19話「崩壊」
混沌の先にある景色、
崩壊せし世界の先にある景色を見るまで、
俺は全てを壊す。
~五日目~
16:37 クヴィディタス大国・古城跡付近
崩れた壁に倒れこむヴォルフガング。
その横で何とか立つハイド。
そんな二人の様子を見つけ姿を現すリベル。
「やっと…見つけた…!!」
「…お前は……」
ハイドはリベルと直接会ったことはこれまでに一度もなかった。
だが、ハイドはそんな初対面であるリベルに…
”どこかで会ったことがある気がする”
そう思っていたのだ。
「ハイド~、お前に会いたい人がいるんだってさ~!」
そう言ってリベルは二人の人物を引きずり出す。
それは…
負傷したミニーシヤと足腰立たなくなるまで痛めつけられたマルコがいた。
「ミニーシヤさん!!…それに…マルコおじさん!?」
「正~解!!」
ミニーシヤは先ほどハイドがヴォルフガングとの戦闘中にファビアン少佐とアルノ軍曹率いる数名の兵と戦っていた。
そこでの戦いではなんとか勝利を収めたミニーシヤだったが、リベルに不意を突かれ囚われてしまったのだ。
そしてマルコはリベルが率いる隊の兵としてこの古城跡まで他の兵と共に向かっていたところ、直後リベルが他の兵を殺害しマルコのみをここまで連行していたのだった。
「お前…!!…二人を離せ!!!」
「はぁ?何言ってんの、俺がやりたいのはここからだよ~!」
リベルは二人の喉元に短剣を向けハイドにこう質問する。
「ハイド、お前に選択肢を与える…よ~く考えて発言しろよな?」
「ッ…!!」
ハイドの額から汗が滲み出る。
「お前は聖騎士団の仲間をとるか、自分の育ての親をとるか、どっちか選んでもらおうかな!」
「なんっ……だと…!?」
ハイドの目に殺気が籠る。
「ハイドくん!…私はいいから!おじさんを助けてあげて!!」
「ハイド…これは一体…どういう状況…なんだ!?」
ハイドに自身ではなくマルコを助けるように言うミニーシヤ、そして状況が追い付かないマルコ。
二人の命を天秤にかけられたハイド…
しかし、ハイドはどちらの命も選択できなかった…
「…できませんっ……!!…俺には……だって…!!…どっちも…!!…俺の大事な…存在だから…!!!」
その発言を聞き、俯くリベル。
「なるほど……」
だが…
その俯いたリベルの表情は横にいるマルコが戦慄するほどの不気味な笑みを浮かべていた。
「ヒッ………ヒヒッ………そのセリフが…聞きたかったんだぁ~!!!」
すると二人が身体が変異し始めていく。
「え…。」
状況が飲み込めないハイド。
しかし、自身の身体の異変で状況を察したミニーシヤは涙を流しながら笑顔でハイドに向けてこう言い放つ。
「ハイドくん……ごめんね。」
身体が人の形からかけ離れていく。
ミニーシヤの身に着けた衣類や聖装備を突き破り、徐々に変異した身体が露わになる。
肌が剥けはじめ、新たな禍しい肌が現れ、全身の骨が変異したことで体外に露出していく…
薄れゆく意識の中、ミニーシヤはこれまで自身に託した仲間…
ボロフ、サムエル、ロクア…
そして助けることができなかったアローラのことを思い出す…
みんな、ごめん…
みんなの想いに答えられなかった…
隊長…ごめんなさい…
助けに行けなくて…
ジョセフ…ごめんね…
帰ってこれなくて…
ハイドくん…ごめんね…
力になれなくて…
本当にみんなごめんなさい…!!
「ゴォエェェェアァァァァァァ!!!」
見る影もなく異形の姿となったミニーシヤ。
「ミニー…シヤ…さん…?…」
その横にはもうひとつ異形と化した者がいた。
「ひっ…!!……マルコ…おじ…さん…!!」
テロスとなったマルコも原形を留めていないほど、身体が膨れ上がり、足はまるで蜘蛛のように大量に生え、上体は溶け崩れ、動物には例えられないほど歪んだ異形の姿をしていた。
みんな…さっきまで人だったのに…
ハイド目掛けて二人のテロスが襲い掛かる。
為す術もなくテロスの攻撃で瓦礫や古城の壁に叩きつけられるハイド。
すでに骨や内臓も損傷している。
だが、痛みは感じない…
今のハイドには痛みを感じるほど気持ちが追い付いていなかったのだ。
ハイドを襲う二人のテロス、ミニーシヤとマルコだったが、徐々に動きが鈍くなりやがて動かなくなる。
「ん?やっば~、もしかして進化の意慾で負荷かけすぎたかな?…まぁいっか!」
すでに瀕死のハイドのもとに向かうリベル。
「なぁ、知ってるか?ハイド、弱いやつでも強いやつを倒す方法…」
リベルがハイドのボロボロになった姿を見てほほ笑む。
「そいつが弱ってるときを狙うのさ…!」
リベルは瀕死で動くことすらできなくなったハイドの負傷した部分に目掛けて攻撃を仕掛ける。
リベルは攻撃の最中、ハイドに激しく語る。
言ったよな!?よく考えて発言しろって!!
