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ハイド  作者: じょじょ
ハイド 第4章 ~交錯する理想と現実~

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8話「闇の晩餐会」

宴の晩に響く蠢きの音。


前菜は過去の苦み、


主菜は愛滲む再会の旨みにて。


そして、


デザートは女の甘い吐息。

~五日目~


19:30 ウィザースプーン邸



部屋の隅で立つ者に当主のことを尋ねた人物はテーブルにあるグラスを持つ。

その持ち方は非常に品があり、美しさすら感じる。



「話は変わるが…君のその右目は一体どうしたのかな…?」



シュレディンガー家当主、シュレディンガーエンタープライズ会長、生命工学の父


〇ブラッドフォード・Cセルマ・シュレディンガー



そう質問したのは白髪交じりの髪に整えた髭、そしておそらくは全身フルオーダーの品性あふれるスーツを着用したブラッドフォードだ。



「これは…レヴァリィ世界で受けた傷です…お構いなく。」



ウィザースプーン一族専属護衛人


〇ヴィクトール・ハイデンライヒ



ブラッドフォードに答えた人物はレヴァリィ世界のクヴィディタス大国で総督の地位についていたヴィクトールであった。

レヴァリィ世界でヘーロスと対峙した際に受けた傷が原因で右目はすでに視力を失っている。



「ブラッドフォード卿、彼の事なんか気に留めなくて結構かと思いますわ。なにせ我ら一族の底辺に属する者なのですから。」



アルハンブラコーポレート社長、経営学の一人者


〇ララ・Jジーン・アルハンブラ



そうブラッドフォードに発言したのは以前にアドルフたちが乗り込んだアルハンブラコーポレートの社長、ララだった。

相変わらず、美しい顔をしながらもその奥に光る眼はヴィクトールを蔑んだ感情が露わとなっている。



「あまり調子に乗るな、ララ。お前ら姉妹もつい数ヵ月前にストレンジャーにかなり手痛い目にあったことを忘れるな。」



政府直属組織H.U.N.T.E.R隊長、元総合格闘技王者


〇ヴィヴィアン・セルマ・シュレディンガー



そう言ったのは、H.U.N.T.E.Rに所属しているダニーの上司でもあり、H.U.N.T.E.R組織のトップに立つヴィヴィアンだ。

彼はララの隣にいる人物を凝視する。



「あぁ?こっち見てんじゃねぇよ…」



アルハンブラコーポレート研究部最高責任者、工学博士


〇ベロニカ・ジーン・アルハンブラ



彼女もまた妹のララと同様にストレンジャーによって会社をめちゃくちゃにされただけでなく、自身も重傷を負うほどの被害に遭った者だ。

その失った片腕には新たに新調したサイバーインプラントが身についている。



「いやはや、みなさん我々は一族としてこういがみ合っている場合ではないですぞ…ヒッヒッ…」



政府研究所所長、機械工学のプロフェッショナル


〇ローレン・Gグリーン・ウィザースプーン



ローレンは自身の手に施したサイバーインプラントを眺めながら皆にそう発言する。



「叔父様~!それは新型のインプラントかしら?」


「いかにも。これは私がつい先日完成させた新たな機能を搭載したサイバーインプラントだ…!」



ララとローレンが二人で会話を楽しんでいる中、皆より少し遅れて席に座る人物がいた。



「動物みてぇにピーピー喋るなローレン。気色悪ぃぞ。」



政府直属暗殺組織E.R.A.S.E.R隊長、政府の最高戦力


〇クリス・アルヴァ・ウィザースプーン



クリスは席に座るや否やテーブルに足を置き、タバコを吸い始める。



「久しいですな、クリス殿。兄上は元気でおられるかな?」



まわりの人物がクリスの登場で一気に静寂になる中、ブラッドフォードがクリスに話しかける。


そのブラッドフォードの問いに対してクリスはお構いなくたばこの煙をふかした後に答える。



