クラスの美女を助けたと思ったら俺の生活にガッツリ食い込んでくる
柳生雲雀は美女だ。
高1とは思えない大人びた女性の姿、メリハリのある肉体。入試は主席でスポーツもできるらしい。
まだ入学して一カ月なのに告白された回数は2桁に行くとか、全員撃沈したとか色々な話を聞く。
だけど笑顔は誰も見たことが無く、まるで氷の彫像のような美しさだと言われている。
俺も同じクラスだけど確かに柳生さんの笑顔は見た覚えが無い。
柳生さんって笑う事あるのかな?
二ノ宮歩夢こと、俺はプロマンガ家だ。ペンネームは『にのみん』
マンガアプリで連載をしているんだが毎週6P上げればいいのでなんとかなっている。週18Pの週刊誌はほんと狂気だと思う。専業マンガ家になってもやりたくない、死ぬ。でも読む側としては嬉しいからね、尊敬しかない。俺は無理だけど。
背景写真でなんとなくしっくり来る物がなく、近所のレンタルビデオ屋に来た。
マンガやゲームも売っているのでよく来ている。店長は俺の事を知っているので店内撮影の許可は簡単に降りた。
「18禁カーテンの向こうはダメだよ。それ以外ならお客さんの入れる場所は自由にどうぞ。ウチの店の看板も背景に入れてくれてもいいんだよ。」と店長は冗談のように言っていたがたぶん本気。
看板入れたら俺の生息範囲が絞られるのでダメです。男の1人暮らしとはいえ住所はバレないにこしたことはない。世の中ヤバいガチ勢がいるのだ、家に押しかけられてもおかしくない。良妻美少女なら大歓迎だけど。
店内を撮影して回る、つい最近棚の位置を変えたようで数日前までの配置ではない。
だからうっかり俺が18禁カーテンの前まで来てしまったのは偶然なのだ。そう、偶然だ。
(カーテンの向こうはダメだけど…カーテン自体を撮影しとくのはいいか。)
実際、真面目に使えるシーンがあるかもしれないしね。例えばこのカーテンの前で美少女がモジモジしている絵とか…うわっ描きたい。
余計なことを考えながら撮影していたらタップミスでカメラは動画撮影を始めていた。あ、写真の方に戻さなきゃ。
でも俺が動画を撮影終了する前にスマホ画面には映ってしまった。
柳生雲雀が酔ったようなだらしない笑顔で18禁カーテンの向こう側から現れた瞬間が。
「あの…柳生雲雀さんですよね?」
反射的に聞いてしまった。
柳生さんは俺を見て固まった。そりゃそうだ、逆の立場なら俺だって固まるか逃げ出す。
聞いたのは俺だけどすさまじく気まずくなってしまった。何か、何か言わなきゃ…
「ええと、柳生さん…何も見なかったフリしたほうがいい?」
ひきつった笑顔の俺はそう聞いた。
固まった顔の柳生さんは赤い顔で涙をこぼしながら口を開いた。
「くっ…殺せッ!」
柳生さんはスケベなオタクだと確定した。
柳生さんはその場に膝を崩して座り込んでしまった。女の子座りである。18禁コーナーの前で。
さすがに18禁コーナーの前でくっ殺する美女を放置してはいけない。カーテンの向こうを目当てに来た人たちの目と股間に毒だ。
「柳生さん、ここはマズイ、お店の外へ出よう」
「くっころぉ…」
しゃがみ込んだ柳生さんは両手首を合わすようにしている……エア拘束?混乱して愉快でスケベな本性が出ていらっしゃる??