どちらかしか助けられない、そんな中でてめぇは哀れにも二人の命を守ると選択した!!
そんなもんは選択肢にねぇんだよ!!
仲間の想いは俺が継ぎます?
仲間は俺が守る?
甘いんだよ!考えがぁ!!!
これはお前が思っているような優しい世界じゃねぇ!!現実を見ろ!!!
そんなくだらねぇ正義感で戦いに勝てると思ってる方が頭湧いてんだよ!!!!
「うっ…!ぐあぁぁぁぁぁ!!!」
ハイドの全身に激痛が走る。
「あはははっ!!!いいね!!
痛むってことはまだ生きてる証拠じゃんか!!!」
ハイドはなんとか立ち上がろうとするも、地面に着いた手を思い切り踏むリベル。
ハイドの手の骨が次々と折れる。
「へぇ~人の手ってこんなに簡単に折れるんだな!!」
ハイドの髪を鷲掴みにしてリベルは先ほどのように発言を続ける。
ハイド、てめぇのくだらない正義感で二人は死んだんだ。
”俺”じゃねぇ、”お前”が二人を殺したんだよ…!!
どうだ?
悔しいか?
悲しいか?
これはままごとじゃねぇ、
そんな感情をいちいち出してるようじゃてめぇは何一つ…
救うことなんかできやしねぇんだよ…!!
「黙れ…」
「あ゛?」
ハイドは鷲掴みにしているリベルの腕を掴み、睨みつける。
その目つきはこれまでハイドが本気で出したことのない感情…
殺意だ。
それを全身で感じとるリベル。
「文句があんなら拳で語ろうぜ~?ハイド…!」
煽るリベルに向けてハイドは粉砕された拳をリベルに向けて振るう。
「なに…!?」
だが、ハイドの拳は空を切る。
「あはっ!バーカ~!」
いつの間にハイドの背後にいるリベルがハイドに続けて攻撃を繰り出す。
その後も何度もハイドはリベルにめがけて攻撃を仕掛けるも、全ていつの間にかリベルは目の前に存在しておらず、必ず不意を突かれて攻撃を受ける。
「くっ…そっ…!!」
ハイドはアローラの剣を拾い、自身の首を斬ろうと試みる。
しかし…
「あーダメダメ~!、過去には戻らせねぇよ!!」
またもやハイドの死角からリベルが現れ、今度はハイドの持った剣をハイドの粉砕されていない方の手の指に置く。
「!!」
すでに意識が朦朧としているハイドにはリベルの攻撃に抵抗することができない。
そのままリベルによって指の上に置かれた剣を押されることでハイドは左指を二本切り落とされる。
指についた超越せし指輪が瓦礫の間に落ちていく。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」
「耳元でうるせぇなぁ!!!」
続けざまにリベルがハイドの顔を蹴る。
それによりハイドの鼻が折れる。
「カニ!!!」
「なんだ?」
リベルが声がする方へ向く。
「カ…カニス…!!」
「テロスか…。」
ハイドはヴォルフガングとの本格的な戦闘の前にカニスを古城跡に隠れるように指示したのだ。
しかし、ハイドの窮地に現れるカニスはリベルに向けて激しく威嚇する。
「あはっ!こいつ俺のやってること理解できてんのか!」
「カニカニ!!!」
リベルがカニスのもとに歩き出す。
「知ってるか…?一度テロスになった奴や進化の意慾の所有者が長時間触れた生物は…」
「ダメだ……逃げろ…!!…カニス…!!!」
「増長した自身の欲に呑まれて死ぬんだ~…!」
カニスの首を絞めるリベル。
「カニス!!!!!」
「カ…カニ…」
リベルの手元から弾けるように破裂するカニス。
その肉片はハイドの顔に飛び散る。
「うっ……う……うわあぁぁぁあああああ!!!!!!!」
泣き叫ぶハイドを見て涙を流しながら笑い出すリベル。
「あははははっ!!!バカなテロス!!
