13話「英雄の帰還」
無感の静寂…
そこに差し込む眩い光とともに俺は目覚める…
俺を待つ仲間を救うために…
俺を待つあなたのもとへ帰還するために…
俺は再びこの手を血に染める…
この世界を無に帰そうとも。
~五日目~
15:45 リヴィディン大国・王都内部
ジューバル王率いる500名のイラ国衛兵団と200名のクヴィディタス帝国軍が王都になだれ込む。
アレッシオは王宮にいるジャクソン王のもとに向かう。
「王!…王都に敵兵がなだれ込みました!はやく非難を!」
「…必要ない。」
ジャクソン王は王冠を王座に置き、聖装備を身に着ける。
「何を…」
「アレッシオ、サフィーナに民の守護を最優先として一刻も早くインビディア大国に民を避難させるよう命じよ。」
ジャクソン王は自身に帰還すると誓った男を待つべく自身も戦の準備に取り掛かる。
「我が友…ヘーロスは誓った…ここ…リヴィディン大国に帰還すると…ならば私も友の約束を果たすとしよう。」
アレッシオはジャクソン王の覚悟を見て、すぐにサフィーナに民の避難命令を伝える。
「そんな…!…あの数じゃとてもじゃないけどここを維持するなんて不可能よ!」
「それでもするしかない…俺はジャクソン王を信じる。」
アレッシオはジャクソン王とともに王都に残ることをサフィーナに伝え、数名の兵に民の避難に経路確保にために指示をする。
「……インビディア大国で待ってますから、アレッシオさん…。」
サフィーナはそう言って、民を先導し王都の裏口門から避難する。
~五日目~
16:10 アロガンティア大国・大国中央付近
目にもとまらぬ速さで野原を駆けるリアム。
「(急がなきゃ…!)」
リアムは数時間前の状況を思い出す。
それはアロガンティア大国のジェシカ王女がいる王宮に侵入した際のことだ。
王室に向かったリアムだったが不意を突かれ、アロガンティア特務機関の人物に戦闘不能に追い込まれるリアム。
そのときだった。
「よしなさい!アリエル!」
突如、何者かがアロガンティア特務機関を呼び止める。
その者はリアムの方へ向かい、リアムをゆっくりと起き上がらせる。
「ごめんなさい…突然襲わせて…。」
「王女、離れてください…彼は流浪人です。」
「だからよ、ここで争っている場合ではないわ。」
リアムを救った女性はアロガンティア大国のもう一人の王、ジェシカ王女だった。
そしてジェシカ王女は自身の後ろにいるアロガンティア特務機関の者をリアムに紹介する。
「彼女はバーバラよ。」
「王女、我々は公の場では名を口にしては…」
そう言って仮面をとるバーバラ。
彼女、バーバラ・カヴァーデイルことアリエルはそう口にする。
「いいじゃない…せっかくの綺麗な顔も素敵な名も隠れてはもったいないわ。」
「女性だったんだ…」
リアムは視界がぼやける中でそうつぶやいた。
ジェシカ王女はリアムを椅子に座らせ、話をしだす。
ジェシカ王女はジョージ王とは対照的に民のことを何よりも重んじる人間だった。
しかし、ジョージ王は全ての10の秘宝を独占すべくアロガンティア特務機関を創設し、各地の大国の情報を取得していた。
そんなジョージ王は勢力を伸ばしつつあるクヴィディタス大国とイラ大国を良しとせず、自身の大国内に住まう人型の特級テロスの一体”イデリス”と交渉を行っていた。
イデリスは特級テロスで唯一、意思疎通が可能であり知能も人間と変わらない個体であった。
そんなイデリスと幾度も接触をしているジョージ王の側近であるヴィセント・ウィンターズことミカエルの動向を知ったジェシカ王女はジョージ王に反旗を翻すべく密かにバーバラと共に兵力を集めていた。
大国内でもジョージ王は政治や大国の方針を担っているのに対し、ジェシカ王女はアロガンティア大国の軍事面における統制を行っている。
しかし、いくら兵力を集めてもジョージ王が敵わない理由があった。
それはイデリスによって今は眠り続ける、特級テロスの中でも最強の存在である龍型の特級テロス…
その存在は解き放たれれば7大国全体にただいな影響が及ぶとされている。
イデリスは7大国にとって中立の立場であり、ジョージ王の条件次第ではいつでも龍型の特級テロスを解き放つことが可能だったのだ。
「そんな…」
リアムはジョージ王の目的を阻止すべく第二部隊と行動を行うべく王宮の外に出る。
そこにロイフとテギィがリアムのもとへやってくる。
「リアム君!無事かい!?」
テギィがリアムを案じる。
リアムはジェシカ王女に聞いたことを二人に伝える。
そこに焦りを見せた様子のネルコフとシャルケルが王宮までくる。
「ロイフさん…!」
「どうした二人とも…」
「隊長が…」
ネルコフとシャルケルは大きな音がした王都正門付近に向かいフォートの遺体を目撃し、さらにレタとアイヨの姿も見当たらないと説明する。
そこに王宮から外に出たジェシカ王女とバーバラ。
「そんな…!」
師であるフォートを失い悲しみに暮れるロイフ。
ジェシカ王女はレタとアイヨをさらい、フォートを殺害した者をミカエルの仕業だと伝えた。
「でも…なんでそんなことを………もしかして…!」
リアムはレタとアイヨの特異な体質からある結論に至った。
そう、ジョージ王とイデリスが交わした条件に二人が関係しているのだと…!
