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【第2話】

「いやー、楽しかった」


「雪まで降らせることが出来るとは、ユフィーリアは魔法の天才だな」


「まあ、係員の人には怒られたけどな」



 楽しいデートを終えてヴァラール魔法学院に戻ってきたショウとユフィーリアは、互いの顔を見合わせて「ぷッ」と噴き出した。


 クリスマスマーケットの片隅に『雪だるまを作ろう!!』という大人も子供も楽しめる遊び場があったのだが、魔法で降らせたらしい雪の量が少しばかり足りなかったのだ。大きな雪だるまを作ることが出来るほどの雪が積もっていなかったので、ユフィーリアが氷の魔法を応用して雪を降らせてくれた。

 降らせたのはいいのだが、その量があまりにも多すぎて雪崩が起きたのかとばかりにドバッと出てしまったものだから係員も大慌てである。「勝手に雪を増やさないでください」と泣きながら言われてしまったが、遊んでいた子供たちは雪だるまを大量生産して大喜びしていた。


 魔法で空調が整えられている為、ヴァラール魔法学院は驚くほど暖かい。1歩でも校舎の外に出たら地獄のように寒いのに、広大な校舎内を暖かく維持できる魔法は凄いことだ。



「おっと、ショウ坊。待った待った」


「え?」



 外套コートについてしまった雪を払い落としつつ用務員室に向かおうとするショウを、ユフィーリアが待ったをかけた。



「今日はお前の誕生日だろ?」


「そうだが……」



 その言葉に、ショウはふと思い出した。


 それは最愛の旦那様であるユフィーリアの誕生日だ。ショウはその時、サプライズによる誕生日パーティーを計画したのだが、ユフィーリアに気づかれたくなくて心にもないことを口走ったせいで危うくユフィーリアに三行半を突きつけられる寸前に至ったのだ。その時の絶望はもう2度と味わいたくない。

 ユフィーリアは「お前の誕生日に本物のサプライズを見せてやる」と言っていたが、これがそのサプライズだろうか。言ってよかったのか?



「ユフィーリア、あの」


「どうした、ショウ坊」


「それは言ってよかったのか……?」


「ははは」



 ユフィーリアは笑って誤魔化した。これは多分言ってはいけないアレだったのだ。



「さあ、本日の主役様。誕生日会場にご招待だ」


「あのユフィーリア、そちらは大食堂の方角だが」


「うん、そうだけど?」



 ショウの手を引くユフィーリアは、



「貸し切った」


「乗っ取ったとかではなく?」


「大丈夫、グローリアを脅したから。アタシ、アイツのアキレス腱をニギニギしてるから」


「弱みを握られる学院長……」


「いや物理的に、こう、ニギニギと」


「どうやってニギニギと!?」



 最愛の旦那様が学院長を相手にやらかしたことに驚愕するショウは、ユフィーリアに大食堂へ連行されるのだった。



 ☆



 サプライズなのでちゃんと驚けるか心配である。



「驚くリアクション、驚くリアクション、驚くリアクション……」


「緊張してる?」


「ちゃんとみんなが望むように驚けるか心配だ……」



 大食堂の閉ざされた扉の前に立ち、ショウは深呼吸をする。


 ユフィーリアとのデートの裏側でショウの誕生日パーティーをサプライズ計画してくれたのは非常に嬉しいのだが、ちゃんと望むような反応を見せることが出来るのか心配だった。これで反応が薄かったらガッカリさせてしまう。

 自分に言い聞かせるように「ちゃんと驚くように、ちゃんと驚くように」と繰り返すショウの背中を、ユフィーリアが笑いながら叩いてきた。ちょっと痛かった。



「反応が薄くても大丈夫だろ、アイツらだって大人なんだから」


「でも」


「ほら入った入った、全員待ってるぞ」



 入室を促され、ショウは意を決して大食堂の扉に手をかける。

 力を込めて押せば、重たい大食堂の扉は簡単に開いた。ギィという蝶番の音と共に、扉がゆっくりと開いていく。


 その向こうに広がっていたのは、



「わあ……」



 煌びやかなご馳走が並ぶ長机と、風船や紙製の装飾品が天井や壁などを彩る素敵なパーティー会場。『ショウ君お誕生日おめでとう』というお手製らしき看板まで掲げられている。

 これだけお祝いする雰囲気が漂った会場なのだが、パーティー会場には誰もいない。ユフィーリアは確かに「みんな待ってる」と言っていたのに、そのみんなとは一体どこに行ったのか?