「んなもん知るかよ。直接あいつに聞きな。」


「皆さま、ウィルフォード様がお見えです。」



ヴィクトールが席に座る皆に伝える。


そうすると正面の扉から現れたのはウィルフォードと息子、ウィリアムだった。



「申し訳ない、皆さん。少々政治案件の用を片付けていたところでね。」



ウィザースプーン一族当主、大統領補佐にして次期大統領候補、元考古学学者


〇ウィルフォード・グリーン・ウィザースプーン



「これはこれはウィルフォード殿、久しいですな。そちらにおられるのはご子息のウィリアム殿かな?」



ブラッドフォードがワインを片手にウィルフォードの後ろにいる人物に目配せする。



「ほう、あの傷で一命を取り留めていたとはな。ボーンクラッシャーズとの戦いはかなり激しいかったと見れるな。」


「……。」



「対O.S特殊部隊隊長


〇ウィリアム・Gグリーン・ウィザースプーン



ヴィヴィアンに自身のしくじりを皆の前で知られることとなったことで返す言葉がないウィリアム。



「まぁ、そのおかげで私の最高傑作をウィリアム君に施すことができたのだがね…ヒッヒッ…」


「ん?ところでローレン、イヴリンは今回も欠席か?」



ローレンの隣が空席であることからウィルフォードが尋ねる。



「兄上、悪いが娘とは“あれ以来”連絡を絶たれてしまってね…私もわからんのだ。」


「はっ、そりゃ叔父上があいつを被験体として扱ったからだろ?」



ベロニカがあざ笑いながら言い放つ。


それを聞いたララが自身のグラスをすすりながらつぶやく。



「ふん…叔父様の研究に貢献しなかった一族の恥よ…。」



そんな会話を中断するかのようにウィルフォードが自身のグラスの音を鳴らす。



「皆さん、静粛に。」



その言葉とともに皆がウィルフォードに注目する。



「今晩、我々が集まったのはT.Z.E.Lツェルの一員である皆様にお伝えしたいことが二つあるからです。」





かねてより、我々は歴史の影に隠れあらゆることを為してきた。


戦争と平和の調和、国の統制、技術の発展…


それらは全て我々の目的を達成すべく行ってきたこと。



1万年前、かつてこの大陸に文明を築いた古代人。


彼らは“創られし者”が誕生して僅か14日間でその高度な文明を歴史から消え去るに至った…



3万年も維持してきた文明がたった14日間で滅んだのだ。


それはなぜか?






「その答えを今宵は皆様と共有すべく招集した。」



そうウィルフォードがいうとヴィクトールがホログラムを起動する。



ホログラムには“Code-µミュー”と“Code-ν(ニュー)”と書かれた文字が浮かんでいた。



「今ここに記したのはレヴァリィ世界に潜伏したヴィクトールからの情報だ。」


「これが…我々が探し求めていたものですか?ウィルフォード殿。」



ブラッドフォードがウィルフォードに問う。



「いかにも。」



このデータには…



古代人であり、我が祖先であるグリーン・ウィザースプーンの記憶が内蔵されている…!



「!!」



一同が驚愕する。


そして、ウィルフォードは続けてこう言い放つ。



以前実行したアポカリプス計画により、人類の6割はすでに我々の支配下においている。


これで、我々の計画の第一段階は達成された。



そして、レヴァリィ世界での7大国決戦によってREVARIEレヴァリィ」に繋がれた多大な人間が死に瀕した。


これにより機械生命体は約80年分に及ぶ人間の思考データを取得できた。



あとは…



「我々の最終計画、ラグナロク計画を実行するのみとなった。」



古代人の遺伝子を強く継ぐ我々こそ、真の人類…!


今の世界に反映した人間は本当の人類などではない…!


古代人によって生み出された存在なのだ…!


だが、我々はその偉大なる古代人の血を引く高貴な生命体。



今から9日後、ラグナロク計画を実行することで今ある文明は滅び、再び古代人の時代を創り上げようではないか!!




