9話「大国の危機」
大義のために散りゆく犠牲…
それを背負いし者は何を想う。
~五日目~
アロガンティア大国・王都内部
王宮のとある部屋に倒れる二人の女性…
それはどちらもクヴィディタス帝国軍の者であった…
息絶えた一人の女性、その姿を割れた窓から差し込む光が照らす。
場面変わり、ジョージ王のいる王室に一人で向かうヴィルヘルム。
王座に座るジョージ王はヴィルヘルムに気付き話を始める。
「クヴィディタス帝国軍の将軍か。たしか名は…」
「ヴィルヘルムです。」
「あぁそうであったな、会うのは二度目になるか。」
他愛のない会話をしばらく交えた後、ヴィルヘルムはジョージ王に本題であるクヴィディタス大国とアロガンティア大国の同盟について話を進める。
しかし、以前にクヴィディタス大国と対談したときと同様にジョージ王の答えは変わらなかった。
「私はクヴィディタスの手駒になどならんぞ、その気持ちはこれからも変わらん。」
「クヴィディタス大国の兵力はイラ大国に次ぎます。それでも同盟を結ぶつもりはないと…?」
「あぁ。」
「…わかりました。」
ヴィルヘルムは王室を立ち去ろうとする。
その後ろ姿を見つめるジョージ王は何やら笑みを浮かべながら部屋を出る直前のヴィルヘルムにこう言った。
「総督は…元気にしているのかな…?」
「……なに…?」
ヴィルヘルムは王の発言に疑問を感じた。
その理由、ジョージ王は一度もクヴィディタス帝国軍のヴィクトール総督と面識がないはずだからだ。
以前に対談した際にジョージ王と面識がある者は自分とジャック王のみ。
なのにも関わらず、ジョージ王はヴィクトール総督の名を知っていた様子だったからだ。
ヴィルヘルムは開けた扉から手を放し、ジョージ王の方を向く。
「王、なぜあなたが…総督を知っていられるのですか…?」
「フフッ…そんなことは今のお前が気にすることではないのではないか…?」
ヴィルヘルムは自然と自身の身体に力を込め、臨戦態勢に入る。
「フフフッ…!…私を手にかける前に…まずはクヴィディタス大国に帰還するといい……」
「……何がおっしゃりたいのですか…?」
ジョージ王はある手紙をヴィルヘルムに向かって投げ捨てる。
その内容を目にしたヴィルヘルムは表情を変え、すぐに王室から出ていく。
王室から去るヴィルヘルムを見ながらジョージ王は静かにつぶやく。
「まぁ…貴様が帰還した頃には…クヴィディタス大国は大きく変わっている頃だろうがな…」
~アロガンティア大国・王都入り口付近~
王都の外に向かって走り出すミニーシヤとロクア、サムエル。
「ミニーシヤ!もう少し詳しく説明しろ!」
サムエルがミニーシヤを追いながら問いかける。
ミニーシヤは先ほど王宮内部で見た状況を思い返した。
コルドゥラ中佐に奇襲をかけ、アレクシア少佐を救ったミニーシヤ。
アレクシア少佐はミニーシヤの姿を見てこうつぶやいた。
「聖…騎士団…。」
「今は喋らないで…!」
ミニーシヤはすぐにアレクシア少佐の手当てをするよう試みたが、すでにその傷は心臓にまで達しており、ミニーシヤでは助けられないのは明白だった。
「私は……もう…助から……ない…」
「いいから…!…気をしっかり持って!あなたもリヴィディン大国の兵でしょ!」
アレクシア少佐は今にも消えてしまいそうな意識をギリギリで保ち、ミニーシヤの手を握りながら最後の力を振り絞りながらこう言った。
「リヴィディンに…7大国……に…危機が……急いで王に……これを…」
ミニーシヤの手を握っていたアレクシア少佐の力が抜ける…
ミニーシヤの手の内にはアレクシア少佐が最後に入手した、とある情報が記された紙を握らされていた。
息を引き取った彼女は最期にミニーシヤ達に自身が持ちうる情報のすべてを託したのだった。
その内容は…
ヴィクトール総督とイラ大国の王、ジューバル王とのやり取りが記された手紙の内容の一部であった。
「これは…!」