 ショウがユフィーリアへ振り返ると、



「え゛」



 いつのまに用意していたのだろう、大砲を構えた筋骨隆々の先輩用務員が最愛の旦那様に代わって待ち構えていた。そのすぐ側には鼻眼鏡と『アンタが主役』という文字が書かれたたすきを装備して、ピロピロと吹き戻しを鳴らす頼れる兄貴分とマッチを構えた南瓜頭の先輩用務員も待機していた。

 急いでその場から離れようとするが、背後から忍び寄ってきたユフィーリアがショウの腰をガッシリと掴んで逃げ道をなくしてくる。しまった、ここで警戒するべきだった。ユフィーリアだってサプライズ用員の1人なのだ。


 ユフィーリアに押さえつけられたショウに、先輩用務員たちによる愛あるお祝いが襲いかかる。



「ショウちゃーん、お誕生日おめでとぉ」


「ピロピロピロピー」


「発射♪」



 南瓜頭の先輩がマッチで導火線に火を灯し、ズドンと重々しい砲声を響かせて中身が発射された。

 砲塔に詰まっていたものは砲弾ではなく、紙テープや紙吹雪やら色々な装飾品だ。金色や銀色の紙を中心に使っているのでキラキラしているのだが、それらが一斉にショウの顔面どころか全身めがけて襲いかかってくるものだから堪らない。髪にも服にもキラキラの紙吹雪が付着してしまった。


 サプライズパーティーで驚く反応をしているどころではない、これは本気で驚いた。振り返ったら大砲を構える先輩用務員が立っているなど想像できるか。



「ふぇ、ふぁ……?」


「おお、驚きすぎてショウ坊が珍しい反応を」


「驚くどころの騒ぎではないのだが……」



 膝から崩れ落ちそうになるショウを、ユフィーリアが笑いながら支えてくれる。



「大丈夫か?」


「ユフィーリア、心臓に悪いので今度から事前に相談してほしい」


「もし死んだら死者蘇生魔法ネクロマンシーかけてやるから」


「魔法の天才が今だけは恨めしい……」



 軽い調子で「死んだら生き返らせてやる」と言える辺り、さすが異世界だと実感させられる。



「凄い音だったワ♪」


「ピロピロピロピー」


「ハルちゃん、まだ吹き戻しをしてるのぉ? いい加減に鬱陶しいから止めなよぉ」


「ピー!!」



 ショウの誕生日を祝う為に使われた大砲を部屋の隅に片付けた先輩用務員のエドワード・ヴォルスラム、ハルア・アナスタシス、アイゼルネの3人が驚きのあまりに固まるショウの頭や服についた紙吹雪を払い落としてくれる。特にハルアはまだお祝い気分から抜け出せないのか、ピロピロと吹き戻しでショウの頬を襲撃していた。

 問題児らしいお祝いの仕方である。さすがユフィーリアだ、面白そうだと思ったことは積極的に取り入れていく精神は見事なものである。


 もう大砲で襲われることはないだろうとは思ったのだが、



「ショウ君、お誕生日おめでとう」


「ハッピーバースデー、ショウ君」


「とてもめでたい日ですの」


「ショウ、君が今日まで健やかに成長してくれたことに対して心からの感謝と祝福を贈る訳だが」


「めでたいのじゃ、しょう殿」


「素敵な1年をお過ごしくださいね」



 そんなお祝いの言葉を口にしてパーティー会場にやってきたのは、この世で最も偉大だとされる魔女・魔法使いの集団――七魔法王セブンズ・マギアスの面々である。第四席に座する父親のキクガの姿まであった。

 彼らが構えていたのは回転式拳銃リボルバーである。西部劇で出てきそうな拳銃を一斉にショウへ突きつけて、彼らは仲良く揃って引き金を引く。


 あ、これはまさか大砲と同じ奴では。



「ちょ」



 ショウの制止すら無視して、ぽぽぽぽぽぽーん!! という破裂音が耳朶を打つ。


 拳銃に込められていたのは実弾ではなく、かといって紙吹雪でもなかった。引き金を引くと同時に破裂したのは拳銃の方で、一瞬にして小さな花束に変化する。

 素敵な変化だが、心臓に悪い。世界最高峰の魔女・魔法使いの集団が得意とする魔法を使わずに物理で襲いかかってくるのかと絶望した。



「これボクとユフィーリアが一緒に設計・開発したんスよ」


「お花は身共が選ばせていただきました」



 副学院長のスカイ・エルクラシスと、白い修道女のリリアンティア・ブリッツオールがショウに花束を手渡してくる。その上に純白の狐の八雲夕凪やくもゆうなぎが「めでたいのじゃあ」と言いながら花束を積み上げてきた。



