1話「Codeーω」
享受せし者は、
物を語る…
「Code-ω」……
その文字のあとに表われる景色。
それは今までとは明らかに異なる文明の崩壊、世界の破滅の景色だ。
悪夢のようでもあり、まるで世界が望んだ姿のような気もする。
意識が遠のく…
「はっ!」
青年ハイドは目を覚ました。
いつも見るあの夢だ。
ここ最近見る回数が多くなっている気がする。
何か意味があるのか?そんなことを考えながら、隣にいる緑色の小動物カニスを抱き寄せて頭を撫でた。
「カニス、おはよう」
「カニ!カニ~……」
カニスはまだ眠そうにしている。
今日は天気もよく、風が気持ちいい日だ。窓を開けると心地よい空気が流れ込んでくる。
ハイドは寝癖でボサボサになった自分の銀髪の髪を整えながら服を着る。
「さぁ起きろー、カニス。散歩に行くぞ」
「カニ!!」
カニスは勢いよくベッドから飛び降りると元気よく吠えた。
「マルコおじさん、おはよ!」
「ハイドか、今日は少し早く起きたね」
寝室から居間にきたハイドはマルコにあいさつをする。
マルコは両親のいないハイドを1人で育て上げた、いわばハイドにとって親も同然の人物だ。
「うん、ちょっとカニスと散歩に行ってくる」
「あぁ、それならちょうどいい、隣町まで行って買い出しに行ってきてくれないかい?」
「もちろん、いいよ!じゃまた後でマルコおじさん!」
村の外に出たハイドはこの辺では珍しい人混みを目撃する。
「うわ、すごいなこれ」
「カニィ?」
そこには大きな馬車が何台か停まっており、大勢の人間が忙しく荷物を運んでいた。おそらく商人だろう。
「おぉ、あれは……」
「お!おまえは!」
ハイドたちが近づいていくと、一人の男がこちらに向かってきた。彼はクヴィディタス大国の城下町に住んでいる商人で、ハイドやマルコとは顔見知りの人物だ。
名前はエインという。
「久しぶりだな!ハイド!まさかこんなところで会えるなんて思わなかったぞ!それにしてもどうした?その格好。」
「…!…ちょっと色々あってね~(やば、出掛ける用の服じゃなかった!)…。そうだ!マルコおじさんに隣町まで買い出し頼まれててさ、一緒に乗せてってくれない?」
「カニ!?カニ!カニ!カニカニ!」
ハイドがエインと話しているのを聞いたカニスがハイドのズボンを引っ張りながら自身のことを主張する。
どうやら自分をエインに紹介してもらいたようだ。
「こら、落ち着けって。エインさん、こいつはカニスっていうんだ。」
「カニ!」
「ほう、テロスか!お前のペットかい?」
「あ、いや、俺の親友です!」
「そうなのか!俺はエイン。よろしくなカニス!いろいろ話したいこともあるしな!乗っていきな!」
「ありがとうございます!今度マルコおじさんにも連絡入れておきますね!」
「おう、ありがとな!」
こうして、ハイドたちはエインの馬車に乗り込んだ。
馬を走らせること1時間、ようやく隣町の港町に到着した。
「カニ~♪」
カニスはご機嫌に尻尾を振っている。
「着いたぜ!ここがこの町で一番栄えている港街だ。この先にある市場がこの辺りでも一番の賑わいを見せているんだぞ。」
「おぉ、確かに賑やかな場所だなー」
「ちなみにだが、この先にある街はリヴィディン大国との国境付近だ。知ってるだろ?俺らの住むクヴィディタス大国とリヴィディン大国は敵国関係にあるって。だから国境付近は気をつけろよ。」
「わかりました!ありがとうございます!エインさん!」
ハイドとカニスは手を振ってエインと別れた。
その後、市場で必要なものを買い揃えたハイドはカニスに街で一番のミルクを買ってあげた。
「いやぁ、いい買い物ができたよ。カニスも美味しい?」
「カニ!」
「良かったーさぁ、そろそろ帰ろうか。」
「カニ!」
ハイドとカニスが帰路についていると、突然、カニスが立ち止まった。
「どうかしたか?カニs……うわっ!」
カニスはハイドの服を引っ張った。
「カニカニ!!」
「ちょ、ちょっと待てって!!引っ張るなって!」
「カニカニ!」
