12話「世界の深層」
世界の真相を知った青年は再び、
世界の深層へと足を踏み入れる…
モーリスのおかげで拠点からの脱出に成功したハイドは道中で、拠点方向での爆発を目にする。
「あぁ…!…そんな……」
爆発の規模からモーリスの安否を悟ったハイドは涙を流しながら車内でうずくまる。
それをミラーごしで見たイヴリンは複雑な表情を浮かべながら黙って運転を続ける。
車を走らせてから数分後、別の車に乗るエヴァとアンドリューを目撃したハイドは二人と合流を果たし、情報の共有を始める。
モーリスが死亡した事実を聞いたエヴァはそのことに落胆し、ソフィアも自分の作製したワクチンをもっとはやくにモーリスに投与していればこんなことにならなかったと後悔を口する。
その頃、崩れた建造物の瓦礫から一人の人物が這い上がる。
「ふぅ!……痛っ~!…アドルフさん、やるな~」
それは先ほどアドルフによって建造物の崩壊に巻き込まれたエリックだった。
エリックはなんと、あの降り注ぐ瓦礫の攻撃からなんとか自分に降り注ぐ瓦礫のみを正確に破壊し、ダメージを受けずに済んでいたのだった。
しかし、数トンはくだらない建造物の下敷きにあったエリックはしばらくの間、身動きがとれず脱出に今までの時間を要したのだ。
「兄さんのこと聞きたかったのにな~」
エリックはその場であぐらをかきながらつぶやく。
アンドリューとエヴァはアドルフと別行動をする前にあらかじめハイドと合流したら速やかにストレンジャーの拠点に移動することを命じられていた。
すでにイヴリンとハイド以外は瀕死の状態、なんとか会話ができるのもエヴァとソフィアくらいだった。
ハイド達はストレンジャーの拠点に到着後、すぐにみなを治療するために行動に出た。
数時間後にアドルフとダニーが拠点に到着し、アドルフから大統領が何者かに殺害された衝撃な事実を知らされる。
「……。」
「そ、そんな……」
「それじゃ…!…いったい誰がこの計画を止められるんですか…!!」
静かに俯くイヴリン、絶望するヴァイオレット、そしてアドルフにこの先に待つ絶望しかない未来にどうすればいいかわからないハイドが尋ねる。
だが、普段冷静のアドルフにも今回の件は想定をはるかに超えた出来事であった…。
困惑を隠しきれていないアドルフは悔やみながら、こう答えた。
「すでに……止めることは…できません…。」
アドルフから放たれた発言はハイドやそこにいる者たちが望む答えではなかった。
すでにアポカリプス計画は実行され、その指導権を握る人物であるカーク大統領は死亡、すでに計画を止める・変更することは不可能となった。
アドルフはソフィアが作製していたアポカリプスウイルスのワクチンに頼るしかないと考えていた。
しかし、それに対してイヴリンが口を挟む。
「でも、人口の60%ですよ?その数のワクチンをこの人員では作製も配布することも不可能ですよ。」
イヴリンの発言は的を得ていた。
今からワクチンを作製してもソフィアの状態から考えて数日はかかる。
そこから人口の60%分のワクチンを複製するとなると人員的にも数年はかかるだろう。
その間にも政府はワクチンを作成する可能性のあるストレンジャーを探し続けるだろう。
そう考えると、ワクチンによってアポカリプス計画に巻き込まれた者をもとに戻すことは実質不可能であるとアドルフも理解していた。
ハイド達が現状の打開策が思い浮かばないまま立ち尽くしていると、応急処置を終えたソフィアがハイド達のもとへやってくる。
「私に考えが…あるんだ…」
「ソフィア…!戻って…!」
慌ててソフィアを連れ戻そうとするエヴァ。
しかし、アドルフはソフィアの考えを聞きたいとその場にソフィアとエヴァを座らせた。
ソフィアはハイドが現実世界から目覚めた際の話をし始めた。
それは本来、レヴァリィ世界に繋がれた者は目覚めるとしたら、機械生命体の居住地にある仮想拡張装置REVERIEの中で目覚めるはず。
しかし、ハイドは突如、自分たちの拠点内部に現れ、目を覚ました。
これは本来ならばありえない物理法則を無視した現象なのだ。
その現象をソフィアはハイドの肉体が自分たちとは量子レベルで異なる構成をしている存在なのではないか?と仮定していた。
この世界の構築するものは原子と呼ばれる非常に小さな粒子だ。
この原子と呼ばれる粒子にも数百の種類が存在し、その組み合わせでこの世界は構成されている。
しかし、そんなこの世界を構成する最も小さい粒子よりさらに小さい粒子がこの世には存在している。
それが”量子”と呼ばれるものである。
