10話「第一次リヴィディン大国侵攻(前半)」
繁栄の裏に潜む争い…
一人の聖者が波に抗えないように、
いつの時代でも不変の理。
~リヴィディン大国・王都:王宮内部~
クヴィディタス大国の宣戦布告に対し、リヴィディン大国の王、ジャクソン王は自身の覚悟を示した。
それに応えるかのように王都内にいる兵達が動き出す。
クヴィディタス大国が宣言した日時より早くリヴィディン大国は宣戦布告を行ったのだ。
それによりヘルマン少佐は一気に窮地に立たされることになる。
ヘルマン少佐のもとにへーロスが歩み寄る。
その形相は訓練を積んだ者でなくとも分かるほどのすごみ。
ヘルマン少佐はジルビア軍曹に指示をした。
「な、なにをしている!!早くここから逃げるぞ!」
「で、ですが!すでに背後にも兵が…!」
「後ろのは何とでもなる!だが!あの男はダメだ…!!」
ヘルマン少佐はへーロスに向けて指を差し言った。
ヘルマン少佐の言っていることはジルビア軍曹やハインリヒ軍曹にも理解できていた。
だが、二人はすでにこの場から逃げることはできないと踏んでいた。
ヘルマン少佐率いる小隊は背後の兵を相手にしつつもこの場から逃げることを決断した。
だが、そう易々と敵国の兵、それも少佐を逃がすほどリヴィディンの王は甘くはなかった。
「この場にいるクヴィディタス帝国軍の者は全員捕らえよ!」
へーロスはジャクソン王の言う通り、その場にいたヘルマン少佐率いる兵士を全て一瞬にして無力化した。
無駄と理解しつつもへーロスに向かったジルビア軍曹も呆気なく無力化される。
ヘルマン少佐もその場からすぐに立ち去ろうとするが、両足を遠方から正確に矢で射貫かれる。
「うぐっ!!あ、足がぁ!!」
ヘルマン少佐はその場で崩れる。
ハインリヒ軍曹も自分以外が無力化されたことで剣を置く。
「相変わらず正確な狙撃だな、サフィーナ隊長。」
~リヴィディン大国・王都:正門入り口付近~
「ふぅ…。(あの位置なら胸の方が打ちやすかったなー)」
へーロスがサフィーナと言った人物。
それは聖騎士団、第三部隊の隊長を務めるサフィーナ隊長だった。
聖騎士団で唯一の女性隊長で、アローラやその他の隊長とも引けを取らない程の実力者だ。
サフィーナが矢を放った場所はなんと王宮内部ではなく、王都の入り口付近の城壁からだった。
その距離おおよそ800メートル。
サフィーナの狙撃の実力は7大国でも随一と呼ばれ、弓での実力は他国にも知れ渡るほどだ。
「隊長ー。もしかして今王宮に向かって撃ちましたー?」
そうサフィーナに声を掛けたのは第三部隊メンバー、ダイルだ。
「そうだよー。みんなジャクソン王の命令通り、闘いの準備をするよ。」
残りの部隊のメンバーもサフィーナの指示の通りに行動を開始した。
その中で最も若いメンバーのミミはサフィーナにこう言った。
「た、隊長~。私、戦争なんか初めてで…ど、どうすれば……。」
「とりあえず、私の指示には従ってね。」
「大丈夫!ミミ!みんな戦争なんか初めてよ!ね?ペレチュア。」
「それはそうだがアイク、それじゃ、ミミの不安を一層かき立てられるのではないか?」
ペレチュアの言ったように横でさらに怯えるミミに対しアイクは自分の言ったことを後悔していた。
~リヴィディン大国・王都内部~
その頃、王宮内部ではヘルマン少佐含めクヴィディタス帝国軍の兵が捕らえられる。
そこでへーロスはハインリヒ軍曹を見て、ハイドとともにクヴィディタス大国から出国した際に出くわしたことを思い出したのだった。
「おい、お前。一度会ってるな。ハイドを追っていたのはお前か?」
「……。」
へーロスの質問に黙秘を続けるハインリヒ軍曹。
へーロスはここ数日で起きている出来事、リヴィディン大国の王都を襲った2級テロスの群れ、グラ大国とアセティア大国それぞれの大国でハイドがさらわれたことがこのハインリヒ軍曹が招いたことなのではないかと考えた。
事実、ハインリヒ軍曹はこの王都に2級テロスを招き入れた張本人であり、グラ大国でハイドをさらっている。
