7話「名もなき証明」
夜風に響く駆動音。
眠りを妨げ、社会の歯車として、
働きを持ち掛ける。
己にとって真に大切なものを忘れてでも。
~五日目~
19:10 ストレンジャー拠点内部
「ソフィア!いるか!返事しろ!」
暗い部屋で響く声…
声の主はアンドリューだ。
レヴァリィ世界から帰還した流浪人ことストレンジャーの仲間は同じく現実世界で支援や情報通達等の役割を担っていたソフィア・ガーネットを探していた。
その理由として普段、レヴァリィ世界にいる間は常にソフィアとの連絡ができる状態であったのにも関わらず、突如として7大国決戦が始まる前日から現実世界側での連絡が途絶えたからだった。
「おぉ~!…おかえりみんな!いや~心配したなーとつぜ」
「心配したのはこっちだよー!」
ソフィアの発言を遮りエヴァが思わず抱き着く。
遅れてソフィアのもとにヘーロスやアドルフ、リアムが現れる。
「お、ヘーロス!…どうだい?久々の現実世界は。」
「あぁ、お前のうるさい声がまた聞けてうれしいさ。…それよりソフィア、こうなった経緯を説明しろ。」
ヘーロスはソフィアに単刀直入に問う。
ソフィアはアドルフたちがレヴァリィ世界に入った後のことを説明した。
~三日目~
ストレンジャー拠点内部
「よーし、んじゃ私はこのままレヴァリィ世界のみんなの行動を見ておくから、リアムとヴァイオレットは外の様子を常時監視して!」
「うん!」
「わかりました。」
数日の間は何事もなくソフィアはレヴァリィ世界にいる仲間のサポート、ヴァイオレットは現実世界側の監視と情報取集を行った。
だが、問題が起きたのはハイド達がレヴァリィ世界に入ってから四日後のことだった。
~四日目~
ストレンジャー拠点内部
「う~ん、おかしいなー」
「どうかしたんですか…?」
ヴァイオレットがソフィアに尋ねる。
「うん、レヴァリィ世界での交信がうまくとれなくてね。」
「ソフィアちゃん、それってちょっとマズいんじゃない?」
それを聞いたオルガがソフィアに問う。
「こっちのシステム上の不具合ならなんとかなるんだけど…
あっちの影響、あるいは外部からの影響となると…少し厄介かな~」
「でも、さっきみんなのいる部屋見てきたけど、みんなの身には問題ないみたいだけど…」
「ソフィアさん、オルガさん、これ見てください!」
「これは…」
ヴァイオレットが見せたものは、拠点外部での広域における通信システム異常についての報告だった。
「(レヴァリィ世界にいるアドルフたちがちょうど大掛かりなことをするタイミングで…)」
「なんか怪しいね…ヴァイオレットちゃん、その通信システム異常の発生源って特定できる?」
「やってみます…!」
ヴァイオレットは得意のハッキング操作で街中の全公共システムを調べて、わずか10分程度でこの街全域にかかるシステム不良の場所を特定した。
「オルガさん、出ました。」
「ありがとう、ヴァイオレットちゃん!」
「って…これは…」
ソフィアが映し出されたホログラムを凝視する。
そこには2か所の地点から通信システムの妨害電波が発生していることが判明した。
だが、ソフィアが気になったのはその場所だった。
「都市部の高層ビル、シュレディンガーエンタープライズの研究施設…
そんなところに街の全域を覆うほどの妨害電波が放たれてるって…」
「明らかに人為的なものが関わってるとしか考えられないね。」
ソフィアとオルガはそう分析する。
するとヴァイオレットが二人にもうひとつの映像を映し出す。
「二人とも見てください…!」
「これは…!」
二人が見た映像には都市部の高層ビル付近の映像だった。
そこにはボーンクラッシャーズの残党が暴動を起こしている様子だった。
リーダーであるケリー・ヴィッカーは先のアポカリプス計画の際に命を落とし、アポカリプスウイルスの支配下におかれていない残党が暴動を起こし始めたのだろう。
「これってマズくない!?」
「ソフィアさん…オルガさん…聞こえますか…?」
するとソフィアたちからある人物の音声が届く。
「君は…ダニーくん?」
「はい、俺です。突如として街中のボーンクラッシャーズが暴動を起こし始めました…」
ソフィアたちに連絡をよこしてきたのは元ストレンジャーの一員で今では政府の組織|H.U.N.T.E.Rのひとりであるダニー・バーキンであった。
立場的には敵対側の人間となった彼だが、アポカリプス計画の騒動で一時的にストレンジャーと協力関係となったダニー。