量子は世界を構成している最小の粒子である原子、光などを構成している。
これまでに多くの学者がその未知の存在に魅了され研究を重ねてきた。
しかし、現代でも量子についてはほとんど未知の領域であった…
その理由はしごく簡単なことであった。
量子について考えようとする自分たちもまた原子で構成された存在、つまり原子でのみの世界での常識に当てはめて物事を考える必要がある。
しかし、量子は原子よりもさらに小さな世界、人間にとってその世界は自分たちの常識に当てはめることができず想像のはるか先を超えているのだ。
故に量子の世界は人間の理解を超えた世界であると同時に想像を超えた世界であるのだ。
「量子の世界なら私たちの常識…つまり物理法則は通用しない。ハイドが突如現れたことも、あの”Code”の内容も、すべては同じ要因で繋がっていると私は思うんだ。」
ソフィアの仮説は正直、ハイドにはわからなかった。
だが、アドルフとイヴリンは少しだが、希望に満ちた表情をしていた。
「では…ハイド君のことをさらに知る必要がありますね。」
「あぁ。その通りだ。」
ソフィアとアドルフの考えは一致した。
それはハイドに満ちた情報をさらに見つけるべく、手始めにハイドのいた世界…レヴァリィ世界に戻る必要があるということだった。
ハイドは夢を見る際、必ず”Code”を目にする。
それはいつも決まって”Code-ω”と書かれた文字から始まり、夢の内容も同じであった。
しかし、この現実世界で目覚めてハイドに半強制的にソフィアが夢を見せた際には”Code-χ”と書かれた文字に変わり、夢の内容も変更されていた。
この”Code”とはいったい何を示しているのか、そしてハイドにはソフィアや他の皆が知らない”何か”を秘めている……
それを確信したアドルフは世界を元に戻すため、ハイドの世界を救うため、そして自分の[[rb:仲間 > 家族]]を救うため、レヴァリィ世界に戻ることが優先すべきことだと理解したのだ。
イヴリンがそのときに一言つぶやいた。
「”創られし者”…」
それはハイドたちには聞かれることはなかった。
イヴリンの横にいたヴァイオレットを除いて。
数日後、自力で動けるまでに回復したダニーはイヴリンと共にH.U.N.T.E.Rに戻ることを決めた。
これまで同様にストレンジャーとは敵対関係のままだとダニーは言うが、拠点を出る際にダニーはアドルフに助けてくれたこと、あのとき自分の考えを信じ、カーク大統領のいる国会まで同行してくれたことに感謝を述べた。
ストレンジャーの拠点に残ることを決めたヴァイオレットは自分の組織であるガーディアンズの中でサイバーインプラントを施していない者でまだ生存している者たちを探し協力を仰いだ。
次々と意識を取り戻していく仲間たち。
アドルフは全員の意識と傷が回復するまでは街の状況とガーディアンズの一員でまだ生きている者たちを保護することにハイドと奔走した。
それから数週間後、
ストレンジャーの一員もほとんど回復し、ガーディアンズの一員の保護も完了したハイドたちは拠点にて皆で日常を送っていた。
「ソフィアさん、そろそろレヴァリィ世界につなげられそうですか?」
「明日にはいけそうだね!いやー、リアムが目を覚ますまで私が装置の調整しなきゃいけないからほんっっっっと大変だったよ~」
「ソフィアさん、うちも手伝ったよ?」
ヴァイオレットがソフィアに口を挟む。
それを聞いたソフィアはそっぽを向きながらとぼけ始める。
「え、えー?そ、そうだったっけ~?私、怪我してたから覚えてないな~」
「それ関係ないですよ!」
「てか、結局ソフィアさんが怪我したのってモーリスさんの銃弾じゃなくて…」
ハイドは治療中のソフィアを介護していた際にイヴリンからあることを聞いていたのだ。
それはモーリスがアポカリプス計画によって政府の洗脳下に置かれ、ソフィア、リアム、オルガを攻撃した時のことだった。
リアムは胸にオルガは腹にそれぞれ一発づつ銃弾を撃ち込まれたものの、実はソフィアは銃弾を受ける直前に足を滑らせたことで銃弾は奇跡的に回避できたものの、それにより機材に思いっきり頭をぶつけ一時的に意識を失っていたのだった。
あまりにタイミングが良すぎたおかげでモーリスも自身の銃弾が命中したとしか思われずに難を逃れていたのだ。
「あーもう!私のことばっかりいいって!!そんなこと言うならオルガだって再生系バイオインプラントのおかげで助かってるんだし、なんならリアムなんて自分の身体に付いた脂肪で助かってるんだよ!?
