15話「最恐の死神」
死神は欲する、命の味に…
死神は渇望する、闘争の味に…
ひとつ、またひとつと味わう度、
僕の孤独という渇きを潤す…
~五日目~
15:00 アロガンティア大国・南部市街地
「うっ…」
断絶の籠から出されたレオンハルト。
時は遡り、ハイドと聖騎士団、そしてレオンハルトと共にクヴィディタス大国の国境付近に向かっていた道中にウォルターが突如ハイドが意図せず所持していた箱から姿を現し、レオンハルトをさらったのだった。
「ここは…。」
レオンハルトはあたりを見渡す。
そこはアロガンティア大国の市街地であったが、人が住んでいる気配がほとんどなかった。
「ここにはもう人は住んでいないよ~…」
断絶の籠から姿を現すウォルター。
ウォルターはこの街は以前にテロスの群れが襲撃したことでここに住んでいた者たちは隣街に移り住んだことで今はその頃の面影しか残っていない捨てられた街だとレオンハルトに説明した。
「……。…それでお前の目的はなんだ?」
「それはもちろん……強者と闘うことさ~…」
レオンハルトはウォルターの不気味な笑みの内側に宿る殺気を感じ取る。
それはこれまでにレオンハルトが戦ってきた者とは異質な殺気であった。
まるで…
自分の命を刈り取る死神の如く…
自身の生気を奪い去るような冷たい殺気の中に見える鋭い闘争からくる殺気だ…
その闘いにおける熱意にレオンハルトは数年前に起きた出来事を思い出す。
それはレオンハルトがまだイラ大国の殲越十二戦士のメンバーであったとき、クヴィディタス大国からきた一人の人物と対峙した際のことだった。
両目で異なる色彩を持つ蒼髪の男、その者はクヴィディタス帝国軍の将軍であり、自身を含めて三人の殲越十二戦士と対等以上に渡り合っていた。
その男もまた、今目の前にいる”死神”と同じく一人の人間が持つにはあまりにも大きな殺気を放ち自分たちに挑んだ。
あの時と似たものを感じる…
あの頃とは異なる殺気…
しかし、確実に自分の命に届くほどの殺意…
レオンハルトは自身の秘宝、暴虐の縄の力を開放する。
それを見たウォルターは自身の秘宝、断絶の籠を構える。
「”鬼神”の実力…見させてもらうよ~…」
アロガンティアの市街地に静かな風が靡く。
荒廃した建物の一部が瓦礫として崩れる…
その瓦礫が落ちると同時に二人は動き出す。
ウォルターはレオンハルトに接近しながら、断絶の籠を開き中から無数の槍を放つ。
レオンハルトも暴虐の縄を展開し、周囲の槍を弾きつつウォルターに向かって走る。
二人の拳がぶつかり合う。
すぐにレオンハルトが暴虐の縄をウォルターに向けて降り注ぐ矢のように追撃を行う。
それを易々と避けていくウォルター。
レオンハルトは距離を取ろうとするウォルターに接近し続け、体術による攻撃を次々と仕掛けていく。
「こいつは…?」
若き日のアロガンティア大国の王、ジョージ王が兵に尋ねる。
そこにいたのは痩せこけ、今にも死にそうな少年だった。
「王、こいつです、都で大量殺人鬼と噂された者がこの少年です。」
それを聞いたジョージ王は半笑いで少年に尋ねる。
「少年、名は?」
「……ウォルター……」
レオンハルトの拳を受け流しつつも、ウォルターは余裕の笑みをいまだ変えずにいる。
「(拳の重さが桁違いだね~…)」
ウォルターはすぐに断絶の籠を開き、少し離れた場所にあらかじめ設置していた箱まで移動する。
「(いつの間に箱を…)」
レオンハルトは戦闘を行う前にウォルターが立っていた場所に箱があることに疑問を抱く。
ウォルターはレオンハルトと距離を取った後、再び断絶の籠を開きそこから無数のナイフを放出する。
断絶の籠は内部にある無生物は秘宝の所有者が自在に操作できる。
そのため断絶の籠から放出されたナイフが縦横無尽にレオンハルトに襲いかかる。
それをレオンハルトはすぐに暴虐の縄の形状を変化させ、あらゆる方向から迫りくるナイフを防ぐ。
しかし、そこからさらにウォルター自身の懐からナイフを取り出し、断絶の籠から放たれたナイフとは別の軌道を描きながらレオンハルトを襲う。
「くっ…!!」
ウォルターは笑みを浮かべながらレオンハルトにこう質問を投げかける。
「さぁ~て…、今からきみは僕が投げる700本余りのナイフと秘宝から放たれるナイフ全てを防げるかな~…」
ウォルターと名乗った少年の詳しい出身地や生い立ち…
それは誰も知らない…
ただ言えることは…
この者が生まれきっての天性の戦闘センスを持つ逸材ということだけだ。
「貴様、いつからそれを…?」
「生まれたときから…」
ウォルターはこの世に生まれた頃からパラフィシカーとしての能力が備わっていた。
本来、パラフィシカーは自身のある出来事によるきっかけや戦闘などにおける自身の生命の危機に発現する。
後にも先にも、生まれた時からパラフィシカーの能力を持つ者はウォルターだけである。
断絶の籠から放たれるナイフとウォルター自身から放つナイフの攻撃により、レオンハルトは暴虐の縄の防御が徐々に間に合わなくなっていく。
レオンハルトはウォルターの猛攻を防ぎながら考える。
ウォルターの言っている700本余りのナイフ…おそらくあれは嘘…
ウォルターが所持している数はそれを上回るはず、その数の差を突いてくるつもりだろうが…
レオンハルトは断絶の籠から放たれるナイフを防ぎつつも、ウォルター自身から投げられるナイフを中心に攻撃を防御していく。
先に…!…ウォルターから叩く…!!
