6話「深淵からの招待状」
深淵の闇で目覚める。
朧な意識は光の方へ歩み始める。
名も知らぬ彼方に死を届けるために。
~五日目~
深層世界 意識領域・第4層
階層、第4層で物理現象まで操作可能となった深層世界で、ハイドは過度に世界を操作したことで、世界の不安定化が生じる。
そんな世界の不安定化が生じているなか、ハイドとグリーンは互いが所持していた秘宝、真理の神秘と心魂の憧憬を出現させる。
これも深層世界が不安定化した影響によるものだとハイドは直感でそう判断する。
「世界の真理だと?…そんなもの知って何になる小僧…」
グリーンの問いにハイドは笑いながら答える。
「知らないのか?
人間は気になったものには手を出さずにはいられないって…あーそうか…お前は人間じゃなくて古代人だったもんな。…そんなこと言われても理解できないか。」
ハイドの挑発にグリーンの表情が強張る。
「小僧…貴様…。」
グリーンは手に持った武器をハイド目掛けて投げる。
ハイドはその攻撃を真理の神秘から放出させた岩の人形で防ぐ。
すぐさま自身も追撃を行うグリーン。
それに対してハイドは周囲にある床や壁の岩を液状に変え、グリーンに応戦する。
「(報告で聞いた時とはまるで別人…!)」
現在のグリーンの身体はあくまで自身のではなく、アロガンティア特務機関のクリストファーの肉体。
そこから得た彼の脳内にある情報では、ハイドがレヴァリィ世界で同じくアロガンティア特務機関のオズワルドと戦っていた際のことが記憶されていた。
だが、その報告にあったハイドと目の前にいるハイドとではまるで戦闘経験値に差があったのだ。
「俺はあんたの仲間から自分の弱さを捨てることを教えてくれた…!」
ハイドは拳に炎を纏いながらグリーンに攻撃を行う。
グリーンは自身の能力でなんとか炎を無効化するものの、ハイド自身の拳によって攻撃を受ける。
「俺は仲間から戦う勇気と覚悟を教えてくれた…!」
ハイドは自身の掌をグリーンの腹の前に構える。
「!!」
そしてハイドは真理の神秘によって空気の情報を書き換ることで強力な衝撃波をグリーンにぶつける。
「ぐっ…はっ…!!」
グリーンは衝撃波によって大きく吹き飛ばされる。
吐血したグリーンだったが、彼の表情はいまだ余裕の笑みを浮かべている。
ハイドがグリーンの前に立つ。
「お前…さっき…3層の階層で血を吐いたな…俺が攻撃をする前に…!」
ハイドはグリーンが階層、第3層で自分を襲おうとした際に一度、吐血し大きく苦しみだしたことを指摘する。
それをハイドは奇跡などという不確定なものとして判断せず、要因を考えた。
そして、考えた末に導き出したハイドの考えは…
「レヴァリィ世界のダメージはここでも反映される…違うか?」
「…!!」
グリーンの僅かな表情の変化を見てハイドは自身の考えが的中したと判断する。
そう、ここ深層世界はレヴァリィ世界や現実世界とは時間の流れがはるかに遅く流れている。
しかし、時間が遅く流れていようと、深層世界はあくまで内在せし指輪を使用した者の脳内の世界…
現実世界、あるいはレヴァリィ世界での本人への影響はいずれは深層世界にいる者にも反映される。
グリーンはここ深層世界に入る直前にエヴァによって剣で胸を突き刺されている。
そのダメージが遅い時を流れる深層世界でもゆっくり着実と反映されていったのだった。
「(4層ではどのくらいであいつのダメージが現れるかわからないけど…それまで俺が持ち堪えれば…!!)」
「(まさか気付かれるとは…やはりいくら記憶を失っていようと…侮るべきではないか…)」
二人は互いに決心する。
先に行動を起こしたのはグリーンだった。
グリーンは心魂の憧憬によってその場に機械生命体を生み出す。
「これは!?」
「咄嗟によるものだ、自我はないがハイド、貴様も知っていよう。」
その姿はハイドがこの階層に来た際に見た“Code“…
