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ハイド  作者: じょじょ
ハイド 第1章 ~第一次リヴィディン大国侵攻~
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4話「流浪人」

流れる浪(なみ)は人知れず。

ミニーシヤはカニスを連れて、グラ大国の王宮に向かった。

王宮ではアローラ達がジュディ王女にもう一度、同盟関係を結ぶために話し合っていた。



「…ですから同盟はしないといいましたよ?アローラ隊長。」


「お姉様、せめて話すときくらいは食べ物を置いてよ…。」



いまだ交渉が進まない中、ミニーシヤが王宮に到着し、アローラ達にハイドがさらわれたことを伝える。



「(やはり…あの足跡は…)」



アローラはグラ大国に向かう道中に発見した7つの足跡がハインリヒ軍曹たちのものであると確信したのだった。


アローラはサムエルにリヴィディン大国に向かい、先ほどロクアに伝えたようにジュディ王女を救える唯一の人物をこのグラ大国に向かわせるように伝えた。



「ですが、隊長。先ほどそれはロクアに指示したはずでは?」



サムエルが聞き返す。



「いや…おそらく…ロクアはハイドくんを追っている。」


「なぜ?そう思うんですか?」


「俺の勘…かな」



アローラが自身の頭を触りながら笑って答える。



「また隊長のいつものやつが…ですが、今はそれを頼るしかないですね。」


「あぁ、よろしく頼んだサムエル。」



アローラはミニーシヤとボロフにサムエルが戻るまでの間、グラ大国にいることを指示し、自身はカニスを連れてハイドを救出することを伝えた。


もちろん皆には反対されたが、アローラの覚悟を理解した部下は自身の隊長を信頼し行かせたのだった。



その頃、ハインリヒ軍曹に連れ去られたハイドは…



「(こ…ここは…どこだろ…グラ大国とはまた違う風景だ。)」



ハイドは道中気を失わせられ、今に至る。

ハインリヒ軍曹は2人の兵を連れ、グラ大国の隣国に位置するイラ大国に来ていた。


イラ大国、7大国で最も武力が高く、国にいる兵の数も圧倒的に多いのが特徴。

クヴィディタス大国とは古くから親交が深く、他の国々とは領土や資源の奪い合いなどが度々起きて冷戦状態にある。



イラ大国の街に着いたハインリヒ軍曹はイラ大国に派遣していた同じ軍曹の1人であるジークリット軍曹に出会う。



「ん?ハインリヒか?」


「ジークリット軍曹、至急王都に向かわせてくれないか?急を要する。」



ジークリット軍曹はハイドが捕らえられた経緯を知る。


しかし…



「お前の事情は分かったが、私の判断でお前を王都に向かわせることはできない。なぜなら…」


「なぜなら、この大国では彼女は私の部下だからだ。私の許可を得られないかぎり、この先を通すことはできない。」



そう言った男性はイラ国衛兵団の5人の国衛隊長の1人、アンゼルム国衛隊長だった。


イラ国衛兵団とはイラ大国特有の戦闘能力の高さで軍の序列が決まることから他の大国の兵と比べても戦闘能力の高い兵団のことだ。


ハインリヒ軍曹はもう一度、アンゼルム国衛隊長にハイドのことを説明したのだった。



「なるほど。だが、貴様のような階級の低い者が王と直接話す権限などない。……が、今回は特別だ。ジークリット軍曹からも君の評価は聞いている。私と同行することを条件に王都の謁見を許可しよう。」