そっちの方がおかしくない?ねぇ!?」
「ソフィアさんー!!今、僕のこと言ってたでしょ!」
エヴァに支えられながらソフィアのもとへやってくるリアム。
ハイドがリアムのもとへ駆け寄る。
「リアムー!もう動いて大丈夫なのか?」
心配しつつもリアムの身体を堪能するハイド。
それを横で見るヴァイオレットは少し引き目で見ている。
「ね、ねぇ!ハイド!今は抱き着いてこないでよ~!」
「カニスがいない今、リアムしかいないからさ!それにレヴァリィ世界ではリアムの方がハグしてきたじゃんか!」
「ん、ん~(カニスはやく交代して~)」
ハイド達が仲睦まじく話す。
その様子を酒を飲みながら微笑ましそうに見つめるアンドリュー。
そんなアンドリューが握る酒を見たエヴァがアンドリューの隣の席に座りつつ話し出す。
「どうしたの今日は?」
「何がだ?」
「それ、そのお酒はダニーが好きだったやつでしょ?アンドリューは嫌いだっていってたやつじゃん。」
「今日はこれが飲みたい気分なんだよ!」
勢いよく酒を飲むアンドリューにエヴァが注意をする。
「ねー!まだ病み上がりなんだからそんなに一気飲みはダメだよ!」
「お、おい!勝手にとるな!てかエヴァも病み上がりだろ!安静にしてろ!」
「私はアンドリューやダニーとちがって意識なんか失ってませんからー。」
拠点にいる皆がわいわい仲良く楽しんでいる間に、ちょうど買い出しに行っていたアドルフとオルガが帰宅する。
「アドルフさん、街の様子はどうでしたか?」
ハイドが真っ先にアドルフのもとへいき、街の状況を尋ねる。
「やはり、街の者たちは犯罪者に見境なく襲っています。この現状をどうにかしなくては…。」
「そうですよね。」
ハイドが外の現実を知り、一気に真剣な表情に変わる。
それを皆も察したことで明日のレヴァリィ世界の入るための準備に各々取り掛かる。
翌日。
準備を整えたハイド、アドルフ、リアム、アンドリュー、エヴァの5人はソフィアから忠告を受ける。
「いいかい?今回、レヴァリィ世界に滞在できるのは2週間だ。それ以上いると肉体と精神が分離してしまうからね。」
「ん?前回は1週間なかったくらいだったよな?」
アンドリューがソフィアに尋ねる。
本来ならストレンジャーの拠点の電力をレヴァリィ世界に入る装置に用いるが、今回はガーディアンズの協力もあって大幅に電力を入手することに成功したと説明するソフィア。
最後にソフィアはレヴァリィ世界に入る者たちが現れる座標を設定し、ハイド達に伝えた。
「レヴァリィ世界では二組に分かれて行動をしてもらうよ。
ハイドはエヴァとリアムと一緒にインビディア大国に、アドルフとアンドリューはリヴィディン大国に送るからね。」
今回の目的はレヴァリィ世界でのヘーロス救出、ヘーロスの指示であった大国存続の維持それと同時にハイドの生体構成を分析すべくレヴァリィ世界に存在する情報を収集すること。
これらがストレンジャー、いや”流浪人”の任務だ。
ハイドは心してレヴァリィ世界に入る準備を済ませるため、一人一人に用意されたポッドに入る。
そこにヴァイオレットがハイドのもとへやってくる。
「ハイド。」
ハイドはヴァイオレットの方を向く。
ヴァイオレットは笑顔を見せていたが、その奥にはどこか不安な表情と悲しい表情が入り混じっていた。
ハイドは安心させるためにヴァイオレットの手を握りこう言う。
「大丈夫だって、ヴァイオレット。俺からすれば元の世界に戻るだけ、また目覚めたら一緒だぜ?」
「うん……あのね…うち…夢があるの。」
「どんな夢?」
「この世界にもね、北側には広大な自然が広がる景色がまだあるんだって…!そこで…ハイドと…その景色を眺めたいんだ…」
ヴァイオレットの幼い頃からの夢…そしてヴァイオレット本人のハイドに対する想い……それに対しハイドは一瞬驚きの表情を見せるも、すぐにヴァイオレットに笑顔を見せ自分の答えを言う。
「いい夢じゃん!じゃその夢はヴァイオレットだけじゃなくて俺の夢にもなるな!」
ハイドは初めてレヴァリィ世界でヘーロスと出会い、クヴィディタス大国を出てリヴィディン大国に向かう道中での自分の発言を思い出す。
「もっといろんな人に会って聞きたいんです。その人の物語を。」
ヴァイオレットの夢に自分がいる…
ハイドにとってそれは自分の夢である”人の物語”の一部に自分が加えられた気がした。
ハイドは自分の夢にヴァイオレットの夢を重ねて、目を閉じる。
意識が遠のくハイドに向かってヴァイオレットが最後に放った発言がかすかに聞こえる…
それは水中で囁く声のように遠く、かすかな声…
だが、ハイドにはしっかりと聞こえていた…
「行ってらっしゃい、ハイド。」
自分の帰りを待つ人の声が。
読んでいただきありがとうございました。
己の持つ可能性からストレンジャーと共に再びレヴァリィ世界に戻ることを決めるハイド。
再び帰還する世界を前に青年の物語は加速していく…
2章はこれで完結です!
次回からは再びレヴァリィ世界での物語、第3章へと続きます!




