5話「企業の企み」
企業は政府の餌、
政府は企業の犬、
手綱を引くは闇に生きる者なり。
「それで隊長は何か言ってた?」
ヴィヴィアンの部屋から出たダニーのもとにイヴリンが話しかける。
「あぁ…。」
ダニーは先ほどのヴィヴィアンが放った発言をイヴリンに伝えた。
理由は不明だが企業の犬となり下がったボーンクラッシャーズは”アルハンブラコーポレート”から最新のサイバーインプラントを提供してもらいつつ、企業の邪魔となる存在を排除する手助けを行っていた。
しかし、その事実を聞いたイヴリンは驚いた様子は特に見せずに冷静な立ち振る舞いでダニーと接していた。
それを不審に思ったダニーはイヴリンに問う。
「もしかして知っていたのか?」
「……。さぁどうだろうね。けど、もしそうだとしてもこの件はもう終わりってことでしょ?」
「………。」
ダニーは諦めきれていなかった。
自分は家族を捨て、恩義のある自分を拾ってくれた”あの人”のためにこちら側につくことに決めた。
だが、その企業側にも多くの闇があったことを今更ながらに知ったダニーは自分の正義心が揺らいでいたのだ。
しばらく考え込んだダニーはイヴリンのもとに行き、イヴリンにこう言う。
「今から”アルハンブラコーポレート”に向かう。お前も来い。」
「なに…言ってんの…。私には関係ないでしょ。それにもうこの件は終わりだって隊長が」
「俺の独断で動く。お前も何か知っていそうだしな。言う気がないなら黙ってこい。」
イヴリンは呆れた様子をした後、渋々ダニーに承諾し行動を共にする。
”アルハンブラコーポレート”内部ではララに開発部まで案内され、その中に入ったオルガは自身がリアムやアドルフと連絡が取れないことに気が付く。
「(リアムくんのDTPが機能しない…。この中は特殊な構造ってことか。)」
「こちらですわ。」
そう言ってララが案内した先には1人の高身長な女性が立っていた。
その女性はララと同様に非常に容姿が整っており白衣を着ていることから開発部の人間なのだろうが、白衣の中は露出度の高い随分と大胆な格好をしている。
彼女を見ているとララがオルガに紹介する。
「彼女は私の姉、ヴェロニカ・J・アルハンブラ。私と同様にこの企業の責任者の1人で研究機関の全責任を受け持っていますわ。」
そう言うとヴェロニカがこちらに気が付き、ララとオルガに話しかける。
「ララ、勝手に部外者を入れるなとあれほど言ったよな?」
「彼女はお姉様の研究を見に来たというのにそんな言い方はないんじゃない?」
ララと対照的に男勝りの口調はオルガからすると本当に大手企業の開発部責任者なのか疑わしいほどであった。
だが、これで企業の開発部に侵入ができたことでオルガはヴェロニカから情報を聞き出そうと思う。
オルガはヴェロニカに向かって一企業の社員とした振る舞いでヴェロニカに尋ねる。
「これは失礼しました。ヴェロニカ様の邪魔をするつもりでは…よろしければ最新技術の拝借は後日に回すというのはどうでしょう?」
「いや、いい。1人くらなら構わないさ、来な。」
「では、私はこれで失礼いたしますわ。」
ララはヴェロニカにオルガを任せ、2人は開発部のさらに奥の部屋に向かう。
道中、ヴェロニカはオルガにあることを聞く。
「ところで、そっちの方の計画はどうなんだ?」
「えぇ、順調に進めています。」
「…そうか。」
オルガは身に覚えのない情報であったが、それに俊敏に答えた。
しかし、ヴェロニカは何かを察したような表情を密かに浮かべる。
「ここだ。」
ヴェロニカに案内され、オルガはとある部屋に入る。そこは非常に広々としていて無機質な空間が広がっていた。
オルガは最新技術の話をヴェロニカに投げかけた。
するとヴェロニカはオルガと少し距離を取りながら話し始めた。
「うちらの最新技術、それはこれさ。」
ヴェロニカがそう言うと何もない無機質な空間からとあるものが出現する。
それは何かを保存しているカプセルで保存している。
オルガは近づき、カプセルの中身をよく確認する。
「これは…ウイルス…!?」
そう、それは世界中で目にするウイルスと酷似していたものだった。
しかし通常のウイルスと何かが違う。そうオルガは直感で判断した。