ウィルフォードの盛大な乾杯に皆もグラスを上げる。



ただ一人クリスを除いて…。






しばらく晩餐会を堪能したウィザースプーン一族だったが、そこに勢いよく扉が蹴り破られる。


その音に皆が扉の方に注目する。



「いや~遅れましたー!…下でここの警備員にずっと止められちゃっててさ~。」



そう言った男はすでに息のない警備員の死体を引きずりながら部屋に入る。



「それは済まないことをしたね…エリックくん…。」



部屋に入り込んできたのはヘーロスの実の弟、エリック・ベルモンテだった。



「あ、なにそれー!美味そうなごちそう!」


「殺し屋、ここはウィルフォード様の屋敷だ…無礼な行動は止めろ。」



勝手にテーブルに並んだ食べ物に触ろうとするエリックの腕を掴み止めるヴィクトール。


だがそれに対して笑みを浮かべながらも、しっかりと殺意の籠った眼差しでヴィクトールを見るエリック。



「おいおいー、発言には気をつけろよザコ、…殺すよ?」



その殺気にヴィクトールは冷や汗をかく。



「ヴィクトール、彼は例外だ。」



ウィルフォードの仲裁でヴィクトールはエリックを離す。



「あれが…世界最強の殺し屋…ベルモンテ兄弟の片割れ…」



静かにつぶやくララ。


エリックの登場で会場にいるウィザースプーン一族の者たちはみな動きを止めた。


彼から放たれる殺気を感じ取ったのだ。


うかつに余計なことをすれば、すぐにでも殺されかねない…


そう感じ取ったのだ。


一部の例外は除いて。



「それで…エリックくん、君が遅れたのには他にも理由があるだろう?」



ウィルフォードが豪華な食べ物に夢中になっているエリックに問う。



「ん?…あーそのことね。あんたが指示したようにボーンクラッシャーズの残党は大方始末したよ。」


「あのボーンクラッシャーズをだと!?反政府組織で最も構成員が多い連中だぞ!…それをお前一人が…」



ウィリアムが驚愕する。



「そこにいるダメ息子の手に余る案件を俺が終わらせたんだ、感謝してほしいな~。」



エリックはウィリアムの方を見つめながらつぶやく。



「だが、君もひとつミスを犯したね…それも重大なミスを。君は我々組織の情報を入手した者を殺し損ね、さらには抹消対象であるストレンジャーの者を逃がしてしまった。」



ウィルフォードの発言でエリックはT.Z.E.Lの情報を手に入れたダニー、そしてアドルフとの戦闘でストレンジャーに逃げられたことを思い出す。



「それはー…そーだけどさー…。」



エリックは痛いとこをつかれたのか、言い返す言葉もない。


そんなエリックを見て少し微笑みながらウィルフォードが次にこう言った。



「だから…君にはその汚名返上として、今夜ある仕事を頼みたい。」


「というと?」



ウィルフォードはエリックの耳元で囁いた。


その発言を聞いたエリックは目を見開いた後、明らかに不満そうな表情をする。



「え~なんで俺が~」


「他の地点には別の者を向かわせよう。なに、君以外にも失態を犯した者はいるからね。」



ウィルフォードはそう言うと静かにウィリアムの方を向く。


それは実の息子に向けるような視線では到底なかった。



「検討を祈っているよ、エリックくん。」






~五日目~


20:00 シュレディンガーエンタープライズ研究施設内部



「はぁ…!…はぁ…!」



研究施設の地下を駆けるオルガ。


呼吸も絶え絶えになりながらも地上へ目指そうと走り続ける。



だが、



床には大量の血が彼女の通った軌跡を示すかのように続いていた。



オルガは失った片腕を服の切れ端で縛り、なんとか意識を保ちながら走り続ける。



「(ソフィアちゃんに…みんなに…この情報を届けなきゃ…!…)」



再生系バイオインプラントを施しているオルガはある程度の傷であれば再生することができる。

しかし、本来バイオインプラントは戦闘用ではなく上流階級に位置する者たちの長寿化を目的とした技術。

腕のような身体の大きな部位を失った際のことは想定されてはいないのだ。



出血により、足元がふらつくオルガ。


視界がぼやけ始める。


床に手をつきながらオルガは先ほどのことを思い出す。






~五日目~


19:30 シュレディンガーエンタープライズ研究施設内部



「(ここは…一体…)」



オルガは光が漏れる部屋の扉を静かに開ける。


その部屋には様々な実験器具や装置の他に、不自然にも食器なども置かれていた。



「皿がまだ暖かい…(さっきまで人がここにいた…)」



オルガはさらに部屋の内部を捜索する。


そこでオルガはさらに奥へ続く扉を見つける。


扉を開閉するボタンに指を近づける。



「これは…一体…!?」



目の前の光景に驚愕するオルガ。



「ご感想は?」


「っ!!」



オルガは背後にいる人物に向かって攻撃を繰り出そうと試みる。



「そんな…!」



しかし、振り向いたオルガはその場にいる人物を見て攻撃を中断する。



そこにいた人物は…



「姉ちゃんー!」



死んだはずの弟コリンだった。




本物?



