18話「役目」
運命に身を任せてはならない…
自分の役目を見失うな、
来たるべきその時が来るまで。
~五日目~
16:35 クヴィディタス大国・古城跡付近
クヴィディタス帝国軍の3人の将軍のひとり、ヴォルフガングの能力…
それは自身と同等の容姿、戦闘力を持つ分身を最大3体生成が可能な能力。
すでにヴォルフガングはハイドと戦闘を行う前に分身をアロガンティア大国とリヴィディン大国に1体ずつ向かわせていたのだ。
その個体と戦闘を行っていたのがエヴァとアンドリューだ。
そんなヴォルフガングの強力な能力だが、弱点が存在した。
それは、本体が受けた攻撃は分身には外見状のみしか反映されないものの、分身が破壊されると本体そして他の分身には疲労が共有されること、
そして分身の中から本体を移動させると数秒間は入れ替えが不可能になるという点だった。
ハイドは真理の神秘の能力で古城跡を巻き込むほどの衝撃波を放った。
それによりその場にいた本体と分身を含めた2体のヴォルフガングは即座に本体を別の場で戦っている分身と入れ替えることを選択した。
しかし…
別の場では同時刻、アロガンティア大国ではエヴァの不意による絞め技で意識を落とされかける状況、
そしてリヴィディン大国では相打ち覚悟で放ったアンドリュー渾身の一撃を受けた状況であった。
ヴォルフガングはやむを得ず本体をアンドリューの分身と入れ替えた。
アンドリューの攻撃を受けた後、すぐにハイド側の分身に本体を移動させたものの、ハイドの攻撃によって2体のうち1体のヴォルフガングが破壊された。
本体およびエヴァと戦う分身は破壊された分身の疲労が蓄積する。
そして本体がアンドリュー側に移動した際に受けた火傷のダメージもまた、ハイドとエヴァと戦う分身にも共有される…!
「アンドリューさん…!!」
「どんなに強力な能力でも…弱点は存在する……だが……まさか…同時に攻撃されるとは…」
~五日目~
16:35 アロガンティア大国・大国中央付近
「(火傷の跡…!)アンドリュー!!」
「くっ…!!」
エヴァは絞める力をさらに強める。
「(さっきより抵抗力が弱まっている…!…アンドリュー以外の誰かが…!戦ってくれている!)」
アンドリュー以外の誰か、それを直感的にハイドだと確信したエヴァはこの期を逃さないためにも全身全霊でヴォルフガングを締め落とそうと試みる。
仮に今、目の前にいるヴォルフガングが本体でなくとも、破壊さえすれば本体に影響が生じることをエヴァは知っている。
そのためにも…!!
ここで一人、落とす!!!
~五日目~
16:35 リヴィディン大国・西部旧市街地
ヴォルフガングの火傷といきなり生じた疲労からアンドリューは攻めの姿勢を崩さない。
「(こいつの能力は知らねぇが!…あの空気による切り傷、そんなことできるのはハイドの秘宝だけだろ!!)」
アンドリューもまた、別の戦地で戦っている者がハイドだと確信し、そのためにここにいる敵に全霊を持って打ち倒すこと決める。
[[rb:ハイド > あいつ]]だけに負担は負わせねぇ!!
ここで一人、沈める!!!
~五日目~
16:35 クヴィディタス大国・古城跡付近
ハイドは秘宝の力ではなく、自身のこれまでに培ってきた戦闘技術でヴォルフガングに挑む。
アンドリューによる一撃、そして分身をやられたことで疲弊した体力によってハイドの攻撃に対し防戦一方となるヴォルフガング。
「(くそっ…思ったより疲労が大きい…!!)」
「(まだだ!こいつを倒せるタイミングは今しかない!!)」
ボロフさん、サムエルさん、ロクアさん…
散っていった仲間や俺を頼ってくれる仲間のためにもここで…!!!
