3話「深層世界」
深き意識の底…
そこにあるのは理想か現実か。
それは理を知った者にしかわからない。
~五日目~
深層世界 意識領域・第3層
「Code-κ」……
その文字のあとに現れる景色。
雨の中、倒壊した建造物が並ぶ場所に立つハイド。
そこでハイドは倒壊した建造物の前に花とあるものを置く。
それは機械と有機的なものが混じった形状をした腕だった…
ハイドはその場を後にする。
「おい、何をするつもりだよ…」
「あいつを…取り戻す…」
「過去に縛られても辛さが増すだけだぞ。」
以前にも見た銀髪の男がハイドにそう言う。
「あぁ、だから俺の未来に…あいつがいる未来を創るために…“これ"を使うんだよ…兄さん。」
そう言ってハイドは銀髪の男を見る。
その男を見たハイドは脳内で既視感を覚える。
そして、場面が暗転し、ハイドは先ほどの銀髪の男に胸倉を掴まれる。
「てめぇ!何をしやがった!!」
「これは…」
「世界の構造が…崩壊した…!!」
意識が遠のく……
「ここは…」
ハイドが目を開ける。
目を開けた先には先ほどの世界、と何ら変わらないように思えたが…
「何かが…おかしい…」
「そのとおり。」
「!!」
ハイドの背後に現れるグリーン。
グリーンを見たハイドはすぐに攻撃を行おうとするが…
「なん…だ…これは…!?」
グリーンの目の前に突如、大木が出現する。
「ここは俺様の意識領域だ。ハイド、お前のではない…」
「意識領域…!?…何言ってんだ…」
グリーンはしばらくハイドを見つめた後に笑い出す。
「クックッ…本当に何も覚えてないとはな……いいだろう…どうせここでは貴様は無力だ。…教えてやろう…“この世界”について」
「この世界…だと…?」
グリーンはそう言うと周囲の森に向けて手をかざす。
すると、森が徐々に歪みだし、やがて森は森ではなくなり、ハイド達ストレンジャーのいる拠点内部へと変化する。
「ここは深層世界…内在せし指輪を使用した者が到達できる世界だ。」
深層世界、それは自身の持つ夢の世界。
10の秘宝のひとつである内在せし指輪を使用することで、脳内の潜在的な意識が投影する世界のことだ。
かつてこの秘宝を作製した者は、永遠の時を生きるべく自身が持つ理想を実現しようとした。
そこでたどり着いたのが、この深層世界であった。
深層世界では自身の脳内に宿る意識を投影することで世界が構築される。
ハイドは自身の日常を望んだが故にクヴィディタス大国の村が、そして平和を望んだが故に現実世界で平和な世界がそれぞれ投影されたのだ。
そして、深層世界は自身の理想の世界を作り上げるだけではなかった。
「深層世界では階層というものが存在する。」
「階層…?」
「己の持つ意識の深さだ。…深ければ深いほど己にとって無意識なものとなる。」
深層世界には1層から5層までの階層が存在する。
深い層であればあるほど現実との時間は遅くなり、世界の構築も己の自由度が増す。
「ここは3層…ここでは1層や2層と異なりある程度、俺様が知覚や構造を変えられる。」
グリーンはもう一度手を周囲にかざすと今度はハイドがよく知る場所へと変わっていく。
「ここは…」
「そうだ…リヴィディン大国だ。」
先ほどまでと異なり、現実世界ではなく今度はレヴァリィ世界の土地へと変換した。
このように3層では世界の構造、そして…
「なんだこれ…」
「知覚の操作だ。」
ハイドが見たものは先ほどまでのリヴィディン大国の街並みが逆さまに見えていた。
まるで自分が空から街を見上げているという不可思議な現象。
「あくまで知覚だ、貴様にはそう見えているだけだ。」
ハイドは自身の真上から見えるリヴィディン大国の街並みを見ながら、自分の手を目の前に突き出す。
「触れる…」
そう、自分が見えている状況では自身は空に、そして上空には街並みが存在している。
だが、自身の前方に手を伸ばせばそこには何かしらの物体の感触があるのだ。
つまり、あくまで上空に見えている街並みが空と反転しているようにハイドが見えているだけなのだ。
「知覚の操作は五感全てに作用させることもできる、他にも」
「そんなことはどうでもいい!…お前は何が目的なんだ!!」
ハイドがグリーンの言葉を遮る。
「……俺様は…二度同じことを言うのは嫌いでね…」
「は…?」
「”1万年前”にも聞かれたことを…言うつもりはないと言っているのだ…」
「!?」
グリーンから放たれた言葉にハイドはさらに困惑する。
1万年前…?