ミニーシヤはすぐにその場を離れ、ロクアとサムエルと合流を果たしたのだった。
手紙の内容の詳細を知ったサムエル達が一気に青ざめる。
「サムエルさん…これは…」
「あぁ…リヴィディン大国だけじゃない…全大国に甚大な被害が出るぞ……!」
~アロガンティア大国・王都付近:クヴィディタス帝国軍の拠点~
「よし…なんとか入れた…」
クヴィディタス帝国軍の拠点に無事潜入を果たしたハイドとボロフは拠点破壊の作戦を振り返る。
拠点には二つの塔が設営されており、その二つをボロフが作製した火薬玉を用いて破壊、さらに拠点内部のクヴィディタス帝国軍の兵力を少しでも削るべくヴィルヘルムが留守の間、指揮を任されているシルヴェスター大佐を戦闘不能に追い込む必要がある。
ヴィルヘルムの軍に所属している二人の大佐のうちの一人、シルヴェスター大佐はイラ大国の出で幼いころから戦闘訓練を積み、戦地へ赴いていたことで戦闘能力が高いことで知られている。
ボロフは成長したハイドにシルヴェスター大佐との戦闘を任せ、その間に自身は各塔に火薬を設置することを決めた。
ボロフが作製した起爆装置は現実世界にあるような遠隔で作動できるようなものではないが、それは銅線に繋がれた火薬に直接作用し、起爆させることのできるここ、レヴァリィ世界の中では画期的なアイテムだった。
そのため安全な距離での爆破が可能であり、リヴィディン大国中にボロフの技巧のレベルが知れ渡ったほどだった。
ハイドはボロフが塔に火薬を設置するまでの間の時間稼ぎをするために、シルヴェスター大佐と直接挑むことを決める。
拠点中央に設営されている大きなテントにシルヴェスター大佐が入ったことを確認したハイドは拠点中央に降り立つ。
「おい、誰だ!お前!」
クヴィディタス帝国軍の兵がハイドを囲み、取り押さえようとする。
しかし、ハイドはすぐに自身の秘宝の力を開放し、周囲の兵に向けて炎の人形を召喚する。
「な、なんだこれは!!」
通常ではありえない現象に驚く兵たち。
その間にハイドはテントの方へ向かう。
するとテントからシルヴェスター大佐が直接出てくる。
「その力…10の秘宝だな。」
「お前が大佐だな、悪いがここで倒させてもらうぞ。」
ハイドが剣を構える。
シルヴェスター大佐も同様に剣を抜く。
「小僧が…!…秘宝を手に入れたとてタダの小僧に我がクヴィディタス帝国軍が負けると思うか!!」
ハイドとシルヴェスター大佐の戦闘が始まる。
その頃、ボロフは一つ目の塔にいる兵を倒し、火薬を設置していた。
「(よし、これで一つ目は完了だ…)」
ボロフは二つ目の塔に向かう。
だが、そこには先ほどの一つ目の塔にいた兵の倍以上の数の兵が待ち構えていた。
「!!」
ボロフの存在に気が付いた兵が襲い掛かる。
ハイドはカマエルことオズワルド・アシュフィールドとの戦闘で真理の神秘の真価を発揮し、戦闘における自身の弱さを捨てたことで以前とは見違えるほど成長した。
それはクヴィディタス帝国軍の中でも聖騎士団の隊長格と同等クラスの戦闘能力を有する数少ない人物でもあるシルヴェスター大佐を追い詰めていた。
「くっ…!(この小僧…!…戦闘慣れしていやがる…!)」
「どうした?もう終わりか?」
ハイドは自身の右腕に炎を、左腕に岩石を漂わせながら、シルヴェスター大佐の攻撃に応じて形状や性質を変化させて戦闘に対応せていく。
以前から体力を大きく消費する真理の神秘も体力の消耗を抑える扱い方を自身の勘で理解し始めていたハイドにとってもはやシルヴェスター大佐レベルの相手は苦戦を強いるほどの敵ではなかった。
だが、シルヴェスター大佐は苦戦を強いられているこの状況でも笑みをこぼした。
「やはり…お前は小僧だ…いくら戦闘で俺さまに勝っているとはいえ、戦況を把握できていない…!」
「なに!?」
「ヴィルヘルム将軍の予想していた通りだ……
貴様らがここに来ることは予想できていた!」
「(もしかして…)ボロフさん!」
ハイドはボロフの身に嫌な予感を感じ、塔の方へ向かおうとする。
