3話「家族」
人は居場所を求める…
求めた先に待ち受ける運命を知らずに。
ハイドがアドルフの戦闘訓練を行ってからあれから1ヵ月の月日が経った。
ハイドとアドルフの訓練をソフィアとアンドリューは見学する。
「ハイドの調子はどうだ?」
「いや~やっぱ彼すごいよ、わずか数週間でリアムの作製した戦闘経験集積データを網羅して早速、アドルフとの訓練に取り入れているもん。」
ソフィアは戦闘の素人であるハイドの成長速度に驚きを隠せないでいた。
このままいけばアンドリューやモーリスを超え、アドルフやヘーロスに匹敵する器になるのではないかとソフィアは冗談交じりでアンドリューに言った。
「ははっ!そうなってくれりゃこっちも楽で助かるわ!」
アンドリューはソフィアの発言通りになってくれたら頼もしいと言わんばかりの笑みを浮かべる。
その目線の先にはアドルフ相手にハイドが懸命に攻撃を仕掛けている。
しかし、いくらリアムの集めたこれまでの戦闘データをもとに作製した戦闘経験集積データを駆使して挑んでも相手は世界でも危険視されるほどの戦闘の達人であった。
アドルフは難なくハイドの攻撃を受け流す。
「足が止まってますよ。」
「くっ…!」
アドルフの指摘とともに足を払われ、バランスを崩すハイド。しかし、ハイドもすぐに態勢を立て直し、アドルフに回し蹴りをお見舞いする。
それを受け止めたアドルフに向かってハイドは畳みかけるように渾身の一撃をアドルフに放つ。
「(これなら…!!)」
「……!」
少し驚いた様子を見せるアドルフだったが、自身の重心を低くし、ハイドの攻撃をかわしつつ距離をとる。
「あれでも無理か…!」
「空中で攻撃しても勢いが足りないです。あれじゃ当たったとしても大した決定打にはならないと思います。」
「……。」
表情を少し濁らせるハイド。
なにせアドルフと直々に訓練を開始してからいまだ、一度もアドルフに攻撃を当てられていないのだ。
特に今回のは自信があったハイドはアドルフのアドバイスで落胆するが…
「ですが、攻撃を連続で畳みかけたのは非常にいいと思いますよ。相手のペースを崩すことができるので次回は威力に意識してやってみるといいですよ。」
「ありがとうございます…!!」
アドルフの何気ないアドバイスでハイドの目が輝く。
ハイドは立ち上がり、次回と言わずもう一度手合わせを願い出る。
「いえ、今日はここまでにしましょう。」
「なんでですか~ちょっとくら……あれ……?」
ハイドが異変に気が付く。
自分の右肩から右腕全体にかけて感覚がなかったのだ。
感覚がないだけでなく動きもしないことに。
「それは私が先ほどの手合わせのときにハイド君の右肩と右腕の経絡を封じたからです。」
ハイドの違和感の正体はアドルフが先ほどの手合わせの最中にハイドの右肩、右腕の経絡を刺激し行動不可にしていたのだった。
アドルフは戦闘のプロのなかでも元暗殺者。
単純な格闘による敵の無力化以外の方法も暗殺の技術として知りえている。
「ちょ…!…ずるくないですか!?」
「まぁまぁ~彼は戦闘のプロだよ?むしろこの1ヵ月間でここまで戦える時点でハイドもおかしいんだよ?」
ソフィアが右半身が動けなくなったハイドを席に座らせて封じられた経絡を外す。
訓練が終わったことを知ったリアムが自分の大きな体を横に揺らしながら必死にハイドに向かって飲み物とタオルを渡した。
それを受け取りつつリアムの身体を堪能しながら愚痴をこぼすハイド。
「でも、一発くらいアドルフさんにお見舞いしたいじゃないですかー。」
「ちょ、ちょっとハイド~汗拭いてからにしてよー。」
「その意気だぜ!ハイド!」
ハイドの訓練の様子を見たアンドリューがハイドを応援する。
アンドリューの横にエヴァが現れる。
「ハイド君を見てるとダニーを思い出すね。」
「………。ふん、あいつはもっと不愛想だったけどな。」
1ヵ月前にオルガとモーリスがボーンクラッシャーズと争った痕跡を見つめる政府のスーツを着た男が一人いた。