今では再び敵対関係に戻りつつも、ダニーは今回の騒動の糸口をソフィアたちが知りえないか尋ねてきたのだ。
「ごめん、こっちも今知ったばかりでさー。
けど情報がまとまり次第、そっちに送信するよ。」
「すみません、ありがとうございます…」
ダニーとの通信を終了すると、ヴァイオレットが静かにつぶやく。
「都合のいい連中…今までは敵対してきたくせに…」
「まぁまぁ、助け合いだよヴァイオレットちゃん。ダニーくんも元は私たちの仲間だったんだから。」
「…。」
ヴァイオレットはいまだに自分たちとの立場が安定していないダニーのことを不安要素のひとつとして気に留めていたのだ。
「とりあえず、暴動が起きている方はダニーくんたちが対処してくれるみたいだね。
私は研究施設を捜索してくるよ。…私もシュレディンガーエンタープライズの社員だから認証されてて潜入しやすいし。」
「気を付けて、オルガ。
…研究施設に入ればこっちと連絡とれなくなるから…ヤバそうだったらすぐ引いてよね?」
「もちろん、年長者を信じて。」
そう言ってオルガは研究施設へと目指す。
~五日目~
19:15 ストレンジャー拠点内部
「…といった感じかな。」
「それじゃ俺たちもすぐにその場へ…」
アンドリューがそう言って急いで支度をしようとするが、ソフィアが口を挟む。
「そうしてほしいところなんだけど、ついさっき新たに二つの地点でさらにヤバイ問題が起きてさ…」
ソフィアはそういうと詳細を話し出す。
ヘーロス達が現実世界に戻る数分前にソフィアは新たな2か所…公共電波塔、機械工場、この二つの地点で騒動が起きていることを発見する。
公共電波塔では多くの市民が囚われ、電波塔に張り巡らされた爆弾の人質にされていた。
また、機械工場では何者かが工場内部の軍事ロボ、ドローンに不正アクセスされていた。
公共電波塔は万が一破壊された場合、機械生命体が保有するREVERIEを除いた現代社会で稼働するシステムの約7割がシステム不良および完全停止となる。
そうとなれば、この機械に頼りすぎた今の社会で少なくとも数日間はインターネット、機械等の使用が困難となり、それはストレンジャーがレヴァリィ世界にアクセスすることが不可能になることを示唆していた。
そして機械工場では現在、工場内部にいる全500機の軍事ロボ、ドローンのシステムが不正アクセスを受け周辺地域の民間を襲い始めている。
前者を優先すれば、民間の被害は壮絶なものとなり、後者を優先すればさいあく自分たちはレヴァリィ世界に潜ることが不可能となる状況だ。
さらに政府の組織であるH.U.N.T.E.Rはすでに数時間前に起きた高層ビル付近でのボーンクラッシャーズの残党が起こした暴動の鎮静化で人員を出払っている。
「嘘だろ…」
「これは…明らかに計画的な大規模テロだよ。」
ソフィアが説明を終えたタイミングでヴァイオレットが部屋にやってくる。
「あ…みんな…起きたんだ……ハイド…は?」
ヴァイオレットの発言を聞いてヘーロスたちはしばらく沈黙する。
その沈黙を破ったのはリアムだった。
「ハイドはまだやるべきことがあるって…レヴァリィ世界に…」
「で、でも…!…レヴァリィ世界の様子はいま確認ができないんだよ…!
そんな状況でハイドだけ取り残すなんて…!」
ヴァイオレットはハイドがひとりでレヴァリィ世界にいることをリアムから聞き、現実世界でレヴァリィ世界との通信ができない中でそんな無謀な選択をとったヘーロスたちに問い詰める。
だが、ヘーロス達はすぐに武器を装着しながらヴァイオレットの問いに冷静に答える。
「だから、俺たちがここにいるんだ。」
「ハイドくんの様子をすぐにでも確認できるように私とヘーロスで新たに発生した二か所の地点にそれぞれ単独で向かいます。」
アドルフはさらに公共電波塔からはボーンクラッシャーズの暴動が発生している高層ビル、機械工場からは研究施設がそれぞれ位置的に近いことからH.U.N.T.E.Rが来る前に被害を鎮静化し、速やかに次の地点に向かうことを考えた。
ヘーロスとアドルフが装備を整える。
するとエヴァがアドルフに提案する。
「私も行きます!」
「おい!エヴァ!何を言って…」
アンドリューの制止を振り払いながらエヴァはアドルフとヘーロスに説明する。
オルガが向かったシュレディンガーエンタープライズの研究施設には起点となる主電源が二つあった。
その二つを停止、または破壊しなければ妨害電波は止められない。
いくらヘーロスやアドルフといえど、一人で行うには時間をかなり要すのは想像に難くない。