「君の驚く顔が見れて面白かったよ」


「珍しいものを見ましたの」



 学院長のグローリア・イーストエンドと真っ赤な淑女ルージュ・ロックハートもまた、ショウの腕に積み上げられた花束の上に自分たちが用意したらしい花束を積んできた。紫色の花束と赤い花束とは彼ららしい。



「ショウ、お誕生日おめでとう」


「父さんが趣味の悪いサプライズに乗るなんて思わなかった」


「義娘の考えた計画には乗る訳だが」



 朗らかに笑う父のキクガから真っ赤なポインセチアが特徴的な花束を贈られ、ショウは不満げに唇を尖らせる。息子を驚かせるのに全力投球するとは茶目っ気のある父親だ。

 パーティーの招待客はユフィーリアたち用務員に加えて、七魔法王セブンズ・マギアスの面々という豪華な顔ぶれだ。この世界に於ける交友関係は非常に狭いので、これだけの人数が揃ってくれただけでもありがたい限りである。


 ――と思っていた時期が、ショウにもあったのだ。



「ショウさん、お誕生日おめでとうございます!!」


「リタさんも来て――ゔぇッ」



 最後に登場したのはヴァラール魔法学院の生徒で唯一交流を持ち続けている女子生徒、リタ・アロットだ。彼女には色々と助けられたし、色々とやられた覚えもある。特にユフィーリアの誕生日が印象深かった。

 そのリタが、何故か機関銃を片手に立っていた。華奢な身体に似つかわしくない弾帯ベルトまで巻き付けて、発砲準備を完了させていた。


 物凄く嫌な予感しかしないのだが、おさげ髪の少女は問答無用で引き金を引く。



「えーいッ!!」



 ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱーん!! という連続した銃声が響き渡り、ショウに襲いかかったものは赤い花弁の群れである。視界があっという間に赤く塗り潰され、ショウは花弁に埋もれてしまう。

 こんなサプライズを考えるのは、人生に於いてたった1人しか該当しない。この状況をゲラゲラ笑い転げている旦那様だけだ。


 顔に張り付いた花弁を払い落としたショウは、青い瞳に涙を滲ませて笑うユフィーリアをジト目で睨みつけた。



「ユフィーリア、貴女って魔女は!!」


「お、ショウ坊の口からそんな台詞が聞けるなんて思わなかったな」



 サプライズ計画が成功し、ユフィーリアは楽しそうに笑っていた。

《登場人物》


【ショウ】まともに誕生日を祝われた記憶がないので、これが人生で1番楽しい誕生日会となった。誕生日ケーキは天使長による山盛りの巨大パンクックでご満悦。


【ユフィーリア】サプライズ発案者。銃火器に見せかけた花束や花弁を詰め込んだ機関銃、お祝い用の大砲は全てスカイと一緒に共謀してやった。

【エドワード】最近ハルアとショウの面倒を見させられていた。サプライズを悟られない為の囮1号。

【ハルア】最近、エドワードとショウと一緒に行動していた。大体いつも一緒にいるから囮にされてたなんて気が付かなかった。

【アイゼルネ】パーティーの飾り付けを担当。字が1番綺麗なのでパーティーの招待状も作成した。


【グローリア】パーティーに招待されたので喜んで参加。いつもは旦那に関する事情で暴力に巻き込まれているが、今日は驚く顔が見れて大満足。

【スカイ】ユフィーリアと一緒に銃火器型のパーティーグッズの作成に勤しんだ。バレないようにロザリアを囮として差し出していた。

【ルージュ】あまり接点はないが、ショウに対する印象は「ユフィーリアが絡まなければ比較的話に応じやすい部類」の問題児である。

【キクガ】ショウの実父。息子がこの度健やかに成長してくれて感激。誕生日を4歳までお祝いしていたのだが、また息子の誕生日を祝うことが出来て嬉しい。

【八雲夕凪】タダ飯目当てで来たのだが、サプライズ要員に巻き込まれた。でもまあ楽しかったのでいっか。

【リリアンティア】パーティーグッズに仕掛ける花束の用意をした。ショウへの印象は「真面目で礼儀正しく、ユフィーリアを純粋に愛している献身的なお嫁さん」らしい。

【リタ】学生代表として招待された。ショウとハルアとはだいぶ仲良しになったし、授業での出来事や試験勉強などにも付き合ってくれるよき友達である。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やましゅーさん、はようございます!! そして、ショウ君、お誕生日おめでとうございます!! 桜&ヴィルヘルミーナ「「紅だーーーーーーっ!!」」 傭兵団一同『お誕生日、おめでとうーーーっ!…
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