威嚇したところで進化の意慾の所有者の俺に敵うわけないじゃん!!!」
リベルはそう言いながら足元に散らばったカニスの死骸を何度も踏みつける。
「主そろってマジで頭湧いてんだろ…!!!」
「てめぇ!!!!」
ハイドがリベルのもとに走るが、またもやすぐに姿を消すリベル。
「まだわからねぇの?」
リベルがハイドの脚を蹴り飛ばし、ハイドは床に転ぶ。
「俺は未来に飛べるんだよ…!」
そう、ハイドが攻撃しようとするといつの間にか姿を消したのは、リベルが自身の能力で数秒先の未来に飛び、そこでハイドを攻撃していたのだ。
「なんでお前は…過去に飛べ……俺は未来に飛べんだろうな…」
意味深な発言をするリベル。
だが、今のハイドは目の前のリベルに殺意をむき出し、そんなことを気にしている状況ではなかった。
するとまた、リベルが姿を消す。
今回はすぐに現れない。
ハイドはカニスの亡骸を優しく拾い、その場を少し離れる。
ハイドは考えた。
自身が過去に戻る能力で、リベルが未来に飛ぶ能力なら、自身の能力と特徴は同じはずだと…!
ハイドの”過去跳躍”は戻った時間分だけ能力の再使用に時間がかかる。
そして戻った際に自身の位置は動かせない。
つまり、あの場から立ち去れば、どんなに未来に飛ぼうとも自身を攻撃できないとハイドは判断したのだ。
しかし…
「は?…どこ行く気だよ。」
ハイドの背後に現れたリベルがハイドに攻撃を行う。
「ぐっ…!!」
ハイドの手からカニスの亡骸が落ちる。
「カニス…!!」
ハイドがカニスの亡骸のもとに這いずりながら向かう。
そのハイドの頭を踏みつけるリベル。
「今のてめぇの状態じゃ俺でも追い付けんだよ。」
ハイドはすでにヴォルフガングとの戦闘で全力を出し切っている。
リベルがいかにこれまでの敵と比べて戦闘力が劣っていてもすでにハイドには体力的にも精神的にも余力はなかった。
「そんなに動きたいのかよ…
んじゃ!足切り落としておくか!」
リベルは先ほどハイドが所持していたアローラの剣を拾い、ハイドの脚に狙いを定める。
「何をしてるんですか。」
「ん?」
遠方からこちらに問いかける声。
その声の主を朦朧とする意識の中で視認するハイド…
「アドルフ…さん…」
「(ハイドの仲間…流浪人か…)」
リベルはアドルフがなぜ、ここに来たのかを理解できていなかった。
しかし、それでも状況的に有利なのはこちら側…
アドルフはハイドや周囲のテロスとなったミニーシヤ達の死骸、そしてカニスの死骸を抱くハイドを見て状況を察する。
リベルに向かって真っすぐ歩き出すアドルフ。
「あはっ、バカか?こいつがどうなってもいいの…」
リベルが剣を向けた先にいるはずハイドは、なんとか這いずりながらリベルもとから離れようとしていた。
「おい、逃げてんじゃねぇよ、ハイ…」
「あなた方の目的は?」
いつの間にかリベルの背後をとるアドルフ。
「(いつの間に!?…)…不用心に近づいてきてくれて、どうも!!」
リベルが急に方向転換しアドルフに触れようとする。
「アドルフさん…!!」
ハイドがアドルフを呼びかけようとするが…
「なっ…!?」
リベルの奇襲をものともせずにリベルの腕を掴むアドルフ。
アドルフは続けてリベルに質問する。
「…あなた方の目的は?」
「お前が知ってなんに…」
リベルが発言する前に強力な一撃を加えるアドルフ。
その威力はリベルをそのまま床にめり込ませるほどだ。
頭部や口から大量の血を吐くリベル。
「(な……なんだ…!?…何が起きた!?…殴られたのか…!?)」
アドルフが鋼線でリベルの片腕を切り落とし、もう片方の地についた手を踏みつける。
まるで先ほどハイドに対してリベルが行った行為のように…
「ぐぁぁああああ!!!……っあぐっ!?」
腕を切断され、手も砕かれたリベルはその痛みに激しく叫ぶが、その大きく広げた口にアドルフが自身の脚を突っ込む。
「耳元でうるさいですね。」
アドルフが拳に鋼線を巻き付ける。
そのアドルフを見上げたリベルは自身が初めて感じる感情を抱く。
”恐怖”
「きみが、これまで他者に行ってきた行為…それを自らが受ける側になるとそんな顔をするんですね。」
「んんっ~!!!!!」
メガネの奥に見えるアドルフの目つきは仲間をここまでの状況に追い込んだ者への怒りの眼差しだ。
「心底…舐め腐りやがって…。」
アドルフの本気の一撃がリベルの胸に直撃する!!
地面がひび割れ、周囲の古城の一部が崩壊する…
漆黒の卓越者、悪魔の申し子を撃ち沈めんとする…
読んでいただきありがとうございました。
今回でかなり驚愕な展開になりましたね!
おそらく読者の憎悪の対象となった人物が確定された気がします(笑)
さて、7大国決戦を引き起こした張本人の一人リベルが今回に登場したということは次回はリベルと結託した残りの人物の話となります!
次回20話をお楽しみに!