「感謝します、国衛隊長。それと…」



ハインリヒ軍曹はハイドを護衛していた聖騎士団の存在とその者たちの脅威を伝えた。



「聖騎士団か…懐かしいな…」



アンゼルム国衛隊長は静かにつぶやいた。

何やら聖騎士団とは因縁があるようだ。


ハインリヒ軍曹たちは急いで王宮に向かう。


ハイドは縄で縛られ、目隠しと猿ぐつわをされ、そのまま馬車に乗せられる。

そして、イラ大国の王宮へと連れていかれる。


ハインリヒ軍曹は王宮に着き、アンゼルム国衛隊長の案内のもと、イラ大国の王、ジューバル王との謁見を果たす。


ハインリヒ軍曹はジューバル王の前まで行くと膝をつく。



「お初にお目に掛かります。私はクヴィディタス帝国軍のハインリヒ軍曹と申します。」



ハインリヒ軍曹は緊張しながらも自己紹介をする。



「軍曹が何の用だ?それにそのガキも…」


「王、こちらの軍曹殿はこの青年をめぐって何やらクヴィディタス大国にとって重要なものを有しているのだとか。」



アンゼルム国衛隊長の発言に続けてハインリヒ軍曹はハイドの腕輪についての説明をした。



「その少年の持つ腕輪は10の秘宝の1つであります。それを我が大国の王、ジャック王に渡すため、ジューバル王には手助けをお願いしたいのです。」


「あぁ、いいだろう。こちらは秘宝の力などなくとも最強の兵力を備える大国、秘宝などには興味がないからな。だが…」



ジューバル王は続けてこう言った。



「その見返りにジャック王にはさらなる資金の提供を求める。ちょうどその話を着けるべく、クヴィディタスから兵が派遣されてくる。それまではあの少年は牢にでも入れておく。」