「!?…ぐあぁ…!!!!!」
へーロスは黙秘を続けるハインリヒ軍曹の腕をへし折った。
へーロスは考えたのだ。そしてある結論に至った。
それはこの戦争の目的がハイドではないということだ。
これまでこの戦争の主な要因がハイドの身につけている秘宝と思われていたが、流浪人は距離に関係なく互いの連絡を取り合える。
つまりは向こう側の情報が共有可能なのだ。
へーロスはすでにハイドが殲越十二戦士に狙われるもアンドリューに助けられていることを知っている。
そして、リアム達とも合流途中だということも。
ハイドは現在、クヴィディタス大国にいる。
リヴィディン大国ではない。
つまり、ハイドの秘宝のみがこの戦争で得たい物ならリヴィディン大国で戦争を企てる必要がなくなるとへーロスは考えたのだ。
「お前らの目的を言え。生憎まだ骨はいくらでもある…。」
「俺は…上の命令に従っているだけだ…。」
「この戦争の司令官は誰だ。大佐か?それとも…」
「将軍だろう。」
へーロスの尋問に口を挟むジャクソン王。
このような大規模な侵攻計画の指揮官には必ずクヴィディタス帝国軍の将軍に任せるはずだとジャクソン王は言う。
続けて王はヘルマン少佐が王都に来た時間から敵は野営地を設営しており、その野営地はおそらくクヴィディタス大国とリヴィディン大国の国境付近に位置していると予想した。
へーロスはこの戦争を速やかに終わらせるべく、国境付近の野営地に向かうことを決める。
「王、増援はいりません。俺が帰還するのを待っていてください。」
へーロスはジャクソン王の前で膝をつき、深く頭を下げる。
王はへーロスの帰還を約束し、へーロスを見届ける。
「王、よろしいのですか?あの流浪人と共に我が兵を行かせなくて。」
「もちろんだ。でないと彼が…全力を出せないからな。」
~クヴィディタス大国・国境付近:クヴィディタス帝国軍の野営地~
ジャクソン王がへーロスを見送ったその頃、クヴィディタス大国とリヴィディン大国の国境付近の野営地では、ヴァレンティーンがヘルマン少佐の帰りを待っていた。
「ヘルマンさんが宣戦布告に行ってから約3時間…。(こりゃ捕まったな…)」
ヴァレンティーンはヘルマン少佐の安否を察し、各配置についた兵に合図を送る。
それを遠方でそれぞれ確認したラインハルト、クリスティーナ大佐、アルフォンス中佐は作戦を開始する。
リヴィディン大国の街々にクヴィディタス帝国軍の兵が進軍する。
だが、すでにリヴィディンの民は避難をおおかた完了させており、街にはリヴィディン大国の兵が待ち構えていた。
~リヴィディン大国・王都入り口付近~
ラインハルト率いる軍隊が王都正門前でサフィーナたち第三部隊を見る。
「やはり…。」
~リヴィディン大国・西部市街地~
クリスティーナ大佐が率いる軍隊はリヴィディン大国の西部に位置する市街地で聖騎士団、第二部隊と遭遇する。
「待ち構えていたのね。」
~リヴィディン大国・南西街~
アルフォンス中佐率いる軍隊は西部市街地の隣町で多くのリヴィディン大国の兵に囲まれる。
「……。」
各街でリヴィディン大国の兵とクヴィディタス大国の兵とがぶつかり合う。
その頃、野営地で数名の兵と共に残っていたヴァレンティーンのもとにへーロスが到着する。
へーロスに立ち向かった兵は瞬く間に倒されていく。
作戦開始直後に野営地に侵入した敵兵に驚く兵たちだが、その中でヴァレンティーンは意気揚々としていた。
まるで、ここにへーロスが来ることが分かっていたかのようだ。
「この作戦の司令官はお前か。」
ヴァレンティーンはへーロスの前に立ち、、ニヤッと笑う。
「お前、流浪人だな…!」
へーロスはヴァレンティーンとは対照的に冷ややかな視線で静かにヴァレンティーンに問う。
「兵を退け…。」
ヴァレンティーンはこう返す。
「俺を殺せたらな。」
へーロスは静かに殺気を放ち始める。
そしてへーロスの眼が真紅に染まる。
「そうか…。だが、こっちは時間がねぇ…。…殺る。」