その男の背後からパートナーらしき女性が男に話しかける。
「これは…ボーンクラッシャーズとマッドネスジョーカーの仕業?」
「いや……」
男が見つめる先にはモーリスがケリーに向かって放った攻撃の残骸、正確にはモーリスのサイバーインプラントから発射された重火器の弾を見ていた。
その弾を見た男は過去でモーリスとの会話を思い出す。
「変わった形の銃弾なんですね。」
「こいつは俺のインプラント特性の弾だ。この弾じゃなきゃしっくりこなくてな。」
その懐かしい記憶から男はパートナーの女性に答える。
「これはストレンジャーだな。」
「へぇ、あんたが前に所属してた組織か…。」
「やつらが以前に使用していた拠点に向かう。」
二人は車を走らせる。
男が運転し、その横の助手席に座るパートナーの女性が口を開く。
「聞いてもいい…?」
「なんだ。」
「ストレンジャーではどんな感じだったの。」
しばらくの間、沈黙が続いた後、男は口を開いた。
ハイドはアドルフとの訓練のあと、ソフィアとオルガに自身の身体を診断してもらっていた。
オルガは医療の知識が多少あり、ストレンジャーのメンバーの治療も担っていた。
なお、ソフィアに関してはただ単純にハイドの肉体の秘密を解き明かしたい一心でほぼ強制的にハイドの精密検査を行っている。
「ハイドくん、今回はけっこう惜しいところまでいけたんだってね。」
「いや!まだまだです…!まだまともに攻撃あてられてないので…。」
「だ~から~、アドルフにまともに攻撃あてられるようになるなら誰も苦労しないって~!」
ソフィアがハイドの発言に呆れ気味に答える。
「そういえば、さっき……アンドリューさんとエヴァさんが言ってたの聞いちゃったんですけど、ダニー…って方は誰なんですか?」
「…!!」
オルガは少し動揺した様子を見せるが、ハイドの質問に丁寧に答え始めた。
今は8人のストレンジャーだが、本来はヘーロスを含めて9人いた。
その者は潜入捜査等を得意とする男で、ストレンジャーにいたころはアンドリューとパートナーを組んでいた。
性格は対照的ながらも二人は互いを認め合い、親友以上の関係を築いた。
その男の名はダニー・バーキン。
かつてのダニーは身寄りのない子供で”とある人物”に拾われたのだ。
ダニーはその者に恩義を感じながら若くして懸命に働いた。
しかし、そこでダニーは自身の信念を強く持つようになり、ストレンジャーとなった。
それからの彼はアドルフに師事してもらいながら潜入等の隠密技術を身に着け、スパイ行動を主とした任務に就いていた。
だが、そこで彼は自身を拾い、育て上げた人物が政府上層部の人間であることが判明。
つまりストレンジャーの敵対側の人間だったのだ。
それだけでなく、ダニーは自身が慕っていたヘーロスやアドルフのかつての殺害案件の記録や隠蔽工作の数々を証拠を目撃する。
それを知り、どちらの陣営を信じるべきかわからなくなったダニーは迷った結果、ストレンジャーから抜け政府に寝返り、政府直属の犯罪取締組織H.U.N.T.E.Rの一員となる。
「…といったかんじだ。」
車を運転しながらダニーは自身のパートナー、イヴリン・C・ウィザースプーンに語る。
イヴリンは車の窓から外を眺めながらその話を聞いている。
「でも…まだ揺らいでいるんでしょ?あんたの|ストレンジャー(家族)と本気で対立すべきかどうか。」
「………。だが俺の育ててくれた方の恩義もある。イヴリン、お前の叔父にな。」
「っ…!……私の一族を話題に出さないでくれる…。」
「なんの運命か、俺がお前とパートナーになるなんてな。」
「………。黙って運転に集中しな。」
二人はとある廃墟に車の止める。
「ここがストレンジャーの元拠点なわけ?随分とボロボロだね。」
「あぁ。以前にマッドネスジョーカーが襲撃してきてな。」
その頃の記憶が一瞬フラッシュバックするダニー。
拠点入り口でマッドネスジョーカーのメンバーを一人で相手するヘーロス。