「そ、それでは遅すぎます!隣国のグラ大国には聖騎士団がおります。早くしないとあの少年を救出するために…」



ハインリヒ軍曹の発言にジューバル王が口を挟む。



「こちらの兵力を見くびってもらっては困るな、いくら精鋭の兵士といえどこの国の兵士の数は7大国で最も多い。心配いらん、侵入を許してもここから返しはしない。」



ハインリヒ軍曹は渋々承諾し、翌日到着予定のクヴィディタス大国の兵とともに引き取られる手筈となった。


そしてハイドは王都の隣町にある監視塔の地下牢に入れられた。



「くそっ…俺がどうすれば…(俺が非力なばかりに…)」




場面変わり、グラ大国とイラ大国の国境付近では、アローラとカニスがハイドの手がかりを探していた。



「(もし、本当にロクアが自分に与えられた任を放棄してまで、行動するとしたらイラ大国にハイドが連れ去られたと考えるべきか…)」



アローラは自分の考える最悪の想定を考慮して、カニスにこう伝えた。



「俺は今から危険な場所に入る。カニス、君はここでじっとしているんだ。」


カニス「カニカニ!」



カニスは激しく抵抗した。

カニスの言葉を理解できないアローラでもカニスがここにじっとしていたくないことは理解できた。



「はぁ…そうかい、だがほんとにここからは危険だぞ?俺からは離れるんじゃないぞ、いいな?」




それから数時間後…


突如ハイドの牢を見張る兵が一瞬にして倒された。

そしてそこにはハイドの馴染みのある人物が表われた。



「ハイド、大丈夫か?怪我ないよな?」


「…!!ロクアさん!?どうしてここが?」


「リヴィディン大国に向かう途中でクヴィディタス帝国軍の兵がイラ大国に向かうの見て、嫌な予感がしてな!って、いいからここから出るぞ!」


「はい!」



ロクアとハイドは地下牢から脱出を試みる。


しかし、脱出の際にイラ大国の兵に見つかってしまい、ロクアは兵を巻きながらハイドを連れなんとか監視塔からの脱出は成功したが…


さらに多くの兵とそれを率いるもう一人の国衛隊長である、ホレイシオ国衛隊長が待ち構えていた。



「おっと!この大国から無事逃げられると思ったのか!?お前は聖騎士団だな?平和ボケした大国同士で結成された騎士団なんてたかが知れてんだよ!」



ホレイシオ国衛隊長は兵とともに一斉にハイドたちに襲いかかる。

ロクアはハイドに自身が囮になることを伝え、ハイドを馬に乗せた。



「ロクアさん!」


「バーカ、振り向くな!」



ロクアはホレイシオ国衛隊長の兵と戦いながら時間を稼ぐ。


非常に軽快な身のこなしで次々と倒していくロクア。

パルクール技術に優れたロクアは建物の高低差や狭い空間に兵を誘うよう翻弄して倒していく。


ロクアの猛攻によってホレイシオ国衛隊長率いる兵は少しずつ押されていく。


そしてロクアは兵をかき分けながら走り続け、ホレイシオ国衛隊長との一騎打ちに持ち込む。



「この大国はなぁ!!強い奴ほど偉くなれんだ!国衛隊長にまで上り詰めた俺の実力をなめるんじゃねぇ!!」


「戦闘中にペラペラうるせぇ奴が隊長名乗んな!」



ロクアはホレイシオ国衛隊長を肉弾戦で追い詰めていく。

ホレイシオ国衛隊長は槍を用いていたことからロクアは中距離戦が得意と見て、接近戦に持ちかけたのだった。


一方、その頃ハイドはイラ大国の兵に少しずつだが、追い詰められつつあった。

そして、ついに兵に囲まれてしまったハイド。


絶体絶命のピンチにある二人の影が瞬く間に兵を倒す。



「君!大丈夫!?」



突如ハイドを助ける青年。

その姿は金髪に美しい青い瞳、そして非常に整った中性的な見た目をした青年だった。

初対面なのにも関わらず、以前から慣れ親しんだ親友かのように接してくれる。



「は、はい…あなた達は一体…」


「僕はリアム!リアム・リシャールだよ!よろしくね!そこにいるのはアドルフさんだよ!」


「リアム、いくら一般市民の危機だからと言って、目立つような真似は控えてください。」



アドルフと呼ばれた男は手で覆い隠すようにメガネを整える仕草をする。

その姿は黒髪に片側だけかき上げた髪型をしており、手には黒の手袋を身に着けている。


ハイドは二人が兵を打ち倒した際の動きがわからなかった。それほどの実力者。


しかし、それだけじゃない。


ハイドは二人の服装、そして名前を聞いてある記憶が頭によぎった。



「え……(アドルフ、リアム…?この二人の名前はたしか…!)」






「それとハイド。グラ大国の隣にはイラ大国っていう野蛮な大国がある。だが、そこに俺の仲間がいる。アドルフとリアムだ。何かあったらそいつらを探せ。」



リヴィディン大国を出る際に言っていたへーロスが言っていた二人。

ハイドはすぐさま二人がへーロスの仲間、”流浪人”であること理解したのだった。






「ところで、君は?」


「俺はハイドです。助けてくれてありがとうございます。」


「…!」



ハイドはリアムたちにお礼を言う。

アドルフはハイドの名前を聞き、少し表情に変化が表れる。



「君がハイドくんですか、へーロスから聞いています。ですが、君はグラ大国にいるはずでは?」



ハイドはへーロスがアドルフに自分のことを伝えてていたことを知り驚くも、これまでの事情をアドルフたちに説明した。


アドルフは囮となったロクアを救って欲しいとアドルフたちに頼んだのだった。

アドルフはそれを承諾し、ハイドをリアムに任せ、ロクアを救出に向かった。



その頃、ロクアとホレイシオ国衛隊長の勝負にも終わりが近づこうとしていた。



「はぁ…はぁ…てめぇ…!どうゆう原理だ!その甲冑は!」



ホレイシオ国衛隊長はロクアの装備が傷を付けても徐々に再生していくことに気が付いた。

聖騎士団のみが着用を許される「聖装備」だ。

だが、装甲を身につけていてもロクア自身の体力は消耗していく。


両者どちらも疲弊しているが、ついにホレイシオ国衛隊長は膝をついた。



「はぁ…はぁ…たかが知れているって?平和ボケした国だろうが、俺たちは大国の民の命を背負っている者だ!お前らのような武力のためなら他の者の命はおろか仲間の命も気に掛けない殺人集団とはわけが違うんだよ!」