~クヴィディタス大国・南東下街~
その頃、アローラ達と合流を果たしたハイド、アンドリュー、そしてグラ大国からアローラたちと合流を果たすミニーシヤたちはリヴィディン大国で戦争が始まったことを知る。
新たに仲間となったレタと親しくするハイドとリアム、そして新たな流浪人としてアンドリューがアローラ達、聖騎士団と言葉を交わす。
その中でアローラとミニーシヤがハイド達に言う。
「早く…!リヴィディン大国に向かわないと…!」
「ええ、そうです。リアムくんやアンドリューさんが言っていることが本当なら一刻を争います。」
ハイド達はここからリヴィディン大国の国境に最も近い街に向かった。
そこでは民の数が極端に少なかった。
その理由をアンドリューは街の外に数多くのテロスが生息しており、この街は民がほとんど住んでいないと言う。
しかし、そんなことは気にせずハイドはレタと会話を交わしていた。
「レタ!レタはクヴィディタス大国出身なの?」
「う、うん…。」
「じゃ、俺と同じだな!実はアローラさんやリアム、アンドリューさんはここ出身じゃないんだぜ!」
「うん…わ、わかってるよ…。」
「カニ!」
レタはハイドの性格に少し困惑していた。
なにせ、数年もの間、地下牢にいたのだ。
自分と年の近い者と会話どころか人と会話することすら久しい状態だ。
そんな状況ですらアローラは微笑ましく見ていた。
だが、事態は一刻を争う状態、サムエルはハイドに注意をし、これからの作戦についてアローラとミニーシヤに尋ねる。
アローラはリヴィディン大国に戻ることを考えていながらもクヴィディタス大国の内側から戦争を止める方法がないかを考えていた。
そしてその計画をアンドリューやリアム達、流浪人に協力してもらえないか提案した。
これまでハイドと共にリアム、アンドリュー、へーロス、アドルフと言った多くの流浪人に会ってきたアローラだからこその提案だった。
「アローラさん!悪い!助けたいのは山々なんだが、俺たちはもうじきこの場を離れないとならないんだ!」
アローラが期待した返事とは思いも寄らない返事がアンドリューから放たれた。
その場でアローラ達はなぜ、流浪人がこの場を離れないといけないのか想像もつかなった。
そこにいるハイドのみを除いて。
アローラ達と合流する前、殲越十二戦士との戦闘が終わった後ハイドはアンドリューが放った言葉が気になっていたのだ。
それは……
俺らはハイドがいる世界の人間じゃねぇんだ!
アンドリューが放った言葉…ハイドはアンドリューやリアムが自分達とは異なる世界から来たということが信じられなかった。
だが、これまでの流浪人の行動…
なぜ、流浪人はこの離れた状態で情報の共有ができるのか、10の秘宝やパラフィシカーの能力にも詳しい様子だった。
明らかに他の者には知らないこの世界の…真相を知っているかのようだった。
だが、ハイドは知っている流浪人の良心を…。
この場から離れないといけない理由はきっと自分たちじゃ理解の及ばない状態だから伏せているのだと。
ハイドはそのことを信じてアンドリュー達の謝罪を受け入れた。
「となると…やはりリヴィディン大国に戻る必要がありますね。」
しかし、その時、ハイドめがけて矢が飛んでくる。
間一髪でアローラが防ぐ。
矢が飛んできた先には多くのクヴィディタス帝国軍の兵とコンスタンティン少佐がいた。
その数はグラ大国でミニーシヤがハインリヒ軍曹の小隊を相手したときとは比べものにならないほどの数だった。
「聖騎士団、それに流浪人まで…。その青年の持つ秘宝、真理の神秘はそちらでもかなり欲しい代物と見えるな。」
「俺らは秘宝なんかじゃねぇ!ハイドを守るためにいんだよ!」
「そうだ!」
ロクアとリアムが言い返す。
「では、まとめてここで始末する!」
コンスタンティン少佐は部下たちに指示を出す。
すると、大量の兵が一斉に襲いかかる。
接近してくる兵はアンドリューとアローラが、弓による射撃をしてくる兵は聖騎士団の第一部隊メンバーがそれぞれ応戦する。