中に入り込んできた敵を一掃し始めるアドルフとモーリス。その間にオルガ、アンドリューと自分でソフィアとリアムを連れてエヴァが用意した車まで脱出する光景が浮かぶ。
「まったく……逃げるも、1人はとんでもない肥満体で重たくて大変、もう1人は機材がどーたらとペラペラうるさくてかなわん。」
「……。」
そんなダニーを見るイヴリン。
彼女はまだ心の奥底では決心のついていないダニーに呆れるもどこか羨んでいそうな表情を浮かべる。
ハイドもダニーのことを知り、アンドリューが自分を彼と重ねていた理由が理解できた。
そこにモーリスとアドルフが現れ、モーリスがソフィアに尋ねる。
「ソフィア、”アルハンブラコーポレート”の件はどうなった?」
「あーそれさ、調べてみたけど有力な情報がなーんにもなし!けど…」
「情報がなさすぎる……ですね?」
「そのとおり!」
"アルハンブラコーポレート"。
現代において機械技術は機械生命体との技術提供によりさらなる発展をもたらし、サイバーインプラントが普及し、いまでは世界中でも人口の60%がサイバーインプラントを施している時代となった。
そのサイバーインプラントの開発企業および製造等の全責任を担っているのが”アルハンブラコーポレート”である。
ソフィアの調べでは表向きで見れる情報では「私たちは潔白です」と言わんばかりの真っ白な情報しか得ることができなかったという。
だが、そこに疑問を感じたソフィアは、必ず”アルハンブラコーポレート”の裏で何かがあると踏んでいた。
それを聞いたアドルフはなにかを決断した表情をする。
「では2日後に二手に分かれて大規模な情報収集をしましょう。」
アドルフはストレンジャーに指示を下した。
”アルハンブラコーポレート”内部は自分とオルガ、アンドリューで調査、モーリスとソフィアはボーンクラッシャーズと企業の関係をさらに詳しく調査すべく拠点の捜索を頼んだのだった。
「エヴァはリアムとハイドくんをお願いします。」
「え、ちょっとアドルフさん…!」
ハイドが口を挟む。
これまでの訓練からアドルフはまだハイドがこのような大規模な任務に出させるわけにはいかないと判断したのだった。
しかし、ハイドはそんなことをわかっていながらもどうしても拠点内部でただおとなしくじっとしているのは嫌だったのだ。
もっとみんなの役に立ちたい…
ハイドの気持ちはこれでいっぱいだった。
それを察したモーリスはアドルフに提案する。
「アドルフ、俺らの任務にハイドを加えたい。そっちの任務に比べれば幾分マシだろ。」
「………わかりました。ですがハイド君。君はまだ子供です。
いくら私と訓練をしたからといって実戦では本来のパフォーマンスを発揮できないことが必ずあります。
…くれぐれもモーリスさんの指示に従って行動するように。」
「……!…はいっ!!!」
「では、モーリスさん、頼みましたよ。」
アドルフはモーリスにハイドを託すことを決める。
その二人の間にソフィアが入り込み、話し出す。
「あの~その任務、私もメンバーにいるんだけど??」
「ソフィアには任せられないって…。」
と囁くようにソフィアに言うエヴァ。
「えぇ!?ひどくない!?それ!?私だってみんなにめっちゃ貢献してるのに~!!」
そんなことを嘆くソフィアをいつも通りのように受け流すストレンジャーのメンバー。
「俺はソフィアさんにも頼りますよ…。」
そんな中でハイドは苦笑いを浮かべながら、ソフィアに歩み寄り耳元でそう言うとソフィアは大興奮しながらハイドを抱きしめる。
ストレンジャーは2日後の任務のため、それぞれ準備に取り掛かる。
かつての仲間…新たな仲間…別々に歩み出す者たち…
読んでいただきありがとうございました。
1章とは異なる世界(現実世界)で敵勢力やストレンジャーの目的などが明らかになりましたね!
社会の闇を知り変革をもたらそうと動くストレンジャー、そしてそれを阻む反政府組織や|H.U.N.T.E.Rの動向は…?
次回4話をお楽しみに!