サイバーインプラントの開発を主な生業としているここ”アルハンブラコーポレート”。
本来、サイバーインプラントは機械生命体から提供された未知の機械技術を利用して人類に普及させている。
つまり機械に関する工学的な観点で開発、運営を行っている。
そのためこれまでにも存在してきたPCウイルスのような小さなプログラムを開発することは容易に想像がつく。
しかし、この最新技術は違う。渡来のPCウイルスではなく、通常の生物学的なウイルスとそっくりなのだ。
それをこの”アルハンブラコーポレート”が研究を進めてきていたことに疑問を持つオルガ。
「そのとおり、そしてあんたはこれを見て驚いている………ということはあんた、よそ者だな…?」
「…!!」
オルガはヴェロニカに正体が感づかれたことですぐさま、ここから立ち去ろうと決断する。
リアムやアドルフと連絡の取れないこの状況で企業内部で大きな騒ぎになるのはこちら側が不利となるためだ。
「逃がすと思うのか?」
オルガが立ち去ろうとするとヴェロニカの発言とともに部屋の扉が閉まる。
その頃、先ほどオルガと別れたララは別の部屋でその様子をある人物と見ている。
「やっぱ彼女は”こちら側”の人間ではなかったようですわ。」
「コチラノ計画ガ外部ニ漏レルノハ危険ダ。排除シテモラワネバ。」
そうある人物がララに言うと、ララはヴェロニカに連絡を取る。
また、社内入り口の社員からララに連絡が入る。
「ララ様。「H.U.N.T.E.R」の方がお見えですがお通しした方がよろしいでしょうか?」
「H.U.N.T.E.R」?呼んだ覚えはないのだけれども…。まぁいいわ、私の部屋に通して。」
「かしこまりました。」
入り口には企業とボーンクラッシャーズの調査を諦めきれないダニーがイヴリンを連れて責任者であるララが来るのを待っていた。
「あっちも忙しいなら今度にすれば?」
イヴリンがダニーにそう提案する。しかし、ダニーはそんな提案を受け入れずに黙って待ち続ける。
するとララと連絡をしていた入り口付近の社員がダニーにこう伝えた。
「ララ様がお部屋でお待ちです。」
そう言って、ダニーに部屋の場所を教え、ダニーとイヴリンはその場所に向かう。
道中、どこか普段のような落ち着きがないように見えるイヴリン。
それに感づくダニーだったが、そのままララの部屋に入る。
そこでダニーはララの容姿を見て少し驚いた。
「(こいつ…リアムにそっくりだな…)」
だが、それとは別でララを見たイヴリンにも注目するダニー。
するとララがダニーとイヴリンに向かって話し始める。
「これはこれは、「H.U.N.T.E.R」がどのような理由で我が社においでになったのかしら?」
「心当たりくらいあるだろ、こっちはもう企業と反政府組織との繋がりは知っている。」
ダニーの発言に常に笑みを浮かべているララの表情が変わる。
そしてララはダニーからイヴリンに視線を移した。
イヴリンはララの視線から目をそらす。
「まったく…叔父様や叔母様の思いを踏みにじり、よくこんなことができますわね。やっぱりウィザースプーン一族の恥だわ。」
それを聞いたダニーは驚愕した。
そしてララに問い詰める。
「おい。お前、ウィザースプーン家と何の関係がある…?」
ララは部外者にそれを答える義理はないと言い放ち、しばらく3人は膠着状態が続く。
一方、”アルハンブラコーポレート”の向かい側のビルで待機しているアドルフとアンドリューは…
「1時間経過…」
「オルガさんからまだ連絡は取れないです!アドルフさん!」
「行きましょう。」
2人はオルガとの連絡が途絶えてから1時間が経過したことで内部侵入への行動を開始することを決める。
企業内部でオルガはヴェロニカによって最新技術の研究室に閉じ込められた。
オルガは隠し持っていた銃を取り出し、戦闘態勢に入る。
それを見たヴェロニカは笑みを浮かべながらオルガに問う。
「そんな矮小な武器で私に勝てると思ってるわけ?」
するとヴェロニカは自身の足と腕を変形させていく。
そう、ヴェロニカも自身の身体にサイバーインプラントを施していたのだった。
「脚力強化器、発動。戦闘装備、作動。」