カニスは必死に何かを訴えかけている。しかし、ハイドにはわからないようだ。
「えぇ?何言ってるんだよ。ちゃんと説明してくれないとわからないって」
「カニ!カニカニ!カニカニカニ!」
すると、遠くの方から銃声が聞こえてきた。
「ん?今の音は……」
「カニ!」
「うん、行ってみよう!」
カニスは一目散に駆け出した。
「カニ!カニ!」
「おい、勝手に行くな!」
ハイドは急いで追いかける。
「はぁ、はぁ、やっと追いついた……。全くお前はいつも急に走り出すから困るよ。」
「カニ!カニ!」
「はぁ、はぁ、一体、どこに向かっているんだ?」
「カニカニ!」
「ん?なんだあれは……」
ハイドは前方で人が倒れているのを発見した。
「大変だ!誰か倒れてる!」
ハイドはすぐに倒れた人の元に向かい、様子を確認したが、男は息をしていなかった。既に死んでいるようだ。
「これは……まさか、銃でやられたのか?それにしてもどうしてこんなところに……」
「カニ!」
「カニス!静かに!」
カニスを撫でながら考える。
この男が何者なのかはわからないけど、きっとここで殺されたんだろうな…
ここは人通りの少ない道だし、ましてやここは町の外だ。
…けど何故、殺されてしまったんだ?
「カニ?」
「いや、なんでもないよ。」
「カニカニ!」
「そうだね。とりあえず、ここにいても仕方がない。一度、戻って助けを呼ぼう。」
ハイドとカニスは港街へと戻った。
「おぉ、帰ってきたか!ちょうど良かったぜ!」
「エインさん!あのー、どうかしたんですか?」
「あぁ、実は…。」
そこでエインが話した内容は今朝方、この町の領主様の屋敷が何者かに襲撃を受けたものだった。
しかも屋敷にいた領主様含めた全員が皆殺しにされたといった内容だった。
「えっ!本当ですか(もしかして、さっきの人は…)」
「それでだ。ハイド、お前さっきあっちの街の外から戻ってきただろ。その方向は領主様達が逃げた方角だ。何か…見なかったか?」
「い、いえ何も見てないです。」
「そうか…。わかった。」
「あの、それじゃ僕はこれで失礼します。マルコおじさんも心配してる頃だと思うので。」
「おう!気をつけて帰れよ。」
そう言ったエインの様子は先ほど街に送ってもらった時とは明らかに様子がおかしかった。
ハイドとカニスはその場を去った。
「うーん、やっぱり間違いなさそうだな。あの時、聞こえた銃声はこの件だったのか。ということはやはり犯人は……ん?」
ハイドはあることに気がつき立ち止まった。
「カニ?」
「まずいな……。(このままだと俺たちも危ないかもしれない。)」
「カニ?」
「いや、なんでもないよ。それより早く帰らないとね。」
ハイドとカニスは帰路につく。
「カニ!カニ!」
「ん?どうした?カニス?」
「カニ!」
「あっ!待てって!」
カニスが突然走り出したため、ハイドは慌てて追いかける。
「はぁ、はぁ、まったく、また急に走るからびっくりするじゃないか。…こ、ここは…」
ハイドはカニスに付いていくとそこには領主の屋敷があった。
危険ではあるが、興味本位で入ってしまった。すると…
「カニ!」
「どうしたカニス?一体何を見つけたんだ?」
「カニ!」
「これは……。なんだこれ?なんかの腕輪みたいだけど。」
ハイドはカニスを肩に乗せると腕輪を手に取った。
見たこともない形に、特殊な装飾がされているようだった。
「初めて見る形だなこの腕輪。」
「カニ!?」
「いや、本当に初めてだよ。」
「カニィ……」
すると勢いよく開かれた扉の前には商人であるエインとクヴィディタス大国の兵、クヴィディタス帝国軍の兵が数十人いた。
「この屋敷のどこかにあるはずだ。探せ!」
「やばい!隠れろ!」
ハイドは急いで屋敷のクローゼットに入り身を隠した。
「こちらにはありませんでした。」
クヴィディタス帝国軍の兵がエインに報告する。
「いや、絶対にあるはずだ。領主の遺体には”あれ”がなかった。ここにあるはずだ。」
「(隙を見て逃げないと!)あ、あれ?この腕輪、装着したら取れない!」