ハイドも皆に続いて応戦しようとするもリアムとレタがハイドのもとにやってくる。
「ハイド!とりあえずこの街から出るよ!」
「え、けど他のみんなは…、それに外はテロスがいるのに…。」
「アローラさんの命令!そこでこいつらを巻き込むつもりなんだよ!」
「ハイド、リアム!俺も行くよ…!」
ハイド達3人はリアムの能力を用いて、街の外に出た。
それを追うようにアローラ達やコンスタンティン少佐も後を追う。
しかし、コンスタンティン少佐はさらなる増援を要請し、追手の数は増えていく一方であった。
それに加えて、街の外にいるテロス達もハイド達に向かってくる。
「まずいな、このままだと数が多すぎて逃げ切れないぞ!」
「どうしますか!隊長!」
「あそこは!」
ハイドは古城跡を指さす。
そこなら建造物に隠れながら追手を相手できる。
あわよくばテロスとクヴィディタス帝国軍の兵と相打ちさせることも可能かもしれない…と考えたハイドはアローラに古城跡に向かうことを提案する。
アローラもその提案に乗ることにし、ハイド達は古城跡を急ぐ。
だが、そんなハイド達の目の前には2級テロスが3体と1体の1級テロスが立ちはだかる。
「くそっ!もう追いついてきたのか!」
アローラ隊長は悪態をつくと、すぐに戦闘態勢に入る。
「ここは俺が食い止める!みんなは早く行くんだ!」
「アローラさん!俺も残るよ!」
アローラはレタが残ることを許可しなかったが、レタの熱い眼差しを見ると渋々承諾した。
「無理はしないでくれよ…!レタ…。」
「あなたに言われたくないよ…!」
~クヴィディタス大国・古城跡近辺~
残りのメンバーは古城跡に向かい、コンスタンティン少佐達を迎え撃つ準備を始める。
ボロフは得意の火薬を用いた工作を始め、簡易的な地雷を周囲に設置する。
さらに空中への敵のためにトラップまで作製し、サムエルとロクアもボロフと協力して設置にとりかかった。
兵が古城跡に迫り来る。
一斉にボロフの罠が作動し、多くの兵は負傷するが、次々と兵が迫り来る。
同時に古城跡を住処にしていた2級テロスも両者に襲いかかる。
前方にはクヴィディタス帝国軍の兵、後方には2級テロスの群れが迫る。
アローラのかわりにミニーシヤが指揮をとる。
「みんな、建物を上手く利用してトラップまでテロスを誘導、敵兵は私とアンドリューさんを中心に片づけるわ!」
古城跡の建物を上手く利用し、ハイド達は2級テロスを罠にはめつつ、クヴィディタス帝国軍と戦う。
コンスタンティン少佐は司令塔となっているミニーシヤに目をつけ自らミニーシヤを倒すべく動き出す。
両者の剣がぶつかり合う。
「グラ大国では部下のハインリヒが世話になったな…。…お前を倒せば、この連携は崩れる…!」
「やれるものならやってみなさい!」
古城跡で繰り広げられる聖騎士団と流浪人VSクヴィディタス帝国軍VSテロスの群れによる三つ巴の闘い。
闘いは激しさを増していく…。
リヴィディン大国侵攻が始まってから、約2時間が経過した頃。
リヴィディン大国の各地ではクヴィディタス帝国軍の勢いは増していき、リヴィディン大国の兵は少しずつだが押されてきていた。
~リヴィディン大国・西部市街地~
そこではリヴィディンの兵とともに戦う聖騎士団の姿があった。
「ちっ…!どんどん来るな…。」
彼の名前はテギィ。
聖騎士団、第二部隊のメンバーで第一部隊のロクアとは親友の間柄だ。
彼は同じ第二部隊のメンバーであるネルコフとシャルケルともに50は超えるクヴィディタス帝国軍の兵を打ち倒したところだった。
近距離戦に特化した第二部隊でもここまでの大人数を相手取るには少々応えたようだった。
「はやく隊長のもとに行きましょう!」
「あぁ…。ここで死んだらミニーシヤちゃんに告白できないしな。」
「ネルコフさん、去年フラれてませんでした?」
三人は他愛のない会話を交えるも、そこに第二部隊の隊長であるフォートとその弟子、ロイフが合流する。二人の後ろにはテギィ達が倒した兵以上の数が転がっていた。
