22話「目覚めし者」
超越せしあの日、
己の力と良心を過信し、
その果てに欲に堕ち身を亡ぼす…
だから私はただ傍観する、
世界の成れを。
~五日目~
17:30 アロガンティア大国・王都付近
特級テロス…
それは進化の意慾によって自身の欲に呑まれ強制的に進化を促された異形の生命体テロス…
その中でも特異な五体のテロスを指す。
その五体のテロスに共通する要素とは…
対峙した際に大国や生態系、環境にただいな影響を及ぼす可能性がある個体であること。
現にこれまで7大国が建国されて今日を迎えるまでにアロガンティア大国によって、一度だけ特級テロスの討伐に成功した記録が存在する。
その際に投入した兵の数、およそ200万…
当時のアロガンティア大国の全兵力にあたる。
その多大な被害から各国の王は特級テロスとの接触を極力避けることを決めた。
そして…
特級テロスの中でも最強の存在とされる個体…
竜型の特級テロスは、これまでにも各大国で様々な影響を及ぼしたことで、同じく人型の特級テロス、イデリスによって300年もの間、眠りについていた。
それが今、7大国に解き放たれんとする…!!
「それでは、ミカエル…あなたの条件を呑みましょう。」
イデリスがミカエルにそう言うと周囲の空間に変化が起きる。
「ほう…パラフィシカーだとは予想していましたが、まさか…ここまでの能力をお持ちとは…」
イデリスの能力は”事象反転”
自分を中心に発動する結界内のあらゆる事象を本来の働きとは逆の行為にさせる能力を持つ。
それによりイデリスは自身の住処の奥地に眠る竜型の特級テロスの”起きている”という事象を反転することで半永久的に眠らせていたのだ。
イデリスが空間内の能力を解除したことで周囲にいたテロスが朽ち果てる。
「これは…」
その様子に驚きを隠せないレタ。
「彼らはあなた方、人間に傷を負わされ死を待つのみの存在となったものです。」
イデリスは死にかけたテロスを自身の住処に集め、傷の進行を反転させることでイデリスの結界内では通常のように暮らしていたのだ。
しかし、イデリスが能力を解除した今、テロス達は本来迎えるはずであった死へと向かい続ける。
「この世に不死などというものは存在しません…必ず始まりがあるものは同様に終わりがあるものです。」
暗闇の中で眠っていた竜型の特級テロスが目を覚ます。
「これで…ジョージ王もお喜びになられます…イデリス殿。」
すると目にも止まらない速さでミカエルを通り過ぎ、レタとアイヨのもとに向かう人影が…
「よかった…!二人とも無事なんだね!!」
「リアム!?」
レタ達の前に姿を現わしたのはリアムだった。
ジェシカ王女にイデリスの住処を教えてもらっていたリアムは自身の能力でレタ達のもとに急行し、今に至るのだった。
しかし、リアムは目の前のミカエルとイデリスを見て、臨戦態勢をとる。
「流浪人ですか…。…少々時間がかかりそうですが…」
すると勢いよくイデリスの住処の天井が破壊される。
竜型の特級テロスが動き出したのだ。
「すでに状況は刻々と変化しつつある…君に構っている場合ではないのでね…。」
そう言い残しミカエルは姿を消す。
「レタくん!…アイヨちゃん!…僕に掴まって!!」
「そういうわけにはいかないのです。」
イデリスが自身の能力でリアムの視界を反転させる。
それによりリアムはレタ達側を向いているのにも拘わらず、後方の景色が目に見える現象に困惑する。
「うわぁっ!!…なんで!?…反対側が…」
「そこの華麗な青年、彼らは私がミカエルに今回の件を呑む条件で得たものなのです。」
イデリスはリアムにかけた能力を解除し、自身に敵意がないことを示しながらリアムに近づく。
「どうか、それを奪わないでいただきたいのです。」
「でも…!…僕はこの二人を助けるためにここに…」
「では、少し私と話しませんか?…そちらが対話による解決を望むのであれば…」
リアムはイデリスが特級テロスであることは理解していた。
自分一人ではレタとアイヨを守ることができないことを察したリアムはイデリスの提案を受けることにするのだった。
~五日目~
17:40 リヴィディン大国・西部旧市街地
「(さっき…王都側での衝撃音…ジャクソン王の身に何が…)」
崩れかけた民家に寄りかかりながら自身の傷を押さえるアンドリュー。
一時間前にヴォルフガングとの戦闘をなんとか勝利したアンドリューだったが、直後に気を失い今に至るアンドリューは先ほど王都側で起きた激しい音を聞き、その方角へ向かおうとする。
「くっ…そ…!」
しかし、足に力が入らないアンドリューはその場で倒れてしまう。
立ち上がろうと試みるアンドリュー。
