23話「死せる生者」
残陽照らされし華麗な夕闇に、
夕日がきみを遠ざけ、
十の春を迎えた今夕、
約束を守れなかった俺を、
はたしてきみは、愛すと誓えるのだろうか…
~五日目~
17:55 クヴィディタス大国・古城付近
自身に脳内に突如、語りかけてきた謎の声…
その声を聴いたアズラエルは自身に起きた変化を感じ取り、本能ままに手を伸ばし始める。
「…!!これは…!?」
すると目の前に裸姿の少年が現れる。
そう、アズラエルは無から生命体を創造したのだ。
自身の最も望む形で。
「その力は…!!」
古城内部にアズラエルを蹴り飛ばしたアドルフが追撃を行うべく、その場に居合わせる。
アドルフはアズラエルが無から生命体を創造したことからその力がすぐに何なのか察した。
「心魂の憧憬の力…!!!」
アズラエルは自身に宿った力を理解し、アドルフの方を振り向く。
「流浪人よ、私は心魂の憧憬を手に入れたぞ…」
するとアドルフがアズラエルの異変に気が付く。
「!?」
アズラエルの黒き瞳が徐々に緑色に染まっていく。
まるで、別人がアズラエルの身体をしていながら中身だけが変わっていくかのように。
「………違う、俺様が貴様を所有者としたのだ。」
「!!…」
アドルフはすぐに目の前の者がすでにアズラエルではないと理解し、臨戦態勢をとる。
目の前のアズラエルの姿をした”何か”は周囲を見渡す。
「なるほど…ここもあの頃とは随分と変わったな……おっと悪いな、戦いの続きだったか?」
「えぇ…あなたの”肉体”とですが。」
「クックッ…貴様…!…わかっているのか…!!…”魂”と”肉体”の違いが…!!」
するとアズラエルが先ほど生み出した少年に動きが見られる。
「ここは…」
それに気が付いたアズラエルの姿をした”何か”は少年の方を振り向く。
「この身体が最初で最後に望んだものがまさか…寿命間もない少年だとは…!!…かなり歪んでいたな…」
「…少年じゃない、アダム…」
「名をもっているのか、だがお前はもうじき死ぬ…そうこの身体が願ったからな…!!」
アズラエルまたの名、クリストファー・クロムウェルは普段こそ冷静な人物を装っているが、彼の正体…
それは、生物の死に絶える瞬間に興奮と快楽を覚える異常者であった。
その危険な感情は幼いころから持っており、彼は7大国が戦争を起こしていた際もこのクヴィディタス大国の古城跡に向かう道中、自国の民やクヴィディタス大国の病や飢餓などに苦しむ者たちを「救済」と称して自身の欲求を満たすがごとく、殺戮を行っていた。
しかし、そんなクリストファーも今では脳内に語りかけた謎の人物に魂を食われ別人と化した。
そのクリストファーの姿をした”何か”はアダムと名乗った心魂の憧憬の産物に剣を向ける。
「ほう…貴様、かなり動けるな…」
アダムに向けた剣を鋼線を用いて防ぐアドルフ。
「先ほどのアロガンティア特務機関の者ではないですね、何者ですか…」
「グリーン・ウィザースプーン」
~五日目~
18:00 アロガンティア大国・イデリスの住処
「グリーン・ウィザースプーン…」
「おや、その名に聞き覚えがありましたか?…華麗な青年。」
そう、リアムには聞き覚えのある名だった。
しかし、それをここで明かせば自分が現実世界から来たものだとイデリスやレタ達に知られてしまう可能性を考えてリアムはその場では何も答えなかった。
だが、イデリスはリアムの反応を見てこう言った。
「…リアム・リシャール…あなたはいずれ選択を迫られる時が来るでしょう。
その時に自分の大切な者は守れる準備を整えなさい……かつての私ができなかったように…」
「え?…」
突如、アロガンティア大国の遠方から大きな音と火柱が上がる。
それを空いた天井から目撃するリアム達。
「さぁ、そろそろ時間です。彼らは私が必ず守ります…ですからくれぐれも後悔のないように…」
~五日目~
18:00 グラ大国・国境付近
グラ大国とクヴィディタス大国の国境付近で兵を率いながらクヴィディタス大国側に向かうヴィクトール総督。
「総督、よろしかったのですか、王女を生かしておいて。」
ディートヘルム大佐が総督に問う。
「あぁ、どちらにせよこの世界はいずれ滅ぶ。…それにあの傷ではもう長くは持たん。」
ヴィクトールが見つめる先にはあたりが火の海と化したグラ大国であった。
「総督!」
するとアロガンティア大国の方向に龍型の特級テロスの存在を確認するクヴィディタス帝国軍。
「ジョージ王か…!!」
~五日目~
18:00 アロガンティア大国・上空
空高く飛行する龍型の特級テロス。
「ホウ…マダ7大国ハ健在カ…」