そこに映し出されたR-07と同じ容姿をした機械生命体だった。
「てめぇ!!」
「クックッ…俺様にばかり気を取られるなよ?」
「くそっ…!」
R-07と同じ姿をした機械生命体はハイドに襲い掛かる。
ハイドはグリーンに意識を向けていたことで、機械生命体の不意打ちを喰らう。
「くっ…!」
いくら見た目は人間に近いといっても機械としての性能を併せ持つ機械生命体。
その一撃は岩をも粉砕し、ハイドに重たい一撃を与える。
「さて、仕上げだ。」
グリーンは再び自身の能力を用いて今度はさらに今のハイドにとって身近な人物を具現化させる。
「!!…カニス!」
「カニ!」
グリーンはハイドの不意を突くべく、次々とハイドの身近な人物や光景を具現化させていく。
ハイドはどれも偽物だと理解できていても、どうしても行動に遅れが生じてしまう。
だが、ハイドはここで自身の命をつなぎ留めるべく、強行策に出る。
「なんだと…!?」
突如、グリーンの周囲に多くの人で賑わいはじめる。
ハイドがここの階層の世界を操作したのだ。
それにより、周囲の世界はレヴァリィ世界のアロガンティア大国の街並みと化した。
人混みによってハイドの姿を見失うグリーン。
「クックッ…そんなことをしても、よりこの階層が不安定になるだけだぞ。」
「それが狙いだ!」
「!?」
グリーンの背後をとったハイドは真理の神秘によって空気中から突如、水で構成された槍を出現させる。
なんとか急所をずらせたグリーンだが、ハイドの攻撃で肩に大きなダメージを負う。
「(水…!…これまでとは異なる物質の情報を会得している…!!)」
グリーンはレヴァリィ世界でハイドが真理の神秘から会得した岩、炎、空気の情報だけでなく、この階層で構築した世界から会得した水の情報によって攻撃を行ったと推測した。
「ちっ…!(不意を狙ったけど避けられた!!)」
だが、ハイドはまだ諦めていなかった…!
「まだまだ!!」
ハイドは自身の残り少ない体力を犠牲にして行動に出た。
それを見たグリーンは唖然とする。
「これ…は…」
グリーンは思い出した…
自身に脳裏に焼き付いたあの頃の記憶を…
「この世に…神は必要ない…!!」
それは…
かつてグリーンが対峙した当時のハイドとの記憶…
まるでその記憶を再現するかのように、今目の前では…
「情報の複合か…!!」
ハイドはかつて自身に立ち向かった男と同じく、会得した物質の情報を複合し、組み合わせようと試みていた…!
「そうはさせん…!」
グリーンは再び自身の能力である心魂の憧憬を使う。
「なに!?」
するとハイドが掌に生み出していたものが突如強制的に解除される。
グリーンの秘宝、心魂の憧憬…
いや、グリーンのパラフィシカーとしての能力は自身が最も望んだ事象を具現化させる。
持続性は低いものの、かなりの汎用性と可能性を秘めた能力。
グリーンはハイドのこれから放とうとする事象を強制的に防いだのだ。
「くそっ…!」
「無駄に体力を消耗したな…」
周囲の世界が徐々に崩れていく。
ハイドは自身の一か八かの賭けに出た行動も空しく、グリーンに防がれてしまった。
「進化の意慾といい、真理の神秘といい…お前ら兄弟は、かつての記憶は失うとも…ここまで自身の力を…」
「!?」
ハイドはグリーンの発言に驚愕する。
だが、ハイドが驚愕したのはそれだけでなかった…!!
「貴様は…!!」
「なんか面白そうな話だね~…僕も混ぜてもらえないかい?」
「…!(こいつは…)」
ハイドが見たグリーンの背後にいた者は…
「ウォルター!!」
グリーンの背後に接近してきたのはウォルター・ヴァレンタインだった。
彼はレヴァリィ世界ではすでにレオンハルトとの激闘で命を落としているはずだった。
そしてこの世界にいるウォルターもまた、ハイドが先ほど世界を構築した際に生み出されたものにすぎない…
はずだった…!