レオンハルトはウォルターから投げられるナイフ自体は秘宝の能力による物質操作ができないことからウォルターの攻撃を防ぐことに集中する。
しかし…
「は~い~…残念~…」
「なに……!」
レオンハルトの肩に刺さったナイフ…
それはウォルターが投げる方向でもなく、断絶の籠から操作されたナイフでもなかった。
完全に自身の背後からくるものだった。
考える余裕もなくナイフの攻撃はレオンハルトに襲い掛かる。
そこでレオンハルトはウォルターの投げるナイフが自身の持つ暴虐の縄で防いだ後も空中で跳ね返り自身に再び攻撃を仕掛けていることに気が付く。
「(どういうことだ…!?…あれは秘宝の操作対象ではないはず…)」
目を凝らしながら見るとなんとレオンハルトの周りには非常に細い鋼線が張り巡らせれていた。
「これは…!?」
「ようやく気が付いたみたいだね~…」
その鋼線は先ほどウォルターがレオンハルトに向けて放った無数の槍から伸びていたものだった。
そう、ウォルターは戦闘が始まる時点でこの戦法を取れるようにあらかじめ鋼線を巻き付けた槍をレオンハルトに向けていたのだった。
「(これは…まずい…!)」
縦横無尽に襲い掛かるナイフによる攻撃で少しずつだがレオンハルトの身体にナイフが突き刺さっていく。
「…♪♪~」
大量の死体の山の上に鎮座し口笛を奏でるウォルター。
それを発見した同じアロガンティア特務機関の一人、ウリエル。
「おい、ラファエルこれは何の真似だ。」
「何って…見ての通りさ~…」
生まれた時から自分より強い者と出会ったことがなかったウォルター。
レオンハルトの防御に隙が生じたとき、ウォルターは秘宝によるナイフの操作はそのままに自らレオンハルトに接近していく。
「君の予想通り…ナイフの数は嘘…だけど」
ウォルターは自身が所持する最後のナイフをレオンハルトに突き刺す。
「それは数が少ない方にだよ~…」
ウォルターは700本のナイフなど所持していなかった。
レオンハルトはそのことが嘘だとは見抜くも、数が多いと予想していた。
しかし、実際のところはウォルターが所持している数はさらに少なかったのだ。
それによりレオンハルトはウォルターの攻撃に対し余力を残した状態で防御に徹していた。
それ故に、攻めを怠り完全にウォルターのペースで戦闘が進められてしまっていたのだ。
「君にはもう少し期待してたんだけ……………ん…?」
「…勝手に勝敗を決めるなよ…」
ウォルターの突き刺したナイフが折れる。
それはレオンハルトが自身の腕力のみで刃物を握りつぶしていた。
「!!」
すぐにレオンハルトと距離を取ろうとするウォルターだが、そのウォルターの腕に暴虐の縄が巻き付き動きを封じる。
そしてレオンハルトの渾身の拳がウォルターの顔に直撃する。
数メートル吹き飛ばされ、壁にヒビをつけながら叩きつけられるウォルター。
ウォルターは吐血するも、自身の血を見てもなお、笑顔を絶やさないでいる。
「そう…こなくっちゃ~…」
レオンハルトは自身に突き刺さったナイフを抜きながらウォルターに問いかける。
「お前…パラフィシカーだな。」
先ほどのナイフによる攻撃、ウォルターが身に着けている装備にしてはあきらかに過剰なナイフの量であった。
それがたとえ700本でないにしても100は超える量を投げていたことからレオンハルトはパラフィシカーの能力によるものだと判断した。
「正解~……僕は”武器を生成”することが可能なのさ~…」
「……。」
ウォルターの言った発言に対しレオンハルトはこう思っていた。
…嘘…
レオンハルトは直感でそう感じた。
たしかにウォルターの発言はこれまでの戦闘から考えて妥当な能力だ。
しかし、あの余裕な笑みの裏には何かまだこちらに隠していることがある…
そうレオンハルトは考え、ウォルターの戦略を一つずつ潰していくことにする。
「闘いを愉しむお前らに…同情の余地はない…。」
レオンハルトは暴虐の縄を自身の周囲に放ち、あたりの建物ごと破壊していく。
その規模は少しづつだが、拡大していき周囲の物を破壊していく。
「(遮蔽を作らせない気だね~……面白い…)」
ウォルターは頬に付着した自身の血を舌で舐めながら構える。
ウォルターは生まれたときから”命を狩る側”にいた。