一体どうゆうことだ…?
俺とこいつには一体どんな接点があるんだ…?
「クックッ…何を言っているのかわからない…と言ったところか…」
グリーンはハイドを背にして歩き始める。
ハイドは動いてもいないのにグリーンとの距離が一向に離れず、周囲の世界だけがグリーンの動きに合わせて動き始める。
「(これもあいつの仕業か!?)」
「やはり、この階層は安定しているな。」
「…。」
ハイドは深層世界の構造の知識が足りない以上、ここでは迂闊に行動せず、まずはグリーンから情報を得ることに集中する。
この世界はいわば、あいつの理想の世界…
あいつの支配下に置かれている以上、こっちから仕掛けても歯が立たない…
なら、ここで俺はこいつからできる限りの情報を手に入れ利用する…!
それが今ここで取るべき最良の選択だ…!!
「…クックッ…そう身構えなくとも、貴様には教えてやるさ…でないと俺様の目的にも支障をきたすからな。」
するとグリーンの周囲の世界が再び大きく変わり始める。
新たに構築された世界はハイドが初めて見るものばかりであった。
「これは…。」
「まずは…この世界の歴史についてだな…」
「歴史…だと?」
「お前は…人はどうやって誕生したのか、考えたことはあるか?」
「それは…」
ハイドの反応を見たグリーンは笑みを浮かべながらこう答えた。
「人間は…我々が生み出した。」
「!?」
グリーンはハイドに語り始めた。
人類が誕生するよりも遥か昔…
今の人類に代わる生命体がこの世界に存在していた…
歴史の影に埋もれたその存在を知る者は…
彼らを”古代人”と呼んだ。
彼らは超高度な文明を築き、この世界の中心として繁栄していた。
ハイド、貴様の深層世界で見たあの世界はレヴァリィ世界ではなく、今の現実世界だな?
あの世界よりもさらに高度な文明を誇る世界だ。
彼らはその超高度な技術であらゆることを可能にしてきた。
それは、生命という名の存在が避けられぬ事象…
“死“すらも克服しようと試みた。
現在の現実世界でも可能な寿命の長寿化、それは自身の死を先延ばしにしたにすぎない…
だが…古代人は問題を先延ばしになどしない。
生命の根源である“死”は我々にあらゆるものを教えてきた。
死へ向かう恐怖、生への執着、そして生死の意味。
こうした生と死の因果は“生命”という存在の絶対的な要素であり、避けられぬものだと…
そう教えてくれたのは“死”であった。
ある者は迫りくる死に備えるべく、夢の世界を。
ある者は来たる死に立ち向かうべく、現の世界を。
実現させようと互いの理想のために“時間“という代償を払った。
そして二人の兄弟は死を克服する物はおろか、死すらも超越する物を作り上げた。
「それが、超越せし指輪と内在せし指輪だ。」
「!!」
ハイドはグリーンの発言を聞いて驚愕する。
まさか、自分が身に着けていた10の秘宝が超高度な文明を保持していた古代人によるものだと…
だが、そこでハイドはひとつ疑問に感じる。
「じゃ…他の秘宝も…」
「秘宝か…“彼ら”がそう言われるようになったのも一体いつからだろうな。」
「彼ら…だと…?」
グリーンはハイドが小さくつぶやいた発言を聞き逃さなかった。
「クックックッ…世界の歴史を知るためには、それ相応の覚悟と責任を持て…ハイド…」
グリーンが自身の目の前にある扉を開ける。
ハイドは息をのみながらグリーンの後をついていく。
歴史に眠りし世界の理…
読んでいただきありがとうございました。
深層世界と呼ばれる空間でハイドと対峙するグリーン。
グリーンが語る先には…
次回4話をお楽しみに!