しかし、ウォルターはすぐにグリーンの腕と首を拘束する。
不意をつかれたグリーンは為す術もない。
「貴様…!!」
「ふ~ん…君、クリストファーじゃないね…身体は彼のだけど…」
「(まずい…!!)」
グリーンは今の状態では抵抗するのに手一杯で自身の能力を使用する余裕がなかった。
「御愁傷様~。」
「ガアァッ!!」
ウォルターはそのままグリーンの首の骨をへし折った。
その光景を目の当たりにしたハイドは唖然とする。
「お前…どうして…?」
「どうしてこの世界で動けているかって?」
ウォルターは自身の身体の隅々を確認した後、笑みを浮かべながらハイドに答える。
「知らない~…けど……“保険”をかけておいたからかな~…。」
そう言ってウォルターはレオンハルトとの激闘を振り返る。
「最後の…最後に……油断したね~……」
それはウォルターがレオンハルトの持つ能力、肉体の極限化による10分間の不死身状態での攻防の瞬間…
レオンハルトの猛攻により、指は切断され、腹にも穴が開き、肩の骨は背中側に露出するほどの重傷を負っていたウォルター。
対して、レオンハルトもウォルターの驚異的な戦闘センスと知略により、能力解除のタイミングを狙った片腕を爆破される重傷を負っていた。
このとき、ウォルター自身の胸に手を当て、自身の弱々しい鼓動音を感じ取る。
だが…
その胸に当てた手の中には、あるものが隠されていた…!
「奇跡と破滅の種…君が僕と初めて出会った大国、アセティア大国でジリアン王が作製した…秘宝の副産物だよ~。」
「なん…だって…」
奇跡と破滅の種…
それは10の秘宝のひとつである貪欲の華の副産物。
取り込むと適合者には作製の際に犠牲となった苗床の人間の栄養分を身体の再生等に利用可能、そして不適合者には肉体が耐え切れずに内側から破裂するという特定危険物質だ。
ウォルターはアセティア大国に訪問した際、ジリアン王から密かにこの奇跡と破滅の種をくすめていたのだ。
そして、レオンハルトと最後の攻防に出る直前に、あらかじめ自身の胸に取り込んでいたのだ。
「でも、それが今の状況と何の関係が…」
ハイドは自身が疑問に思ったことを溢す。
するとウォルターがハイドに意味深なことを言い放つ。
「僕もよくわかってないけどさ~…もしかしてここって……」
そのウォルターの発言を聞いたハイドは驚愕する。
「!?…ウォルター!詳しく教えろ!」
ウォルターはハイドに自身が感じた感覚を詳しく伝えた。
レヴァリィ世界ではたしかに一度は死亡したウォルター。
だが、彼の意識は深く淀んだ意識として存在していたという。
そしてその意識は徐々に明るくなっていき、気が付いたときにはここにいたと。
ハイドは何かを決心した様子でウォルターとは別の方向を向く。
「ここはじきに崩壊する。多分…そうすればお前は階層を上がることになると…思う。」
「階層…?…なんだい、それは。」
ハイドは自身の指についた内在せし指輪を触る。
「もし、目覚めたら俺の仲間に伝えてくれないか…?」
「何をだい…?」
ハイドは静かに口を開く。
その内容を聞いたウォルターは一瞬驚いた表情をするも、すぐにいつものような笑みを浮かべ、答える。
「君って…前からそんなこと言うタイプだったかい~?」
「いいから!どうなんだよ!」
ウォルターは答える。
「オーケ~、楽しみにしてるよ…」
すると徐々にウォルターが霞んでいく。
それを横目で確認したハイドは壊れゆく世界に目を閉じながら再び内在せし指輪をはめる。
遠のく意識でハイドは先ほどウォルターが放ったセリフを思いかえす…。
僕もよくわかってないけどさ~…もしかしてここって……
生と死が混在してるかんじ~…?
「(もし、それが本当なら…!)」
深淵の先に待つものとは…
読んでいただきありがとうございました。
真理を掴みとったハイドは深淵で待つ者へと潜る…
次回7話をお楽しみに!
次回から世界線は現実世界へと戻ります…!