人員が足りないことを想定して研究施設には自分が向かうことを提案したのだ。
「その仕事なら俺にだって!」
「それはダメ、アンドリューが残ってないとソフィアたちを守れるのは誰がいるわけ?」
「それは…」
エヴァはアンドリューと自身、どちらが拠点にいる三人を守り切れるのかを考え、アンドリューの方がその役に相応しいと考えていた。
事実、腕っぷしの強いアンドリューなら適任だろう。
それにアドルフと同様に潜入等の仕事を多くこなしてきたエヴァもまた、今回の仕事では適任なのだ。
「わかった…エヴァお前を信じよう。だが…」
「くれぐれも無理は禁物です。」
ヘーロスとアドルフ二人の発言を聞いて呆れた表情でエヴァが言い返す。
「二人に言われたくないですよ…!」
ヘーロスとアドルフ、エヴァは別々の車に乗り込む。
「ヘーロス。」
するとアドルフが車に乗り込もうとするヘーロスに声をかける。
「エリックの件ですが…」
アドルフはヘーロスが昏睡状態にあった際のアポカリプス計画についてヘーロスに伝える。
そしてヘーロスの弟…
エリック・ベルモンテに出会ったことも。
「…エリックが…。…わかった。」
ヘーロスはエリックの存在に対してそこまで驚きはしなかった。
そしてアドルフはダニーが伝えた情報、裏で蠢く謎の組織T.Z.E.Lについても伝えた。
ヘーロスとアドルフは互いに背を向けながらこう言う。
「そっちは任せたぞ、相棒。」
「あぁ、わかってるよ、相棒。」
~五日目~
18:30 シュレディンガーエンタープライズ研究施設内部
「(誰もいない…けど明らかに人のいた痕跡がある…)」
時は少し遡り、オルガは廃墟の内部に侵入し捜索を続けていた。
すでにソフィアと連絡が途絶えてから3時間は経過している。
それでもオルガは捜索を中断しなかった。
「はぁ…私…何やってんだろ…。」
オルガは疲弊した体力の中、自分がそれでも捜索を諦めずに行動を続けている様に少し呆れ気味に言葉をもらす。
「姉ちゃん!姉ちゃん!」
「もう、一体何時に連絡してると思ってるの、コリン。」
それは今から15年前のことだった。
当時の私は優秀な人材として社会に待遇され、シュレディンガーエンタープライズの一社員としての日々を過ごしていた。
そんな私には13歳の弟がいた。
名はコリン・オールブライト。
彼は天神爛漫でいつも私の都合などお構いなしに連絡をかけてきた。
「ねーね!いつ帰ってくるのー?」
「今月は無理だよコリン、お姉ちゃん、今すごく忙しくて…」
「えー!前もそー言って帰って来てくれなかったじゃん!」
「それは…来月は絶対帰ってくるから、約束するよ。」
「ほんとだね?絶対だよ?約束破ったら姉ちゃんのこと嫌いになっちゃうからねー!」
「わ、わかったって…!おやすみ、コリン。」
「うん!おやすみ姉ちゃん!」
電話を切った私は部屋の窓を開けて、夜風を浴びながら街を眺める。
深夜だというのに風の音よりも大きく街に響くのは機械が動く駆動音。
この街、いやこの時代には夜になろうとも静寂というものは存在しない。
「この街が眠ってくれないと…私まで寝れないじゃん…」
そう言って私は夜風に当たりながら腕に着けた携帯型ホログラムからカレンダーを出した。
「そっか…コリンの誕生日、来週だ。」
弟は自分の誕生日を祝ってほしかったのだと今更ながらに気が付く。
そんな薄情な自分に少しムカついた。
「はぁ…私…何やってんだろ…。」
けど、弟は…
コリンは…
そんな私でもいつも変わらず接してくれている。
こんなにもいつも厄介払いしている私にいつも仕事の心配や会うことだけを考えてくれている。
「プレゼント…渡さなきゃ…。」
私はコリン宛てに自分とお揃いのブレスレットを送った。
緑色に輝くそのブレスレットは安価ながらも人の目を奪う魅力的な色を放っていた。
コリンのプレゼントを買ったその販売店は、不幸にもブレスレットが棚に並んで数日後には閉店となってしまった。
でも、それはもう世界には私とコリンだけしか持っていない物という証拠にもなっていた。
「以上が企画の内容なります。」
私はその後も仕事に明け暮れる。
企業は政府と密接な関係にある以上、ひとつのミスや不祥事が今では命取りとなる。
そんな息の詰まるような社会に身を置いた自分を私は後悔している。
そして翌月、私は自身の生涯において一生消えない傷を自分に残すこととなった。
それは仕事中に上司に呼ばれたことが始まりだった。
「そんな…。」
その内容はコリンが死亡したことだった。
