07<運命のメイド>
あれは十一歳の夏。
私は山菜とハーブを摘みに森の中に入りました。
安全な場所です。
そこで出会いがありました。
「ウサギ……?」
ウサギに見える形の、ウサギではない不思議な動物が空中に浮かんでいます。
「人間になじみがある動物ならば、ウサギが一番似ているのかな? どうもうまく姿を作れないんだよね」
そのウサギらしき生き物は、私の頭の中に直接語りかけいきました。
魔力です。
長い耳は立ち、可愛らしい胴体を伸ばし、まるで二本の足で立っているかのようです。
「君が死の少女なのかな?」
暗黒魔法が、今も私の中で時を刻み続けております。
余命三年。
残された命はたったそれだけでした。
「死……、そうです。ラファネ・エリーザと申します。あなたは?」
「人間は僕を精霊と呼んでいるよ。魔の匂いがしたから、立ち寄ってみたんだけどなどなあ」
それは魔獣と対をなす者、敵対する存在。
人に助言し、たぶらかす存在。
そして時には救う――。
――それが精霊の伝承です。
「幼少のころ魔獣に襲われ、刻印を刻まれました」
「君は戦闘魔力が強いんだな。そんな人間の子供を襲うのが、下等な魔獣の本能さ」
命を奪おうとすれば、たとえ子供であっても本能の魔力が身を守ります。
安全に人を死に至らしめる攻撃が、刻印なのです。
「私を助けに来てくれたのですか?」
「いや、僕にその力はない。残念だけど」
「そうですか……」
「君を救おうとする者が、東方からやって来るんだ」
「えっ? 私を救える人間などいるのですか?」
「うん、君の死の匂いを感じているようだ。だからやって来る。ただその人間にとっても命がけだ。君を見つけ出して、さて、どう考えるかな?」
「……」
「君の背後精霊になってあげる。興味が湧いた」
「精霊様のお名前を聞かせて頂けますか?」
「僕には名前なんてないよ。だけど人は僕のことをルシファーって呼ぶ」
「なぜ私を――」
「僕が困った時は助けて欲しい。これは取引さ」
◆
ほどなくして、近隣の貴族の屋敷で催がありました。
視察に来た、この国の皇子様を歓迎するパーティーです。
宴も終わり、私はブルクハウセン・セラフィーノ様に呼ばれて中庭に同行しました。
「僕の魔力の本能が、君を救えと言っている」
「それは大変危険な試みでは?」
「なぜ知っているのかな?」
「精霊様に言われました。それ以来会ってはいませんが、私の背後聖霊になり成り行きを見守ると」
「やはり君は選ばれた存在だったのか。精霊を持つ人間などこの世界にそうはいない。なら十分に賭ける価値があると思わない?」
「私には、あなたの命に勝る価値などありません」
この頃の私は死を覚悟し、すでに受け入れていました。
「そんなことはないよ。君の力だってこの世界で唯一無二のものなんだ。互いに命を長らえ、共に世界のために働こう」
「でも……」
ある日突然、私の前に現れた希望は私には重すぎる人です。
「生きたくはないの?」
「いえ……」
私は命をながらえました。
殿下は私の恩人です。
それから私は地元の中等学院を卒業し、王都の高等メイド学院に進学いたしました。
王宮の宿舎に泊まり、王族付きのメイド見習いとしても働き始めました。