2話「理想郷」
己に嘘をつき、
現実を偽る…
偽った先に見える世界を人は理想郷と呼ぶ。
~五日目~
深層世界 意識領域・第2層
「Code-ξ」……
その文字のあとに現れる景色。
荒廃した土地、空には亀裂が入り、まるでこの世の終わりを現わすかのように世界が混沌と化している。
その混沌に逃げ惑う者、抗う者、利用する者が戦争を起こしているようだ。
ハイドは歩き続ける。
そこで以前の「Code」の夢にも出てきていた銀髪の男からある指輪を受け取る。
「やるのか?」
「あぁ、こうなったのは俺の責任だから。」
そう言ってハイドは指輪をはめる。
すると自身に驚異的な力が宿る。
「この力は俺の贖罪のために…世界を戻さないと…」
意識が遠のく……
「うっ……」
目を覚ますハイド。
そこはマルコの家でも、クヴィディタス大国の古城跡でもなかった…
「ここは…たしか…」
「お、起きたか!ハイド!」
「アンドリューさん?」
ハイドのもとに現われたのはアンドリューだった。
あたりを見回すハイド。
見覚えのある部屋、そして窓に映る景色はレヴァリィ世界のものでもなかった。
そう、ここは…
「現実世界…?」
「内在せし指輪をはめてから20分くらいしか経ってないが、戻ってこれてよかったな!」
「あぁ…そう…なんですね…(そうか、夢の世界と現実世界では時間が違うんだ…)」
アンドリューがハイドに飲み水を渡す。
「下でみんな待ってるから後で来いよ!」
「あ、はい!ありがとうございます。」
ハイドはアンドリューから受け取った水を飲み干しながら考える。
現実世界で起きている現状について。
ハイドはレヴァリィ世界から現実世界で目覚めた後、すぐにレヴァリィ世界で流浪人と呼ばれているヘーロス達の組織、ストレンジャーと共に企業や政府の打倒を協力していた。
そして、再びレヴァリィ世界に入る直前、ハイドはこの世界に起きた惨状を思い出す。
「アポカリプス計画…」
それは政府が極秘に進めていた人類統一化計画…
機械を身体に埋め込む技術が主流となった現在、サイバーインプラントを施している人類の割合はおおよそ6割を占めていた。
そのサイバーインプラントに密かに仕組まれたアポカリプスウイルス。
それにより人口の半分以上が政府の完全なる支配下に置かれたのだ。
つまり、目を覚ましても今のハイド達には日常を謳歌できるような余裕はないのだ。
「(そうだ!こんなゆっくりしてられない…!)」
ハイドは急いで、下の階に降りる。
「アドルフさん!外の様子は…」
「あ、ハイドくん~ちょうど夕飯できたけど食べる?」
ハイドが扉を開けるとそこにはエヴァがいた。
「そんなことよりエヴァさん!外の様子は?」
ハイドは急いで外の情報を尋ねる。
「うるせぇ、とりあえずお前は座ってろ。」
そう言ってハイドを軽々と持ち上げて席に座らせる人物をハイドは見る。
「え…そんな…」
それは死んだはずのモーリスだった。
ハイドはいまだ自身が夢の世界にいることをそこで自覚する。
「(やっぱり、秘宝を使っても戻れないんだ…)」
自身の思った結果と異なり、落胆するハイド。
しかし、ハイドは部屋にいる仲間たちを見ながら思うのだった。
このままでもいいんじゃないかと。
現実で死んだ者はここでは生きている。
もう外の敵や脅威に意識を向けなくていい…
「(これが現実なら…)」
ハイドは笑顔でストレンジャーのみんなと食卓を囲む。
数日後、ハイドとヴァイオレットは買い出しのために街へ出かける。
「このくらいあれば足りるかな?」
「いや、それじゃリアムが全部食べちゃうからもう少し買っておかないと。」
ハイドとヴァイオレットの二人で皆の好きな食品を選んでいく。
「(よし、こんなもんでいいかな…)…あれ…うわー……現金が…」
ハイドは手持ちの現金が足りないことに気が付く。
だが、すでにレジに食品を渡してしまったハイドはヴァイオレットを呼ぼうとするが、周囲にいなくて困惑する。
「お客さん、これじゃ足りないよ。さっさと払ってもらわないと次のお客さんの迷惑になるよ。」
「あぁ、えっと…あ、あのー、申し訳ないんですが、これとこれを…減らして…」
「いやーすみません、代わりに俺が払いますよ、いくらですか?」
「え…」
ハイドは後ろに並んでいた客が代わりに差額を払ってくれたことで窮地に一生を得る。
だが、それよりもハイドはその人物を顔を見て驚愕したのだ。
アローラさん…
そう、男はレヴァリィ世界で何度も自分を助けてくれた聖騎士団の隊長、アローラだった。
もちろん、彼は現実世界には本来はいない。
これもこの夢の世界の影響だと考えるハイド。
「あ、あの…さっきはありがとうございます!」