私は事件現場に急行し、弟を見た。
「コリン…?」
その姿は事件を担当する警部に言われるまで自分の弟だと気が付かなかった。
弟は無残にも皮膚を剝ぎ取られ、内臓は全て抜き出され、腸は首に巻かれ、胃や心臓などの臓器は全て手足の関節部に無理矢理、繋ぎ合わされていた。
原形がないほどにまで変えられた弟を見つけた警部はその足元に落ちていた携帯型ホログラムから私の連絡先を特定したことで私に連絡が届いたのだ。
そこで私は気が付いたのだ。
弟が死に瀕する直前まで…
数十件にも及ぶ自分宛てに連絡をしていたことに。
そんな中、私は自分の都合を無視した弟からの連絡だと勝手に思い込み、仕事を優先しすべての連絡を無視していたのだ。
これほどまでに自分を呪った日はなかった。
弟の顔が今でも夢にちらつく。
だが、私が呪ったのは自分だけでなかった。
「どうしてですか!なんで捜査を取りやめるんですか!」
「悪いが機密事項だ、下がりたまえ。」
「弟が殺されたんですよ!!それを見なかったことにするつもりですか!」
「…君も企業の人間だ、わかるはずだろ?」
「…!!」
そう、コリンの殺害における調査は事件から僅か1週間ほどで取りやめとなった。
その理由は実に単純。
大手企業の一員である私の血縁者がこんな狂気的な事件に遭っては、企業としての顔に泥が塗られかねないからだった。
そのためシュレディンガーエンタープライズは政府との交渉により、直ちに捜査の取りやめを行ったのだ。
その日を境に私は完全に企業の信頼を失い、独自で弟の事件の真相を明らかにすべく奮闘した。
そして今の仲間たちに出会うこととなった。
表の顔では企業の優秀な社員として、裏ではストレンジャーとして政府の闇を暴くために行動を続けた。
今では私のもうひとつの家族であり、居場所でもある。
そんな彼らのためにも…
また、家族を失うような真似は私が許せない。
「文句垂れてないで先を行かないとだよね。」
オルガは研究施設の地下に向かう。
地下のマップには地下2階まで備わっており、オルガは少しづつ慎重に調べていく。
そして地下2階の大きな部屋でオルガは数えきれないほどの武器やサイバーインプラントの装備を発見する。
「これは…!(こんな数…戦争でも起こす気なの!?でも誰が…!?)」
オルガはただ事ではないことに気が付き、その場を離れて至急ソフィアにこのことを伝えようと考える。
すると…
「おい、誰だ!」
「!!」
背後に現れた男二人に見つかったオルガはすぐに男を無力化する。
「こいつらは…マッドネスジョーカー?」
オルガは無力化した男の身に着けた武器や服装からこの廃墟にいるのはマッドネスジョーカーの者であることを突き止めた。
他の敵が来る前にこの場を離れようと考えるオルガだったが…
「なんで…これが…ここに…」
その部屋の奥にある机にはオルガにとって見覚えのあるものが置いてあったのだ。
コリンのブレスレットだ。
15年前、コリンの遺体にはそれがなかった。
コリンの誕生日プレゼントとして送ったお揃いのブレスレットだ見間違えるはずもない。
事件当時、コリンが身に着けていなことを考えたオルガだったが、その後どんなに探してもコリンのブレスレットは見つからなかった。
それが15年越しに目の前にある…
オルガの息が荒がる。
「これは…コリンの…」
このブレスレットは私とコリンしか持っていない…!
オルガはその机で隠された扉を見つける。
ふと、オルガの脳内にソフィアに言われたことが[[rb:過 > よ]]ぎる。
…ヤバそうだったらすぐ引いてよね?
「ごめん、ソフィアちゃん…これだけは…諦めきれないの……コリンの事件の真相を…証明しないと…!!」
そう言うとオルガは隠し扉を開ける。
~五日目~
19:30 ウィザースプーン邸
豪華に飾られた食器や装飾品…
部屋の端から端まで続く長いテーブルに向かい合って座る者たち…
その部屋の端で立ち続ける男に座っている男の一人が尋ねる。
「ヴィクトール君、当主はまだかね?」
「少々お待ちを…。…もうじきこちらに到着されます。」
暗躍する者たち…
読んでいただきありがとうございました。
前回までのハイドが潜った深層世界での出来事とは変わり、今回は現実世界でのヘーロスたちの出来事となります。
レヴァリィ世界で起きた7大国決戦の次にストレンジャーたちを襲うのはマッドネスジョーカーが引き起こす大規模テロ。
ハイドの安否を気にしながらもストレンジャーのみんなはどう立ち向かうのか…!
次回8話をお楽しみに!