ロイフたちはリアムと話し合い、第二部隊は至急、インビディア大国に向かい、リアムはジェシカ王女から聞いたイデリスのいるテロスの住処に向かう。
アロガンティア大国の中央に広がる野原を駆けながら能力を用いて急ぐリアム。
そこに見覚えのある軍服をした者たちを発見する。
「あれは…!…クヴィディタス帝国軍…!!」
リアムはクヴィディタス帝国軍がジョージ王の王都ではなく、なぜこんなアロガンティア大国の中心にまでいるのか疑問に思った。
「(まさか…他の大国でも大変なことが起きてるのかな…)」
するとリアムの存在に気が付いた男が急接近しリアムに攻撃を仕掛ける。
能力を使って避けるリアム。
「流浪人か、なぜこんなところにいるのかわからんが、どちらにせよ我々の邪魔な存在だ。」
リアムが能力を使用しないと反応に遅れるほどの身体能力を持った人物…
リアムはすぐに相手がクヴィディタス帝国軍の将軍と認識する。
リアムを襲った人物、ヴォルフガング将軍は第一次リヴィディン大国侵攻の際にもヴィルヘルムとジークフリート大佐と共にヘーロス封印に貢献した人物だ。
ヴォルフガングはすぐにリアムに剣を振るう。
だが、その攻撃を何者かが受け止める。
「リアム!先に行って!」
「エヴァさん!」
ヴォルフガングの攻撃を受け止めたのはエヴァだった。
先日の真夜中にソフィアを介してアドルフからアロガンティア大国に向かうように指示を受けたエヴァはリアムの窮地に駆け付けたのだ。
「この将軍は私が引き受けるから!」
「でも…」
しかし、リアムもバカではない。
クヴィディタス帝国軍の三人の将軍は自分たち流浪人でも一人では太刀打ちできないほど実力者だった。
それこそ…アドルフやヘーロスでもいないかぎり…
しかし、そんなエヴァの表情は明るさに満ちていた。
「大丈夫…!なんだか…懐かしい感じがするの…!」
~五日目~
16:10 リヴィディン大国・西部旧市街地
第一次リヴィディン大国侵攻で聖騎士団の第二部隊が守護していた街、いまや瓦礫の山となりつい数ヵ月前まではリヴィディン大国の栄えていた街のひとつであったこの街も見る影もなく荒廃している。
そこで50を超える倒れた兵の前に立つアンドリュー。
拳に炎を纏い、目の前にいるヴォルフガングと対峙する。
そんなエヴァと同様の状況であるアンドリューもまた、懐かしい気配を感じていた。
「俺らのボスが還ってきたぜ…!!」
~五日目~
16:10 クヴィディタス大国・国境付近:クヴィディタス帝国軍の野営地
破壊された墓石から出てくるヘーロス。
それを見て唖然とするアシムス。
「(くそっ…!!…この聖騎士団の男…!…やりやがった……!!)」
ヘーロスがアローラの方を見る。
そのアローラとラインハルト大佐の様子からこれまでの状況を察するヘーロス。
「アローラ…。」
ヘーロスの復活を目にするとアローラはゆっくりと目を閉じる…
それと同時にヘーロスが動き出す。
「!!」
殲越十二戦士の六人はすぐに臨戦態勢に入り、ヘーロスを囲む。
冷や汗を馴染ませながらエルトロがヘーロスに向かってこう言い放つ。
「悪いが…ここから出すわけにはいかねぇぞ…」
「必要ない…まだ…用が済んでいない…。」
するとスギムが言い返す。
「もしかして、この数を相手にできると…」
ヘーロスがスギムに急接近し、拳を振るう。
しかし、その攻撃は空を切る…
「幻覚か…。」
ヘーロスの動きが起点となり殲越十二戦士が同時に動き出す。
エルトロとスギムがヘーロスに接近し、アシムスが岩を能力によって飛ばす。
しかし、すべての攻撃がヘーロスを中心にして逸れる。
「!!!」
その現象に驚愕する殲越十二戦士、彼らはヘーロスの能力をクヴィディタス大国から教えられていなかったのだ。
それもそのはず…
まさか、この怪物の封印が解けることなどクヴィディタス大国は考えもしなかったからだ…!!