「お前ら!三人でその数しかまだ倒していないのか!」
「いや、僕らが多すぎるんですよ師匠。」
「まぁいい!まだまだ敵兵は来る…!それを迎え撃つまで!」
そんなフォート達のもとにクリスティーナ大佐が現われる。
「これほどの数を相手にできるなんて…。さすがは聖騎士団。」
「あの女性は…。」
「クヴィディタス帝国軍の大佐か。」
テギィとロイフがクリスティーナ大佐の方を向く。
「ですが、クヴィディタス大国のためにここで諦めるわけにはいかない…。」
そう言ってクリスティーナ大佐は合図を送る。
すると一斉に遠方の兵たちが矢をフォート達めがけて放ち始める。
それと同時に周囲にクヴィディタス帝国軍の兵が現われ包囲される。
フォート達はまんまとクリスティーナ大佐の作戦にはめられたのだ。
だが、それしきのことで諦める者はこの第二部隊にはいなかった。
フォート達は剣を抜き、囲んだ兵たちの様子を伺う。
「まんまとはめられたが、ただそれだけのこと!」
「僕らは戦う…。リヴィディン大国のために!」
フォート達が兵を迎え撃とうとしたその時、その場にいる誰もが予想していなかった二人組が突如クヴィディタス帝国軍の兵に割って入り、フォートの剣をその身で防いだ。
「いい攻撃だぜ!」
「やはり、王が言っていたことは本当だったようだ…。……戦争か。」
「あなた達は…!!」
フォート達の前に現われたのは殲越十二戦士だった。
フォートの攻撃を腕で受け止めた人物イェルク、そして鮮やかなオレンジ色の髪色に右半身にタトゥーを施したファンキーな印象の強い人物アシムスの二人が現われたのだ。
さすがのクリスティーナ大佐も予想外の出来事に驚きを隠せないでいた。
イラ大国からハイド殺害の命を受けて殲越十二戦士のメンバーは各大国にハイドの捜索を行っていた。
流浪人と異なり、離れた場所からでも情報のやりとりができるわけではないため、アシムスとイェルクの二人は未だクヴィディタス大国でエルトロとテオバルトがハイドを発見し、テオバルトがやられたことは知らないようだった。
「クヴィディタス帝国軍の大佐、我々もこの闘いに一時参戦させてもらう。」
アシムスはクリスティーナ大佐に共闘の申し出を行った。
アシムス達、殲越十二戦士の目的はハイドの殺害。
ハイドを匿っていた者はすでに流浪人と聖騎士団であることは知れている。
アシムスはこの場にいる聖騎士団のメンバーを一人でも捕らえれば、ハイドの居場所を吐かすことが可能であると考えていた。
一方でクリスティーナ大佐はアシムスの申し出を受け取るか否か考えていた。
現時点の聖騎士団との闘いの状況的にはこちらが不利、だが殲越十二戦士が加われば、この街を制圧できるかもしれない。
そう考えたクリスティーナ大佐はアシムスに申し出に答える。
「わかりました。今回はそちらに手を貸しましょう。」
クリスティーナ大佐もこれ以上、民間の被害を出したくないと考えていた。
激しく抵抗する聖騎士団を大人しくするためにクリスティーナ大佐はアシムス達と共闘することを選んだ。
~リヴィディン大国・王都:正門入り口付近~
そこでは、聖騎士団の第三部隊のメンバーがラインハルト大佐率いるクヴィディタス帝国軍の大軍と応戦していた。
「くそっ!数が多い!」
第三部隊メンバーのダイルが悪態をつく。
ラインハルト大佐の部隊は300を超えており、対するこちらは第三部隊を含め100人程度。数的に不利な状況だった。
アイクはミミを後方に預け、ペレチュアと巧みな連携技で次々とクヴィディタス帝国軍の兵を倒していく。しかし、数的不利な状況に変わりはなく、次第にその勢いも衰退していった。
サフィーナも遠方からの弓矢による射撃で、すでに80を超えるクヴィディタス帝国軍の兵を倒しているが、矢も底を尽きかける寸前だ。
「(まずい…、このままじゃいずれ……)」
その時、クヴィディタス帝国軍の大軍の先頭にラインハルト大佐が現われる。