~五日目~
16:35 リヴィディン大国・西部旧市街地
「うっ…!…調子に乗るな!…流浪人が!!」
ヴォルフガングがアンドリューに反撃を開始する。
しかし…
「こいつ…!!」
アンドリューは防御することを捨て、自身の残りの体力は全て目の前の敵を倒すためだけに振るう。
アンドリューは自身が所持していた酒を割り、ヴォルフガングに浴びせる。
その酒はアンドリューによって炎の道筋ができ、広範囲に渡ってヴォルフガングを炎が襲う。
街中が炎の渦に包み込まれる中、二人は攻撃の手を止めない。
激しい攻撃を互いに繰り広げていく。
ヴォルフガングは周囲の民家を利用して炎を避けながらアンドリューに攻撃を仕掛けていく。
対するアンドリューは周囲の炎を操作し炎の玉としてヴォルフガングに向けて放つ。
前方に向かってくる炎の玉を両断するヴォルフガング。
しかし、その先には…
「しまった…!!」
「ハイドによろしくなぁ!!」
アンドリューは酒に濡れた自身の手をヴォルフガングに向けながら勢いよく合わせる。
すると指先から飛び散った酒を伝いながら高速で炎の槍がヴォルフガングの胸を貫く。
「がぁっ!!!」
~五日目~
16:35 アロガンティア大国・大国中央付近
「きっ…貴様っ…!…首をへし折る気か!?」
エヴァは意識の喪失ではなく確実に命を奪うべく、ヴォルフガングの絞め技を先ほどまでと変えていく。
「くっ…!…調子に乗るな!…流浪人が!!」
ヴォルフガングはエヴァの脚に剣を突き立てる。
「うっ…!!!」
太もも付近を剣で貫かれるも、痛みに耐えいまだ力を緩める様子を見せないエヴァ。
それを見たヴォルフガングは上体を起こしエヴァの首を掴む。
エヴァの首を折るつもりだ。
「俺の首が…折れるか…貴様の首が…折れるか……試してみるか!?」
「えぇ…!……やって…みよ…!!」
二人は互いの締めをさらに強くする。
単純な力でいえば、男性であるヴォルフガングがエヴァを上回る。
徐々に意識が混濁するエヴァ。
「(所詮、女は女。…こちらが先にへし折る…!)」
それを確認したヴォルフガングは自身の勝利を確信する。
しかし、エヴァはヴォルフガングのその慢心を見逃さなかった。
「なんだと…!?」
「ハイド君に…よろしくね!」
エヴァは自身の能力でヴォルフガングの関節を的確に抜き、腕の力を無力化する。
その隙に全身全霊の力を込めてヴォルフガングの首をへし折る。
「っあ…がぁっ…!!」
~五日目~
16:37 クヴィディタス大国・古城跡付近
「(力がさらに弱くなった…!?)」
ハイドの攻撃をなんとか防ぐヴォルフガングが徐々に防ぎきれなっていく。
そう、アンドリューとエヴァによってさらに分身を破壊されたヴォルフガングはすでにまともに戦闘が続行できる状態ではなくなっていたのだ。
「くっ…!…そっ…!!」
ハイドの猛攻を食らい続け、意識が朦朧としていくヴォルフガング。
「(いける!!!…これなら…!!!)」
ハイドは壁に打ち付けられるヴォルフガングに追撃を仕掛ける。
ありがとう…!!!
エヴァさん、アンドリューさん、みんなのおかげで俺は…
まだ、仲間を助けられる…!!
ハイドの渾身の猛攻…
それを防ぎきることができずに受け続けるヴォルフガングを前にハイドは遠くの地で自分と同じく戦う仲間たちの想いを受けて、自身の存在価値を噛み締める…!!
俺は生きなきゃならない…!!!
ここでやられるわけにはいかないんだ…!!!