「行かせると思うかぁ!!!」
それを見逃さないシルヴェスター大佐。
だが、目にも止まらない速さでハイドを横切り、シルヴェスター大佐に向かって縄が襲い掛かる。
「がっ…!……はっ……!」
その縄はシルヴェスター大佐の胸を容易に貫いた。
「誰だ!」
ハイドが縄が放たれた方へ向く。
そこには先日、ミニーシヤが言っていた傭兵、レオンハルトがいた。
「先に行け。ここは俺が引き受ける。」
見ず知らずの男、ハイドはまだアローラ救出の協力をしてくれるかもわからないこのレオンハルトを信じていいのかわからなかった。
だが、ハイドは今、目の前の状況からレオンハルトを信じてボロフのもとへ向かった。
道中、襲い掛かる兵をハイドは自身の身体能力のみで倒していく。
ハイドは二つ目の塔へ到着する。
「ボロフさん!………はっ!!そんな…!」
そこには…
多くの兵のものと思われる槍で全身を串刺しにされているボロフがいた…
あたりにも倒れた兵がいる…
ボロフは最後まで抵抗したが、圧倒的な数を誇る兵の前にボロフは次第に追い詰められていきついに兵によって倒されてしまっていたのだ。
ハイドは塔の入り口を炎の網で塞ぎ、ボロフのもとへ急いで駆け寄る。
「ダメです…!ボロフさん!しっかり…!」
「…あ………ハイ…ド…くんか…?」
「はい!俺です!大丈夫です、俺の秘宝で」
ハイドの手を止めるボロフ。
たしかにハイドの秘宝を用いれば傷をいやすことは可能だろう。
だが、それには元となる情報の取得、そしてなによりハイドの体力を消費する。
ボロフは今のハイドに秘宝の能力を自分に使わせてはこの場からハイドが逃げれなくなる可能性を案じていた。
そして
「俺のことは平気ですから!まだ助かりますから!」
「…あ………嘘は…よしなさい……ハイ…ドくん……自分のことは…自分が……一番わかって……いるよ…」
ボロフ自身が理解していたのだ…
自身の命はどうあがいても手遅れの状態だと。
泣くハイドにボロフは笑顔で言う。
「…今回の……作戦、協力して…くれて……ありがとう。…」
「ダメですよ…」
「…いいかい、……みんなには……君が…成し遂げた……と言うんだ。………いいね?」
「いいえ!違いますよ…二人で成し遂げるんですよ…!」
「いや…君だよ…ハイドくん……君が……成し遂げるん…だ」
ハイドはボロフの手を強く握る。
塔の外にはクヴィディタス帝国軍の兵が迫ってくる。
炎の網で塔の中に入ることができない兵たちは炎の網を破壊するように試みる。
そんな中、ボロフが最期にハイドに伝える。
「約束…して…ほしい………私が…死んだ…のは……作戦での…ヘマだと…」
「何を言っているんですかボロフさん!?」
「…でないと……仲間は……報復のために……足を止めてしまう…だろう………約束だ…よ…いい…ね?」
ボロフの目から光が失われる。
「あぁ…!…ダメ…ダメダメダメ……!」
ハイドが握っていたボロフの手が力なく落ちる。
「ダメっ……ですって……!」
「カニ……」
カニスがボロフの腕を何度も舐める。
兵たちが炎の網を破壊し塔の中に入り込む。
それに気が付いたハイドは涙を拭き、塔の外へ向かう。
ハイドはボロフの開いた瞳を閉じてその場を離れる。
それは安心して眠っているかのような安らかな表情だった。
「さようなら。ボロフさん。」
ハイドは塔の外へ飛び降り、空気に足場を作りながら下に着地する。
塔を見上げながらボロフが身に着けていた起爆装置を作動させる。
大きく爆破する二つの塔。
爆炎に散る尊き命…
読んでいただきありがとうございました。
今回の話でこれまでハイドの大切な仲間の1人である聖騎士団のボロフさんが脱落してしまいました。
自分の大切な仲間を失うのはハイドにとって現実世界のモーリスに次いで2人目になります。
今後、展開はさらに過激化していく中でハイドはどのような成長を見せていくのか…
次回10話をお楽しみに!




