21話「黄昏」
黄昏に沈む大国…
闇に抗う王を喰らう戦の暴君…
それを照らすは紅き瞳の英雄。
~五日目~
17:00 リヴィディン大国・王都内部
ヘーロス・ベルモンテ、帰還
夕日がリヴィディン大国の王都を照らす。
照らされた先には、破壊し尽くされた瓦礫の山と化した民家、周りには多くのリヴィディン大国の兵、そして敵国であるクヴィディタス大国とイラ大国の兵の亡骸が点在していた。
そして彼の目の前には剣で腹を貫かれたジャクソン王に今、トドメを指そうとしているジューバル王の姿があった。
ヘーロスは静かに息を吐く。
「そこをどけ、ジューバル。」
ジューバル王はここ王都での戦いを繰り広げていた際に遠方で起きた轟音と衝撃がヘーロスの仕業であったと理解する。
「(ということは殲越十二戦士はすでに…)」
冷や汗を滲ませるジューバル王。
そんな王に向かって歩き出すヘーロス。
ジューバル王はヘーロスと自身の間にある圧倒的な力の差を理解できていた。
しかし、
「ここで退くとでも…?」
ジューバル王はイラ大国の王として、ヘーロスと応戦することを決める…!!
すぐに自身の能力でヘーロスに向かって周囲の民家を液状にして攻撃を行う。
だが、ヘーロスの能力によってその攻撃は全てヘーロスを中心して逸れる。
「原子操作か。」
ヘーロスがナイフを握る。
人間離れした速度でジューバル王に接近するヘーロス。
「…!!」
ジューバル王は地面を湾曲させ、物理的にヘーロスとの距離を離す。
たとえヘーロスといえども、ジューバル王に直接触れようとなれば、彼の能力で自身の肉体を構成している原子を分解される危険がある。
ヘーロスは空間を拳で殴ることで空間を破壊し、ジューバルに向けて放つ。
以前、ヘーロスがヴァレンティーンとの戦いで見せた自身の実力の片鱗だ。
「なめるなぁ!!!」
ジューバル王は空間内に存在する空気を構成している原子を操作することでヘーロスの攻撃の威力をなんとか軽減する。
それでも地面や周囲の民家を跡形もなく破壊するほどの威力。
ジューバル王はその威力によって態勢を崩す。
ヘーロスがジューバル王に向かう。
「(愚かな奴だ…!…この距離なら反撃の態勢など簡単に…)」
そのときだった。
ジューバル王の上空から振り下ろされる剣。
「なっ!?」
その攻撃はジューバル王の肩から腰にかけて深い傷を与えた。
その攻撃を行った者を見たジューバル王は血管を浮き上がらせるほどの怒りを見せる。
「きっ…貴様ぁぁあああ!!!!」
イラ大国の王、戦の暴君と呼ばれた男に刃を振るったのは…
片腕を失い、瀕死の重体でもなお、この大国のために命を燃やす男、アレッシオだった…!!
「ヘーロス…!…今だ!!」
ヘーロスがジューバル王の目の前まで接近し、ジューバル王の顔に目掛けて拳を振るう。
「あの世で悔やんでろ。」
能力を纏ったヘーロスの拳は空間ごと衝撃を与える。
ヘーロスの拳が直撃したジューバル王の顔面が飛散する…
倒れるジューバル王の遺体を見下ろすヘーロス。
「そんなものが本当にあるならな。」
ヘーロスはすぐにジャクソン王のもとに駆けよる。
「王…」
「ヘー…ロス…か…」
ヘーロスがジャクソン王の手を握る。
「ヘーロス・ベルモンテ、ただ今リヴィディン大国に帰還しました…」
「はっはっ…!……あぁ…必ず…帰還する…お前は約束を…守った……だが…すまない……私は…もう……」
ジャクソン王の様子を見てすでに手遅れの状況だと察したヘーロスが[[rb:俯 > うつむ]]きながら言葉を詰まらせる。
「……王、ダメです…まだ”俺の世界”の酒を…飲み交わしていないではありませんか…」
「王の…務めだ…王は…民を優先せねば…ならない……自分の夢を…諦めても…」
ジャクソン王の目から徐々に光が失われていく。
「ヘーロスよ…誓ってくれ…王としてではなく…友としてだ…」
ジャクソン王は自身の持つ果ての鉄をヘーロスに託す。
「リヴィディンを…この世界を…救ってほしい…」
ヘーロスは俯きながら静かに涙を流す。
「……はい…誓いましょう…」
それを聞いたジャクソン王は安心したかのように眠りについた…
果ての鉄を持ちながらヘーロスは王に向かって再び深く[[rb:跪 > ひざまづ]]く。
~五日目~
