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「うーん……」
ズキズキする頭の痛みを堪えながら、アリスは目を開ける。見たことない天井が視界に入ると同時に、こちらを覗き込んだ女性と目が合った。
「お嬢様!お目覚めになったのですね!すぐにローマン様とライラ様を呼んで参ります!」
(今の人は誰……?変わった服を着ていたけど、看護婦さんかな?)
アリスは頭を押さえながら横を見る。
見えた先にはやたら豪華な机と椅子。
そういえば天井だと思っていたものも、天蓋付きベッドの内側のようだ。
(随分豪華な、病室……?うちにそんなお金ないのに)
バタバタと廊下を歩く音がして、バンッと扉が開いた。
「アリス!!」
「パパ、マ、マ……?」
両親の声のする方を見て、アリスは絶句した。
「大丈夫なの?もう頭は痛くない?貴方階段から落ちて……」
「ちょ、ちょっと待ってよママ……。2人して何なの?仮装パーティーでもあったの?」
「えっ、何パーティーですって?それに今ママって言った?」
「ママはママでしょ……。何なのその服、中世か何か?この間見た映画の影響?」
「一体何を言ってるのアリス……」
ママの顔が青ざめていく。
「アリスはどうなっているんだ?」
パパがお医者さんらしき人に尋ねる。
「外傷は特にありませんが、頭を打ったことで一時的に混乱しているのかもしれませんね……。ご両親を認識してらしたので、記憶喪失というわけではないでしょうが、様子を見る必要がありますね」
「え、ちょっと待ってよ、そっちこそどうなってるの?」
「アリス!ああ、可哀想に……」
ママがとうとう泣き出した。
(意味分かんない……みんな私をからかってるの?)
アリスは上体を起こし、ベッドに座る。
喉がカラカラなのもあって、咳き込んだ。
すると先程の看護婦さんらしき人が急いで水を持ってきてくれる。
「ありがとうございます」
お礼を言って水を受け取ると、看護婦さんはとても驚いた顔をする。
訳が分からずパパとママを見ると、こちらも目を丸くして驚いていた。
「もう、何なの本当に……。早く家に帰りたい」
そう言うと、ママはさらに泣き出してしまった。
「やはり、記憶が曖昧なようですね……。暫く学校はお休みした方が良いかもしれません。本日はゆっくりお休み頂いた方が良いかと」
「そうだな。アリス、今日はもう休みなさい。頭を打って混乱しているようだ。さあライラもこちらに。ほら、泣いていないで」
パパが泣きじゃくるママの肩を支えて部屋を出て行く。お医者さんも部屋を出て行ってしまって、看護婦さんと2人だけになってしまった。
「お嬢様、室温はこのままで大丈夫ですか?他にお飲み物等ご要望がございましたら、すぐにお持ち致しますが」
「いえ……、大丈夫……です」
「かしこまりました。それでは失礼させて頂きます。何かございましたらベルを鳴らしてお呼び下さい」
「あっ、はい」
看護婦さんは一礼して部屋を出て行く。
「随分と丁寧な看護婦さんだな……お嬢様呼びだし」
アリスは呟く。
「今日はパパもママも変だったけど、明日になったら戻ってるかな。頭が痛いし、何も考えたくないからとりあえず寝よう。明日は家に帰れますように……」
アリスはウトウトと眠りについた。