「ずいぶんと痛めつけられたな、アンドリュー。」
「!!…その声は…!!」
アンドリューが見上げた先には手を差し伸べるヘーロスの姿があった。
「ヘーロス…さん…!!」
「ほら、さっさと立て。」
アンドリューがヘーロスの手を掴み立ち上がる。
アンドリューは先ほど王都側での激しい音の正体がヘーロスだと気が付く。
半年ぶりの自身の恩人でもあり、流浪人のリーダーが帰ってきたことを実感するアンドリュー。
「懐かしむのは後だ、俺は今からこの戦争を止めに行く…お前はどうする?」
「…もちろん…!…俺も行きますよ…!…ヘーロスさん!!」
すると、遠方で巨大な”何か”が空に浮かんでいるのを目撃するヘーロス達。
「あれは…」
「(竜…?…まさか…)特級テロスか…!」
ヘーロスはすぐにアンドリューを自身の馬に乗せ、アロガンティア大国へ向かう。
~五日目~
17:40 クヴィディタス大国・古城跡付近
ヘーロス達と同時刻、アドルフとハイドもアロガンティア大国側にて竜型の特級テロスの存在を確認する。
「アドルフさん…あれは…」
「(なぜ…あれが…!)」
アドルフはハイドの手当てを済ませた後、古城の最上階まで向かう。
そこでアドルフは再度、特級テロスの存在を確認する。
そしてその特級テロスは徐々にこちらの方角に向かって飛行していた。
「ハイドくん、申し訳ないのですがまだ…戦えますか?」
すでにハイドはまともに戦えるような状況ではないのは誰が見ても明白だ。
だが、ハイドはこれまでに救うことができなかった命の後悔を二度としないために、アドルフの気持ちに応える。
「…はい…!…もちろんです!」
「すみません…。」
アドルフはハイドの良心に気付いていながら目をつぶることしかできなかった。
それほどまでに強大な存在がこちらに向かってきている…
アドルフは自分の不甲斐なさを心の内で呪った。
「なるほど、ミカエルは成功したか。」
「!?…何者ですか…」
動揺していたとはいえ、気配もなく自身の背後をとった人物に向かってアドルフが問いかける。
ハイドとアドルフの背後に気配を殺して接近していた人物、それはアロガンティア特務機関のアズラエルであった。
第一次リヴィディン大国侵攻時にヘーロス封印の助言を行った人物の一人だ。
「ヘーロス・ベルモンテが封印から解き放たれたのは予想外だが、すでに我々の計画はとめられない…!」
「あなた方の計画というのはあの怪物を解き放つことだと…?」
「あれはほんの始まりにすぎないさ…」
アズラエルが剣を抜く。
「流浪人、”世界の真相”を知るお前たちは我々にとって邪魔なのだよ。」
アズラエルのその発言を聞いてアドルフは冷たい視線を送りながら自身の指に鋼線を巻き付ける。
「死人に口なし。」
~五日目~
17:45 アロガンティア大国・イデリスの住処
10の秘宝のひとつ、心魂の憧憬。
その力は所有者となった者が最も望んだものを実現化させる。
その秘宝によって…
ある者は莫大な富を築き…
ある者は強大な力を手に入れ…
ある者はこの世の理を無視した…
所有者となったすべての者が例外なくこの秘宝の絶大な力に魂までもが溺れていった。
だが、
心魂の憧憬にはひとつ大きな欠陥があった。
それは実現化させたものは生物、無生物問わず、いつしか朽ち果てる運命にあるということ。
生物であれば、常人と比べてはるかに寿命が短く、
無生物であれば、どんなに頑丈な物体でも最期には脆く儚い塵と化してしまう。
アロガンティア大国の深い霧が立ちこむ森の奥深くに存在する”プセマ村”
プセマ村も心魂の憧憬によって生み出された秘宝の副産物である。
故に、プセマ村は荒廃した村と化しており、さらに村人までもが秘宝の能力によって生み出された対象であったため、今ではアイヨを除いて誰一人として形を残していないのだ。
「では、なぜこの子だけがあの村に残っているのでしょう…」
「それはー…アイヨちゃんが普通の人間だからじゃないの?」
イデリスの問いにリアムが答える。
するとイデリスはアイヨに近づき、指を斬りつける。
「痛いよー!」
「アイヨちゃん!お前!なんでこんなことを!」
するとみるみるうちにアイヨの傷が塞がっていく。
「この子も秘宝が具現化したものですよ。」
プセマ村を生み出した当時の心魂の憧憬の所有者はリヴィディン大国の所持している秘宝、果ての鉄から生み出された聖装備に着目した。
聖装備は激しい損傷でない限り装備そのものが再生能力を保持する秘宝の副産物だ。
それを自身の持つ秘宝の力で人の形に変え、生命を吹き込む…
それにより、たとえ心魂の憧憬によって、朽ち果てようとも聖装備の力で自己補完が可能であり、いつまで存在を保つことができる…