「カニ!カニ!」
「おい、ここに誰かいるぞ!」
ハイドは兵たちに捕まってしまう。
「しまった!」
「よし!捕まえたぞ!」
「ハイドか。やはり感づいていたな。ったく手間かけさせやがって。」
エインはそう言うと、ハイドに向かって剣を振りかざす。
ハイドは押さえつけている兵を振り払って何とかエインの攻撃を避ける。
「おい!ちゃんと抑えてろ!」
「お前ら、何をしている。」
エインの背後に音もなく近づいてきた男が尋ねる。
「あぁ?誰だよあんた?」
「通りすがりの流浪人さ。それよりも、今ここでそいつを消すと色々と面倒なことになるんじゃないか?」
「はぁ?どういうことだ?」
屋敷の周りには街の民が騒ぎで集まり始めていた。
さらに外で見張りを付けていた兵も皆倒されてる。
この男の仕業だろうとエインはすぐに理解した。
「……わかったよ。」
エイン達は仕方なく引き下がる。
「はぁ、助かった。」
「おい、お前大丈夫か?」
「えぇ、なんとか。ありがとうございます。」
ハイドは男の手を取り立ち上がる。
「それより、なぜこんなところに?ここは亡くなった領主の屋敷だぞ。」
「実はその、こいつに導かれて、この館に興味があって入ってみたんです。」
「テロスか。こいつはお前のか?」
「はい!こいつはカニス。俺はハイドです!先ほどは助けていただき、ありがとうございます!」
「カニ!カニ!」
「へーロスだ。ところでお前、その腕輪…」
へーロスはハイドが先ほど屋敷で身につけた腕輪に目を付ける。
ハイドは事情を説明した。
「(この人は何者なんだろう……。)」
「急だが、ハイド。俺と隣国のリヴィディン大国に来てくれないか?」
「え!?どうしてですか!?」
「どうしてもお前に会わせたい人物がいるんだ。詳しい理由は追々説明する。」
「そんな!マルコおじさんを置いていけない!」
「カニ!カニ!」
ハイドとカニスを見たヘーロスは少し沈黙した後、館の外にいる馬を用意しながら答える。
「……わかった。お前の家はどこだ。お前のそのおじさんとやらの安否を確認次第、出発だ。」
「ありがとうございます!」
こうして、ハイド達は村に戻り、マルコの安否を確認するも…
「そ、そんな…」
「どうやら兵に連行されたみたいだな。あの商人、お前と知り合いだったのか?」
「はい。マルコおじさんはよくエインさんの品物を気に入ってましたから…まさかエインさんがこんなことを…」
へーロスは自分はどの大国にも属さない流浪人で、この国クヴィディタス大国では指名手配犯にされているほど人物で、ここに長居することはできないことを説明した。
そしてハイドの身にも危険が迫っていることも。
へーロスの案内のもと、ハイドはクヴィディタス大国とリヴィディン大国の国境付近の街に向かうのであった。
その頃、捕らわれたマルコはエインと対談する。
「エイン、一体何があったんだ!ハイドは無事なのか?」
「あんたは客として失いたくはないが、あいつの場所を吐かねぇのなら仕方ねぇ。」
そいう言ってエインがマルコに手を下そうとした矢先に突如、エインの背後を剣が貫く。
「ぐぁ…!…あ、あなたは…」
エインを貫いた男の名前はクヴィディタス帝国軍の軍曹、リベル軍曹だった。
ハイドと同様に銀髪の髪色をしており、底知れない笑みを浮かべこう放った。
「ちょっと~、兵士でもない人間が民を処刑できる権限ないだろ~?」
そういってエインから剣を抜くリベル軍曹。
「き、君は一体!?」
「マルコ…さんって言ったっけ?…あんたの大事なハイドの身を案じるなら、ちょっとお願いがあるんだけど~」
マルコに持ちかけた提案、リベル軍曹の目的とは一体何なのか…
読んでいただきありがとうございました。
もしかしたら読者の中には今回の話でなんとなく勘づいた方がいるかもしれませんが、この話、とーーっても情報量が多いです。
我ながら自分の頭の中にびっくりしています。
それでも、続きが気になる方、もう少しだけ読んでやるよとお思いの方は、2話もお楽しみに…!