ヘーロスは懐からナイフを取り出し、エルトロに攻撃をする。
間一髪で回避するエルトロだったが…
「うっ……!!」
しかし、それでもエルトロの耳を斬り落とすほどの速さで攻撃を行うヘーロス。
その瞬間に透明化で接近したデニスとヘーロスの背後をとったイルーシャが畳み掛ける。
だが、それを気配だけでデニスの攻撃場所を察知し、すぐさまイルーシャの腕を引きちぎり、その腕によりデニスの攻撃を防ぐヘーロス。
「…へ…?……」
腕をとられたイルーシャ本人ですら数秒、現状を理解するのに遅れをとるほどの素早い攻撃…
「…きゃぁぁぁぁ!!!!!」
ようやく自身の状況に脳が追い付き、痛みを伴うイルーシャ。
「うるせぇ雌犬が…。」
先ほどデニスの攻撃を防いだイルーシャの腕から腕骨をナイフで手早く抜き取る。
そして、その骨を武器代わりとしてデニスの喉に目掛けて攻撃を行いつつ、片手でイルーシャの首を掴むヘーロス。
「なっ…!!!」
済んでのところで両腕を用いて防いだデニスだったが、その両腕も貫通しデニスの首に血が流れる。
しかし、デニスとイルーシャで両腕の塞がったヘーロスにスギムが肩を触れる。
スギムの能力は対象の力量に関係なく拘束する。
それにより行動を抑制されるヘーロス。
だが…
「バカな…!!!」
理を逸した男の前ではそんな能力は無意味となる…
へーロスは自身の行動を抑制されているのにも関わらず無理やり体を動かす。
そして歴戦の猛者である殲越十二戦士のひとり、スギムですら戦慄するほどの表情でこちらを振り向くヘーロス。
「んっ…があっ…!!」
スギムが気が付いた時には自身の顎を砕かれた後だった。
トドメを指そうとするヘーロスだが、アシムスの能力で周囲にいた三人がヘーロスから引き離される。
「重力か、厄介だな…。」
態勢を整える殲越十二戦士、だがすでにエルトロとイルーシャは耳と片腕を失い、デニスも両腕を重傷、スギムは顎を完全に砕かれている。
ヘーロスはアシムスの能力を見て、今後においても厄介な存在だと認識する。
それは…
ヘーロス・ベルモンテが獲物を特定したことに他ならない…
「な、なんだ…その眼は……」
ヘーロスの瞳が真紅に染まる…。
その殺意を感じた殲越十二戦士は例外なく身体が震えだす。
それは本人が感じる恐怖ではなく、生物として、本能として、命の危機を覚える故の恐怖であった…
「まとめて片づける。」
ヘーロスは自身の掌を目の前の空間を包むようにして合わせる。
「出力30%」
その掌の内部にある空間が黒く歪んでいく。
「なんだ……?」
「チャンスだ…!…今なら…」
「待て!!」
フルメーがエルトロを止める。
フルメーがこれから先に起こるヘーロスの行動を見る。
「なんだよ…………これ…」
「どうしたフルメー!何が見える!」
アシムスがフルメーに問う。
フルメーは絶望した表情で自身が持つ短剣を落とし、こう放った。
「死だ…。」
ヘーロスの周囲にある空間が徐々に歪みはじめる。
風が吹きあられ、上空の雲が凝縮してき、周囲の木々がヘーロスの周りに寄っていく。
それは文字通り、距離を無視してヘーロスという存在に周囲の物質が空間ごと引きずり込まれている…
「(なんだこれは…!?…木が!…いや…!…大陸ごとあいつに近づいている!?)」
「いや…違う……これは周囲の空間ごと圧縮してるのか…!?」
自分たちの目の前で起きている現象に理解が追い付かない殲越十二戦士…
そんな彼らに冷たい隻眼を向けるヘーロス…
ヘーロスの掌の内部にある空間から空気が裂ける音が鳴り響く。
「虚空の彼方へ沈め…。」
掌の空間を殲越十二戦士に目掛けて放つヘーロス。
”虚殲”
放たれた空間は殲越十二戦士の前で全てを吸い込み始める。
それは…
物体も、空気も、空間も……
全てを取り込む…!!
「そん…な…」
次々と飲み込まれていく殲越十二戦士。
アシムスは周囲の仲間を重力操作によってヘーロスが放った攻撃から離れた距離まで何とか移動し救出する。
「ちっ…!!(イルーシャとスギムは助けられなかったか…!)」
だが…
「なっ…」
先ほどヘーロスが放った圧縮された空間が膨張し、すでにアシムスやその他の者を取り込んでいく。
圧縮された空間は全てを呑み込み…
そして…
全てを破壊し尽くす…
それは物体という概念を超え、この世の空間を無に帰すまで止まらない…
読んでいただきありがとうございました。
今回でようやくヘーロスが復活しましたね!
ヘーロスの圧巻の戦闘力どうでしたか?
最強の流浪人と謳われ、英雄の異名を持つヘーロスですが、彼はパラフィシカーの能力が強力なものだけでなく、実は身体能力も常軌を逸したものとなっています。(後にヘーロスの戦闘描写がたくさん出てくるのでそこで明らかとなります)
アローラとラインハルト、二人の犠牲のもとに復活を果たしたヘーロス。
7大国決戦、この先どのようにして展開されていくのか…
次回14話をお楽しみに!




