、エヴァはアイザックが口に運ぶ腕についたものを…
緑色に輝くブレスレットを知っていた…!!
「なんでお前がそれを…!!…オルガさんをどうした!!!」
エヴァが大きな声をあげる。
その瞳には涙とともに怒りが込み上げているのがわかる。
「そんな大きな声を上げなくても私は君の目の前にいるではないか。」
「殺してやる!!」
エヴァがアイザックのもとに走り出す。
エヴァの蹴りがテーブルを蹴散らす。
その攻撃をアイザックは軽々と躱し、距離を取る。
その手にはいまだオルガの腕が握られている。
「食事の途中なんだけれども。」
「オルガさんを!!どこにやった!」
エヴァが床に落ちたフォークを握りアイザックに目掛けて攻撃する。
「!?」
「君は…彼女の“どれ”に会いたいのかね?」
エヴァの攻撃を避けず目玉にフォークが刺さったままアイザックはエヴァに問う。
その異様な光景にエヴァは恐怖を感じる。
まともじゃない。
エヴァはそう感じたのだ。
そんなエヴァのことを意に返さずアイザックは話を続ける。
「もし、四肢と臓器をご所望なら貯蔵庫に、首であれば…」
アイザックの顔面に蹴りを入れるエヴァ。
アイザックは自身の鼻がへし折れるが、それでもまったく気にも留めていない。
「喋っている途中だというのに…君は少し行儀が悪いね。」
そう言うとアイザックの目つきが変わる。
即座にエヴァはアイザックと距離を離す。
アイザックの折れた鼻が徐々に元に戻っていく。
「再生系バイオインプラント…」
「だけじゃないさ。」
するとエヴァの背後から何者かがアイザックに向けてパルス弾を放つ。
エヴァも間一髪で避けるが着弾の衝撃でバランスを崩し倒れてしまう。
先ほどの攻撃が放たれた方を向くとそこにはララとヴェロニカが立っていた。
「アルハンブラ家…!」
「まさか今回の騒動、お前が加担していたとはなアイザック。
ブラッドフォード卿が泣くぜ。」
ヴェロニカが自身の腕に特殊な弾薬を詰め、リチャージしている。
おそらく先ほどのパルス弾は彼女の腕から放たれたのだと理解するエヴァ。
「あら、ストレンジャーもいるなんて。
一石二鳥ね、私たちの会社をめちゃくちゃにしてくれたお返し…しないとね。」
ララがエヴァを見ながら言う。
すると先ほどヴェロニカがパルス弾を放った箇所から無傷のアイザックが現れる。
「アルハンブラ家の美しき姉妹ではないですか、今宵は私のもとに美女がよく現れるもんだ。」
「強化系バイオインプラントまで!?」
エヴァは無傷の様子のアイザックを見て驚愕した。
その理由は本来バイオインプラントは強化系、再生系の2タイプに分類されるが、両方を施すことはできないからだった。
だが、エヴァの目の前にはその両方の性質を備えた人間が立っている。
「女性は上質な肉だ…今夜の晩餐会は盛大だ…」
「気色悪ぃ性癖晒してんじゃねぇよ、ゴミクズ野郎。」
~五日目~
21:30 セントラルエリア 公共電波塔
「うわっ、いっぱいいるな~」
電波塔から周囲の見下ろすエリック。
そこには多くの市民に爆弾を身につけさせあたりを監視しているマッドネスジョーカーの者たちがいた。
各地の街で暴動が起きている。
おそらくマッドネスジョーカーの仕業だろう。
君には公共電波塔に向かい、そこにいる市民と反政府組織全てを始末してもらいたい。
これは予想だが…
その間にヘーロス・ベルモンテが現れるはずだ。
ウィザースプーン邸でウィルフォードから聞いた発言を思い出すエリック。
エリックの目が紅く染まる。
「兄さん…」
赤眼の殺戮者、動く。
読んでいただきありがとうございました。
フランシスコとアイザックの策略により世界はさらなる混沌に陥っていく中で、ストレンジャーのとる選択とは…!?
次回10話をお楽しみに!




