表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/18

07<運命のメイド>

 あれは十一歳の夏。

 私は山菜とハーブを摘みに森の中に入りました。

 安全な場所です。

 そこで出会いがありました。


「ウサギ……?」


 ウサギに見える形の、ウサギではない不思議な動物が空中に浮かんでいます。


「人間になじみがある動物ならば、ウサギが一番似ているのかな? どうもうまく姿を作れないんだよね」


 そのウサギらしき生き物は、私の頭の中に直接語りかけいきました。

 魔力です。

 長い耳は立ち、可愛らしい胴体を伸ばし、まるで二本の足で立っているかのようです。


「君が死の少女なのかな?」


 暗黒魔法が、今も私の中で時を刻み続けております。

 余命三年。

 残された命はたったそれだけでした。


「死……、そうです。ラファネ・エリーザと申します。あなたは?」

「人間は僕を精霊と呼んでいるよ。魔の匂いがしたから、立ち寄ってみたんだけどなどなあ」


 それは魔獣と対をなす者、敵対する存在。

 人に助言し、たぶらかす存在。

 そして時には救う――。

 ――それが精霊の伝承です。


「幼少のころ魔獣に襲われ、刻印を刻まれました」

「君は戦闘魔力が強いんだな。そんな人間の子供を襲うのが、下等な魔獣の本能さ」


 命を奪おうとすれば、たとえ子供であっても本能の魔力が身を守ります。

 安全に人を死に至らしめる攻撃が、刻印なのです。


「私を助けに来てくれたのですか?」

「いや、僕にその力はない。残念だけど」

「そうですか……」

「君を救おうとする者が、東方からやって来るんだ」

「えっ? 私を救える人間などいるのですか?」

「うん、君の死の匂いを感じているようだ。だからやって来る。ただその人間にとっても命がけだ。君を見つけ出して、さて、どう考えるかな?」

「……」

「君の背後精霊になってあげる。興味が湧いた」

「精霊様のお名前を聞かせて頂けますか?」

「僕には名前なんてないよ。だけど人は僕のことをルシファーって呼ぶ」

「なぜ私を――」

「僕が困った時は助けて欲しい。これは取引さ」


   ◆


 ほどなくして、近隣の貴族の屋敷で催がありました。

 視察に来た、この国の皇子様を歓迎するパーティーです。

 宴も終わり、私はブルクハウセン・セラフィーノ様に呼ばれて中庭に同行しました。


「僕の魔力の本能が、君を救えと言っている」

「それは大変危険な試みでは?」

「なぜ知っているのかな?」

「精霊様に言われました。それ以来会ってはいませんが、私の背後聖霊になり成り行きを見守ると」

「やはり君は選ばれた存在だったのか。精霊を持つ人間などこの世界にそうはいない。なら十分に賭ける価値があると思わない?」

「私には、あなたの命に勝る価値などありません」


 この頃の私は死を覚悟し、すでに受け入れていました。


「そんなことはないよ。君の力だってこの世界で唯一無二のものなんだ。互いに命を長らえ、共に世界のために働こう」

「でも……」


 ある日突然、私の前に現れた希望は私には重すぎる人です。


「生きたくはないの?」

「いえ……」


 私は命をながらえました。

 殿下は私の恩人です。

 それから私は地元の中等学院を卒業し、王都の高等メイド学院に進学いたしました。

 王宮の宿舎に泊まり、王族付きのメイド見習いとしても働き始めました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