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貴族のマナーなんてさっぱり分からないから、死に物狂いで頑張らなければいけないと思っていたけど、どうやらこの体が覚えているらしく、すぐに習得できた。すぐボロが出てしまうのは言葉遣いと、態度。
どうしても、へこへこされるとへこへこし返してしまう。腰が低いのは当たり前だ。目上の人を敬うよう教えられてきたのに、突然偉そうにしろだなんて。周りの大人達は、こんな子供に威張り散らされて何とも思わないのかな?
毎回お礼を言うと止められてしまうので、せめて感想を伝えることにした。
「助かるわ」とか、「嬉しいわ」とか。
初めは使用人の皆さんが私にびくびくしながら接してくるのが気になっていたんだけど、感想を言うようになってから大分打ち解けられてきたのではないかと思う。
この間は、使用人達が「アリス様がとってもお優しくなられて……」と噂しているのが聞こえた。一言伝えるだけで褒められるって、今までの私は一体どんな感じだったのだろうか。
今日はマナーの他に、歴史や今学校で習っている授業の復習をする予定。
不思議なことに、前の世界と言語は違うんだけど読めるし書ける。
歴史も、知らないはずなのにすんなり納得できてしまうから、この体の持ち主の学んだことはそのまま生かされているんだと思う。
貴族の争い?の関係とかなんとかで、記憶を失ったことはなるべく公にしないようにパパに言われてるし、これならボロを出さずに済みそう。先生達には知らせてあるらしいし、後は協力してくれそうな仲良しメンバーにだけ言えれば良いかな。
こうして私は1ヶ月、真面目にリハビリを受けて何とか侯爵令嬢っぽい感じに振る舞うことに成功した。
体の持ち主の頭の片隅にあるとは言え、私は初めて学ぶことばかりだったから結構楽しかった。
侯爵家はお金持ちだから、ご飯も美味しいしベッドもふかふか、可愛いドレスも沢山着せてもらえて、屋敷から出られなくても不自由なく過ごせた。
スマホとかテレビがないのは辛いけど。あと、トイレが水洗じゃない……もちろんウォシュレットもない。着替えやお風呂に入るのも使用人が手伝ってくれるから、毎回裸を見られるのも辛い……
でもきっと贅沢な悩みだよね。この世界では平民はもっと厳しい生活を強いられるだろうし、お金持ちの家に生まれただけ感謝しないと。
前の世界ではいたって普通の家庭で、そこまでお金を持ってるわけじゃなかったけど、どれだけ文明的に恵まれているのかを実感した。誰か、せめて水洗トイレを開発して……!
そんなこんなで、明日は1ヶ月ぶりに(私は初めて)学校に行くことになった。