それこそがアイヨだったのだ。
「え…」
「そんな…」
自身の衝撃の出生を知り、困惑するアイヨ。
そしてそれを隣で聞いていたレタも同様に驚愕する。
「あなた方は…秘宝が作り出した”奇跡”といえるでしょう。」
イデリスは静かに話を続ける。
かつて、この世界にある”二人の兄弟”がいました。
彼らは探究心豊かで互いが互いの弱点を補い合うことで助け合っていました。
そして二人は同時に2つの秘宝を作り出した。
二人は互いにその秘宝に名を付け、自身が作製した秘宝の研究に励みました。
ある日、私はその兄弟に頼まれ秘宝の力を試す実験体として選ばれました。
そこで私は2つの秘宝のうち、兄が作製した秘宝の力によって特異な能力の発現…今でいうパラフィシカーとなったのです。
私の力を目の当たりにした兄弟は”その秘宝”を利用して次々と人々を覚醒させ、特異な力を持つ者はさらに数を増やしていきました。
兄弟自身も”その秘宝”を利用してパラフィシカーとなり、二人は他の者と比べさらに特異な力を手に入れました。
ですが、兄は自身の秘宝より弟の秘宝に可能性を見出していた。
そして世界の過半数がパラフィシカーとなったある日、兄弟と同様に強力な能力を有する者が兄に弟を裏切るように唆したのです。
その名は、グリーン・ウィザースプーン。
彼の策略で兄弟ゲンカはいつしか、世界をも巻き込んでいきました。
その果てに世界は一度滅び、新たに創生されました。
「あ、あのー…それは何かの…おとぎ話??」
「…君はなかなかにかわいいことを言うのですね。」
顔に表情が無いイデリスのその発言はリアムにとって皮肉を込めて放たれた発言なのか、はては事実からくる発言なのかわからなかった。
そんな困惑したリアムを前にイデリスが続ける。
「私は初めて誕生したパラフィシカー…この世界の全てを観てきた者…解釈はあなた方に委ねます。」
「あ…う、うんー。(よくわかんない…)」
リアムがイデリスの話を聞いた後、アイヨの方を見る。
そしてイデリスにリアムがこう問いかける。
「あのーイデリスさん、その…心魂の憧憬のことなんですけど…今は誰が所有しているってわかったり…しますか?」
それを聞いたイデリスがリアムを凝視する。
顔のパーツがないからこそ、どんな心情で見つめられているのかわからないリアムはさりげなく手を振ってみている。
「(表情わからないから怖いよ~…!)」
「心魂の憧憬の所有者、それは…」
”グリーン・ウィザースプーン”です。
~五日目~
17:45 クヴィディタス大国・古城跡付近
アロガンティア特務機関の者がつける仮面が崩れ落ちる。
「ハァ…ハァ…」
すでに身体に多くの傷を負わされているアズラエル。
アズラエルは自身とアドルフの力の差を思い知る。
「(まさか…奴がこれほどまでの実力だとは…)」
戦闘能力においても、殲越十二戦士と同等の実力を誇るアズラエルだが、自身の剣に装着された雷の情報を内蔵した神秘の欠片を用いてもほとんどアドルフにはダメージを与えられていない。
それどころか、アドルフは自身の能力を一切使用しないで己の身体能力のみでアズラエルをここまで追い込んでいたのだ。
「これで…終わりですか…?」
アドルフが鋼線を自身の周囲に放ち、アズラエルの近くにある城壁や床を切り刻んでいく。
「くっ…!!」
バランスを崩したアズラエルにアドルフの蹴りが命中する。
なんとか腕で防御するが、それでも軽減することのできない威力によってアズラエルは古城の内部まで吹き飛ばされる。
「うっ……あれは…」
アズラエルは自身の横にあった一人の白骨化した遺体を見つける。
その遺体は以前にもハイドがレヴァリィ世界から現実世界に向かう際に異様な存在感を放っていた遺体だ。
それをアズラエルも感じ取り、その遺体を凝視する。
すると、アズラエルの脳内に”誰か”の声が聞こえる。
クリストファー・クロムウェル…
貴様は他者の死を何よりも喜びとしているようだな…
その願い…興味深いな…
「なんだ…今のは…」
直後、アズラエルは自身の身体の異変に気が付く。
今なら何でもできるかのようなこの感覚…
そしてそれを表にそのまま引き出させるのではないかと思えるこの力…
「もしかして…これが…」
心魂の憧憬なのか…?
その身に宿りし、心魂の輝き…
読んでいただきありがとうございました。
各々の大国で戦いが繰り広げられる中で、ついに10の秘宝の一つ、心魂の憧憬の所有者が判明しましたね!
グリーン・ウィザースプーンとは一体何者なのか…?イデリスが語る2人の兄弟とは…?
次回23話をお楽しみに!