ヴェロニカは足を急加速可能な状態に、腕から小さなブレードのようなものを出し戦闘体形に変えた。
どれもサイバーインプラントの多くには戦闘において役に立つようなインプラントが多数存在する。
しかし、高火力な装備や肉体に負担をかけやすい装備はサイバーバグが起こりやすく、また戦闘時に行われる肉体の変形が目立ち人間としての原型からかけ離れてしまうものもある。
現に全身の75%をサイバーインプラントで改造をしているモーリスは戦闘時になるとかなり人間からかけ離れた形態をとることが可能だ。
しかし、原形をとどめない変形にはサイバーバグやオーバーショック等のデメリットだけでなく、人体の寿命や非戦闘時の本来の人間としての体形維持が困難になりやすいという難点が存在した。
だがヴェロニカは近年の最新サイバーインプラントによって原形をある程度とどめた状態での戦闘体形に移行できていた。
「(ここまで肉体の原形を維持できているなんて…最新型を取り入れているのね…)」
ヴェロニカはオルガに急接近し攻撃を行い始める。
オルガはあらかじめ着用していたバイオウェアの恩恵で自身の肉体的な俊敏性のみ一時的に強化できていたため、攻撃をかわすことに成功する。
そこから銃でヴェロニカを狙うオルガ。
一気に銃撃から距離をとり攻撃をよけるヴェロニカ。
ここでオルガはヴェロニカが銃弾をよけたことで自に施されたサイバーインプラントにはモーリスのような銃弾を弾くような硬い硬皮インプラントは装備していないと判断した。
つまり相手の攻撃は依然と危険なものの、自身の銃弾も相手には有効ということがわかったのだ。
「スパイとはいえ、”シュレディンガーエンタープライズ”の技術は持っているよな…。チッ…!…厄介だな…。」
「1時間経過…。」
「は?」
オルガは自身の腕時計を見てそう答えた。
ヴェロニカにとってそれが何の意味を示しているのかがわからなかった。
しかし、オルガは知っていた。
自身と連絡が取れなくなって1時間程度が経過すれば”彼ら”が来ると。
その予想を示すかのように企業内部では警報が鳴り響く。
それを自身の部屋で聞いたララは入り口付近の監視カメラの映像を映す。
「嘘でしょ…!!」
そこに見えた光景は負傷した社員の山だった。
企業の社員とはいえ、ここ”アルハンブラコーポレート”ではほとんどの社員に武装系のサイバーインプラントを施していた。
つまり強盗やちょっとした犯罪組織程度なら警備部隊や「H.U.N.T.E.R」を呼ばなくても鎮圧することが可能なのだ。
それが一瞬にして無力化された。
それを見たダニーはすぐさまストレンジャーの仕業であると理解し、イヴリンと下の階へと向かう。
「ダニー…さっきは」
「アルハンブラ家との件は後で聞く。今はこっちに集中しろ。」
道中でイヴリンがダニーに向かって何かを言いかけたが、ダニーはストレンジャーを捕らえるべく奔走する。
そしてララは社内にストレンジャーと思わしき人物が侵入したことで先ほどの”シュレディンガーインタープライズ”の社員がストレンジャーの仲間だと判断した。
そこで、ララはとある人物に連絡する。
「叔父様、ストレンジャーが侵入したわ。B棟で待機しておいてくれるかしら。」
場面変わり、ハイド達はボーンクラッシャーズ2つ目の拠点支部で企業との繋がりを入手しようとしていた。
モーリスは自身がリーダーを務めていた時期ではこの拠点支部を主に使用していたこともあり、拠点内部の状況や経路は把握していた。
そのためスムーズに侵入に成功したハイドとモーリスはケリーの部屋に入る。
そこでハイドがとある資料に目を通す。
その資料にはサイバーインプラントに隠された秘密、そしてそれに関する情報と計画が記されていた。
その計画とは……
「これは……”アポカリプス計画”……!?」
青年はこの世界の闇に足を踏み入れる…
読んでいただきありがとうございました。
企業に突入を開始したアドルフたち、そしてボーンクラッシャーズの拠点でとある情報を目にするハイド。
企業と反政府組織、そして社会の闇はさらなる展開へとハイドたちを巻き込んでいきます!
次回6話をお楽しみに!




