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「待って、そんなにメイク濃くしないで!髪もゆるく巻いてくれれば良いから」

現在、学校に行く支度中。侍女のエラ(そう、最初に会った看護婦さんは私の侍女だったのだ)が私にしてくれようとした化粧は明らかに濃い。髪もぐるぐる巻かれようとしていて、やりすぎ感が半端ない。


自分で言うのもなんだけど、私はそこそこ可愛い方だと思う。絶世の美女とまではいかないけど、普通にもてるくらいには整っているはず。それにまだ若いんだから、お化粧は少しのせる程度で十分だと思う。


「いつもはもっと化粧は濃く、髪はもっと派手に巻いてと指示されるくらいなのですが……」

エラの言葉にびっくりする。

そんなの、いつの時代の悪役令嬢だ。


化粧は薄くしてもらって、髪もなんとかゆる巻きに抑えて、私は学校の制服に身を包んだ。


心配そうに送り出してくれたパパとママに手を振って、馬車に乗り込む。 

椅子は思ったよりふかふかしていて座り心地は良いけど、馬が引いているからガタガタ揺れる。馬車に揺られながら窓の外を見つめ、本当に違う世界に来てしまったのだと改めて実感した。

すれ違う馬車、通りを歩く人々の服装、道に立ち並ぶ店の数々。全てが珍しくて目移りしてしまう。きょろきょろしているうちに、馬車が止まった。どうやら学校に到着したようだ。


「こ、これ学校……?えらい豪華だな」

馬車から降りて、巨大な建物を見上げてつい独り言がもれる。貴族が通う学校だとは聞いていたけど、たかが学生にお金かけすぎじゃない?


不安6割、前世からの友達に会える楽しみ1割、好きな人に会える期待3割。

友達より好きな人が気になる気持ちが優勢なまま、私は学校の敷地に足を踏み入れた。


「アリス様!!!」

前から、女子生徒2人が走ってくる。

わざわざ外まで私を迎えに来てくれたのね、嬉しい……って、まさかあの姿は……


「もうお加減は大丈夫なんですの?具合が悪いと聞いて、私達とても心配していたんですのよ!」

「まだどこかお悪いのですか?いつもと装いが違うようですが……」


な、なんでこいつらが!

驚き固まる私を見て、2人は顔を見合わせる。私が固まってしまったのも当然、この2人は前の世界で私が最も苦手としていたギャル達だ。いつも派手で、気が強く、まるで自分達が世界の中心かのように振る舞っていた。口も性格も本当に悪くて、人の陰口が大好きで、私も何度嫌な思いをしたか……!

この2人が、なぜ私を迎えに?


正直怖い。怖いけど、今の私は侯爵令嬢だ。

おさらいしてきたけれど、この学校に私より位が高い人は数名しかいないはず。

この2人も、そこそこ良かったはずだけど私よりは下の身分。

ここは、動揺を隠して……!


「まだ本調子ではないけれど、大分元気になったわ。心配してくれてありがとう」

よし!普通に言えた気がする!


「それは良かったです!アリス様がいらっしゃらなくて、学校が退屈でしたわ!」

「ええ、本当に!これからまた楽しくなりますわね」

口々にそう言われて、私は首を傾げる。

……この世界の私ってそんなに楽しいキャラだったのかしら?


2人に連れられて、校舎の中に足を踏み入れる。この2人が得意げに歩いている理由がよく分からないけど、教室まで連れて行ってもらえるのはありがたい。

廊下を歩いていると、すれ違う学生がこちらを見た途端ぎょっとした顔をして素早く頭を下げた。

その反応に疑問を感じつつ、さらに廊下を歩く。


……おかしい。やっぱりおかしい。

すれ違う生徒達が、怯えた顔をしてこちらを見ている。さっき、こっちに歩いてこようとした生徒が回れ右したのを私は見た。絶対に私達を見て方向変えた。


教室に入ると、ざわざわしていた教室が静まりかえる。

私の予感は確信に変わる。

えっ、私、みんなに嫌われてる?

ていうか、怖がられてる?


教室をざっと見回してみる。

あれ、誰も目を合わせてくれない。

あ!ミーラとハンナ見つけた!

あ、顔を逸らされた……嘘でしょ……


呆然としていると、ガラッと教室の扉が開いた。

「まあまあカートレット様!」

キンキンした声が響く。

入ってきたのはいかにも気の強そうな美少女。取り巻きらしき女子生徒を2人連れている。


「しばらくお姿をお見かけしなかったので、もういらっしゃらないのかと思いましたわ」

嫌味ったらしい言葉に、私の隣のギャル2人が反応する。


「アリス様!何か言ってやって下さい!」

ギャルの1人、バイオレットが私に耳打ちする。


私は言い返すどころではない。だって……

「ねえバイオレット、この方、お名前はなんて言うのかしら?」

こそこそとバイオレットに聞いてみる。

私この女子生徒の顔分からない。


バイオレットは目をまんまるくした後、思い切り笑い出した。

「ふっ、ふふふ……!お名前は何て言うのかしらですって……!アメリア様、アリス様はアメリア様のお名前をご存知ないそうですわよ!」

もう1人のギャル、イザベラも笑い出す。


アメリアと呼ばれた少女は顔を真っ赤にして震えている。

「……覚えてらっしゃい」

そう言って私を睨みつけ、教室を出て行ってしまった。


「流石ですわアリス様!アメリア様をあんな風に黙らせてしまうなんて!」

「アメリア様のあの顔!笑えましたわ」

えっ……何で内緒で聞いたのにバラしたの……

アメリアって呼ばれた子、本気で怒ってたみたいだけど、どうしてくれるんや……


私が内心で恨みを呟きながらギャル2人の笑う様子を眺めていると、またもや教室の扉ががらっと開いた。


その瞬間、私は入ってきた人物に釘付けになる。

(う、うわああああやばい)

紛れもなく私が前世から好きな人、リアムその人だった。

(か、可愛い格好良い!好き!可愛い!)

この世界の制服に身を包んだリアムを見て、内心絶叫するとともに私の語彙力は崩壊した。


リアムの容姿を一言で言うと、まるで天使のよう。サラサラの金髪に、女の子みたいな中世的な顔をしていて、線は細いんだけど身長は高い。基本的に笑顔でいるけど、仲良くなると割と毒舌。性格は顔の可愛さの割に男らしくて、ちょっと強引なところあり。そのギャップにやられる女子多数。頭も良い。運動神経も良い。好きにならない訳がない。めっちゃ好き。完璧。


見つめたまま私が言葉を発せずにいると、目が合ったリアムが「あぁ」と納得したように頷いた。

私に背を向け、扉の近くにいた男子生徒の方を向く。

「廊下を凄い剣幕で歩いている女子生徒がいたけど、そういうことね」


これは、もしかしなくても……

私、良い印象持たれてない……?

この世界の私、許すまじ……

ていうか、アメリア様のことは勘違いだから私悪くないのに……


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