「王都を守護している聖騎士団の者!」
サフィーナは突然のラインハルト大佐の発言に少々動揺するもすぐさまラインハルト大佐の胸に標準を合わせ、答える。
「クヴィディタス帝国軍の大佐が今更、軍の先頭で私たちに何の用?」
「あなたが…この軍の、聖騎士団の隊長ですね。」
サフィーナの若いながらにしての隊長としての風格、それを察知したラインハルト大佐。
他の聖騎士団のメンバーもラインハルト大佐に矢を向ける。
「あなたが我々の軍の捕虜になるのなら、俺たちは一時王都の侵攻を中断します。」
「!!」
「!?…大佐!それは一体…!」
ラインハルト大佐の発言に誰しもが驚いた。
ラインハルト大佐はこれ以上敵国とはいえど被害を最小限に抑えたいことからたったひとりの人物、サフィーナの身柄1つでこの場を抑えるつもりでいた。
そのラインハルトの発言に兵たちが反論する。
「お待ちください、大佐!!そのようなことをすれば我々の計画にも大きな影響が生じます。ここは我々による武力で対応できま……」
「これは命令だ。俺の指示に従うんだ。」
ラインハルト大佐が侵攻をサフィーナの身柄で中断する決断をした理由は、このリヴィディン大国侵攻計画には何か別の目的があるのではないかと考えていたのだ。
当初の予定であるヘルマン少佐の宣戦布告はリヴィディン大国によって逆に宣戦布告をされる事態となった。
だが、それはさほどの問題ではない。
なぜなら先手はリヴィディン大国に討たれるも、兵力では圧倒的にこちらが勝っていたからだ。
いくら想定よりも早く闘いが始まろうとも、その差は埋めることはできない。
しかし、本来はハイドの身につけた秘宝が目当てのはず。
ハイドはどんなに早くてもこのリヴィディン大国にはたどり着いていないはず。
未だクヴィディタス大国に身を潜めているはずだ。
ハイドの脱走に手を貸したラインハルト大佐だからこそ、それは十分に理解していた。
そしてクヴィディタス大国に身を潜めている場合、いくら国土が広大とはいえ兵のひとりくらいはハイドを目撃するはず。
となれば帝国軍側も目標はリヴィディン大国ではなく自国にいる|ハイド(脱走者)を捕らえるはず。
ではなぜ行わないのか?
ラインハルト大佐はこの計画には裏で何者かが一枚、いや複数に絡んでいると予測していたのだ。
~クヴィディタス大国・王都内部~
クヴィディタス大国の王宮内部ではジャック王と仮面をした3人の人物が対談していた。
仮面をしている人物…それはかつてアセティア大国でアドルフやアローラが口に出した組織……
アロガンティア特務機関
彼らは各国に度々姿を現わすとされており、素性のほとんどが謎に包まれている。
唯一判明していることは、各々が天使の名前を冠したコードネームを与えられていることのみ。
ジャック王の前に膝をつく3人。
そのうちの一人がジャック王にこう言い放つ。
「計画通りに事は運んでいるようで…。」
そう言い放った左側にいる仮面の男の名はアズラエル。
アズラエルの発言に対し、少し不機嫌な態度を取りつつジャック王は続けた。
「あぁ。だが、貴様らの助言に耳を貸したその見返りをまだもらっていないぞ。」
「それはもちろんお渡しいたします。……それに…ジャック王の望みはじきに叶います。」
右側にいる仮面の男はそう言い放つ。名はカマエル。
ジャック王は叶わなかった場合は覚悟しろとカマエルに言い放つ。
「我々はあの青年の秘宝、真理の神秘さえ手に入れれば問題ありません。」
中央にいる仮面をした男、ウリエルはジャック王に言う。
そしてカマエルが一歩前に出て秘宝の副産物のひとつ”奇跡と破滅の種”をジャック王に渡し、こう言った。
「新たな時代はもう目の前です…。」
戦争の裏で暗躍する者たち…
読んでいただきありがとうございました。
いよいよリヴィディン大国とクヴィディタス大国との戦争が始まってしまいました…
勝つのはどちらの陣営か、裏で暗躍するアロガンティア大国の目的とは…!?
次回11話をお楽しみに!