こんな現場を見られたら柳生さんの評判がえらいことになる。無理やりでも立たせた方が良いと判断し嫌われる覚悟で俺はスマホを見せる。
「柳生さん…いや、雲雀。ここに、だらしない顔をした雲雀が18禁コーナーから出てきた動画があります。拡散されたくなかったら言うことを聞け。店の外に出るぞ。」
「………ひゃい。」
後でめっちゃ謝ろう。マジごめんね。くっころ騎士はお外に連行できました。
連行した騎士をどこで落ち着かせるか。思い浮かばないので俺の住むアパートに連れていくことにした。
混乱中なので外だと何を起こすか分からない恐ろしさがある。人助けをしているはずなのに爆弾を抱えた気分だ。
アパートに近づくにつれ柳生さんは震えが酷くなってきた。そうだよね、男に建物に連れ込まれようとしているもんね今。
アパートの前まで来たらその震え方はより強く、顔色は幽霊を見たかのように悪かった。
「ど、どうして…私の…家まで、知っているんです、か……」
同じアパートだった。そりゃ怖いわ。偶然です、ほんと偶然最近引っ越してきたばかりなんです。。
とりあえず俺の家へと連れ込んだ。まず誤解から解こう。
「こんな散乱した部屋で純潔を散らされるなんて…」
家に入り柳生さんを座らせジュースを用意している間に恐ろしいことを呟かれていた。
誤解を解こう、そして謝ろう。怖がらせたことに関してはマジごめん。
「えと、柳生さんごめんね?拡散とか嘘だから。とにかくあの場所に放置しちゃマズイと思って言っただけなんだよ、ほら今から目の前で動画消すからさ。」
「どうせバックアップがあるんでしょ…」
「無いから。」
「さっきの動画を消す代わりに体を要求されてそれを動画に取るんでしょ…」
「無いから!?」
成績優秀な柳生さんはずいぶんと余計なお勉強もされているようだ。
「じゃあ柳生さん、こうしよう。柳生さんのスマホで俺の秘密を撮影するんだ。そしたらお互いに秘密をもって安心できるでしょ?」
マンガの執筆風景を柳生さんに見せよう。知られると面倒ごとになりやすいので本当に秘密にしたかったけど仕方ない。怖がらせてしまったのは俺のせいだから責任を取ろう。
柳生さんは秘密の共有案で落ち着いたのか目を輝かせ、だらしない笑顔を晒しながら言った。
「分かった…じゃあ早く脱いでハリーハリー!!」
このドスケベを落ち着かせるのに20分かかりました。エロだけ笑うじゃん柳生さん。
…あ、柳生さんが学校で笑わないのは本性を抑えているから…?
「わぁ。本当にマンガ家さんだったのね!」
俺は柳生さんに見られながらペン入れをする。デジタル環境なのでペン入れと言ってもレイヤー分けして清書する感じだけど。
一度はアナログも試してみた事はあるけどスクリーントーンの削りカスが死ぬほどウザくて心が折れた。アナログ派は尊敬する、俺にはマジ無理。
「…え、二ノ宮くんってもしかして『にのみん』先生?」
「うん、絶対に言わないでね。ペン入れ進んで見覚えあった?」
「ほほほ本当ににのみん先生!?先生のエロ同人もコミケで買ったんですけど!?そういえば売り子さんしかいなかった!」
「うん、絶対に言わないでね!!っていうかそれ去年だから柳生さん中3だったよね!?」
「大人びた見た目って便利ですよね、せーんせ?」
ぐえっへっへとでも効果音が付きそうなだらしない笑顔、だけど心から緩んでいるのが分かる魅力的な笑顔だ。そういえば売り子さんから超美人がだらしない顔で買ってたと報告があったのを今思い出した。その美人は当時JCでしたよ売り子さん…
「それにしても…にのみん先生はずいぶんと……お部屋が汚いのですが生活できているんですかこれ?」
「ぐっ」
実家にいるときは何とかなっていたのだ。仕事も家事も同時進行で。それで一人暮らししてみようと家を飛び出してみたけど…高校から留年があると思ったら学業に思いのほか労力を割いてしまい家事がおろそかに…
「あ、分かった。」
柳生さんは何かに勝手に納得した。
「にのみん先生、SNSで言ってた『クラスの美少女に家事をしてもらう男子高校生のイチャラブマンガ描きたい』ってリアルな願望だったんだ。くっ、恥ずかしい秘密を知られてしまったしこれはもう私がにのみん先生のお世話をしながら単行本にイラスト入りサインで報酬を支払ってもらうしかないようね…イラスト入り…でへへ」
「ええ……本当に助かるけど雇用条件が軽い…」
クラスの美女、学園のアイドル、氷の彫像と呼ばれた美少女がイラストを描くだけで日々のお世話をしてくれるとかこれなんてギャルゲ?単行本に書くだけなら5分くらいなんだけど俺…
「いやぁもう、ほんと大好きなマンガ家さんなのでこの縁は逃しませんよ。にのみん先生♪……本当に嫌だったらやめますからね?」
「いえ、嬉しいです…よろしくお願いします……」
助かるし嬉しいけれど…とりあえず助けられた分は何かしらちゃんと返したいところです。
「あ、企画ポシャって試作品しかない俺のマンガのグッズあるけど柳生さんこれいる?R18スマホスタンド。」
「いりゅうううう!!でへへっ。」
明日、この人学校でだらしない顔と本性を封印できるのかハラハラするんだけど!!
色々と不安になる美少女と半同棲高校生活が始まるのだった。
クールな美少女が半同棲でお世話してくれるゴリゴリにテンプレな作品ですね(目逸らし)