ハイドがアローラに礼を言う。
「ん?あー君か。あのくらいどうってことないさ、いい一日を~」
アローラは軽くハイドに挨拶をかわし、その場を去る。
現実世界、レヴァリィ世界ふたつの世界に関係なく人々が平和に暮らしているこの世界…
ハイドが望んだ世界そのものだ。
ハイドはヴァイオレットと合流し、ストレンジャーのアジトに戻る。
「どこにいたんだよー、現金足りなくて困ってたんだぞ。」
「ごめんね、車に手さげ袋取りに行ってて…」
「まぁいいけどさ…(アローラさんにも会えたし)」
ハイドはその後もストレンジャーとの生活を送る。
一体どれくらいの時が経過しただろうか…
数ヵ月?いやもう1年経つかもしれない…
そんなこの世界に慣れた頃、ハイドはいつもの日常通り、外に出かける。
今回はヴァイオレットだけでなく、リアムやソフィア、アンドリューも同行している。
「ちょっと~リアムがいるから後ろけっこう狭いんだけど~…」
「そんなこと言ったらリアムくんが可哀想ですよ、ソフィアさん…!」
「だってぇ~」
ソフィアが駄々をこねている間に目的地に到着する。
「さ、着きましたよ、ソフィアさん!」
「ヘーロスたちも来ればよかったのにね~」
「いや、みんな任務があるって言ってただろ!」
アンドリューが呆れた様子でソフィアに答える。
ハイド達は気分転換に車でノースエリアに来ていたのだ。
現代機器が普及し、自然などが町から姿を消したこの世界でも珍しく広大な自然が広がる土地が多いノースエリア。
ハイド達は標高の高い場所に車を止め、降りる。
「綺麗だなー…」
「そうだね…」
ハイドがあたりの景色に見とれている中、ヴァイオレットだけは少し思いつめたような表情をしていた。
それを横目で見つめるハイド。
「……。」
日が暮れ、ハイド達はテントを建て夕飯の準備をする。
「だーからー!私が作るってー!」
「頼む!ソフィア!今日だけはじっとしててくれ!」
「なんでよ!?私あんなに料理上手いのにー!」
「僕はソフィアさんのご飯も食べれるよー!」
「おい!余計なこと言うなリアム!」
アンドリュー達が言い争っているのをテントの外で聞くハイドとヴァイオレット。
「ハイド、火起こさないとだから薪とってきて。」
「うん、わかったー」
ハイドはヴァイオレットに頼まれ、近くであらかじめ用意した薪を取りに向かう。
「あの、お尋ねしたいことが…」
薪を抱えている中、ハイドの後ろから声をかけてくる人物が現れる。
声のする方へ振り向いたハイドは思わず薪を落とす。
「え?」
「…あ…あぁ…すみません…急に声をかけられたから…」
「申し訳ない…」
ハイドに声をかけた男はレヴァリィ世界でハイドが見た人物、アロガンティア特務機関のクリストファー・クロムウェルだった。
彼は10の秘宝のひとつ、心魂の憧憬を手に入れた直後、すぐに謎の人物、グリーン・ウィザースプーンに身体を乗っ取られていた。
そして、ハイドが探すべき人物の一人でもあったグリーンがこの場にいると思い、ハイドは思わず薪を落としてしまっていたのだ。
「(この世界じゃ、この人も一般人だもんな…)」
そんな中、クリストファーがハイドに尋ねる。
「ここの景色が美しいと聞いて…来たんですが、すっかり日が暮れてしまって…人がほとんどいなかったものですからつい声を…」
「あぁ、そういう…なら、俺たちのテントで一晩過ごしますか?」
「それは…ありがたい…」
ハイドはクリストファーを自分たちのテントに案内する。
するとハイドの後ろに付いてくるクリストファーが小さい声でつぶやく。
「君はこの世界に…ずっといる気かな…?」
「なに…?」
ハイドが振り向くと同時にハイドの口を掴み、身動きを封じられる。
「(こいつ…!!)」
「そう、俺様さ。」
クリストファーの瞳が緑色に染まる。
ハイドはその瞳の人物を知っている。
グリーン・ウィザースプーンだ。
「悪いが、もう少し“降りて”もらうぞ…ハイド。」
「(なにが目的なんだ…!?)」
そう言うとグリーンは自身の手に着いた内在せし指輪を見せる。
「!?」
ハイドは驚愕する。
それもそのはず…
なぜならば、ハイド自身の手にも内在せし指輪がはめているからだ。
「(なんでこいつも内在せし指輪を持ってるんだよ…!秘宝は1ずつしかないはずだろ…!!)」
グリーンが自身の内在せし指輪をハイドにはめる。
ハイドの意識が遠のく……
夢の深淵へ…
読んでいただきありがとうございました。
すみません、今月は多忙だったのもあり、更新が遅れてしまいました。
なので、今回は連続で6話まで更新する予定です…!
次回3話をお楽しみに!