それ故にウォルターは自身にある一つの感情を抱いていた…
”孤独”
自身の親も知らない、愛情も友情も知ることなく育ったウォルターは自身と対等になれる存在を生涯探し求める…
ウォルターが愛すべくは”闘争”…
ウォルターが忌むべくは”孤独”…
そして命狩られる側は彼をこう呼ぶ。
”死神”と…
レオンハルトは暴虐の縄で周囲を包み込み、振り回していくことで激しい砂埃が発生する。
あたりの建物や木々が全て破壊され更地と化す。
砂埃が舞う中、背後の殺気に気付きレオンハルトが暴虐の縄を平らに伸ばしウォルターの攻撃を防御する。
すぐに距離をとり、砂埃に身を隠すウォルター。
そしてすぐにレオンハルトの全方位から無数のナイフと槍が襲い掛かる。
「チッ…いつの間に…!」
全ての武器を断絶の籠から放つには行動が速すぎる。
おそらく全方位に配置していた箱から武器を放ったのだと予測するレオンハルト。
全方位から迫りくる武器の嵐を暴虐の縄で防ぐレオンハルト。
全方位から降り注ぐ武器は箱から出現したものと、断絶の籠から放たれているものが必ず存在するはず…
そう考えたレオンハルトは降り注ぐ武器から不規則に動く武器を特定し、その方向に向かっていく。
「(秘宝は破壊できない…しかし止めることはできる…!)」
するとレオンハルトの周囲に降り注ぐ武器の中に箱が混じっていることに気が付く。
「(なに…!?)」
その箱から姿を現すウォルター。
「秘宝に気を取られすぎじゃない~…?」
ウォルターの拳による猛攻に防御が間に合わないレオンハルト。
「ぐっ…!!」
さらに周囲には目の前にある断絶の籠から武器がいまだに放たれ続け、レオンハルトに襲い掛かる。
なんとか暴虐の縄で防げてはいるものの、それによりウォルターの攻撃を防ぐことができずに一方的に攻撃を受けるレオンハルト。
「ごめんよ~…嘘をついて~…僕の本当の能力は…”物質の複製”さ~…」
レオンハルトはウォルターのその発言を聞いて、先ほどの無数の武器も、箱も、どれも同じ形状をした物であったことを理解した。
全てはひとつの物質を何度も複製していたのだった。
地に倒れるレオンハルト。
それを見つめながら少し残念そうにウォルターが嘆く。
「う~ん…君の本当の力を見せてもらいたいんだけどな~…」
殴打による負傷で血だらけになっているレオンハルト。
「ッ…」
「……暴虐の縄は代々、イラ大国の王が所有する秘宝…
それをなぜか君が所有し、”鬼神”と言われている君がなぜ、ここまで闘争に飢えていないのかが気になるな~…」
お前には関係ないだろ、そんなこと…
レオンハルトが内に言い放ったその一言はこれまでのレオンハルトの人生を振り返る…
国民のほとんどが闘争に飢えた大国、イラ大国。
そこで生まれ育ったレオンハルトは闘いを好まない心優しき少年だった。
しかし、大国の法律上、大国の民はみな戦闘訓練を受ける。
そこでレオンハルトは気が付いてしまったのだ…
自身の内に秘める闘争を…
それをレオンハルトは嫌い、常日頃から抑えていた。
しかし、あの晩…
自身が暴虐の縄の所有者となったあの日から…
自分は内なる闘争に葛藤しつつも10の秘宝で最も戦闘に特化したこの秘宝を所有しつづけて生きていくことを決めた…
”ジューバル王”を殺すまで。
レオンハルトの目に再び闘気が宿り始める…。
自分の目的を果たすまで俺は…死ねない…!!
たとえ、”これ”を……”ジューバル王”のためではなくウォルターに使うことになっても…!!!!
「!!!」
レオンハルトの闘気に気が付き、距離をとるウォルター。
そのウォルターの目の前に見えるレオンハルトの姿は…
まるで鬼のような殺気を放ち、体温の熱によってレオンハルトの身体から蒸気が放たれている。
その獅子のような鋭い眼光から放たれる闘争にウォルターは心躍る。
「これが…!!……”鬼神”…!!」
死に抗う鬼が一人…
読んでいただきありがとうございました。
先週はこちらの多忙につき更新が遅れてしまい申し訳ありません!
さて、本編ではついに死神ウォルターと鬼神レオンハルトと戦いが始まりました!
作中でも上位の実力者である二人の戦い、そしてどのような結末になるのか…
次回16話をお楽しみに!




