パシャリ
雨に散らされた桜の花弁は薄汚れて歩道の隅に固まっていた。最早誰も目を向けることのないその花弁達を、僕は箒で寄せ集めてパシャリと画像に収めた。
まだ消えたくない、まだ消えたくない、と、そんな声が聞こえた気がしたからだ。
「お前、何してんの?」
クラスメイトが突然背後から声をかけてきた。
先ほどまで裏庭で仲間達と箒でチャンバラをして遊んでいたが抜けてきたらしい。
「うわ、驚かすなよ。見てわかるだろ…掃除だよ。」
「嘘つけって、今お前スマホ弄ってたじゃん。ホラ、貸せって…なになに?」
「おい、取んなよ返せ。」
「お前、何してんの?こんなもん撮って面白いか?」
「いや、これはこれで風情があるかなって…」
「どうせなら咲いてる時を撮ってやれよ。お前ってもしかして屈折してる?」
ぽいっと無造作に投げ返されたスマホを慌ててキャッチし、尻ポケットに仕舞い込んだ。
「オレならアレを撮る。」
両手の親指と人差し指で四角いフレームに見立てて、中庭で立ち話しをしている女子グループの1人に向けた。
その子はクラスで一番美人と持て囃されている可愛い女子だった。すぐにこちらの視線に気付いて、少し照れ恥ずかしげに睨む視線を向けて、後ろ手で短めのスカートの裾を整えている。
「お前、彼女いなかった?たしかB組の川崎さん。」
「あー…思ってたのと違ったから別れた。」
モテる野郎の考えることはわからない。
前は確か、焦らしすぎてうぜーから別れた、その前は、1発やったら冷めた、だった気がする。
次はクラス1の美人を泣かせるんだろうか。
遊び半分で雨に散らされた桜の花びらは時期に土に還って桜の木の養分になるから問題はないのかもしれない。
桜は全て一本の木から生まれている。ソメイヨシノだったか、そんな名前だった。
女と桜を同一の存在として考えると僕はブルリと背筋に怖気が這い上った。
もしも彼女達が受けた仕打ちを全て共有し憶えている存在だったら、この最低なクラスメイトはとっくに生きてはいないだろう。
今も生きているってことは女子の寛容さ、無知さに許されてるってことなんだろうか。
「あ、天宮がこっちに手招きしてる!?」
モテ期絶好調のクラスメイトが吸い寄せられるようにクラス1の美人のあの子の元に駆け寄っていった。
ふと僕の肩に、桜の花弁がまた1枚パラリと舞い落ちた。
完