すると竜型の特級テロスは口から6つの火炎弾を放つ。
それはまさしく流れ星のように空を覆い、それぞれの大国に降り注ぐ。
着弾した場から雲を突き抜けるほどの火柱が立つ。
~五日目~
18:00 イラ大国・南部都市
空からこちらに降りかかろうとする大きな火炎弾を確認するアンゼルム国衛隊長。
「ここまでか…。」
アンゼルムの周りには多くの兵の遺体そして、アレクサンダーの亡骸の傍に向かうジークリット軍曹。
「少佐は、無事に大国を出たでしょうか…」
「さぁな。だが、この火炎弾はクヴィディタス大国には向かっていない…おそらく無事だろう…」
街そのものを覆うほどの火炎弾がもうすぐ真上にまで迫りつつある。
「(アレクサンダー中佐、君の最期にとった行動が今になってわかった気がするよ…)」
アンゼルムは目を閉じる。
「これが…我々の役目なのだな。」
イラ大国に激しい火柱が上がる。
7大国で最も領地の小さい大国であるイラ大国に着弾した火炎弾は直撃した南部都市のみならず、イラ大国全域に渡って火炎弾の衝撃と熱と炎が襲った。
それによって、7大国最大の武力と兵力を誇るイラ大国は完全に更地と化した。
イラ大国、滅亡
~五日目~
18:00 インビディア大国・王都正門入り口
あたりに切り刻まれた瓦礫が舞う中、殲越十二戦士のグラディスを拘束するスード。
「みんな生きてるかい?」
「…わからないです…」
スードに対して自身の生の実感がわかないフィス。
「大丈夫だ、隊長の返事が返せてるなら生きてるさ!」
「ですかね…」
フィスを気遣うサルカ。
二人は疲弊してすでに反撃する力を失ったグラディスを王都内に連行する。
「二人とも、こいつは生かしてジョセフ王のもとに渡してくれないか?」
「了解です!」
二人が王都に入るのを確認した後、スードはインビディア大国の他の街の様子を把握すべく、もう二人の部下であるナーサルとトルケを向かわせた。
その時だった。
「あれは…!!」
スードは遥か彼方上空から降り注ぐ火炎弾を目撃する。
その火炎弾はインビディア大国だけでなく各大国に向かっている。
火炎弾が着弾と同時に激しい火柱を上げる。
「うっ…!!!」
遠方で起きた火柱の影響で熱風と衝撃波が王都にまで伝わる。
スードは火炎弾が着弾した方向を見て青ざめる。
「(あの方向は…)そんな…!!…ナーサル!トルケ!」
~五日目~
18:00 グラ大国・王都内部
焼け落ちた王都、民家は焼き払われ、すでに性別不明の民や兵の亡骸がいくつも転がっている。
そんなグラ大国の王都に佇む崩れかけた王宮内部にはジュディ王女が血を流しつつも王座に座っている…
「…フー……フー……」
傷口を押さえながら息を整え、崩れ往く王宮の中で愛する者との約束を果たすため、ひたすら待ち続けるジュディ王女。
ジュディ王女は薄れゆく意識の中で10年前のことを思い出す。
「アレッシオ、今日は楽しかったです…!!」
「こちらこそ、楽しかったです王女。」
それは二人の愛、その中でも最も古い記憶…
「もう!…王女はやめてって何回も言いまいしたよ?」
「申し訳……すまない、ジュディ…。」
すぐに言葉を変えジュディの機嫌を取るアレッシオ。
だが、アレッシオは翌日にはリヴィディン大国に戻らねばならない。
ジュディもそのことを承知故か、王宮に戻ろうとしない…
「ジュディ、もう戻らないと。さすがに兵たちも怪しむころだ。」
「このまま…ずっとこの夕日が続けばいいのに…沈めばあなたが消えてしまう気がして…」
それを聞いたアレッシオは両腕でジュディの手を優しく握り、軽く口づけをする。
「再び…夕日がグラ大国を照らす頃…あなたを迎えにきます…約束です。」
「はい、約束です…」
ジュディは目を開ける。
少しの間だが意識を失っていたのだ。
しかし、彼女の目の前には…
「あぁ…!…神様…これは夢ですか…?…最期の私に見せてくれた…素敵な…幻ですか…」
「いいえ…現実です王女……いや、ジュディ…。」
彼女の目の前にいたのはリヴィディン大国から急行したアレッシオだった。
アレッシオは片腕となった手でジュディの手を優しく握り、軽く口づけをする。
「今日は…この夕日は沈まない…これからはずっと一緒だ…」
「…やっと…守ってくれたのね…約束を…」
「それが…俺が10年前からすべき役目だったんだ…今まで一人にしてすまなかった…!」
アレッシオが握るジュディの手が徐々に冷たくなっていく。
それを感じさせないようアレッシオはジュディの手を強く、そして優しく握る。
「私の闇を照らす…太陽…今日は…夕日とともに…私のもとを…離れないで…」
「あぁもちろんだ…離れないさ…君こそ、俺の…太陽なのだから。」