17:15 リヴィディン大国・王都内部
アレッシオの失った腕に手当てを施すヘーロス。
「済まない。」
「残念だが、他に生存者はいなかった。ジューバルの攻撃で敵も味方も皆、巻き込まれたみたいだ。」
「そうか…。」
改めて自身の部下や兵たちを失ったことを痛感するアレッシオ。
アレッシオは仲間や王を死地に送り込んだのにも拘わらず、自分だけ生き残ってしまったことを悔やむ。
それを見たヘーロスがアレッシオに紋章を渡す。
それは、先ほどヘーロスが生存者を探した際に見つけたアレッシオと同じ聖騎士団第五部隊に所属していた者が身に着けていた紋章だった。
「お前が生き残ったのには理由があるはずだろ?…行ってこい。」
ヘーロスは彼を待つ者、ジュディ王女のことを察していたのだ。
紋章を握りしめ、馬に乗るアレッシオ。
「ありがとう、ヘーロス。」
アレッシオを見送った後、ヘーロスは酒瓶を握りそれを飲む。
その酒はかつてジャクソン王と初めて対談した際に振る舞われた酒だ。
「やっぱり…俺にはこの酒は合わねぇ…」
残りの酒瓶をジャクソン王の墓に置く。
「次に会ったときは俺の酒を持ってきます…約束です。」
ヘーロスはジャクソン王の墓にそう言い残し、その場を後にする。
王、あなたの夢は終わらせない…
あなたは俺にとっての希望なのだから…
ヘーロスの瞳が真紅に染まる。
「日暮れまでに…この戦いを終わらせる……!!!」
~五日目~
17:15 アセティア大国・王都地下監獄
地上で激しい闘いが繰り広げられている中、地下監獄にいるジリアン王は外の状況を察する。
「戦争か…。」
そんな自分以外いるはずのない地下監獄で足音が聞こえる。
「何者だ?」
「お前がジリアン王だな。」
ジリアン王は足音の人物を見た途端、血の気が引いたかのような表情を浮かべる。
「な!?なぜ貴様がここに…!!…誰か!!衛兵!!!」
「無駄だ、道中にここの見張りは全員排除している。」
その男は仮面をつけ、右手には剣が握られている。
その剣には秘宝の副産物である神秘の欠片が装着されていた。
そう、ジリアン王のもとに現れたのはアロガンティア特務機関のウリエルだった。
第一次リヴィディン大国侵攻時にクヴィディタス大国の古城跡でハイドを襲った人物だ。
ウリエルは衛兵から奪ったカギを使ってジリアン王の牢獄の扉を開ける。
「く…来るなぁ!!」
ウリエルが剣をジリアン王に向ける
「怠惰の王に生きる価値無し。」
「うわぁぁああ!!!!」
地下監獄に響く悲鳴。
~五日目~
17:15 クヴィディタス大国・古城跡付近
あたりに散らばる血肉、そして2体の2級テロスの死骸…
そして…
ひび割れた地面に這いつくばる一人の男、
その名はリベル。
進化の意慾の所有者にして、未来跳躍という特殊な能力を持つパラフィシカー。
そんな彼はハイドの守るべき仲間を殺戮の限りを尽くし、徹底的にハイドの心を折った。
だが、そんな彼が今、地べたで死にかけている理由…
「…まだ…息がありましたか。」
リベルを見下ろしながら言い放つアドルフ。
すでにリベルは腹に穴を空けられ、片腕を切断され、もう片方の手はアドルフに踏まれたことで原形がなくなるほど砕かれている。
「アドルフ…さん…」
ハイドが意識朦朧としている中、アドルフを呼びかける。
「そのまま安静にしてください、ハイドくん。」
ハイドのもとに駆けよるアドルフ。
その二人の様子を目にするリベルは先ほどの重傷を負いながらも身体を起こそうとする。
「失礼、今トドメを。」
それに気が付いたアドルフが自身の指に鋼線を巻き付ける。
「あはっ……俺は……まだ…死ねない…」
「ここまで多くの命を奪っておいて君だけが生きていられると?」
アドルフがリベルの身体に鋼線を巻き付けてつるし上げる。
「俺はぁ!!!…あの景色を…!!!……”Code-α”を見るまで…死ぬもんかぁ!!!」
「(まずい…!)アドルフさん!!」
リベルの異変に気が付くハイド。
「!?」
アドルフがハイドの方を振り向いたほんの隙を見計らいリベルはその場から消え去る。
未来に飛んだのだ。
アドルフはハイドとリベルの戦いにすぐに参戦したことからリベルの未来跳躍の能力を知らなかったのだ。
「ハイドくん、今のは!?」
「あいつは…未来に…飛びました……おそらくかなり遠くの…」