いやホログラムで作り上げた偽物?




どちらにせよオルガの脳内では15年前と変わらない弟の姿を見たことで、これまでの…



愛する弟との記憶が蘇っていた…



その油断を相手は見逃さなかった。



「バーン。」



コリンの姿をした何者かが銃弾をオルガに放つ。


オルガは咄嗟に腕で防いだが、銃弾はオルガの腕に撃ち込まれたと同時に爆発する。


それにより、オルガの腕が吹き飛び、床に倒れる。



「くはは…それは炸裂弾入りの銃だよ、姉ちゃん。」



コリンの姿をした人物がそう言うと、自身の顔を引っ張る。

すると皮膚がマスクのように剥がれ、本当の姿が露わとなる。


オルガはその人物を見て驚愕する。



「フランシスコ!」



コリンの姿に化けていたのはマッドネスジョーカーのリーダー、フランシスコ・ウルキオルだ。



「バイオウェアって便利だよね~使い捨てだけど。」


「フランシスコ君、彼女が君の言っていた人物かね?」



後から部屋に入ってきた人物がフランシスコにそう問いかけた。


オルガからはフランシスコに遮られ顔までは確認できない。



「いえ、彼女ではありませんでした。ですが…彼女の弟君には世話になったからね…」


「!!お前がコリンを!!」



オルガはフランシスコが自分の弟であるコリンを手にかけたことを知り激しく怒る。



「くはははは!!まぁそう怒らないで、そのかわり君はここまでたどり着けたじゃないか。」


「くっ!」



オルガは自身の装備にある煙幕をその場で投げる。

そして、すぐにその場から立ち上がり逃亡を試みる。



「逃がしませんよ。」



部屋の外を目指して走るオルガにフランシスコと共にいた人物が銃弾を放つ。



「うっ…!」



二発の銃弾はオルガの腹と胸を貫く。


それでもオルガは走り続け、部屋の外で最後の煙幕を投げその場から脱出する。






~五日目~


20:00 シュレディンガーエンタープライズ研究施設内部



場面は戻り、オルガは地上へと通じる階段をなんとか意識を保ちながら駆け上がる。


地下へ侵入した際に使用したエレベーターはすでに停止していたことから、オルガはフランシスコによって施設にある全てのエレベーターは完全に停止されていると考えたのだ。


しかし、出血の影響ですでにオルガには地上に上がり切る体力は残されていなかった。


オルガは地上に続く長い階段を見上げる。



「無茶…しすぎちゃった…かな…」



階段の途中で力なく壁にもたれ込むオルガ。


残された右腕にはコリンのブレスレットが握られている。











ごめん、みんな…


もうみんなのもとには戻れないみたい…


コリンを失ったときのように…


また自分の目の前から大事な存在が失うのが怖かった…


だから無理しちゃった…


みんなに…


頼れる存在だって…


思われたかったんだ…


コリンがそう思ってくれたように…











「…届くと…いい…な…」



オルガは消えゆく意識の中でそうつぶやき目を閉じる。



「届きやしないよ。」



目を閉じ、息を引き取るオルガの目の前にはフランシスコが立っていた。



「おっと、彼女は私が貰いますよ、フランシスコ君。」



フランシスコの背後からオルガに歩み寄る人物が現れる。



「まったく、僕もかなりの狂人と思ったけど…あなたも大概だね…アイザックさん。」



フランシスコはオルガに歩み寄る人物にそう言った。



遺伝子生物学、行動心理学、量子解析学のスペシャリスト


〇アイザック・T.B.Cティナ.ベアトリス.シビル・シュレディンガー



アイザックと呼ばれたその人物は黒の長髪、様々な宗教の神を模した入れ墨を全身の至る所に施した一目見れば記憶に残り続けるような容姿をしていた。


アイザックはすでに息を引き取ったオルガの耳元に向かってこう発言した。



「晩餐会へようこそ、オルガ・オールブライト…。」



闇に開かれし宴の開幕…

読んでいただきありがとうございました。

ついに政府や世界を裏で操る組織T.Z.E.Lの全貌が明らかになりましたね!


すでに現実世界の人口6割は彼らの支配下にある状態ですが、この先ヘーロス達はどのように立ち向かうのか…


次回9話をお楽しみに!

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