崩れる王宮…
空から火炎弾が王都を直撃し激しい火柱が上がる。
豊穣の国、グラ大国の王女であるジュディは最期の最期まで王宮に留まり続け、愛する者の帰りを待った。
そして二人は交わした約束のため大国と運命を共にしたのだった。
グラ大国、滅亡
~五日目~
18:00 クヴィディタス大国・古城跡付近
「グリーン・ウィザースプーン…」
「ほう…この時代にもいるようだな…俺様の子孫は。」
アズラエルの姿をした”何か”は自身の名をグリーンと名乗った。
グリーンはすぐにアドルフと距離を離す。
するとそこにハイドが駆けつける。
「アドルフさん…!…”あのテロス”がこっちに来ます!!」
そのハイドの姿を見てグリーンは何やら怪しい笑みを浮かべる
「クックッ…!…なるほど、こうなったか…」
するとアダムが吐血し始める。
「なんだ…これは…」
「だから言っただろう、貴様はこの身体がすぐに息絶えるように造られたものだと。」
「(この人…さっきと瞳の色が…)」
ハイドはグリーンの瞳を見て、すでにアズラエルではなく別人がアズラエルの身体で動いていることに気が付く。
「ハイドくん、離れていてください、この男はかなり危険です。」
アドルフの目から殺気が放たれる。
それを察知したグリーンも臨戦態勢に入る。
グリーンがアダムから目を離した隙にアダムは白骨化した遺体が指にはめていた指輪を手に取る。
それを見たグリーンの表情が一気に焦りを見せる。
「貴様…!…それは!!」
「俺は…まだ死にたくない!!!」
アダムがその指輪をはめるとアダムは徐々に姿を消していく。
その光景を目の当たりにしたハイドが驚愕した。
それは先ほどまで存在していた青年が姿を消したことにではなく…
現実世界でソフィアに聞いたように…
状況が自身が現実世界に現れた際と酷似していたからだった。
「今のは…」
アドルフはつぶやく。
「今の指輪…あれこそが最後の秘宝…」
内在せし指輪 !!
グリーンは焦りを浮かべるもすぐに平静を取り戻しこう言い放つ。
「まぁ…いい。俺様の目的には支障はないだろう…それより…進化の意慾の所有者を…」
すると突如、古城が大きく揺れだす。
クヴィディタス大国に向かっていた龍型の特級テロスが古城跡を攻撃し始めたのだ。
それにより古城が次々と崩れ始める。
「ハイドくん!…私のそばに!」
アドルフがハイドを抱え、鋼線で降り注ぐ瓦礫を切り刻んでいき、古城内部から脱出する。
「うっ…ううっ…」
「無事ですか、ハイドくん」
「な、なんとか…」
先ほどまで形を保っていた古城が今ではただの瓦礫の山と化している。
そして目の前には空を覆うほど大きな竜がアドルフとハイドを見下ろしていた。
「アノ攻撃デ生キテイル人間ガイルトハナ…ナカナカ楽シメソウダ…」
すると遠方より大きな火の玉が打ち上げられるのをアドルフは確認する。
それはここにいる竜型の特級テロスが放った火炎弾とは異なる…
その方角はリヴィディン大国の方向…
それらの情報からアドルフは何やら状況を察したように優しい笑みを浮かべる。
「では…さらに楽しませましょうか…?」
するとアドルフの前に瞬時に4つの影が現れる。
アドルフの能力は”事象置換”。
触れた物体同士を距離に関係なく入れ替えることが可能だ。
発動条件はその物体に触れていること。
アドルフは事前に同じ流浪人のメンバーには触れており、能力の対象…!
そしてリヴィディン大国側で放たれた火の玉…
あれは当初から流浪人のメンバーが決めていた集結の合図…!!
そう、先ほどのリヴィディン大国側で放たれた火の玉をすぐにアンドリューによるものだと察したアドルフは自身の能力によって、各地で戦い続けた流浪人をこの戦場に集結させたのだ!!
「うわぁ!…ほんとにこの合図使うときがきたんだ…」
「もう少し、こっちの様子とか考えてからやってよ!アンドリュー!」
「だってヘーロスさんがやれっていうからよ…」
「集めたのは私の能力ですエヴァ、非があるとしたらアンドリューではなく私に。」
「お前ら、集中しろ。」
「ヘーロスさん…みんな…」
ハイドは自身の前に立つ5人の影を見つめる。
ハイドに気が付き、ヘーロスは後方のハイドを見ながらこう言う。
「待たせたなハイド…」
ここからは…”流浪人”がこの戦いを終わらせる!!
英雄に集う流浪の者たち…!
読んでいただきありがとうございました。
今回でこれまで登場してきていなかった10の秘宝が一気に明かされましたね。
7大国決戦もいよいよ大詰め!
残り2話でどのような形で戦いは終結するのか!?
次回24話をお楽しみに!