ハイドの発言に驚くアドルフだったが、すぐに平静を取り戻し、ハイドの手当てを行う。
「でも、君が生きていてよかったです。」
「…俺のせいで…みんなが…」
「今は傷を癒すことだけに集中してください…。」
助けられなかった命に涙を流すハイド。
~五日目~
17:30 アセティア大国・王都
「皆さん!慌てないで!ゆっくり進んでください!」
ジリアン王の弟キリアンは教会の地下室に民を避難誘導させる。
かつてジリアン王の秘宝の実験施設となっていた場所だ。
流浪人、聖騎士団と対峙したジリアン王は1級テロスを開放した影響で地下室は崩落していたが、あれから数か月の時間を要してキリアン達は地下室を民の避難場所へと改築していたのだ。
クヴィディタス大国、イラ大国の軍勢が王都にも攻め入ったことで地上には大きな被害が出ている。
キリアンはかつて民を危険に晒したこの場を今度は民の安全を確保するために利用すると決めたのだ。
だが、そんなキリアンの内にはもう一つ気にかけていることがあった。
「(アラン…)」
民のことを何よりも案じるキリアンだったが、自身の親友でもあり王都の前衛で戦うアランやアセティア大国の兵の身も案じていた。
そんなキリアンの背後にある地下室の扉が開く。
するとそこには負傷したアランがアロガンティア特務機関であるウリエルによって抱えられていた。
「あなたは…!!」
「まだ生きている、友人ならすべきことをするんだな。」
負傷したアランをキリアンに預けるウリエル。
「ど、どうして…」
疑問に思うキリアン。
だがそんなキリアンの背後に迫るクヴィディタス帝国軍。
王都で民の蹂躙を行うべく広範囲にわたって散らばっていた兵の数名が教会の地下室に民が避難していることを突き止めたのだ。
兵の攻撃がキリアンに向かう。
しかし、そんな兵の攻撃を造作もなく斬り伏せるウリエル。
「気にするな、天使の気まぐれだ。」
ウリエルはキリアンに振り向く際に僅かに仮面の内側の素顔を少し覗かせその場を去る。
「ま、待ってください…!」
キリアンのそんな言葉も気にせずにウリエルは地下室を出ていく。
ウリエルを見つめるキリアン。
キリアンは先ほど倒された兵に視線を移す。
「これは…」
キリアンはこの時、気が付いたのだ。
ウリエルが何を目的としてこの大国にきたのか。
地下監獄に囚われている兄の安否を。
その全ては今目の前で倒された兵の身体に突き刺さる貪欲の華が物語っていた。
「兄さん…」
~五日目~
17:30 アロガンティア大国・王都付近
「うっ…ううっ…」
薄暗い空間の中で目を覚ますレタ。
「ここは…」
レタの周りには洞窟のように暗く、まるで霧に覆われた山のような湿気…
そして目の前には…
「アイヨ…!!」
目の前に横たわるアイヨを起こすレタ。
「んんっ~…」
「よかった…意識はある…!!」
レタはここまでの経緯を思い出す。
フォート率いる聖騎士団第二部隊と共にアロガンティア大国の西部王都にいたレタとアイヨだが、突如王都城壁でフォートが仮面をつけた人物と戦っている場面を目撃していたレタ。
そしてその仮面をつけた人物にフォートがやられた後、すぐに自身の目の前にその人物が現れて…
「さらわれたのか…!!」
「ようやく目を覚ましましたね。」
レタが声のする方へ振り向く。
そこにはフォートと交戦していたアロガンティア特務機関の男、ミカエルがいた。
ミカエルは二人が目を覚ましたことを確認するとレタ達とは逆の方向を向く。
「二人が意識を取り戻しました…イデリス殿。」
すると、ミカエルが向いた方向から人型のテロスが姿を現す。
「(なんだ…!?…あいつ…!!)」
「あの人…お顔に何もない…」
レタとアイヨの二人がその人型のテロス、イデリスを見て恐怖を覚える。
「それでは、ミカエルあなたの条件を呑みましょう。」
黄昏の戦い、その先に現れる新たな暗躍…!
読んでいただきありがとうございました。
ヘーロスとジャクソン王の関係性、いかがでしたでしょうか?
僕は実はこの作品の中でもかなりこの二人の関係性が好きでして、いつか機会があればこの二人が出会った経緯をスピンオフという形で作ってみたいなと個人的に思っていたりします…!
次回22話をお楽しみに!