そう言ってロクアは力尽きた。


さすがにホレイシオだけでなく、多くの兵の相手をしただけあり、体力の限界を迎えていた。

そこにイラ国衛兵団の兵がさらに駆けつけた。



「あの男を捕らえろ!」



兵がロクアを捕らえようとした時、アドルフが駆けつける。



「誰だ!」


「少し数が多い…」


「なに!?」



アドルフは兵を覆うように手を動かすと、兵がまとめて拘束される。



「な、なんだ動かない…!!」



兵が目を凝らして見ると周囲には極細の鋼線が張り巡らされていた。

それにより駆けつけた兵は20人以上いたが全員拘束され、無効化されたのだった。



「君がロクアくんですね。ハイドくんから助けてほしいと頼まれました。」


「お…お前は誰だ…!」


「流浪人…と言えば分かりますね?」


「…!あなたも…!」



ロクアは流浪人を知っていたのだった。


流浪人、どの大国にも属せず放浪の旅を続けている者達の総称。

ある大国に長く滞在していても、知らぬ間に姿を消すと言われている。


へーロスを筆頭に何人かがこれに該当するが全体の人数までは現状不明。

しかし、リヴィディン大国の王、ジャクソン王は王命により彼らを攻撃対象から外していた。


ロクアはへーロス以外の流浪人を見たことはなかったが、自国の王があそこまで言っていることを考えるに信用に足る人物だと判断し、アドルフに着いていった。



ハイドとともにイラ大国の国境を脱出したハイドとリアムはアドルフとロクアを待つ間、お互いの話をしていた。



「そう!俺は親友のカニスとクヴィディタス大国から来たんだ!」


「クヴィディタス大国なんてけっこうここから遠いのに!すごいね!ハイド!」


「そういうリアムはどこから来たの?」


「僕は…実は…」


「リアム。」


「あ、アドルフさん!」



アドルフとロクアがハイドたちと合流した。

ロクアは先ほど出会ったばかりであろうリアムとハイドが親交を深めていたことに驚きつつ、アドルフたちとグラ大国に戻ろうとするが、そこにアローラとカニスが表われる。



「おっと、もしかして俺の出番はなかった感じかな?」



アドルフとリアムと面識があるアローラはここまでの事情を聞く。


そして、アローラはグラ大国に戻らず、任務である他国との同盟関係を結ぶ任をを続行することを決めるのだった。



「では、私たちも同行しましょう。何かと人員が少なくては不便なこともあるでしょうから。」


「やったー!じゃ行こ!ハイド!」



こうしてアドルフとリアムを含めた4人と1匹で次なる大国、アセティア大国に向かうのだった。



その頃、王宮ではジューバル王がハインリヒ軍曹とイラ国衛兵団の4人の国衛隊長を招集していた。



「先ほど、王都の隣町で例のガキが脱獄した。聖騎士団と二人の”流浪人”が助けたって話だ。」


「えぇ。私どもも先ほど伝令があり聞いております。なにせ、隣町でホレイシオ国衛隊長含め配属された50人の兵が戦闘不能状態と聞いております。」



部屋の外にいる鎖に繋がれた1級テロスを眺めながめているウォーレス国衛隊長が言う。



「上昇気質だけが取り柄のホレイシオだぜ?リヴィディン大国の連中に負けても驚きはしねぇだろ!」



動物の目玉を自身の手中で躍らせるマルコム国衛隊長。



「あたしが、戦ってりゃ八つ裂きにできたんだがな!!」



自身の持つ大剣を研ぎながら言い放つカルメラ国衛隊長。


全員、イラ大国の特有の戦闘能力のみで今の地位に立つ者達だ。

1級テロスを使役している者、残虐かつ凶暴な性格を持つ者、非常に血の気のある者など大国の兵を率いる隊長に似つかわしくない者ばかりだ。



「軍曹…約束どおり貴様はクヴィディタス大国に戻る手配はしてやる。だが…この大国に被害をもたらしたあいつらを逃すつもりはない。あのガキはイラ大国が殺す!」



ジューバル王が怒ると周囲の物質が粉々に砕け散る。


それを見た国衛隊長たちが少し焦りの表情を見せる。



「で、ですが…!ジューバル王、我が王であるジャック王は青年の持つ秘宝が目的です!殺害してしまっては…」



ジューバル王の発言に怖気ながらも発言するハインリヒ軍曹。



「そんなもの殺してから奪えばよいだろう!  アンゼルム!!今すぐ”殲越十二戦士”を招集しろ!」


「ほ、本気ですか!?王!」



アンゼルム国衛隊長がジューバル王の発言に驚愕する。

他の国衛隊長も例外なく表情を変化させた。


ジューバル王は自身の持つグラスを一瞬にして砂に変えて、こう言い放った。



「ジャック王の目的はわかっている!イラ大国はクヴィディタス大国に遅れをとらない!これから奴は…リヴィディン大国と…」




戦争を始める気だ!



暗雲は立ち込める…。

読んでいただきありがとうございました。


今回から謎の集団、流浪人の情報が少し明かされましたね。

ヘーロスが率いる集団とされている、流浪人、今後どのように物語に絡んでくるのかお楽しみに!


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