ヴォルフガングが打ち付けられていた壁が破壊される。
そこには拳の皮膚はめくれ血を流しつつも、立ち続けるハイドと意識を失ったヴォルフガングの姿があった。
「みんな…ありがとう……!!」
ハイドは自分だけの力ではなく、仲間の存在があったからこそ為せた勝利に感謝する。
すると…
「あれ~?…将軍やられちゃってるじゃ~ん!」
ハイドとヴォルフガングの戦いの背後に忍び寄る人物…
~五日目~
16:40 イラ大国・南部都市
破壊された多くの建造物…
瓦礫で舞う土煙のなか、アドルフは重傷を負ったアレクサンダー中佐のもとへ歩み寄る。
すでに他の兵士たちは戦闘不能に陥ってる。
アンゼルム国衛隊長、ブリュンヒルデ少佐は意識はあるものの、アドルフの鋼線によって身動きが取れなくなっている。
「くそっ…!…中佐!!」
ブリュンヒルデ少佐がアレクサンダー中佐を案じる。
「あまり動かないほうがいい、身体が千切れますよ。」
アドルフが無情にブリュンヒルデ少佐に言い放つ。
「流浪…人……先ほどの……衝撃と轟音は……お前の…仲間の仕業か……?」
アレクサンダー中佐がアドルフに問う。
すでにアレクサンダー中佐は腕を切断され、身体の至る所に鋼線で壁に貼り付けにされ、死を待つだけの状態となっていた。
そんな彼にアドルフは答える。
「えぇ。誰がやり遂げたのかはわからない…
だが、あなた方が”恐れている男”が帰ってきた…それだけはたしかです。」
「……そうか…。」
アレクサンダー中佐は少し笑みを浮かべる。
彼が最期に脳内で思い浮かべたのは、
自身を幼いころからクヴィディタス帝国軍の兵士として育て上げた父親でもなく…
これまで多くの戦いの中で無言の帰還を果たした仲間たちでもなく…
自身を20年もの間、愛し続け先に旅立ってしまった妻でもなく…
大国間での戦いで失った息子と、ラインハルトとの日々だった。
アレクサンダーには一人の息子がいた。
彼は自身と同様にクヴィディタス帝国軍の兵になるべく日々訓練を続けていた逞しい少年だった。
しかし、大国との争いが絶えないクヴィディタス大国はある日、イラ大国との戦いで民間人である自身の息子を失ってしまうのだった。
最期に息子が言い放ったこと…
それは”自分を殺した相手のことを恨んではいけない。”ということだった。
息子は理解していた。
兵として他国の命を奪う罪深さを。
そして奪う者の苦しみも。
息子はまだ兵士ですらなかったにも関わらず、自身のことや自国のことだけでなく、他国を尊ぶ気持ちを忘れなかった。
それ以降、アレクサンダーは自身の憎き対象であるイラ大国の憎悪を抑え、息子の最期の言葉を胸に常に両国間の友好関係向上の任を担った。
そしてある日、自身の息子と同じ考えを持ち、同じ目をした少年を小さな村で見つけたアレクサンダー。
その少年の名はラインハルト。
ラインハルトは逸材だった。
僅か2年で軍の昇格を次々と果たし、クヴィディタス帝国軍に入隊してから3年で大佐にまで上り詰めたのだ。
アレクサンダーはそんな自身の息子と同じ目と信念を持つラインハルトをいつしか、息子のように思っていたのだ。
そして…この7大国侵攻計画の前にラインハルトは自身にあることを告げた。
「俺は聖騎士団のアローラさんと共に行動します!」
「リヴィディンの守護者か…なぜだ、ラインハルト。なぜ、敵国の者に手を貸す?」
ラインハルトは真っすぐな瞳でアレクサンダーの問いに答える。
「それが…俺の”役目”だからです…!!」
そう言い放つラインハルトの瞳を見て、アレクサンダーは目の前にいるラインハルトと自身の息子を重ねる。
「…そうか…。…なら……止めはしない。」
その発言を最後にラインハルトの後ろ姿を見送るアレクサンダー。
「ならば……俺も…”役目”を…果たすとしよう…。」
そうアドルフに向かって言い放つアレクサンダー。
アレクサンダーは先ほどの轟音と衝撃がヘーロス・ベルモンテの復活を意味し、それに携わったのがラインハルトと聖騎士団のアローラであると理解したのだ。
「あの青年…リベルは……お前たちの……仲間……あの…銀髪の…青年を探して…いる……」
「!?(ハイド君を!?)……そのリベルという青年は今は…」
「………クヴィディタス大国の……古城跡…数ヵ月前に…アローラが…特級テロスを…討伐した……場所だ…」
アドルフはアレクサンダーと真反対の方向を向く。
その方向は今、ハイドがヴォルフガングとの戦闘を終えた場所の方角だ。
「行け…流浪人……お前の…”役目”を果たして…こい…」
役目を終えるまで眠ることは許されない…
読んでいただきありがとうございました。
ついに流浪人のアンドリューやエヴァの協力によりヴォルフガングを倒すことに成功したハイド。
しかし、そんな激闘の熱が冷める間もなくハイドの前に現れた人物…
次回19話をお楽しみに!




